<本文>
1) 線源取扱い器具は、主として、距離をおいて
密封線源を取扱うことによって外部被ばくの低減を目的とするものと、密封されていない線源については、その分取・定量時における内部被ばくの防止を目的とするものに大別することができる。
2) 被ばくを生じる原因となる線源取扱い作業は、密封線源については、保管庫からの取出し、照射位置への線源の設置及び返却等の作業であり、密封されていない線源については、保管庫からの取出し、分取・定量及び返却等の作業である。線源取扱い器具はこのような作業における被ばくを低減するために使用される。また、
放射能の大きな線源の取り扱いは、遮へい壁を隔てた遠隔操作によって行われる。
3)
放射線防護の3原則の1つでもある線源との距離をとるための器具は、単独に使用するものと、遮へい物と組み合わせて使用するものがある。単独に使用する器具は、距離だけで被ばくを低減するのであるから、取り扱う線源の放射能と作業に要する時間によって、適切な器具の長さを選択しなければならない。また遮蔽物と組合せて使用する器具は厚い遮蔽ガラス等をへだてて取扱うのに適した器具が必要である。それゆえ、取り扱う線源の放射能等に応じて、ピンセットのような簡単なものからマニピュレータのような大規模な器具まで含まれる。
4) 放射能が少ない線源を取り扱う場合には、ピンセットやるつぼバサミ等を使用し、それによって、手と線源の間に5cmから25cm程度の距離をおいて、線源を取り扱うことができる。線源を安全に取り扱うためには、線源の放射能を考慮して、確実に作業ができる長さの器具が必要とされる。ピンセットは簡便ではあるが多目的に使用することは難しいため、るつぼバサミまたは先端を特に変形させたピンセットを使用することもある。
5) 密封小線源のうち
標準線源、
比較線源、
チェッキング線源等の放射能が1 MBq程度以下の線源を使用するときには、必ずしも線源取扱い器具を使用する必要はなく、逆に、取扱い器具を使用することによって線源を傷付けることがある。それゆえ、線源取扱い器具は、線源の形状、放射能及び取扱い時間を考慮した上で使用する必要がある。
6) 放射能が1 GBq程度以上の線源を取り扱う場合には、長柄のトングを使用する。その先端の爪の部分は線源形状に合わせて交換できる構造になっている。線源またはその容器が磁性材料の場合は爪の代わりに永久磁石や電磁石、さらに、作業によっては、吸引ポンプや圧縮空気を利用して、線源を保持できるようにしたものである。
図1 にトングの一例を示す。また、比較的薄い遮へい壁のボールジョイントを介して線源の取扱いができるようにしたトングもある。
7) さらに放射能が1 TBq程度を超える線源を取り扱う場合には、取扱い器具も大規模になり、マスタースレーブタイプのマニピュレータを使用するようになる。マニピュレータには手先の操作とマニピュレータ先端との連係が機械的なものと電気式のものがあり、また、かなりの重量物を扱うことのできる
パワーマニピュレータなどの種類がある。
8) 液体状の
非密封線源の分取・定量には、ピペットまたは注射器を使用することが多い。ピペットによる線源操作では、使用法を誤ると分取・定量の際に放射性溶液が体内に取り込まれ、内部被ばくを生じる原因となるため、ゴムキャップ、注射器、遠隔操作ピペッタ、安全ピペッタ等が使用される。
9) 遠隔操作ピペッタは、溶液の移しかえを、距離をとりながら行うためのものである。ピペットはクランプによって垂直に保持され、上下・左右に動かすことができる。ゴムまたはプラスチックチューブでピペットを注射器型の吸引器につなぎ、ピストンを操作することによって溶液のピペッタ内への吸い上げ及び排出ができる。
10) 安全ピペッタは、ゴム球と3つの弁とで構成され、ピペット上部に取り付けることによって、溶液のピペット内への吸い上げ及び排出の動作を安全に行うために使用する。
図2 に安全ピペッタの構造を示す。また、ピストンの操作だけの簡単な操作で、一定量の放射性溶液を繰り返し分取・定量することのできるピペットもあり、溶液の接する先端部分は使い捨てできる構造となっている。
<図/表>
<関連タイトル>
放射性同位元素 (08-01-03-03)
放射線防護の3原則 (09-04-01-09)
標準線源 (09-04-03-02)
放射線防護上の遮へい (09-04-10-03)
<参考文献>
(1) 新ラジオアイソトープ 講義と実習:日本アイソトープ協会、丸善(株)、1989
(2) 主任者のための放射線管理の実際:日本アイソトープ協会、1987
(3) アイソトープ便覧:日本アイソトープ協会、1984