<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 被ばく低減係数は、放射性物質の放出を伴う原子力施設の事故時にとられる防護対策の有効性を表す係数であり、防護対策を講じない場合の被ばく線量に対する講じた場合の線量の比で表される。
<更新年月>
2010年12月   

<本文>
1.原子力施設で放射性物質の放出を伴う事故が発生した場合、施設周辺の住民が過度の被ばくを受けないように適切な防護対策を講じる必要がある。被ばく低減係数は、この防護対策の有効性を表す目安値の一つである。被ばく低減係数は、防護対策を講じない場合の被ばく線量に対する講じた場合の線量の比で定義され、防護対策によってどれだけ被ばく線量が低減されるかを知るための目安である。
2.屋内退避措置は、防護対策の内で最も簡便かつ確実な手段であると考えられている。これは、住民が家屋や建築物に入ることから、家屋による遮へいによって外部被ばくが低減され、また、窓などの開口部を閉じ、換気を止めて建物の気密性を高め、戸外からの浮遊放射性物質の侵入を減少させることによって、内部被ばくを低減させることができるからである。屋内退避はまた混乱の発生を防止できる効果もある。屋内退避措置に対する被ばく低減係数は、原子力安全委員会の「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)の付属資料8に示されている(目安としてIAEAがまとめたものを表1表2表3に例示)。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
3.事故時に放出されるプルーム(放射性物質の雲)及び地表に沈着した放射性物質に対する被ばく低減係数を表1及び表2に示す。γ線に対する被ばく低減係数は、コンクリート家屋や地下室で小さい。これは、コンクリート建物の遮へい効果による外部被ばく低減効果が大きいことによる。また、建物の機密性は甲状腺被ばくなどの低減について相当期待できる。さらに、放出源からの風下軸からなるべく遠ざかることも有効であり、その地域のその時期における卓越した風向及び風向の変化を考慮し、風下軸からある幅を持った範囲の地域住民に対して措置を講ずれば良い。
4.口及び鼻をタオルなどで保護することによって放射性物質の体内への取り込みを減らし、内部被ばくを低減させることができる。このタオルなどによる防護効果は、除去効率で表すことができ、広い意味の被ばく低減係数に含めることができる。防災指針に示されている除去効率を表3に示す。
 甲状腺被ばくは、ヨウ素吸入に原因することから外部全身被ばくの場合と異なり木造家屋あるいはコンクリート造りの建物のような構造そのものによる差はあまりなく、建物内へのヨウ素の浸入をいかに防止するかという機密性に依存する。米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)の研究によれば、機密性の高い建物に避難すると20分の1から70分の1に、通常の換気率の建物に避難すると4分の1から10分の1に甲状腺線量が低減することが示されている。さらに、これらの甲状腺被ばくは口及び鼻をタオルなどで保護することによって表3のように低減される。
<図/表>
表1 浮遊放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数
表1  浮遊放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数
表2 沈着した放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数
表2  沈着した放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数
表3 家庭内及び個人が利用可能なものによって口及び鼻の保護を行った場合の1〜5μmの微粒子に対する除去効率
表3  家庭内及び個人が利用可能なものによって口及び鼻の保護を行った場合の1〜5μmの微粒子に対する除去効率

<関連タイトル>
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
原子力艦の原子力防災対策 (10-06-01-05)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会:「原子力施設等の防災対策について」の一部改定について、(平成22年8月)
(2)日本アイソトープ協会訳:「大規模放射線事故の際の公衆の防護;計画のための原則」ICRP Pub1. 40、丸善(1986)
(3)日本アイソトープ協会訳:「放射線緊急時における公衆の防護のための介入に関する諸原則」、ICRP PUB1. 63(邦訳版)、丸善(1994)
(4)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):「原子力安全委員会安全審査指針集(改訂9版)」大成出版社(1998)、1140-1141
(5)(財)原子力安全技術センター:原子力防災関係資料集−付属資料5−、(1999.6)
(6) 文部科学省原子力安全課:環境防災Nネット
(7) IAEA:Planning For Off-Site Response to Radiation Accidents in Nuclear Facilities(IAEA-TECDOC-225)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ