<本文>
1.原子炉の概要(参考文献1、2、3、4)
バンデロス−1(Vandellos 1)原子力発電所(以下「バンデロス1」という。)の原子炉は、フランス原子力庁(CEA)と
フランス電力公社 (
EDF )が設計した天然ウラン、黒鉛減速・炭酸ガス冷却炉であり、フランスのサンローラン発電所の1、2号機と同じ設計である。原子力施設全景を
図1 に、原子炉の縦断面を
図2 に示す。
原子炉所有者は、スペイン−フランス原子力発電会社HIFRENSA(Hispano−Francesa de la Energia Nuclea,S.A.)である。原子炉の諸元を
表1 に、履歴を
表2 に示す。
2.閉鎖理由(参考文献5)
1989年10月19日、発電所の運転中、タービン羽根の破損から第2タービン室でのオイル火災が発生し、低圧タービン発電機安全設備等が焼失する重大事故が発生した。この事故は、
INES (
国際原子力事象評価尺度 )のレベル3(重大な異常事象)に相当するものであった。
この事故を評価したスペインの原子力安全委員会CSN(Consejo de Seguridad Nuclear)は、15項目以上にわたる大規模なバックフィットを要求する報告書を発行した。この要求を満たす改造費は、約400億ペセタ(約300億円)と見積られた。
スペイン政府は、この巨額な資金を投資してバックフィット対策を講じても、4年間の工事期間後、運転許可期限まで8年間を残すのみであることから、経済性を主な理由として、1990年5月30日、閉鎖を決定した。
3.廃止措置計画(参考文献6、7、8)
廃止措置の基本方針では、当初約30年間の安全貯蔵後に解体する予定であったが、1997年、早期に原子炉以外を解体する方向に変更し、廃止措置計画を決定した。この内容は、25年間原子炉本体を安全貯蔵した後、原子炉本体を解体してグリーンフィールド化することである。その後、安全貯蔵の期間は20年に見直しされた。この安全貯蔵に至るまでの活動は、レベル1と称する運転停止活動の後、原子炉本体を残してほとんどの施設、建屋を撤去して、原子炉本体の開口部を密閉処置後、
図3 に示すように、原子炉建屋と原子炉本体の間に、新たに六角直方体型の原子炉貯蔵建屋を建設して、この後、原子炉建屋を撤去する。ここまでの活動をレベル2と称している。レベル2は、2005年に完了し、敷地の一部約60,000 m
2 が解放された。20年間の安全貯蔵後、原子炉本体を解体撤去して、敷地を100%解放する。原子炉本体解体撤去から敷地解放までをレベル3と称している。
この20年間の安全貯蔵期間によって、原子炉構造物の
放射能 レベルは、原子炉停止時の5%に減少する。これによって、原子炉本体の解体作業時被ばくを大幅に低減できる。
工事開始前の施設状況と安全貯蔵中の状況を
図4 に示す。
各レベルの活動は、以下のとおりである。
(1)レベル1(運転停止活動、1991−1997):
・基本及び詳細エンジニアリング
・許認可手続き
・請負業者の選定
・燃料取出し、フランスへ輸送(
再処理 )(1994年11月完了)
・運転中に発生した低及び中レベル
放射性廃棄物 の処理
(2)レベル2(安全貯蔵準備活動、1996−2005):
・新規電源・配電設備の敷設
・安全貯蔵期間中に不要となる設備の解体撤去と非汚染建屋の撤去
・原子炉一次系の隔離と原子炉容器(PCRV)貫通配管の切断と密閉、開口部の密閉(密閉隔離作業)
・原子炉本体、原子炉建屋以外の設備、建屋の解体撤去
・新たな原子炉貯蔵建屋の建設
・原子炉建屋の解体撤去
(3)安全貯蔵(2005−2025)
(4)レベル3(原子炉解体、2025− )
・原子炉本体の解体撤去
・跡地のグリーンフィールド化
レベル2における主な解体活動を
表3 に示す。
4.所有権の移転(参考文献4、7)
原子炉所有者であるHIFRENSAは、原子炉運転終了後、レベル1活動として、原子炉からの
使用済燃料 の撤去、原子炉施設の安全停止モード維持、廃棄物処理及び黒鉛貯蔵サイロから黒鉛スリーブ(燃料さや)等を撤去して分別等の前処理を行った。
1998年1月28日、工業エネルギー省(MIE)は、バンデロス1の所有権を全国放射性廃棄物公社ENRESA(Empresa Nacional de Residuos Radiactivos)へ移管することを許可した。これを受けて、同年2月4日、バンデロス1の所有権は、HIFRENSAからENRESAに移管され、ENRESAが廃止措置に係る一切の活動、即ちレベル2とレベル3の全ての活動を行うこととなった。なお、レベル3終了をもって、所有権は再びHIFRENSAに戻される。
5.廃止措置費用(参考文献2、4、7、10)
廃止措置費用は、レベル1、レベル2と20年間の安全貯蔵維持費及びレベル3活動で、合計700億ペセタ(約500億円)と見積もられている。
レベル1の活動では、ENRESAに移管する前で、HIFRENSAが行い、保守、廃棄物管理、低レベル廃棄物等の処理、黒鉛スリーブの撤去・処理などで124.5億ペセタ(約87億円)を費やした。レベル2の活動は、ENRESAへ移管後に行い、準備として新事務所建設、コンピュータ設置、関連書類の作成、作業者の訓練、契約者の管理を行い、これらに約6億ペセタ(約4.2億円)を費やした。また、システム改造及び設置、解体廃棄物保管場所等の確保のための補助建屋、オイルタンク、純水槽等の解体を行なった。これらの準備及びその後の安全貯蔵工事を含めたレベル2全体の見積もり額は、約148億ペセタ(約104億円)である。レベル3の解体見積額は、約350億ペセタ(約245億円)である。20年間の安全貯蔵維持費は、現在、検討中であり、100億ペセタ前後といわれている。なお、レベル2の活動は1996年2月に開始され、2005年に完了し、これに要した費用は、当初の見積もりである9,000万ユーロより400万ユーロ超過した(参考文献11)。
6.廃棄物発生量(参考文献4、6)
バンデロス1の解体に伴い発生する解体量は、約31万トンと評価されている。この発電所の解体方針は、可能な限り解体物をリサイクルすることとし、解体物の96%、即ち29.8万トンがリサイクルされる。この内訳は、サイト内でのコンクリートのリサイクル27.7万トン、スクラップ材等2.1万トン及び原子力界でのリサイクル200トンを見込んでいる。放射性廃棄物として約1.2万トンが、スペインの低レベル放射性廃棄物処分場「エルカブリル処分場」で処分される。
7.レベル2の廃止措置状況(参考文献4、6、10、11)
・原子炉建家の解体は、1999年4月から2000年10月の間に行われた。この解体によって4,020トンの廃棄物が発生し、この内98%が非汚染物であった。
・燃料処理建屋は1999年12月から2002年2月に解体され、発生した廃棄物量は1,163トンであり、86%が非汚染物であった。
・使用済燃料プール建屋の解体は1999年7月から2002年2月に行われ、発生した廃棄物量は1,083トンであり、80%が非汚染物であった。
・黒鉛サイロは2000年9月から2002年11月に解体され、発生した廃棄物量は872トンであり、68%が非汚染物であった。
・廃液処理建屋は2002年11月から2003年6月に解体され、発生した廃棄物量は1,415トンであり、67%が非汚染物であった。
・原子炉本体の1700以上ある全ての開口部(燃料挿入取出し孔、水供給ライン、蒸気配管等)の密封工事は、2000年3月に完了した。同年4月、国による漏えい試験が行われ、密封性は完全に確保されたことが確認された。20年間の密閉貯蔵が安全に行われていることを確認するため5年ごとに温度、湿度及び大気圧との圧力差を測定している。原子炉本体からのブロア撤去作業とブロア撤去後の密封工事状況を
図5 に示す。
・バンデロス1のレベル2活動のハイライトである原子炉建屋と原子炉本体の間の原子炉貯蔵建屋工事が行われた(
図3 参照)。この貯蔵建屋は、鋼鉄フレームの上に亜鉛メッキの炭素鋼板を張る構造であり、原子炉本体壁面から1.5m、上面から6mの間隔をもって建設された。原子炉貯蔵建屋の全重量は350トン、総表面積は5,700 m
2 であり、風速204km/時に耐えられるように設計された。
・原子炉貯蔵建屋の建設完了後、原子炉建屋が撤去された。原子炉建家解体手順を
図6 に、原子炉建家解体後の原子炉貯蔵建屋を中心としたバンデロス1サイト全景を
図7 に示す。なお、これらの図に示すように、この発電所が設置されている地域はリゾート地であるため、新しい原子炉貯蔵建屋が景観を損なうことのないように、環境に合わせて、下部は緑色に、上部は空色に染められている。
・2006年6月までの活動による
集積線量 は、評価線量約600mSv/人に対して、これより低い約430mSv/人であった。この時点での原子炉圧力容器内には100,000Ci(3,700TBg)の放射能が残留しており、ほとんどが
60 Coである。グラファイト及びその他の物質から発生する残留熱は4−5kWである。
8.サイトの一部解放について(参考文献11)
レベル2後のサイト一部解放には、米国の多省庁間放射能測定・サイト調査マニュアルMARSSIM(Multi agency radiation surveyand site investigation manual)が採用された。主な活動は、サイトの放射線学的特性調査、ガイドラインに基づく放射能濃度限度の算出、サーベイクラス区分、スクリーニングデバイスの開発・テスト等である。
サイト解放ための核種濃度限界値DCGL(Derived Concentration Guideline Limits)は、IAEA推奨値でスペイン規制当局が定める解放基準100μSv/年を基準に、米国のDOEとNRCが共同開発した残留放射能評価コードRESRAD(Residual Radioactiviy Cord) を用いて算出された。重要核種は、
137 Cs、
90 Srであり、それぞれの値は0.6Bq/g、 2Bq/gである。この値は、米国でのいくつかのサイト解放例の値と一致している。解放エリアは、クラス1(2,260 m
2 )、クラス2(17,300 m
2 )、クラス3(22,400 m
2 )及び影響ないエリア(16,100 m
2 )の合計約60,000 m
2 である。サイト解放確認は、土壌の20サンプルによる測定・分析及びスクリーニングデバイス(
図8 参照)の測定で行われた。
(前回更新:2006年5月)
<図/表>
表1 バンデロス1 原子炉諸元
表2 バンデロス1 履歴
表3 バンデロス1 レベル2における主な解体活動
図1 バンデロス1 全景
図2 バンデロス1 原子炉縦断面図
図3 バンデロス1 原子炉本体、原子炉貯蔵建屋および原子炉建家の関連模型
図4 バンデロス1 全景(上)と安全貯蔵図(下)
図5 ブロア撤去作業とシーリング
図6 バンデロス1 原子炉貯蔵建屋建設後の原子炉建家解体手順
図7 バンデロス1 現在のサイト全景
図8 INaトロリー型γスキャンとα/βプローブ
<関連タイトル>
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
スペインの原子力政策・計画 (14-05-13-01)
<参考文献>
(1)日本原子力産業協会(編):世界の原子力発電開発の動向 2015年版(2015年4月)
(2)山本龍美、野尻茂信、上妻政隆:スペイン・イタリアのガス冷却炉の廃止措置、デコミッショニング技報 第15号(1996年12月)
(3)”Fifth General Radioactive Waste Plan”,ENRESA(July 1999)
(4)Alejandro Rodoriguez:”Vandellos 1 Decommissioning”(Oct.2002)
(5)Haruo Fujii,Atsuyoshi Morishima:ISSN 0912−7003 ”Directory of Nuclear Power Plants in the World”,Japan Nuclear Energy Information Center Co.Ltd(1994)
(6)中山富佐雄:諸外国のガス炉(GCR)の廃止措置概況とバンデロス1原子力発電所の安全貯蔵例、原子力施設デコミッショニング技術講座[第13回]、(財)原子力研究バックエンド推進センター(2002年2月)
(7)”Report on activities 2000−Dismantling of the Vandellos 1 Nuclear Power Plant”,ENRESA(May 2001)
(8)Dismantling of the Vandellos 1 Nuclear Power Plant,”Report on Activities(1998−1999)”,ENRESA(May 2000)
(9)Materials and Site Release Policy in the Vandellos 1 NPP Decommissioning Program ICEM’01
(10)Manuel Rodriguez,Alejandro Rodoriguez,“Gaining Enclosure”,Nuclear Engineering(Sept.2005)
(11)Gonzalo Medinilla,“Vandellos 1 NPP partial site release after level 2 decommissioning,using MARSSIM”Avignon Conference,ANS/ENS,IAEA,OECD/NEA,(8/2008)