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<概要>
 原子力施設の廃止措置では、作業計画の策定や作業者の安全確保の観点、解体作業中における作業の有効性の確認、施設の放射能状況の確認など、様々な目的で放射能特性の評価が行われる。これらの評価は、試料を採取して実験室での測定と原位置で各種検出器を用いた放射能の測定に分けることが出来る。このうち、原位置での測定では、GMカウンター、シンチレーションカウンターなど通常使用される検出器の他、接近不可能な部位の測定、データ処理の効率化などを対象にして、いくつかの測定装置が開発されている。これらの測定装置には、炉内構造物など線量率が高いために接近不可能な部位を対象とした望遠測定、配管など通常の検出器を挿入することが不可能な部位を対象とする走行ロボットと検出器の組合せ、配管外部からの放射線測定により内部の汚染レベルを評価する測定装置、建屋の床・壁など広範囲な領域を効率的に測定する遠隔・自動化測定装置、映像化と放射能測定の組合せによりホットスポットなどを効率よく評価する測定装置(γカメラ)などを挙げることができる。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 施設の放射能特性の評価は廃止措置を実施する上で重要な課題である。このため、廃止措置工事では様々な局面で放射能の測定が実施される。廃止措置の計画策定段階においては、作業計画の策定や作業者の安全確保の観点から放射能測定が実施され、廃止措置工事中は、作業を実施する前の汚染の範囲や特性を特定する目的で、また、解体や除染の実施結果の有効性を確認するための測定も実施される。さらに、廃止措置工事の最終段階においては、施設の放射能特性の最終状態を確認し、その結果を記録するための測定が実施される。これらに用いられる測定技術は多様であり、様々な技術を組合せた装置が用いられることが多い。これらの測定装置は以下のような観点を考慮して開発されている。
ィ.測定作業の軽減化とデータ管理の容易性
ロ.測定の信頼性、精度、検出限界の改善
ハ.接近不可能な部位の測定
ニ.作業者の被ばく低減
ホ.測定に係る操作方法の改良、教育、訓練の容易性
ヘ.データの取得速度やデータ判別の容易性
 以上の観点を考慮して開発された代表的な測定装置(主に米国における環境修復計画などで適用されたもの)を表1に示す。このうち、配管内部の汚染放射能測定、放射能の望遠測定、γカメラ、床面の自動測定について以下に技術の概要を記す。
1)配管内部の放射能測定
 廃止措置工事では多くの配管やそれらに接続する各種機器の放射能の汚染特性を評価することが求められる。このため、配管内部の汚染特性を評価するための技術が開発され、これらは、配管の外部から放射線を測定する方法、配管の内部に検出器を挿入する方法がある。以下はその概要である。
a.配管外部からの放射能測定
 配管内部の放射能の種類、濃度及び状態(付着状態や水溶液状態)を測定するには、配管の外側に放射線検出器を設定して様々な箇所から放射線を検出する方法がある。この場合、配管の形状などによって、検出器が検出する放射線は影響をうけるため、それらに対する補正が必要になる。
 図1は配管内部放射能測定装置の例である。現場でγ線を検出する検出装置と測定データを処理するデ−タ解析装置を分離し、両者を通信装置で結ぶ方式(遠隔測定装置)を採用している。これにより小型で持ち運びが簡単な検出装置を用いることができるとともに、計算機を含むデータ解析装置を環境の良い部屋に設置することが可能である。
 現場に設置する装置は、γ線検出器、検出器の位置設定装置、電子回路及び通信装置から構成され、配管内部の汚染核種から放出されるγ線をゲルマニウム検出器で測定し、その信号は電子回路で増幅した後、通信装置でデータ解析装置に送られる。送られたデータは計算機により解析され、配管内部の放射能特性が求められる。本装置を日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構、以下「JAEA」という)のJPDRの一次冷却系配管の測定に適用した結果、配管内面に付着した60Coが800-1500Bq/cm2の濃度で分布すること、現場での作業性及び操作性が良いことなどが確認された。
b.配管内部へ挿入した検出器による測定
 検出器を小型化し配管の内部に挿入して、放射能汚染を測定する方法である。配管内部に検出器を挿入する場合、検出器を運搬する走行ロボットと小型化した検出器、配管内部を観察するカメラ等が必要になる。また、配管内部における汚染分布を評価する場合には、測定対象となる部位以外からの放射線の影響を補正することも必要になる。これらを考慮した配管内部測定装置が開発されている。図2はJAEAにおいて開発された配管内部汚染分布測定装置の概要である。本装置は配管内移動ロボット、小型汚染検出器、データ処理装置、ケーブル巻き取り装置から構成される。小型検出器は配管内移動ロボットと中継ボックスの間に連結され、配管内を移動しながら測定を行う。移動ロボットの先端にはCCDカメラと照明ランプが取り付けられており、暗部でも操作と環境の観察を可能にしている。
 同様の装置は米国においても開発されている。図3はアルゴンヌ国立研究所におけるCP5の解体作業で適用された配管内部汚染測定装置である。円筒状の薄膜袋の中に検出器とカメラを入れ、その薄膜袋を配管内部に挿入する方法で、配管内部の汚染を測定する。配管の外に走行用の動力源やデータ処理装置を置き、薄膜袋を前方に移動させる動力は外部からの空気圧を用いている。
2)放射能の望遠測定
 原子炉圧力容器放射化した内壁や炉内構造物等の放射能は極めて高いため、該当部位から測定試料を切り出して放射能濃度を求める試料採取法では、採取作業も難しく測定箇所も限られる。このため、目標とする箇所の放射能を周囲からの妨害を受けずに非破壊的に測定する望遠測定法が開発されている(図4参照)。測定の原理は、対象箇所から放出されるγ線を空洞の直管を用いて反対側に置かれた検出器に導き、遠方から放射能を測定する方法である。検出器されたγ線のエネルギーを分析することにより、周囲から散乱されてくるγ線の影響を取り除き、対象箇所から直接検出器に入るγ線だけを特定できる。直管と測定箇所との幾何学的条件をもとに対象箇所の放射能濃度が求められる。
 本装置はJAEAのJPDRの原子炉圧力容器内壁及び炉内構造物の放射能測定に適用された。炉心シュラウド部と原子炉圧力容器内壁について、本測定法による測定値と試料採取法による測定値が比較されており(図5)、炉心シュラウド部については誤差10%、原子炉圧力容器内壁については誤差15%で一致することが確認された。また、本装置は炉内構造物であるグリッド部、底部支持板及びインコアチューブ等の実測にも適用されている。
3)γカメラ
 γカメラは線源から離れた位置で放射線を計測し、その結果を画像と組合せて映像上に放射線強度を表示する装置であり、機器の表面汚染や配管内部汚染に伴う線源のホットスポットを特定することが出来る。測定の原理は、一般に金属版(厚い鉛板等)に細い孔を密に開けたコリメーターを用いて線源から放射されるγ線をコリメーター後方に設置した検出器で測定し、映像情報と組合せて、γ線量を表示する。放射線検出器で測定したγ線を放射線量が高い場所を赤く、低くなるにつれ黄色、緑、青と色を変えて表示し、カメラで撮影した映像を信号処理装置で重ね合わせることにより、線源の位置と放射線の量を色の違いで表示する。検出器にはシンチレーター、半導体検出器などが使われる。
 図6はγカメラによる測定例を示したものである。放射線量が高いホットスポットを短時間で同定でき、作業の安全のためのデータ等として使用することが可能である。γカメラは我が国を始め様々な国で開発・販売されており、適用実績も多い。
4)建屋床面の自動測定
 建家床面等の汚染特性を自動で測定する装置が開発されている。この装置は、床面を走行する駆動部と、放射能を測定する検出器の組合せにより構成されている。測定は連続して行われる場合と、ある時間駆動部を静止させて測定が行われるケースがある。また、予め測定の経路を設定し、自動で装置を走行させることも可能なものがある。
 図7は建屋表面汚染測定装置の例(JAEAが開発)である。放射能測定には比例計数管を上下二層に重ねた積層型検出器を用いており、β線の検出効率は約22%、γ線の検出効率は約0.2%である。特にβ線を放出する核種による低レベルの汚染測定を目的としており、検出限界表面密度は30秒の測定時間で約0.14Bq/cm2と報告されている。また、予め作成した計画に応じて自動測定するためにデジタル標識を用いた自己位置同定システムを採用している。JAEAの研究施設において汚染レベルの測定に使用され技術の有効性が確認されている。
 同様な装置は米国においても開発されており、米国アルゴンヌ国立研究所のCP-5の解体作業に適用された。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 放射能特性評価のために開発された代表的な装置
表1  放射能特性評価のために開発された代表的な装置
図1 配管内部放射能測定装置の概念図
図1  配管内部放射能測定装置の概念図
図2 配管内部汚染測定装置の概念図
図2  配管内部汚染測定装置の概念図
図3 米国において開発された配管内部汚染測定装置
図3  米国において開発された配管内部汚染測定装置
図4 望遠測定装置の構成図
図4  望遠測定装置の構成図
図5 望遠測定装置と試料採取法による測定値の比較
図5  望遠測定装置と試料採取法による測定値の比較
図6 γカメラによる測定例
図6  γカメラによる測定例
図7 建屋表面汚染測定装置
図7  建屋表面汚染測定装置

<関連タイトル>
廃止方法 (05-02-01-03)
ロボットによる遠隔解体技術 (05-02-02-03)
放射能の計算による予測技術 (05-02-02-06)
原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)

<参考文献>
(1)A. L. Taboas, A. A. Moghissi and T. S. LaGuardia (Edited):The Decommissioning Handbook, ASME Press ISBN:0-7918-0224-8, 2004
(2)M. Katagiri et al.:J. Nucl. Sci. Tech., 29(9), (1992)
(3)伊藤博邦、畠山睦夫、立花光夫、柳原敏:配管内部汚染分布測定装置の開発(受託研究), JAERI-Tech 2003-012, 2003
(4)USDOE:Pipe Explorer Surveying System, Innovative Technology Summary Report, DOE/EM-0440, June 1999
(5)M. Katagiri et al.:J. Nucl. Sci. Tech.,29(8),(1992)
(6)IAEA:Radiological Characterization of Shut Down Nuclear Reactors for Decommissioning Purposes, Tec. Reports Series No. 389(1998)
(7)IAEA:Innovative and Adaptive technologies in Decommissioning of nuclear Facilities, IAEA-TECDOC-1602, 2008
(8)立花光夫 他:建屋表面を対象とした低レベル放射能汚染の自動御測定装置の開発、日本原子力学会誌、Vol.3, No.1, p120, 2004
(9)USDOE:Surface Contamination Monitor and Survey Information Management System, DOE/EM-0347
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