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<概要>
 廃棄物その他の投棄に係わる海洋汚染防止に関する条約(通称、ロンドン条約)は、1972年の海洋汚染防止国際会議(ロンドン会議)での採択に基づき1975年に発効しており、その目的は、放射性廃棄物その他の廃棄物の海洋への故意の投棄を制限することにある。この条約では、(1)投棄禁止の廃棄物、(2)投棄のため適当な国家機関の事前の特別許可を必要とする廃棄物、(3)投棄のため事前の一般許可だけを必要とする廃棄物と、投棄規制の違いによって3つに区分されている。1993年の会議では、海洋投棄禁止対象の物質が高レベルのもののみから「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」(「放射性廃棄物等」)に拡張された(「ロンドン条約の改正」)。25年以内に低レベル放射性廃棄物等の海洋投棄の禁止措置は再検討されることになっている。また、デ・ミニミス・レベル(規制除外レベル)以下のものは禁止対象としないが、IAEAの検討を待って採用することになった(「免除レベルの追加」)。
 ロンドン条約による海洋投棄規制を強化するため、「1996年の議定書」が採択され、2006年3月に発効している。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.ロンドン条約の締結の経緯と主な内容
 1972年6月ストックホルムで開かれた国連の人間環境会議は、さまざまな分野に影響を与えたが、放射性廃棄物の海洋投棄にも、新しい方向を切り開いた。
 決議の1つを受けて、1972年11月ロンドンで「海洋汚染防止に関する国際会議」が開かれ、「廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」が採択された。この条約は「ロンドン条約」と通称され1975年8月に発効し、放射性廃棄物に限らず廃棄物の海洋への故意の投棄が制限されることになった。図1に現行条約の概要を示す。
 この条約では、廃棄物は投棄規制の違いによって次の3種類に分類される。
(1)投棄禁止のもの
 条約付属書Iに記されている有機ハロゲン化合物、水銀とその化合物、カドミウムとその化合物、耐久性のあるプラスチックおよび合成物質、原油・重油・潤滑油などとそれらの混合物、生物戦用・化学戦用に製造された物質、および公衆衛生学的・生物学的などの理由で、権限ある国際機関(現在ではIAEA)により海洋投棄不適当と定義される高レベル放射性廃棄物、またはその他の高レベル放射性物質。
 投棄不適とされる高レベル廃棄物の定義は、表1のようなものである。
(2)投棄のため適当な国家機関の事前の特別許可を必要とするもの
 付属書IIに記されているヒ素・鉛・銅・亜鉛・それらの化合物。
 有機ケイ素化合物、シアン化合物・フッ化物・殺虫剤およびその副産物を相当量含む廃棄物。
 以上の物質・ベリリウム・クロム・ニッケル・バナジウムおよびそれらの化合物を含む廃棄物と同時に多量の酸・アルカリを投棄する場合
 海底に沈んで漁業および船舶航行に重大な障害をもたらすコンテナ。
 金属屑およびその他の大形の廃棄物。
 および前項に含まれない放射性廃棄物、またはその他の放射性物質。
(3)投棄のため事前の一般許可だけを必要とするもの
 その他のすべての廃棄物または物質。
 ロンドン条約の締約国は1976年9月、条約の事務局であるロンドンの国際海事機関(IMO)本部で、第1回締約国協議会議を開催し、それ以来現在まで、毎年1回締約国協議会議が開かれている。
 条約の批准国は2003年6月現在で日本を含め80か国と1地域である。日本は1973年6月22日に調印、1979年3月批准承認に関する閣議決定、1980年5月9日の第91回国会で承認、10月15日政府が正式に批准書を寄託した。「海洋汚染および海上災害の防止に関する規則(海防法)」、「廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃掃法)」により、廃棄物の海洋投入処分の適切な管理に努めている。
 ロンドン条約の経緯を表2に示す。
2.1993年の締約国協議会議(ロンドン条約の改正)
 11月8日から12日までロンドンのIMO本部で開催されたロンドン条約締約国協議会議では、本条約が採択されて20年目にあたる前年からの条約改正の検討を踏まえ、条約改正問題が主要課題となった。改正されたロンドン条約は採択後100日の1994年2月20日に自動的に発効となった。
 その中で各締約国の関心の高い事項は、放射性廃棄物の海洋投棄、産業廃棄物の海洋投棄、洋上焼却の3つであった。特に、放射性廃棄物の海洋投棄の取扱いは、ロシアが低レベルの放射性廃液を日本海に投棄したことを契機として国内で政治問題化したことにより、マスコミの注目するところとなった。
 会議の結果については、3つのポイントがある。第1は、低レベルを含め免除レベル(規制除去レベル)以上の「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」は、付属書の改正により、条約上海洋投棄が禁止されることになったことである(海洋投棄禁止の対象が「高レベル放射性廃棄物およびその他の放射性物質」から「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」に変更)。第2は、今回新たに海洋投棄が禁止されることになった低レベル放射性廃棄物の取扱いについては、この改正が採択されてから25年以内にその禁止措置を再検討するとの見直しの条件がつけられたことである。第3は、国際原子力機関(IAEA)により定義され締約国により採択されるデ・ミニミス・レベル(免除放射能レベル)以下の放射性廃棄物およびその他の放射性物質を海洋投棄の禁止の対象としないこととした(「免除レベルの概念の追加」)。また免除レベルについてはIAEAの検討を待って採用することになった。
3.1996年の議定書
 ロンドン条約による海洋投棄規制を強化するため、下記内容の「1996年の議定書」が採択され、2006年3月に発効している。わが国では、同議定書に対応した改正海防法の2007年4月施行に向けた準備が進められている(表3および図2図3参照)。
(1)議定書の附属書Iの廃棄物等(しゅんせつ物、下水汚泥等)を除き、廃棄物等の海洋投棄は禁止する。
(2)議定書の附属書Iの廃棄物等の海洋投棄についても、附属書IIに従った許可を必要とする。
なお、船舶等において発生した廃棄物等の投棄については、「1973年の船舶による汚染のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)で規制されている。
<図/表>
表1 ロンドン条約により投棄不適とされる高レベル放射性廃棄物の定義(1993年改正前)
表1  ロンドン条約により投棄不適とされる高レベル放射性廃棄物の定義(1993年改正前)
表2 ロンドン条約の経緯
表2  ロンドン条約の経緯
表3 1996年議定書の主な内容
表3  1996年議定書の主な内容
図1 現行条約の概要
図1  現行条約の概要
図2 96年議定書の概要
図2  96年議定書の概要
図3 条約と96年議定書とにおける各投棄可能品目のイメージ
図3  条約と96年議定書とにおける各投棄可能品目のイメージ

<関連タイトル>
旧ソ連による放射性廃棄物の海洋投棄に関する我が国の対応 (11-02-05-04)
国際海事機関(IMO)の活動 (13-01-01-16)
ロシア連邦による隣接海への放射性廃棄物の海洋投棄 (14-06-01-16)

<参考文献>
(1)(財)日本原子力文化振興財団:放射性廃棄物の処理・処分−海洋投棄のロンドン条約発効(プレスレリーズNo.80)(1980年11月)
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力産業新聞、ロンドン条約締約国会議に参加して(1993年11月25日)
(3)日本原子力産業会議(編・刊):原子力ポケットブック1998/99年版(1999年2月)、p.224−225
(4)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1995年12月)、p.70
(5)外務省ホームページ:外交政策、海洋、廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)(平成18年6月)
(6)環境省ホームページ:今後の廃棄物の海洋投入処分等の在り方について、参考資料1ロンドン条約及びロンドン条約96年議定書の概要(平成15年12月)、http://www.env.go.jp/council/toshin/t063-h1506/ref_01.pdf
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