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<概要>
 IAEAでは原子力局と原子力安全・セキュリティ局において、廃止措置の安全と推進に係る双方の観点から様々な課題に関する検討などの活動が実施されている。廃止措置の安全に係る課題については、施設の廃止措置、サイト解放、解体物質のクリアランス、安全性の評価、汚染物質の管理などが対象となり、安全基準の各レベルに対応した検討が実施され報告書が刊行されている。推進に係る課題については、原子力発電所、研究用原子炉、核燃料サイクル施設等の廃止措置を実施する上で考慮すべき、技術、規制、経済性等が対象となり、様々な観点から検討が実施され報告書がまとめられている。また、国際プロジェクトとして、廃止措置に係る安全評価とその計画策定及び実施への反映(FaSa)、研究用原子炉の廃止措置実証プロジェクト(R2D2P)、放射性核種使用施設の廃止措置に係る安全評価と実証に関する国際プロジェクト(DeSa)があり、加えて、情報共有のための国際ネットワークが進行中である。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.活動の概要
 使命を終了した原子力施設の廃止措置が世界各国の重要な課題であることを背景に、IAEA加盟国の要望を反映して、廃止措置に必要な技術や規制等の検討や情報の整理が実施されている。IAEAの廃止措置に係る活動は、原子力安全・セキュリティ局における廃止措置の安全基準の整備と、原子力局における廃止措置の技術・経験等に係る取りまとめなど廃止措置の実施に関する活動に分類される。このうち安全基準の整備については、原子力活動の安全な終了に係る指針や基準の作成を主要な課題とし、廃止措置や放射性廃棄物処理処分に関する検討が実施されてきた。廃止措置の実施に係る活動については、廃止措置・環境修復・残存放射性物質の除去で適用される技術やその適用方法、施設の廃止措置に必要な技術移転、汚染環境の修復に必要な技術の整理・促進に係る検討が実施されてきた。さらに、国際プロジェクトとして、廃止措置の計画と実施の安全評価に係る課題、研究用原子炉の廃止措置実証プロジェクト、イラクの原子力施設群の廃止措置などがある。また、廃止措置に係る情報交換をより緊密に進めることを目的に、インターネットを利用した廃止措置の国際ネットワークの活動が進められている。
2.安全基準に係る活動
 IAEAでは原子力施設の安全の枠組みを安全原則、一般安全要件、個別安全要件で構成される体系で整理し、各レベルにおける安全文書の整備が進められてきた(図1図2)。安全原則では、防護と安全の目的、概念及び原則を提示し、一般安全要件の基礎を規定する。一般安全要件では、安全を確保するために満足されなければならない要件を規定する。個別安全要件では、一般安全要件を満足するための措置、条件、手続きを提示する。これまでに200件以上の安全基準に係る文書の出版がなされている。
 廃止措置に関しては、廃棄物安全小委員会(WASSC)において、放射性廃棄物の処理処分、環境修復活動などと並行して審議されている。廃止措置の一般安全要件として「放射性物質を扱う施設の廃止措置(WS-R-5)」が刊行され、個別安全要件として、原子炉施設の廃止措置に関して安全に作業を進めるための要点を取りまとめた「研究炉及び動力炉の廃止措置(WS-G-2.1)」などが刊行されている。
3.原子力施設の廃止措置の実施に係る活動
 廃止措置の効率的な実施に向けた技術・方法・政策、発生する放射性廃棄物の評価とその低減化に係る情報提供を目的とした検討が進められてきた。対象となる施設は、原子力発電所、研究用原子炉、核燃料サイクル施設等であり、技術、規制、経済性など様々な観点からの検討結果が報告書にまとめられた。近年では、原子力施設の廃止措置に係る社会・経済的影響の評価、遅延廃止措置に係る情報の長期保存、リソースの最適な適用による研究用原子炉及び小規模施設の廃止措置などに関して報告書が刊行されている。これまでに刊行された報告書は、技術、マネジメント、実施、啓発などの分野に渡っている(表1-1表1-2)。
4.国際プロジェクト
 国際協力、共同プロジェクト、研修、ワークショップなどを組織するとともに、国の政策や戦略に係る検討のみでなく、加盟国の廃止措置に係る課題の解決に向けた支援活動を含め、直接的な指導なども実施されている。これまでに、ベルギー、中国、グルジア、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、フィリピン、ルーマニア、セルビア・モンテネグロ、スロバキア、タジキスタン、ウクライナの廃止措置の評価・検討が実施された。
 他方、発電用原子炉や研究用原子炉の廃止措置に係る専門家会合、コンサルタント会合、研究炉廃止措置の実証プロジェクト(R2D2計画)、イラクにおける原子力施設の廃止措置等のプロジェクトが進行中である。また、廃止措置の安全に係る評価及び実証計画(DeSa)、廃止措置の計画策定と実施に係る安全評価の適用計画(FaSa)が各々、2004-2007年と2008-2011年に実施された。廃止措置の安全に係る活動(DeSaとFaSa)及びネットワークによる情報交換(IDN)について紹介する。
(1)廃止措置の安全に係る国際プロジェクト
 原子力施設の廃止措置工事における安全評価を対象にして国際協力による活動が進められてきた。この活動は、2004年から開始され、廃止措置の安全に係る評価及び実証計画(DeSa)と廃止措置の計画策定と実施に関する安全評価の適用計画(FaSa)である。これらの目的は、各国の廃止措置の経験や安全の検討に基づいて、廃止措置の安全評価に係る取組を推進し、安全性の審査に関連した情報や経験を交換する機会を提供するものである。本活動では以下の点に関して討議が進められた。
・DeSa:
 a.廃止措置に係る活動の分類と予想される事故・事象、公衆・環境に及ぼす影響などのリスクの抽出、及び偶発事象の影響を最小に抑える緩和策の分析
 b.各種施設を対象とした廃止措置に係る安全評価(モデルケース)の実施
 c.規制側の意思決定に役立てるための安全審査に係る取組の推進
 d.各種施設の廃止措置に係る安全性の実証と評価に関する経験の交換
・FaSa:
 a.放射性核種使用施設などの廃止措置に係る計画・安全文書の作成と安全評価の適用
 b.廃止措置工事における安全評価の適用(例:最適化、多重防護、技術的可能性、安全機能と制御)
 c.安全評価の段階的な適用
 d.安全評価の更新と実施、規制側の安全評価の見直し及び評価結果の実施
 e. 選択した施設を対象とした推奨事項の適用と実証
 これらの活動を通して、安全審査の実施方法、各種施設の安全審査の適用指針、廃止措置の安全審査のための計画と手順等の安全文書の改訂版が刊行されている。
(2)国際廃止措置ネットワーク(DIN)
 発展途上国でも比較的小規模の施設を含め停止又は寿命に近づいている原子力施設が増加している。しかし、技術的・経済的な理由から適切な廃止措置が実施されないものもあることを考慮し、これらの廃止措置が適切に実施されることを目的として、2007年にIDN(International Decommissioning Network)が立ち上げられた。IDNの活動内容は以下の通りである。
 a.廃止措置に係る経験を共有するための情報交換
 b.技術、計画、プロジェクト管理、放射性廃棄物管理に関する最適プロジェクトの実施
 c.廃止措置に係る実施計画の支援
 d.予備的段階から本格実施への進展を図るための政策的及び統合的な支援
 本活動では廃止措置の専門家の連携を図り、きめ細かな情報交換が実施されている。参加者はINDの活動や廃止措置計画の進展に係る情報をWEBサイトで閲覧することが出来、WEBサイトは適宜最新の情報に更新されている。また、メールにより最新の情報が配信されている。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1-1 原子力施設の廃止措置に関する報告書(1/2)
表1-1  原子力施設の廃止措置に関する報告書(1/2)
表1-2 原子力施設の廃止措置に関する報告書(2/2)
表1-2  原子力施設の廃止措置に関する報告書(2/2)
図1 安全基に係る報告書の構成
図1  安全基に係る報告書の構成
図2 安全基準に係る報告書
図2  安全基準に係る報告書

<関連タイトル>
原子力施設廃止措置に関するOECD/NEA国際協力 (05-02-01-08)
原子力発電および核燃料サイクルに関するIAEAの活動 (13-01-01-15)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)

<参考文献>
(1)IAEAホームページ:廃止措置の報告書、

(2)IAEAホームページ:安全基準、
http://www-ns.iaea.org/standards/default.asp?s=11&l=90
(3)IAEA, Fundamental Safety Principles, Series No. SF-1, published Tuesday, November 07, 2006
(4)IAEA, Decommissioning of Facilities Using Radioactive Material Safety Requirements, Series No. WS-R-5, October 18, 2006
(5)IAEA, Safety Assessment for the Decommissioning of Facilities Using Radioactive Material Safety Guide, Series No. WS-G-5.2,February 24, 2009
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