<本文>
(1) 溶媒の劣化
溶媒[トリブチルリン酸(TBP)と炭化水素(希釈剤)の混合物]は比較的安定な化合物であるが、抽出操作中にTBPは放射線および硝酸で徐々に分解され、ジブチルリン酸 (DBP)が生成する。このDBPはジルコニウム、
プルトニウムなどと強い
錯化合物を作るので、溶媒
抽出工程の抽出効率および生成効率を低下させる原因になる。
(2) 溶媒の再生
溶媒中のTBP分解生成物を取り除き、溶媒をリサイクルしている。溶媒の劣化成分(DBP、DBPと
ジルコニウムおよびプルトニウムなどとの錯化合物)をできるだけ取り除くために通常アルカリ洗浄(炭酸ソーダ及び苛性ソーダーを使用)法が採用されている。アルカリ洗浄法はルテニュウムやジルコニウム錯化合物の
除染率がそれほど大きくなく、また多量の含塩放射性廃液発生の原因となっている。アルカリ洗浄の代替として
ヒドラジン(Hydrazine hydrate)などが研究されているが、いまだ工業規模で実証されていない。
(3) 廃溶媒の発生
再処理施設ではかなりの量の溶媒が抽出工程に使用されている。溶媒のインベントリーは使用済燃料1日1トン処理当り15立方メートル程度と推定される。この溶媒は抽出工程中で放射線および硝酸により劣化(DBPの発生)するので、再生処理して使用しているが、繰り返し使用にも限度がある。この他、溶媒に接触した水溶液には微量の TBPが溶け込むので、これを取り除くために用いられた希釈剤(TBP濃度2〜3%程度)も含めて、使用済燃料1トン当たり約1立方メートルの廃溶媒および希釈剤が発生する(
表1 参照)。
(4) 廃溶媒の処理
廃溶媒は初期には焼却炉で処理されていたが、焼却炉の炉材の腐食が甚だしく、この方法は放棄されて、真空蒸留法およびリン酸による TBPの抽出法などが用いられるようになった。これらの方法で分離されたTBPを主体とする廃溶媒は熱分解処理して、残留するリン酸を中和剤(水酸化カルシウム)で中和し無機化している。
(a) 真空蒸留法
廃溶媒を真空蒸留法により、炭化水素、TBPおよび分解生成物を蒸留分離する。仏国のパイロットプラント規模の実験結果によると、炭化水素およびTBPの回収率は95%程度で、炭化水素相へのTBPの混入率は0.02%以下、TBP相への炭化水素の混入率は30〜40%程度であり、両相とも繰り返し使用が可能であると評価している。廃溶媒の約5%の釜残成分および
FPを主成分とする有機残渣が発生する。
(b) リン酸を抽出媒体としてTBPを炭化水素から分離する方法
廃溶媒に無水リン酸を混和すると、分極性物質のTBP錯塩はリン酸相に移り、炭化水素とはほぼ完全に分けることができる。この際、溶媒の劣化成分、FPおよび他の不純物はリン酸相に留まるので、炭化水素は再利用または焼却処理することができる。リン酸相は空気を遮断して、含まれているTBPを熱分解する方法(Eurocemic法)、または、リン酸相を水と接触しTBPをリン酸相から分離し、リン酸相は廃水処理工程に送り、TBPは
固化処理する方法(ドイツ−WAK法) がある。
東海再処理施設ではWAK法の処理技術を導入し、処理施設を建設し、1986年より稼働中である。
(c) 廃溶媒の
固化処理
TBP濃度の高い廃溶媒を安定固化体にする研究開発がなされている。動燃(現日本原子力研究開発機構)ではTBPのプラスチック固化技術の開発が進められている。廃溶媒を熱分解処理[200 度(C)]し、これを不活性化するために水酸化カルシュウムで中和し、コンクリートなどで固化する方法も検討されている。また、熱分解処理と中和処理を同時に高温乾式法で処理し固体リン酸を得る方法(NUKEM社の特許)も提案されている。
<図/表>
<関連タイトル>
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
再処理廃棄物の特性 (04-07-02-05)
<参考文献>
(1)動燃技報 No.55「11.3 廃溶媒処理技術開発施設」p.67 (1985)
(2)清瀬量平: 原子力化学工学( 第2分冊) 核燃料・材料の化学工学及び(第3分冊)使用済燃料とプルトニウムの化学工学(1983)
(3)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会 平成2年6月)
(4)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)