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<概要>
 ガス拡散法や遠心分離法では、分離係数が小さく所定濃度の濃縮ウランを得るためには分離操作を、何回も繰り返す必要がある。多数回の分離操作を効率良く行うため、各段階の濃縮流をさらに濃縮するだけでなく、濃縮度の低下した減損流を下段からの濃縮流と合流させ再循環させる。減損流も再循環させるように多くの単位分離器、循環用機器を積み重ね、連結したものをカスケードという。減損流と濃縮流の濃縮度が等しく、合流時に濃縮度の混合が起こらないようにしたのが理想カスケードで、最も効率が高い。しかし、各段により流量が変化するため、各段の構成機器の容量も変化させる必要がある。各段の流量を一定にした方形カスケードは、効率は落ちるが、各段の構成機器が同一容量でよく、装置全体が非常に単純になる。ガス拡散プラントでは方形カスケードを数ステップ積み重ね、全体として理想カスケードに近づけたステップカスケードが採用されている。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 ガス拡散法や遠心分離法によりウラン濃縮を行う場合、1回の分離操作での分離係数が極めて小さいので、所定濃度の濃縮ウランを得るためには分離操作を何回も繰り返す必要がある。例えば、軽水炉で使用する数%の低濃縮ウランをガス拡散法で生産するには、約1000回の分離操作を繰り返す。このとき、単位分離器で濃縮された濃縮流分のみをさらに濃縮するだけで、濃縮度の劣化した減損流分は廃棄してしまうと、濃縮された最終量は極微量となってしまう。このため、 図1 のように減損流の濃縮度はすぐ下の段の濃縮流の濃縮度とほぼ一致するので、合流させ減損流も循環させる。所定の濃縮度の製品を得るため、減損流も再循環させるように、多くの単位分離器、循環用機器を連結したものをカスケードと呼んでいる。 図2 にガス拡散法の場合のカスケード全体図を示す。ガス拡散法では、単位分離器である拡散筒に供給された供給流は隔膜を通過した濃縮流と、隔膜を通過していない減損流に分かれる。濃縮流は圧縮機で再び加圧され、1段上の拡散筒に送られる。減損流は1段下の拡散筒に送られる。供給流は、1段下からの濃縮流と1段上からの減損流が合流したものである。カスケードには原料組成から濃縮度を高めるカスケードの濃縮部だけでなく、廃棄材の濃縮度を低下させる回収部がある。もし、回収部がないと、廃棄材の濃縮度は天然ウランよりわずかに低いだけなので、原料の天然ウランが大量に必要となってしまうためである。
 濃縮部、回収部それぞれで各段の流量が段によらず一定であるカスケードを方形カスケードという。横軸に各段の流量、縦軸に段数をとって、カスケードの型式を図示する。方形カスケードは 図3 (a)のようになる。方形カスケードでは各段の単位分離装置が一定となり設計が単純で便利であるが、下段からの濃縮流と上段からの減損流も濃縮度が異なっており、合流時に濃縮度の混合が起き、効率が良いとは言えない。合流の時、濃縮流と減損流の濃縮度が等しく、濃縮度の混合が起こらないという条件で理論的に導いたものが理想カスケードである。これを用いるとカスケードの規模、すなわち、プラント全体の総循環流量が最小となり最も効率的になる。しかし、理想カスケードでは、図3(b)のように、各段で流量が異なり、能力の異なる単位分離器、圧縮機等の循環用機器を各段に適したものにする必要がある。分離方法によっては、理想カスケードを組み難いこともある。その場合、図3(c)のように、方形カスケードをいくつか積み重ね、理想カスケードに近い型式にすることが多い。これをステップカスケードという。
 現在、工業的に行われているガス拡散法によるウラン濃縮はステップカスケードで、数百段に及ぶ段数を、拡散筒と圧縮機等を数種類に限定している。
 一方、遠心分離法によるウラン濃縮では、単位分離機の流量が極めて少ないので、1段当たりの分離機の台数は非常に多くなるが適当に調整できるので、分離効率の優れた理想カスケードが採用されている。またガス拡散法より分離係数が高いので、段数はほぼ10段程度である。
  図4 は六ケ所濃縮工場に設置されている遠心分離機でカスケードの一部である。
<図/表>
図1 ガス拡散法のカスケードの基本構成
図1  ガス拡散法のカスケードの基本構成
図2 ガス拡散法の全体カスケード
図2  ガス拡散法の全体カスケード
図3 各種カスケードの比較
図3  各種カスケードの比較
図4 六ケ所濃縮工場で稼動している遠心分離機カスケードの一部
図4  六ケ所濃縮工場で稼動している遠心分離機カスケードの一部

<関連タイトル>
遠心分離法によるウラン濃縮 (04-05-01-04)
六ヶ所ウラン濃縮工場 (04-05-02-03)

<参考文献>
(1)東 邦夫:ウラン濃縮、日刊工業新聞社(1971)
(2)鈴木 篤之・清瀬 量平:核燃料サイクル工学、日刊工業新聞社(1981)
(3)日本原燃株式会社:会社案内パンフレット、(1995.7) p.8
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