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原子力発電を支える燃料サイクルを通じて、燃料物質そのものは電気事業者が所有するのが普通である。電気事業者はウランの
製錬、濃縮、成型加工等の役務を、それぞれの事業者に委託することにしている。役務の料金は当然、それぞれの事業に要するコストが基本になるわけで、その場合役務の量は、燃料サイクル事業者の側から見れば、使用する施設の規模と使用した期間とを掛合わせたものに相当する。
ウラン製錬や成型加工の場合には、一般産業の場合と同様、使用する施設の規模は製品の年間生産量に比例するので、作業の量は製品生産量で表現するのが普通である。
一方ウラン濃縮は、ウラン同位体の混合物で形成されている原料を、ウラン235濃度の高い製品(濃縮ウラン)とウラン235濃度の極めて低い廃品(劣化ウラン)との2つに分離する作業であるため、その作業の量を製品の生産量のみで決めることはできない。廃品のウラン235濃度を下げるためには当然、相応の設備が必要となるわけで、一見ムダな設備を用意しているように思えるかも知れないが、これは原料ウランの費用も合せて考慮した結果なのである。即ち、ウラン濃縮の場合のように原料そのものが高価な場合には、あえて設備投資をしてでも廃品のウラン235濃度を下げて原料ウランに含まれるウラン235を最大限利用し、原料ウランの必要量を減らし、原料の費用とウラン濃縮作業の費用の合計が最小になるようにするわけである。ウラン濃縮の施設がこのように濃縮ウランを生産するのみならず、劣化ウランも生産するものであるため、作業の量としては製品のウラン−235濃度、量のみならず廃品のウラン235濃度、量も考慮した新しい尺度を案出することが必要となる。
この尺度は分離作業量と呼ばれ、ウラン濃縮施設の規模と対応するよう、次のような基本概念から導入されている。
分離作業量=製品量×製品濃度に対応する「価値」
+廃品量×廃品濃度に対応する「価値」
−原料量×原料濃度に対応する「価値」
ウラン濃縮工程では、原料は全て製品と廃品とに分割されるので、この式は次のように書き換えることができる。
分離作業量=製品量×(製品「価値」−原料「価値」)
+廃品量×(廃品「価値」−原料「価値」)
理論解析によると、「価値」は濃度のみの関数で無次元、従って無単位の数値である。天然ウラン(0.7%)を2.6倍高濃度の1.8%濃縮ウランにする場合の「価値」の変化は約1(理論上はマイナスとして取り扱われる)、また天然ウランを2.6分の1低濃度の0.27%劣化ウランにする場合の「価値」の変化も約1(理論上はプラスとして取り扱われる)である。
分離作業量は物質の量の単位(Kg等)を持っているが、重量との混同をさけるため、KgSWU又はtSWUと表記する習慣となっている。
分離作業量の2〜3の算出例を以下に示す。
天然ウランを原料として4.7%(0.7%×2.6×2.6)の濃縮ウラン1tUを取得する場合、劣化ウランの濃度を0.27%(0.7%÷2.6)とすると、原料は10tU(従って劣化ウランの量は9tU)必要で、この場合の分離作業量は7(1×(−2)+9×1)tSWUとなる。原料ウランが製品と廃品とに1対9に分配されているが、これは原料の中のウランおよびウラン235が、それぞれ製品と廃品にのみ分割される場合の
物質収支から算出されたものである。
分離作業量について更に現実的な例として、天然ウランから3.5%濃縮ウラン 1tUを取得する場合、劣化ウラン濃度を0.25%とすると原料は7.0tU必要で、この場合の分離作業量は4.8tSWUである。この例で、もし劣化ウラン濃度を0.30%とした場合には、原料は7.8tU 必要となるが、分離作業量は4.3tSWUで済むことになる。
分離作業量の概念は、施設のウラン濃縮能力と対応した形で導入されたものであるため、全く同じ算出式が施設の規模(ウラン濃縮能力)を表現する目的でも使用される。
また、濃縮役務料金も分離作業量(KgSWU)当たりの価格としてその単価が定められている。
発電量と分離作業量との関係を極めて大雑把に例示すると、120tSWUの分離作業量が100万KW発電所の年間燃料取扱量に相当する。
<参考文献>
(1)三島良績(編著):核燃料工学、同文書院(昭和47年10月)
(2)火力原子力発電協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、昭和61年6月
(3)火力原子力発電協会(編):やさしい原子力発電、平成2年6月