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<概要>
 鉱山保安法は、鉱山における人に対する危害の防止、鉱物資源の保護、鉱山の施設の保安、鉱害の防止の四つを保安の目的としている。鉱害に対して、金属鉱山等保安規則では鉱煙、粉塵、坑廃水、鉱業廃棄物、捨石、鉱滓、掘削、騒音、振動に分けて規制が行われている。坑水および堆積場からの廃水の処理対策として中和処理が行われ、重金属等は水酸化物等として沈澱・除去し坑廃水の無害化を図っている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
(1) 鉱業活動において、生産と保安とは車の両輪のごときものであるといわれている通り、鉱山における保安の歴史は鉱業活動の歴史とともに古い。鉱山保安に関する法的規制の歴史もまた古くさかのぼることができるが、現在の鉱山保安は、主として昭和24年に施行された鉱山保安法に基づいて行われており、法律の面にも鉱業法と鉱山保安法という形で生産と保安のチェック・アンド・バランスが見られる。
 ところで「保安」とはどのような概念か。鉱山保安法は第3条においてこの点を明らかにしている。(a)鉱山における人に対する危害の防止、(b)鉱物資源の保護、(c)鉱山の施設の保全、(d)鉱害の防止である。法は以上の四つが「保安」の目的であるとしているが、一般には「保安」を「危害」すなわち鉱山労働者に対する危難の防止、および「鉱害」すなわち鉱山労働者以外の第三者に対する危難の防止に分けて論じられることが多い。核原料物質を扱う鉱山においては、落磐災害、運搬災害、墜落災害等一般鉱山の災害防止の他に放射線障害防止が大きな比重を占める。
 災害防止対策としての法規制の体系を見ると、鉱山保安行政は鉱山保安法に基づいて行われている。一般産業における労働者の保護については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)が適用されているが、鉱山においては同法は第2章(労働災害防止計画)を除き、適用除外となっており、(同法第 115条第1項)鉱山保安法で一元的に行われることになっている。鉱山保安法(第4条、第5条、第30条等)を受けて下位法令として金属鉱山等保安規則(「金則」)、石炭鉱山保安規則(「炭則」)、石油鉱山保安規則(「石則」)が定められいる。鉱山保安法は、自主保安の精神に基づき、保安教育(第6条)、保安規定(第10条)、保安技術職員(第12条の2〜第18条)、保安委員会(第19条)等に関する規定が置かれている。
 「金則」における具体的規制としては、第2章通気および坑内ガス、第3章火災および自然発火、第4章落磐および崩落等、第5章火薬類および発破、第6章電気、第7章運搬、第7章の2車両系鉱山機械および自動車、第8章坑内の通路および就業箇所、第9章坑外施設・排水施設等、第10章掘採の制限、第10章の2請負作業の届出、第12章核原料物質鉱山における放射線障害の防止等それぞれにつき詳細に危害防止のための規定が定められている。

(2) 金属鉱山等の坑口や堆積場から排出される坑廃水は、重金属を含有していたり、強酸性であることが少なくない。特に重金属は蓄積性を有するため、下流域の農業や人の健康に対して悪影響をおよぼす危険性がある。また鉱山の場合操業を停止した後も、坑廃水が流出することにより鉱害を生じさせる場合がある。有害物質を含む堆積場の流出防止工事、坑道の閉塞等坑廃水の流出防止または軽減するための発生源対策工事や、発生源対策工事により完全に止水できない場合の坑水および堆積場からの排水の処理対策としては、一般に中和処理が行われている。これは、酸性の坑廃水をアルカリで中和し、pHを所定の範囲内に調整すると同時に、その過程で重金属を水酸化物等として、沈澱・除去し、坑廃水の無害化を図るものであり、中和剤として一般に消石灰、炭酸カルシウム(石灰石粉末)、苛性ソーダが使用される。ウラン鉱山の坑内廃水中の放射性物質のうちウランは中和沈澱処理等によってほとんど除去できるので、坑内からの廃水については必要に応じ各坑別に処理した後自然放流している。
 人形峠鉱山における露天採掘場からの浸透水等は、夜次ダムへ送流したのち廃水処理施設へ送られる。施設の工程廃水は、施設ごとに放射性物質濃度を測定し、基準値以下であることを確認の上、廃水処理場内の放流水槽(1,500 立方メートル2槽)へ施設外の坑廃水とともに集められ、再度測定後、基準値以下を確認し、河川へ放流している。また水質汚濁に基づく岡山県条例のリン規制値が1ppm 以下とされたため、排水中リンの監視用自動測定器を購入設置し排水管理の充実を図っている。排気については、施設の種類に応じて、ダストコレクター、高性能フィルター等の集塵装置、化学吸収塔およびアルカリスクラバーを設置して、放射性物質のほかフッ素、塩酸等、有害物質の除去吸収を行った後排気筒より排出することとし、排出にあたり放射性物質およびフッ素等の濃度を監視し管理している。また水質保全の立場から、坑廃水の排出口のほか、吉井川の上流にあたる中津河、赤和瀬、池河の各河川について、月1回、または年2回採水し、放射性物質のほか、一般有害物質の濃度の測定を行っているが、さらに岡山県環境保健センター(旧岡山県衛生研究所)に水質調査を年2回委託実施して第三者機関による水質監視を実施して万全を期している。
 堆積場は、一旦決壊、流出すれば田畑、道路、家屋等に損失を与えるほか、人命に対しても甚大な危害を与える可能性があるため、堆積場の保安管理は保安上極めて重要な位置を占める。堆積場を新設・増設する際は、鉱山保安監督局部長の認可が必要とされるが(「金則」第52条)、基準として「捨石・鉱滓堆積場建設基準」および「表土堆積場建設基準」が制定されている。堆積場の安定は主として、(a)堆積場の形状、(b)堆積物の土質特性、(c)地下水の存在状況に依存する。したがって排水施設の施工の適否、排水機能の良否、かん止堤の異常の有無等を外観検査し、安全度の検討が行われる、建設途上にある比較的規模の大きい堆積場について、認可通りの構造に施工されているかを材料試験等を含めて検査し、構造物の強度についても検討が行われている。また室内土質試験を含む現場試験を実施して、力学的安定の検討等を行い、堆積場の崩壊防止が図られている。
<関連タイトル>
坑内の放射線 (04-03-02-01)
ウラン・トリウム鉱石に含まれる放射性核種 (04-03-02-02)

<参考文献>
(1)『ウラン鉱業技術集』編集、動力炉・核燃料開発事業団(1968年7月)。
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