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加圧水型原子力発電所における主要な放射性廃棄物の種類には、体積制御タンクでの脱ガス操作によって生ずるクリプトンやキセノンなどの放射性希ガスを含む気体廃棄物および一次冷却材中のホウ素濃度調整のため生ずる抽出水や各種の機器ドレンなど放射性腐食生成物や核分裂生成物を含む液体廃棄物がある。また一次冷却材の浄化および液体廃棄物の処理のため使用されるイオン交換樹脂やフィルタなどの液体廃棄物と同様の放射能を含む廃棄物が固体廃棄物として発生する。
これらの放射性廃棄物は、気体、液体、固体廃棄物処理設備にそれぞれ導き、再利用、貯蔵および放出のため放射能の減衰、分離、濃縮などの適切な処理を行う。
1.気体廃棄物処理
気体廃棄物は、その性状に応じた処理を行った後、ガス減衰タンクなどにて一定期間貯留を行い放射能を減衰させた後、
放射性物質濃度を監視しながら排出を行う。気体廃棄物処理設備は、廃ガスの性状により、窒素廃ガス処理系と水素廃ガス処理系に分けられる。これらの一般的な設備構成は
図1 に示すとおりであり、また処理機能の概要は以下のとおりである。
1)窒素廃ガス処理系
窒素を主体とする廃ガスには、プラント停止時の一次冷却材中のガス置換に伴うベントガスおよび各タンクの水位上昇に伴い排出される
カバーガス、各機器からのベントガスがある。これらの廃ガスは、窒素廃ガス処理系のガス圧縮装置により加圧圧縮し、ガス減衰タンクに一定期間貯留して、廃ガス中に含まれているキセノン、クリプトンなどの放射能を減衰させる。排出に際しては、放射性物質濃度を監視しながら排出する。
2)水素廃ガス処理系
水素を主体とする廃ガスには、一次冷却材中のキセノンおよびクリプトンなどの脱ガス操作によって発生する廃ガスがある。この廃ガスは、水素廃ガス処理系に設置された水素再結合装置または水素分離装置によって処理される。水素再結合装置による処理法は、廃ガス中に占める大半の水素を、適当量添加した酸素と反応させ水蒸気とし、残った廃ガスを水素再結合ガス減衰タンクに導くものである。一方、水素分離装置による処理法は、装置内のパラジウム合金膜セルにて廃ガス中の水素と他の廃ガスとに分離し、分離後の廃ガスを水素廃ガス減衰タンクに導くものである。
2.液体廃棄物処理
液体廃棄物は、その性状に応じて分離回収し、原則としてフィルタ、蒸発器、脱塩塔などで処理した後、蒸留水などは再使用するかまたは放射性物質濃度が十分低いことを確認した後、その濃度を監視しながら排出する。液体廃棄物処理設備は、液体廃棄物の性状により、ほう酸回収系、廃液処理系および洗浄排水処理系に大別される。これらの一般的な設備構成は、
図2 に示す通りであり、また処理機能の概要は以下の通りである。
1)ホウ酸回収系
ホウ酸回収系(BRS)は、一次冷却設備からの抽出水および格納容器冷却材ドレンなどを冷却材貯蔵タンクに収集、貯留した後、ホウ酸回収装置にて脱ガス、蒸発濃縮処理する設備である。処理後の蒸留水および濃縮液は原則として再使用する。
2)廃液処理系
廃液処理系は、各種の機器ドレン、床ドレン、薬品ドレンなどを処理するが、処理方法としては廃液一括処理方式または廃液分離処理方式のいずれかが採用されている。
廃液一括処理方式による処理系は、前述の各廃液を廃液貯蔵タンクに一括収集した後、廃液蒸発装置にて蒸発濃縮処理を行い、蒸留水は排出し、また濃縮廃液はドラム缶詰される。一方、廃液分離処理方式による処理系は、前述の各廃液を高水質と低水質の廃液に分け、各々別の廃液貯蔵タンクに収集した後、廃液蒸発装置にて蒸発濃縮処理を行う。高水質廃液の処理後の蒸留水は原則として再使用し、また低水質廃液の処理後の蒸留水は排出する。濃縮廃液については両者ともドラム缶詰される。
3)洗浄排水処理系
洗浄排水処理系は、洗濯排水、手洗排水、シャワー排水を洗浄排水タンクに収集した後、洗浄排水処理装置にて処理する。処理水は排出し、また濃縮廃液はドラム缶詰される。なお、洗浄排水処理装置としては、蒸発装置あるいは逆浸透装置のいずれかが使用されている。
3. 固体廃棄物処理
固体廃棄物は、その種類により、次のように分類し、それぞれの性状、形態に応じた処理を行う。
図3 に主要な固体廃棄物処理設備の設備構成を示す。
1)廃液蒸発装置、洗浄排水処理装置の濃縮廃液及び酸液ドレン
2)脱塩塔の使用済樹脂
3)布、紙などの
雑固体廃棄物
4)使用済液体用フィルタ
5)使用済換気用フィルタ
以下に固体廃棄物の一般的な処理概要を示す。
1)濃縮廃液、酸液ドレン
廃液蒸発装置および洗浄排水処理装置で処理された濃縮廃液は、アスファルト
固化処理装置に送られ、ここで加熱されたアスファルトと混合され、水分蒸発後ドラム缶内にて固化処理する。
また酸液ドレン・タンクから移送された酸液ドレンは、セメント固化装置にてドラム缶内でセメントと混合し、固化処理する。
2)使用済樹脂
使用済樹脂は、脱塩塔より使用済樹脂貯蔵タンクに移送し、長期貯蔵保管とするが、ドラム缶詰も可能な設備となっている。
3)雑固体廃棄物
雑固体廃棄物のうち、可燃性のものについては、焼却設備にて焼却処理し、不燃性のものについては、
ベイラにより圧縮減容してドラム缶詰する。
4)5)使用済フィルタなど
使用済液体フィルタは、必要に応じてコンクリートなどで内張したドラム缶に詰める。また、使用済換気用フィルタなどのドラム缶詰が困難な雑固体廃棄物は、放射性物質が飛散しないように梱包などの処置を講ずる。
以上のドラム缶詰処理などがとられた固体廃棄物は、固体廃棄物貯蔵庫に搬送し、貯蔵保管するが、使用済樹脂についてはタンク内に原則として長期貯蔵保管とする。
<図/表>
<関連タイトル>
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
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PWRの起動・停止方法 (02-02-03-04)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、平成2年6月
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし、平成4年10月