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<概要>
 電力需要は広範囲にわたって総合するほど負荷率が良くなり、各発電所の特性を発揮させることができる。また広域的に運営することによって、必要とされる供給予備力の保有量を各社単独で確保する場合に比べて小さくすることができる。広域運営促進のため、電気事業法からも協調促進が図られており、電気事業者相互間の協調義務および電気工作物の施工計画、電気の供給計画の届出義務など、広域運営に関して規定されている。
 電力各社は自主運営を原則としながらも、相互に協力して地域的特性や需要構造の差など広域的な観点から電力を効果的に活用し、最適な電源開発・送電連系・設備運用・電力融通および給電運用を実施している。
 現在、9電力会社と電源開発(株)の10社で「中央電力協議会」を設置し、さらに全国を3つの地域に分け、各地域に協議会を設け、国、関係機関などとも連絡をとりながら、円滑な運営の推進を図っている。2005年4月中央宮殿連絡機能が中立機関「電力利用協議会」に引き継がれた。また、50Hz系統と60Hz系統は二つの周波数変換所で、さらに北海道と本州とは直流送電線により、本土を含む4島は完全に連系されている。
<更新年月>
2005年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.電力の広域運用
 電気事業における電力系統運用の目的は、面的に広がった水力、火力および原子力発電所などの電源から送電線、変電所および配電線を経て需要家にいたるまでの総ての要素を有機的に連系し、需要家の要求する電力を極力一定の周波数と電圧で停電することなく経済的に供給することである。電力は地域社会において環境に対してクリーンであり安全性が高く、近年益々電力化の傾向が高まっているが、一方、実用的に長期間大量に貯蔵ができないので、消費に合わせて生産を瞬時に調整する必要があり、また、全体が直接つながったシステムとして構成され、部分の崩壊が全体におよぶ危険をはらんでいるので、広域的な観点と立場から、全体をよく監視し、適切に運用する必要がある。
 電気事業法第28条(電気事業者相互の協調)で、「電気事業者は、電源開発の実施、電気の供給、電気工作物の運用等その事業遂行に当たり、広域的運営による電気事業の総合的かつ合理的な発達に資するように、卸供給事業者の能力を適切に活用しつつ、相互に協調しなければならない。」と規定している。また、第29条(供給計画)では、「電気の供給並びに電気工作物の設置及び運用についての計画(供給計画)を作成し、当該年度の開始前に、経済産業大臣に届け出なければならない。」と規定している。さらに第31条(供給命令等)では、「経済産業大臣は、災害その他非常の場合において公共の利益を確保するため特に必要があり、適切であると認めるときは、電気事業者に対し電気を供給することを命ずることができる。」としている。
 これらの規定では、電気事業者間で相互に供給設備を利用しあうなど、事業運営に際して相互に協調すること(電気事業の広域運営)を義務づけるとともに、広域運営の最終的な担保手段として、経済産業大臣は、電気事業者に対して供給命令を発することができるようになっている。電気事業者が現行の地域別分割経営体制を取りつつ、将来の経済発展、国民生活の向上に応えて豊富・低廉・良質な電気の供給を長期的に確保していくためには、電気事業者相互の協調が必要である。
2.広域運営の組織
 全国規模で大電力設備を合理的に運用することを広域給電運用といい、この運営については、広域運営と略称される。このような電気事業の広域運営の主旨を踏まえ、1958年4月1日に「中央電力協議会」(The Central Electric Power Council:CEPC)が発足した。中央電力協議会の会員は、北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力株式会社、中部電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社、電源開発株式会社の10社である。
 中央電力協議会設置の目的は、「電気事業の広域運営を行い、電力需給の安定ならびに効率性向上を図る」ことにある。電気事業者である9電力会社と電源開発株式会社が、各社の自主的経営の利点を最大限に生かしながら、各社協調のもとに、技術的、経済的に最も適する電源開発、送電連系、設備運用、電力融通、給電運用を行い、広域的立場での経済効果が最大になるよう、各社の経済性を高め、電力供給の安定と、電力原価の低減を図ることでもある。
 この目的のため中央電力協議会では次の事業を行う。また、組織を図1に示す。
(1) 広域における電力需要、電源立地条件を総合的に考慮し、広域経済的見地に立った電源開発、送電連系の促進
(2) 広域における電力需給に最も適合する発送変電設備の運用による融通の促進と、不測の事態に対処し電力需給の安定を図るための電力融通の円滑化
(3) 電力需給の安定、地球環境の維持改善、効率性向上等に資する技術開発の推進
(4) 広域における資機材融通や要員応援を通じた、非常災害時の復旧支援
 広域運営のための組織は、9電力会社と電源開発(株)の10社から構成する中央電力協議会および東(北海道、東北、東京、電源開発の各社)、中(中部、北陸、関西、電源開発の各社)および西(中国、四国、九州、電源開発の各社)の3ブロックにおける地域電力協議会のもとに、諸委員会・会議が事務局として設けられている。中央電力協議会は、これらの組織の運営を通して、電気事業者の自主的経営の利点を最大限に活かしながら、各社協調の下に設備の開発と運用の促進、技術開発の推進、事故等緊急時の資材・要員の融通などを効果的に実施するための活動をしている。広域運営の組織・機関を図2に示す。
3.広域運営の利点
 電力の広域運営は、電力設備の効率的運用を行う融通と、供給力の不足を補う応援融通の両面で、電力の安定供給、燃料費節減、供給予備力の節減などに大きく貢献している。
 広域運営の利点としては、次のような点があげられる。
(1) 設備開発面では、電源開発の実施に当たり、共同開発などの広域的な開発等により、電源設備、送変電設備などについて、電気事業全体として総合経済的な開発計画ができる。
(2) 設備運用面では、供給力の過不足を解消する会社間融通、会社間での発電所の効率運営、急激な需要の変化・事故にともなう緊急応援、総合的な融通合理化、電力損失の軽減などができる。
(3) 技術開発面では、電力各社は、相互の緊密な連携をはじめとし、電力中央研究所との連携、国の機関あるいは関係各界の諸機関と協調した共同研究などによる効果的推進、および研究開発資金や研究設備などの有効活用を図ることができる。
4.広域運用の連系系統
 具体的な運用に当たっては、中央電力協議会で決定された方針に基づいてその下部組織である中央給電連絡会議で計画的事項の協議を行い、中央給電連絡指令所と地域給電連絡指令所および各電力会社とが協議して日々の運用に当たってきた。2004年6月、中間法人「電力系統利用協議会(ECSJ)」を送配電等業務支援機関として指定し、これに伴い、電力会社、新規参入者や学識経験者等が組織運営のための諸規定を整備するとともに公平・透明な手続きの下で送配電部門に係るルールの策定及び運用状況の監視等を行う仕組みの構築を行った。2005年4月、中央電力協議会の中央給電連絡機能は、この中立機関に引き継がれた。全国融通の運用は、公平性・透明性ある運用の確保の観点から、一般電気事業者からの委託にもとづき、電力系統利用協議会(図2)によりなされる。2014年(平成26年)頃における連系系統の概要を図3に示す。
 電力需要は広範囲にわたって総合するほど負荷率が良くなり、広範囲にわたって各発電所の特性を総合するほど各発電所の特性を発揮させることができる。また広域的に運営することによって、必要とされる供給予備力の保有量を各社単独で確保する場合に比べて小さくすることができる。さらに電力流通設備についても各社協調して有効に活用することによって、電力損失の軽減、設備投資の軽減がはかられる。
 こうした広域運営によって、電気事業全体としての電力コストの低減、開発資金の節減を図るなどの効果もあげていくことができる。このような見地から、世界各国とも、電気事業は各社を連系した電力系統を構成して広域的な電力圏を形成している。
 わが国では、1959年に50ヘルツ(Hz)系統(東北電力、東京電力)、また1962年に60ヘルツ(Hz)系統(中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力)の各社がそれぞれ超高圧送電線で連系され、1965年には電源開発株式会社の佐久間周波数変換所(直流周波数変換器容量30万kW)の完成により、北海道を除く50ヘルツ(Hz)系統と60ヘルツ(Hz)系統が、常時、直接に連系された。さらに1977年12月には東京電力の新信濃周波数変換所(佐久間と同容量の30万kW)が完成し、連系は一段と強化された。また、1979年には北海道と本州間に津軽海峡約40kmを海底ケーブルで結ぶ大容量直流送電線および交直変換所が完成し、運転を開始した。この完成により、北海道から九州までの本土を含む4島の電力系統はすべて送電線で連系され、設備面からも広域運営体制が一層整備された。
 現在わが国の電力系統は、図4に示すとおり北海道電力から九州電力まで全国連系されている。
5.電力融通の種類
 電力需給の安定ならびに効率性向上を図るための電力融通が各社間で行われ、これらは次に示す全国の電力各社間で契約・受給される「全国融通電力」と、電力2社間で契約・受給される「二社間融通電力」に大きく分類できる(表1)。
(1) 全国融通電力
 各社間の電力需給の不均衡緩和と、相互電力設備の合理的および効率的運用を図ることにより、広域運営を円滑に行う目的で締結された。全国融通契約書に基づいて受給される融通電力ををいう。
a)応援的な融通・・・・・需給相互応援融通電力
 ある会社が、電力設備の突発的な故障、天候の急変などによって、供給力不足を生じた時、あるいは、渇水や故障の長期化により、近い将来、そのような供給量の不足が予測される場合に、需給の不均衡を緩和するために受給される融通電力をいう。
b)ベース供給余力の有効活用を図る融通・・・・・広域相互協力融通電力
 深夜や休日の需要が少ない時の高出水などにより供給力が過剰になる場合等、低負荷時のベース供給力の余力を有効に活用するために行う融通電力をいう。
c)経済性を追求した融通・・・・・経済融通電力
 ある会社で、運転費が比較的高い発電機を運転しなければならず、他の会社で、それより安い運転費で発電でき、しかもまだ余力のある発電機がある場合には、後者が増加発電して前者に電気を送り、後者が高運転費発電機の出力を抑える。このような方法で、送受電会社の供給余力の範囲内で経済性の追求を図る融通電力をいう。
(2) 二社間融通電力
 二社間で、相互に電力設備の有効利用を図る目的で締結された二社間融通契約書に基づいて受給される融通電力をいう。
a)特定地域の需要、特定の発送電設備に関する融通・・・・・特定融通電力
 電源の広域開発に伴うもの、特定の発送電設備の広域的活用に伴う融通および特定地域の広域的活用に伴う融通および特的地域を対象に長期にわたって行う融通電力をいう。
b)電力の安定供給を図る融通・・・・・潮流調整電力
 送電線の作業停止時に他の会社から受電して供給信頼度の向上を図るなど、電力の安定供給ならびに円滑な運用を図ることを目的に系統運用上の必要により受給される融通電力をいう。
c)設備の効率的運用目的とした融通・・・・・系統運用電力
 隣接電力会社間において、相互に発送電設備を有効利用(送電ロスの減少、送変電設備の節減など)して行う融通を「系統運用電力」という。
 この融通電力は原則として、両者の受給バランスに支障を与えないように、通常同一時間帯に同一電力を他の受給地点変換することとしている。
d)運用上やむをえず受給される融通・・・・・系統融通電力
 各社とも電力系統を常時連係しているため、運用上やむをえず受給される電力をいう。
6.2005年度の広域運営
 電力の安定供給を将来にわたって確保するため、需給構造の差異など地域の特性を活かし既設設備を含め全国的な観点から広域開発、広域融通が計画されている。広域開発電源については、今後10年間に合計で約616万kWを開発する計画となっている(表1)。これら広域開発電源を含めた供給力の活用による広域融通電力(系統運用を除く)は、平成17年度521万kW、平成26年度482万kWが計画されている(表2)。
<図/表>
表1 広域開発電源
表1  広域開発電源
表2 2005年度の電力会社間融通計画
表2  2005年度の電力会社間融通計画
図1 中央電力協議会の組織
図1  中央電力協議会の組織
図2 ECSJのしくみ
図2  ECSJのしくみ
図3 2014年頃における連係系統概要
図3  2014年頃における連係系統概要
図4 全国を結ぶ送電ネットワーク
図4  全国を結ぶ送電ネットワーク

<関連タイトル>
日本の各種電源の特徴と位置付け(2002年) (01-04-01-15)
平成17年度電力供給計画 (01-09-05-22)

<参考文献>
(1) 日本電気協会(編・発行):あなたの知りたいこと−電気事業についての41の質問と答−2000年版(2000年11月30日)p.26-29,p.134-135
(2) 中央電力協議会のホームページ:「中央電力協議会とは」、「資料集(沿革、広域運営ほか)」
(3) 電気事業連合会広報部(編):図表で語るエネルギーの基礎(2000年10月)、p.24
(4) 資源エネルギー庁公益事業部(監修)、電気事業連合会統計委員会(編):電気事業の現状(2000年・平成12年版)、(社)日本電気協会(2000年12月25日)p.46-48
(5) 通商産業省資源エネルギー庁公益事業部(監修)、電気事業連合会統計委員会(編):平成12年版電気事業便覧、日本電気協会(2000年12月25日)p.2-3,p.118-121,p.350
(6) 電気事業連合会のホームページJapan Power News 「全国を結ぶ送電ネットワーク」
(7) 資源エネルギー庁:平成17年度電力供給計画の概要(平成17年3月)
(8) 電力系統利用協議会ホームページ:
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