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<概要>
 世界の燃料別需要予測では、石油が主要エネルギー源として、2020年まで年平均1.9%の伸びで着実に増加する見通しである。随伴ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)を含む石油製品の需要は、中国、インドの需要増大により、2010〜2020年頃、その供給を上回り、石油価格高騰、石油供給不安が予測されている。今後、上記需給逆転に備えると同時に地球温暖化や大気環境汚染対策の観点から、石油より埋蔵量の多い天然ガス、バイオマス、石炭で低環境負荷の液体燃料を合成し利用していく技術構築が大切になる。
 ここでは、石油代替の合成液体燃料として有望な、(1)ジメチルエーテル(2)合成灯軽油(GTL:ガスツーリキッド燃料)(3)バイオエタノール(4)バイオディーゼルなどの開発、利用に関する欧州、北米、アジア、その他地域の世界動向をまとめる。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. 欧州
 EUは、地球温暖化対策の観点から、2001年10月に発効した「再生可能エネルギー推進指令」において、2010年までに1次エネルギーで再生可能エネルギー割合を1998年の6%から倍増の12%に引き上げるという目標を設定している。再生可能エネルギーの中でも特にバイオマスの潜在力は大きいとみなされており、EUは2010年までにバイオ燃料で5.75%達成を目指す。欧州では、米国、日本と異なり、ディーゼル車が多く、欧州自動車メーカーもバイオマス燃料の開発に出資している(参考文献1)。
 上記方針を受けて、ドイツは、バイオディーゼルの導入を政策的に支援しており、ミネラルオイル税0.47ユーロ/リットル(63.9円/リットル、1ユーロ=136円で換算)が免除されている。この結果、バイオディーゼルは、石油系ディーゼル燃料よりも約0.12ユーロ/リットル安くなり、コスト競争力のある燃料となっている。
 スウェーデンでは、エネルギー製品に対して、3つの異なる燃料税、(1)エネルギー税、(2)炭素税、(3)硫黄税が課される。エネルギー税は化石燃料と電力に課税、炭素税および硫黄税は、各々、排出される二酸化炭素量、燃料中硫黄量に応じて徴収される。図1に示すように、バイオ燃料は、エネルギー税が免除、炭素税、硫黄税が課されないため、燃料コストが抑えられ、導入が促進されている。また、スウェーデンには、石油代替自動車燃料分野でEUの開発補助金、エネルギー庁の開発補助金を得た大規模施設(エタノール製造プラント、ジメチルエーテル製造プラント)が3か所、そのほか小規模施設も各地にあり、石油代替燃料の開発が進められている(参考文献1、2)。
2. 北米
 米国は、大気汚染防止、エネルギーセキュリティー確保、農業振興を狙いにバイオ燃料の開発、導入を積極的に推進している。ガソリンの10%をバイオエタノールで代替するE10燃料は、主要都市で広く販売されており、全販売ガソリンの13%がE10になっている。連邦政府は、バイオエタノールに対し0.14ドル/リットル(14.7円/リットル、1ドル=105円で換算、段階的に削減)、バイオディーゼルに対し0.27ドル/リットル(28.3円/リットル)の補助を行うと同時に、研究開発、普及に約200億円/年(2003〜2007)の予算措置を行っている。
 バイオエタノールは、トウモロコシを原料に中西部19州の84工場(建設中を含む)で約1400万キロリットル/年(2004年)生産されている。燃料生産者の約半分は、農業従事者などの原料生産者である。生産プラントは、生産コスト低減のため、大規模化が進んでいる。バイオディーゼルは、大豆油や廃食油を原料に全国の20工場(15工場建設中)で約10万キロリットル/年(2003年)生産され、バイオエタノールより量は少ないが、生産プラントは大きくなりつつある(参考文献3)。
 一方、合成灯軽油については、米国系企業のエクソンモービルやコノコフィリップスが、天然ガスコストの比較的安い中東のカタールで、天然ガスからの合成灯軽油生産商業プロジェクト(8万〜15万バレル/日)を計画中で、2009〜2011年には生産開始予定である。
 カナダでは、連邦政府が1980年代半ばからエタノールに関する研究開発を支援しており、1992年以降、連邦政府のガソリン税からはエタノールが除外されている。2003年10月にはカナダ気候変動対策プログラムの下で、1億ドルのエタノール利用拡大プログラムが発足。これは、2010年までに全ガソリンの35%に10%のエタノールを添加するという目標を支援する内容となっている(参考文献1)。
3. アジア
 現在、パーム油の世界生産量第1位と第2位が、マレーシアとインドネシアで、それぞれ1200万トン/年、800万トン/年である。パーム油は、他の植物油に比して生産量が多く、安価で増産し易く、バイオディーゼル原料として優位となっている。マレーシアは、2005年には現状比200万トン/年の増産見込みで、インドネシアも2006〜2007年には現状比100〜200万トン/年、増産する見通しである。バイオディーゼルの両国での利用は今後の課題であるが、両政府とも、パーム油を原料に国内でバイオディーゼルを製造し、輸出することに力を入れようとしている。日本は、バイオディーゼル製造技術の供与や事業ファンド支援で協力できる(参考文献4、5)。
 中国では、第10次5か年計画(2001〜2005年)にて、E10(ガソリン10%をエタノールに置換)の使用を指定した。国際原油価格の高騰を受けて、バイオエタノール混合ガソリンの使用試験が2004年から5省で始まり、2005年末までに全国に拡大される予定である。また、ジメチルエーテルについても、家庭用LPG代替向けにメタノール合成間接法により約5万トン/年生産している。数年のうちに、天然ガスや石炭から100万トン/年レベルの生産になるとの予測もある(参考文献6、7)。
4. その他
 ブラジルでは、豊富なサトウキビを原料にバイオエタノールを年間1500万キロリットル(2004年)生産し、ガソリンに混合利用している。サトウキビの価格安定化を目的に1930年代より導入し、現在、E25(エタノール25%含有ガソリン)車とエタノール100%車、混合率に関係ないフレックス燃料車の3タイプの自動車が走行している。図2に主要国のエタノール生産量を示す。2004年、ブラジルは240万キロリットルのエタノールを輸出、うち50万〜80万キロリットルが工業用と飲料用であったが、近年、燃料用で米国、欧州向けが増えている。日本市場にも輸出を考えており、2005年1月には、調査団が日本を訪問した。
 南アフリカ共和国では、サゾール(Sasol)社が石炭から、モスガス(Mossgas)社が天然ガスから合成灯軽油燃料を生産している。生産能力は、サゾールが約10万バレル/日、モスガスが約3万バレル/日である。これらの会社が生産する合成灯軽油燃料は、石油卸売各社が国内市場での販売シェアに応じて購入することが義務づけられており、油槽所あるいは末端市場において石油製品と混合利用されている。同国政府は、合成灯軽油燃料合成産業保護のため、「Floor Price」と呼ぶ参照原油価格下限値を決め、原油価格がその下限値を下回った場合、その差額をベースにサゾール、モスガス社に補助金を拠出する仕組みをとっている(参考文献8)。
<図/表>
図1 スウェーデンにおける各種燃料のコスト
図1  スウェーデンにおける各種燃料のコスト
図2 主要国のエタノール生産量
図2  主要国のエタノール生産量

<関連タイトル>
バイオマスエネルギー (01-05-01-06)
石炭の液化・ガス化 (01-05-02-02)
IEAによるスウェーデンのエネルギー政策のレビュー(2000年) (01-07-06-11)

<参考文献>
(1)NEDO海外レポート:No.879(2002.4.15)、No.948(2005.1.26)、No.951(2005.3.9)
(2)原子力図書館ホームページ:IEAによるスウェーデンのエネルギー政策のレビュー(2000年)<01-07-06-11>
(3)エネルギー経済、第31巻、第1号、p.72(2005年冬季)
(4)経済産業省:総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会第11回燃料政策小委員会資料
(5)大平竜也:合成液体燃料開発の現状と今後の展開、科学技術動向2005年5月号、p.11-21
(6)中国情報局:
(7)経済産業省:総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会第14回燃料政策小委員会資
(8)(財)日本エネルギー経済研究所:天然ガスからの液体燃料(GTL)の市場性について(2001年11月)http://eneken.ieej.or.jp/data/old/pdf/0111_03.pdf
(9)N.El Bassam:Energy Plant Species published by James & James Ltd.(1998),p.54
(10)経済産業省:総合資源エネルギー調査会、石油分科会石油部会燃料政策小委員会、第二次中間報告骨子(案)
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