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<概要>
 原油回収率の向上のため増進回収技術の研究開発が進められており、この技術を採用すると回収率を50%以上に向上させることが可能である。
 近年、石油に匹敵する埋蔵量をもつ石油系の未利用資源としてオイルサンドオイルシェールが注目を浴びており、それぞれその回収について技術開発が行われている。
 石油産業は、石油の新規需要の開拓、新技術の開発、新製品の創出などにより、高付加価値型・高効率型産業へ脱皮することが必要とされている。このため石油産業活性化センターを中心に、石油製品高度化利用、石油製品高品質化、未利用資源利用効率化などの技術開発テーマに取り組んでいる。具体的技術開発テーマとして、石油系コージェネレーション・システム、石油系燃料電池システム、低窒素化等の高品質化技術などがある。
<更新年月>
2006年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 石油産業の生産技術および利用技術の開発は原油の採取技術の開発による原油の回収率の向上と石油製品の高度化利用、石油製品高品質化、未利用資源利用効率化のための原油の精製技術の開発がある。
1.原油の回収率向上のための技術開発等
 石油資源の場合には金属資源と異なり、地下に埋蔵する石油を流体力学的に採掘するために、その全量を取り出すことは困難である 常自噴およびポンピングによる原油の回収法(1次回収)は、原始埋蔵量の10−25%程度とされており、油層に水またはガスを圧入して油層圧を維持する回収法(2次回収)でも回収率は30−40%程度である。この回収率をさらに向上させるために増進回収技術(EOR:Enhanced Oil Recovery)の確立により、回収率を40%〜60%以上に向上させることが可能とされている。近年石油に匹敵する埋蔵量をもつ石油系の未利用資源として注目を浴びているのがオイルサンドとオイルシェールであり、それぞれその回収についても技術開発が行われている。
(1)増進(Enhanced Oil Recovery:石油の回収率向上を目指すこと)回収法(EOR)
 EORには水蒸気を圧入したり、地下で原油を燃焼させることにより熱を供給する熱攻法、炭酸ガスや高圧天然ガスを圧入するガス攻法、界面活性剤等の薬品を圧入するケミカル攻法などがある。これらの方法は米国を中心にして技術開発が進められているが、商業ベースで成功を収めているEORはおもに熱攻法であり、次いでガス攻法である。他の攻法はフィールド・テストの段階である。現在のEORは一般にコスト高であるので今後より一層の研究開発を推進し、実用化を図る必要がある。
(2)オイルサンド
 一般にAPI(American Petroleum Institute:アメリカ石油協会)比重(APIが定めた比重)20以下の重質石油資源は、広義のヘビーオイルと呼ばれており、いわゆるオイルサンドもこの中に含まれる。オイルサンドはカナダとベネズエラの両国で世界の原始埋蔵量の90%以上を占める。
 オイルサンドは、多くの場合従来の採掘法では回収が不可能であり、水蒸気圧入法等油層内回収技術により油分を回収する。一方表面が薄い場合には露天掘りで採掘し得るが、そうした好条件での賦存は限定されている。現在、オイルサンドの商業生産はカナダのアルバータ州の種々の条件の恵まれた地点における5プロジェクト(露天掘り法2、油層内回収法3)で行われている。
 オイルサンドは資源量が豊富なため、今後経済性のある回収技術の開発が進めば供給量の増大が期待される。2003年におけるカナダの生産量は89万バレル/日であり、原油生産量の約40%を占めている。
(3)オイルシェール
 オイルシェールとは、藻類等が長い年月の間に分解されてできた不溶性有機物(ケロジェマン)に富む堆積岩(油母頁岩)であり、その主要な賦存地域は、米国、ブラジル、エストニア、モロッコ、中国、オーストラリア等である。
 オイルシェールからシェールオイルを生産する方法としては、掘り出したオイルシェール鉱石を地上で乾留して、シェールオイル(粗原油)を生産、精製する方法(地上乾留法)と地下の鉱床内でそのまま熱分離し、採取井から粗原油として地表に取り出し、精製する方法(地下乾留法)とがある。
 地下乾留法は、いまだ研究段階ではあるが、地上乾留法については石油危機以降各国で有力な石油資源の一つとして注目され、企業化が検討されており、各国でプラントの稼働・試運転・建設を行っている。しかし、オイルシェールは含有率が5−20%と低いため、大量の鉱石処理が必要で、効率的鉱石処理技術開発、廃鉱石の処分問題等の解決のため、一層の研究開発が必要である。
2.原油の精製技術等の開発
 石油産業は、内外の厳しい経営環境を克服し、長期的な展望に立った技術開発に挑戦して活性化していくことを強く求められている。
 このため1986年に設立された(財)石油産業活性化センター(PEC)を中心として、石油製品高度化利用、石油製品高品質化、未利用資源利用効率化などの技術開発課題に取り組んでいる。表1に2004年末現在PECで行われている技術開発関連事業を示す。
(1)石油製品のより効率的な利用のための技術開発。
a.石油系コージェネレーション・システムの技術開発
 効率の高い省エネルギー型新利用技術コージェネレーション・システムは有力な手段である。コージェネレーション・システムは、需要地に近いところに発電施設を設置できるため、発電所からの送電によるロスがなく、また、発電を行うとともに発電に伴う冷却水、排ガス等の廃熱を有効に回収利用するため、電気需要と熱需要の適切な組み合わせができる場合には、総合エネルギー効率は70%〜80%に達し、省エネルギーに大きく寄与する。しかし、電気と熱の消費のバランスが悪い場合には、逆に効率が低下してしまうこともある。
 コージェネレーションシステム(CGS)は、病院、ホテル等、電気・熱需要の多い施設に適している。また、天然ガスを燃料とした場合には、石油に比べて環境負荷が少ない。
 わが国において導入されたコージェネレーションは、2005年3月末(見込みを含む)で、。6,139件で10,475台、合計7,994MWが稼動している。これは日本全体の電力発電設備の約3%を占める。近年、400〜450MW/年の導入が行われている。図1にコージェネレーションシステムの年度別導入実績、図2に民生用でのコージェネレーション導入実績、図3に産業用でのコージェネレーション導入実績をそれぞれ示す。
b.石油系燃料電池システムの開発。
 次世代コージェネレーション用発電装置として、燃料電池は効率性、低公害性の面で他の手段より優れており、大きな期待が寄せられている。
 このため石油留分を原料とする燃料電池の開発を目的として、主として、ナフサや灯油を用いてこれから水素を製造するための高活性、高耐性、超寿命性の新触媒の開発を行い、石油系ガスに適合した高効率の燃料電池システムの確立をめざしている(表2)。
c.重質石油留分の燃焼技術の開発
 石油産業では、石油製品需要の中、軽質化傾向に対応して、重質油分解装置等の高度化設備の増設を行っている。しかしこれらの装置から副生する重質石油留分の新たな需要開拓が迫られている。
 このためこれらの重質石油留分の有効利用を図るため、新型バーナー等の開発を行い、低公害でかつ効率的な燃焼技術並びに最適燃焼制御システムの開発をめざしている。
(2)石油製品の高品質化のための技術開発
a.低窒素化等の高品質化技術の開発
 石油産業では各種の分解装置等高度化設備の導入により、需要の軽質化傾向に対処しようとしている。ところが、これらの装置から副生される分解軽油などはその品質的制約から必ずしも直ちに有効活用ができるような状況になっていない。そのため、分解用および後処理用の新触媒を開発し、これに適合した新プロセスの開発を行おうとしている。
b.高精度反応制御システムによる高品質化技術の開発。
 石油製品の高品質化のためには、新触媒、新プロセスの導入だけでは不十分である。反応、分離、精製等の各工程において、高精度に制御する技術もまた重要な一つとなる。
 このためまだ実用段階にいたっていない各種センサーの応用について研究し、各工程での温度、成分、圧力、流速、振動等の情報が迅速、高精度、広範に得られる計装システムを確立しようとしている。また、蒸留装置等の運転支援や最適生産計画等に人工知能( AI : Artificial Intelligence)やエキスパート・システムを適用するため、石油産業では、初めての共同研究を行っている。
c.高性能耐腐食反応装置による高品質化技術の開発
 石油精製技術は、熱、腐食、磨耗との絶えざる戦いである。各装置への加温加熱、各種触媒粒子、硫黄酸化物、塩化水素等によって受ける磨耗や腐食に対して耐久性のある反応器が必要となり、現在、特殊金属材料、コンクリートライニング等を利用しているが、新たなプロセスや技術を導入するためには、これらの材料では不十分である。
 このため高品質石油製品の製造に不可欠な高性能の耐腐食性、耐磨耗性材料の経済的製造方法を検討し、石油精製設備の耐久性の向上に役立つ材料の応用技術の確立を行おうとしている。
d.その他
 「製油所における未活用資源の有効かつ効率的な利用のための技術開発」としては
a)製油所オフガスの有効利用技術の開発、
b)製油所廃熱の有効利用技術の開発、
c)ピッチ油の有効利用技術の開発、などがある。
<図/表>
表1 石油産業活性化センターによる技術開発事業
表1  石油産業活性化センターによる技術開発事業
表2 燃料電池の分類と特徴
表2  燃料電池の分類と特徴
図1 コージェネレーションシステムの年度別導入実績
図1  コージェネレーションシステムの年度別導入実績
図2 民生用でのコージェネレーション導入実績
図2  民生用でのコージェネレーション導入実績
図3 産業用でのコージェネレーション導入実績
図3  産業用でのコージェネレーション導入実績

<関連タイトル>
燃料電池発電技術の研究開発 (01-05-02-09)
日本の短期、中期の石油供給計画(1999〜2003年度) (01-09-03-03)

<参考文献>
(1) 資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2005−2006資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2005年4月)、p.326−366
(2) 資源エネルギー庁(編):エネルギー2004、(株)エネルギーフォーラム(2004年1月)
(3) 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット(編):2006エネルギー・経済統計要覧、(財)省エネルギーセンター(2006年2月)
(4) 日本コージェネレーションセンター:http://www.cgc-japan.com/
(5) エネルギー活用辞典編集委員会(編):エネルギー活用辞典、(株)産業調査会辞典出版センター(1999年6月)、p.252-256
(6) 日石三菱株式会社(編):石油便覧 2000、株式会社燃料油脂新聞社(2000年3月)
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