<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の二次エネルギー
<小項目> 電力
<タイトル>
PWRの燃料リサイクルコスト(1994年OECD/NEAの試算) (01-04-01-06)

<概要>
 原子力発電のコストのうち、燃料サイクルコスト(Nuclear Fuel Cycle Cost)と呼ばれる部分について、経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)が1994年に発表した調査研究の結果の要点を紹介する。コスト見積りの対象とされたのはフランスの加圧水型原子炉PWR)である。再処理オプションと直接処分オプションの両者が検討され、前者が6.23ミル/kWh、後者が5.46ミル/kWhという結果になった。両者に共通するフロントエンド部分のコスト4.70ミル/kWhが主要部分となるので、両オプションの差0.77ミル/kWhは小さく、燃料サイクル政策を決定する要因にはならないと結論されている。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)は、原子力発電のコストの予測に係る一連の調査研究を行って結果を公表している(文献1〜4)。特にそのうちの燃料サイクルコスト(略して燃料費)の部分については、それだけをテーマとして掲げた詳細な調査研究を、1985年発表のもの(文献5)と、1994年発表のもの(文献6)の2回行っている。このうちの後者の全訳文が日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)によって、同年10月(文献7)と11月(文献8)の2回にわけて出版された。ここでは、文献7から、多くの人が関心を持て、理解もし易いと思われる主要部分を抜粋して、分かり易いように再編成して紹介する。(文献8は文献6の付録部分の訳であり、内容が専門的に過ぎるので、ここでは紹介を省略する。)
 原文献6は、国際的な専門家グループによって検討・作成されたもので、題名は「原子燃料サイクルの経済性」となっているが、燃料費の予測の直接の対象とされたのが、2.に後述されるように、フランス型の加圧水型原子炉(PWR)であるので、ここではタイトルを「PWRの燃料サイクルコスト」とした。PWRが対象に選ばれたのは、世界的にみてPWRが最も普及していて、各国からの専門家グループを組織し易いためと、前回の調査研究(文献5)との比較の便のためであろうが、出力規模、運転開始時期、耐用年数等が同様な沸騰水型原子炉BWR)でも同じような燃料費になると、経験上から考えられると記されている。
2.対象炉型と一般的計算条件
 今回OECDが検討対象としたものは、熱出力402万kW、電気出力139万kWのフランス製N4型PWRで、燃料交換は年毎の4バッチ交換、平均燃焼度は42,500MWd/tとしている。2000年に運転を開始し、平均設備利用率75%で30年間運転されると想定し、リードタイム・ラグタイムを含めた全年数にわたってかかる燃料サイクル上の全コストを内容別にそれぞれ然るべき時点に割り付けた後に、その前後時間差による実効的な負担度の違いを、現在価値換算率(略して割引率)を用いて換算補正する平準化燃料サイクルコスト算出法によって求める。この時の割引率は5%/年を標準とする。
 燃料サイクル上の諸コストは、燃料を炉に装荷する前(フロントエンドという)にかかるものと、燃料を炉から取り出した後(バックエンドという)にかかるものとがあり、燃料費もこの両エンド部分に分けて算出した後に加算する方式をとる。そのようにする一つの理由は、バックエンドにおいて使用済燃料を再処理するオプションと、直接処分するオプションの2通りを考察し、(この時フロントエンド・コストは共通とする。)両オプションの比較を行うことを、燃料費の絶対値の算出と併せて、今回の検討の目的としている。ためである。
 再処理オプション、直接処分オプションともに、原子力発電所からの使用済燃料の輸送時期とその後のプロセスについては、 図1 に示されている。使用済燃料の輸送時の単価については、BNFL,COGEMAとSKBがまとめたコスト評価と年5%の参考割引率に基づいて導き出されている。
3.フロントエンド・コスト
 フロントエンドに係る各種の物的な量は、初装荷炉心から平衡サイクル炉心に至る迄、各燃料交換毎に細かく見積もられているが、大方に興味のある理解し易い平衡サイクルについて述べれば、3.60%濃縮ウラン28.0トンが、0.798実効全出力年(以下「EFPY」と呼ぶ)毎に装荷されるというモデルになっている。濃縮プラントでのテイル劣化ウランは0.25%と仮定されているので、この28.0トンの濃縮ウランを作るのに必要な天然ウランの量は203.5トン、分離作業量は140.4トン SWUとなる。これらの量が主要な要因となるが、フロントエンド・コストの算出に当たっては、濃縮度のやや低い初装荷分、及び平衡サイクルに至る迄の過渡的な装荷分も詳細に計算に取り込まれる。
 装荷用濃縮ウランを作るために必要なプロセス(したがってコスト項目)には、天然ウランの購入と濃縮(分離作業)のほかに、転換と燃料加工があり、以上計4項目のコストの和としてフロントエンド・コストが定まる。これら4項目に対して計算で用いられた標準単価と、炉への装荷前に必要とされたリードタイムを 表1 に示す。
 以上を用いて計算されたフロントエンド・コストを 表2 に示すが、4項目の合計として4.70ミル/kWhとなり、構成比は、分離作業39%、天然ウラン35%の両者が大きく、燃料加工21%、転換5%となっている。なお注意すべき点は、天然ウランの単価だけは年々上がる(1.2%/年)と仮定されたことで、上記の天然ウラン費分35%は、これによる原子炉耐用年数期間中のコスト上昇を取り入れた結果の全年数に対する平準化コストによるものである。一方、分離作業や燃料加工の単価の技術進歩による低下傾向は、以上の標準ケース計算では取り入れられていない。
4.バックエンド・コスト(再処理オプション)
 バックエンドについては、使用済燃料を再処理するとした場合と、直接処分するとした場合の2通りのコストが算出されている(この場合、フロントエンド・コストは3.に記した値が両者に共通とされる)。PWR再処理オプションの物性フローを 図2 に示す。
 やはり分かり易い平衡サイクルについて述べれば、0.798EFPY毎に炉から取り出される使用済燃料は、0.81%に下がったウランが26.4トンと、322kgのプルトニウム(Pu、うち核分裂性のものPufは218kg)、及び1.27トンの核分裂生成物から成る。この回収ウランとPufは相応の価値があるものとして、再処理後は負のコスト項目(これを「クレジット」と呼ぶ)に計上される。核分裂生成物は、高レベルのものはガラス固化され、中・低レベルのものは放射性廃棄物として処分される。これらにより再処理オプションのバックエンド・コストは、使用済燃料輸送、再処理、高レベル廃棄物処分、回収ウラン・クレジット、Puクレジットの5項目となる。このうち再処理費は・中・低レベル廃棄物の処分費、高レベル廃棄物のガラス固化費及びその最終処分場へ運ぶ以前の貯蔵費を含むものとされる。以上の5つのコスト項目に対して計算で用いられた標準単価と、炉から取り出した時点から、各コスト計上時点迄のラグタイムを 表3 に示す。高レベル・ガラス固化体の最終処分は、燃料取り出しの56年後とされるので、2000年に運転開始と仮定された今回のコスト解析における最終の支出は2085年に起こるものとされる。
 バックエンド・コストにおいても平衡サイクルの取り出し燃料以外に初装荷分等の取出し燃料、及び炉の耐用年数経過時点(2029年)に一時に取り出されるとされる廃炉心取出し燃料もすべて含めて詳細に計算に取り込まれる。こうして計算されたバックエンド・コスト(再処理オプション)を 表4 に示すが、5項目の和として1.53ミル/kWhとなり、構成比は、再処理109%、使用済燃料輸送7%、高レベル廃棄物処分1%、回収ウラン・クレジット−12%、Puクレジット−5%となっている。すなわち再処理費が最も大きく、後でクレジット収入が入るため見かけ上100%を超える型になる。クレジット収入も表4に示したように、今回の標準単価をとる限り無視できない大きさ(回収ウランとプルトニウムの両者計で0.26ミル/kWh)となる。このことは回収U及びPuのリサイクル利用が上手に図られなければならないことを示唆している。
5.バックエンド・コスト(直接処分オプション)
 使用済燃料を直接処分するオプションでは、原子力発電所内の使用済燃料プールで5年間冷却された後、中間貯蔵施設へ輸送され、そこで35年間貯蔵されてから、解体と容器への封入を経て最終処分場へ搬入されるというモデルになっている。従って、この場合、最終処分場への搬入時点で処分費が支出されるとするので、今回のコスト解析では最終の支出が起こるのは2069年ということになる。これは再処理オプションの全タイムスパンより16年短い。PWR直接処分オプションの物性フローを 図3 に示す。
 直接処分オプションのコスト項目は、使用済燃料の輸送費を含めた中間貯蔵費と、解体・封入費を含めた最終処分費の2つだけに整理され、その標準単価は、上記ラグタイムを含めて 表5 に示す値とされた。この標準単価は、スウェーデンの試算をもとにきめられたといわれるが、ラグタイム等も含めて、直接処分の可能性のある国ごとに、かなりの見積もり差があるとされる。
 直接処分オプションにおいても、平衡サイクルの取出し燃料だけでなく、初装荷分の取出し燃料及び廃炉心取出し燃料も含めてバックエンド・コストが計算されるが、結果は 表6 に示すように0.76ミル/kWhとなり、構成比は、輸送を含めた中間貯蔵費が67%、解体・封入を含めた最終処分費が33%となった。しかし、これらの数値は、上述のように見積もりの確度が再処理オプションより低いのではないかと推測される。
6.燃料サイクルコスト全体とオプションの比較
 上述したように、燃料サイクルコスト全体は、3.に記したフロントエンド・コストを共通にして、4.又は5.に記したバックエンド・コストに加算するので、再処理オプションでは6.23ミル/kWh、直接処分オプションでは5.46ミル/kWhとなった。これを、コスト全体に対する各項目の構成比と併せて、改めて 表7 に示す。
 バックエンドにおける両オプションの差は0.77ミル/kWhで、直接処分オプションの方が安いと出たが、この差は燃料サイクルコスト全体の10%に満たず、不確定な部分が多いこと、燃料サイクルコストは全発電コストの10〜30%程度にすぎないことを考慮すれば、全発電コストにおける差は無視してもよいくらいのものといえる。すなわち、燃料サイクル政策を決定する上で、より重要となるのは、炉型を含むエネルギー戦略、環境評価、パブリック・アクセプタンスなどの問題ということになるであろう。
7.あとがき
 今回のOECDの調査研究では、上記した標準単価を用いたコスト値以外に、各単価等に変動巾をつけて感度解析も行っている。その詳細は専門的にすぎるが、結果として、最大変動巾の下でも(両オプションを含めて)燃料サイクルコストが4.3〜7.1ミル/kWhの範囲を逸脱することは殆ど考えられないと記されていることを付記する。
<図/表>
表1 フロントエンド・コストに係る項目の標準単価とリードタイム
表2 フロントエンド・コスト見積り結果
表3 バックエンド・コスト(再処理オプション)に係る項目の標準単価とラグタイム
表4 バックエンド・コスト(再処理オプション)見積り結果
表5 バックエンド・コスト(直接処分オプション)に係る項目の標準単価とラグタイム
表6 バックエンド・コスト(直接処分オプション)見積り結果
表7 PWRの燃料サイクルコスト総括表
図1 再処理オプション・直接処分オプションの双方における原子力発電所からの使用済燃料の輸送時期とその後のプロセス
図2 PWR再処理オプションの物質フロー
図3 PWR直接処分オプションの物質フロー

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<参考文献>
(1)OECD/NEA:The Costs of Generating Eectricity in Nuclear and Coal-Fired Power Stations,OECD(1983)
(2)OECD/NEA:Projected Costs of Generating Electricity from Nuclear and Coal- Fired Power Stations for Commissioning in 1995,OECD(1986)
(3)OECD/NEA-IEA : Projected Costs of Generating Electricity from Power Stationsfor Commissioning in the Period 1995-2000,OECD(1989)
(4)OECD/NEA-IEA : Projected Costs of Generating Electricity : 1992 Update,OECD(1993)
(5)OECD/NEA : The Economics of the Nuclear Fuel Cycle,OECD(1985)
(6)OECD/NEA : The Economics of the Nuclear Fuel Cycle,OECD(1994)
(7)日本原子力産業会議:原子燃料サイクルの経済性(1)、原子力資料 第282号、日本原子力産業会議 (1994年10月)
(8)日本原子力産業会議:原子燃料サイクルの経済性(2)、原子力資料 第283号、日本原子力産業会議 (1994年11月)
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