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電気事業を取り巻く環境は、電力小売り市場への部分自由化導入に伴う市場獲得競争の開始に加え、長引く景気の低迷により販売電力量の伸びが鈍化するなど、非常に厳しい状況にある。
長期的な電力需要をみると、2009年度の販売電力量は9723億kWh、8月の
最大電力は2億327万kWとなり、1998年度から2009年度までの年平均伸び率(気温補正後)予想は、それぞれ1.9%、1.7%と昨年度計画に続き2%を下回った。こうした需要想定に基づいての今後10年間の他社受電分を含む10社計の電源開発量は5263万kWで、その内訳は原子力1263万kW(24%)、水力580万kW(11%)、石炭火力1984万kW(38%)、LNG火力1206万kW(23%)などである(
表1 参照)。このうち卸供給事業者からの入札電源については、1996年度から1999年度までの契約分約673万kWが計上されている。現在、電源開発調整審議会(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会)(以下電調審)で決定済みのものは、6123万kWであり、これだけでは供給が不足するため、2000年度に1092万kWの電源を新規上程する計画である(
表2 参照)。
2000年度に電調審上程を計画されている原子力は、北海道電力・泊3号(出力91.2万kW)、東京電力・福島第一7号(出力138万kW)、福島第一8号(138万kW)、中国電力・上関1号(137.3万kW)、上関2号(137.3万kW)、島根3号(137.3万kW)、日本
原子力発電・敦賀3号(153.8万kW)、敦賀4号(153.8万kW)の8基、1086.7万kWである。
電力各社の供給計画が実現した場合の他社受電分を含む10社合計の電源設備構成比は、1999年度から2009年度にかけて、石炭火力は11%から16%に大幅に増加、原子力が20%から21%に微増、LNGが25%の横ばいとなる。一方、水力は20%から18%に、石油は22%から18%へ低下し、電力を安定して経済的に供給する電源多様化を着実に進める計画となっている(
図1 参照)。
ただし、東海村臨界事故などの影響で、原子力の電源開発が計画通り実現できない場合には、2009年度までの8月最大需給バランスは必要供給予備力を確保できず、電力の安定供給にブレーキがかかることになる。なお、本章は(電力10社の平成12年度供給計画、エネルギー(参考文献3))の内容を抜粋し、まとめたものである。
電力各社の供給計画の概要を以下に記す。
(1)北海道電力
北海道の経済は、依然、厳しい雇用情勢が続き、設備投資も減少基調にある。先行きの不透明感は否定できないが、好調な家電販売など個人消費の一部に改善の動きがあり、公共工事も順調に推移、景気回復に向けた動きをみせている。こうした経済情勢のなか、利便性・快適性・安全性などに優れた電力の需要は増加しており、今後も民生用を中心に堅調な伸びが見込まれている。
2000度以降の販売電力量は民生用を中心に堅調な伸びが見込まれることから、12月最大電力は1998年度から2009年度までの年平均伸び率で1.9%と想定している。
電源開発計画をみてみると、原子力発電の泊3号機については、開発工程に多少の遅れがあるものの、2008年度の供給力を確保する観点から、2008年12月の運転開始を目指している。
(2)東北電力
電力小売市場の部分自由化によって本格的な競争時代を迎えたことに加え、地球温暖化問題や技術革新の進展・普及など電力市場の構造変化への対応が求められることから、電気事業の環境変化を視野に入れた、より柔軟な設備形成を目指している。
供給計画の前提となる需要想定では、1998年度から2009年度までの販売電力量の年平均増加率を1.7%と予想している。
電源開発については、
エネルギーセキュリティと温室効果ガス排出抑制の観点から、環境負荷特性に優れた原子力発電の開発に積極的に取り組む方針である。建設中の女川3号機(出力82.5万kW)、東通1号機(110万kW)と
ABWRを導入する東通2号機(138.5万kW)は昨年度計画同様、それぞれ2002年1月、2005年7月、2011年度以降の運転開始とした。しかし、2012年度運転開始の巻1号機(82.5万kW)は4年、2011年度運転開始の浪江・小高(同)は1年繰り延べした。2009年度までの
電源構成比は
図2 の様になると想定している。
(3)東京電力
電力小売り自由化のもとで競争に勝ち抜いていくために、経営効率化を加速させ、経営体質のさらなる強化、収益力の向上をめざしている。
また、長期的には、最大限の営業努力により離脱需要が発生しないことを前提として、1998〜2009年度までの販売電力量ならびに最大電力の年平均増加率は1.9%になると想定している。
電源開発計画は、安定供給とエネルギーセキュリティの確保を基本に、電源および流通を総合した経済性、運用性、CO
2問題への対応も含めた環境適合性などに配慮しつつ、原子力を中核とした電源の
ベストミックスを着実に推進する。各種電源の特性を踏まえて、2000〜2009年度までの10年間に、他社受電を含めて、原子力323万kW、火力1014万kW、水力285万kW、合計1622万kWの電源増強を計画している(
表3 参照)。電源設備は、1999年末の6928万kWから2009年度末には1622万kW増の8550万kWに、2009年度末電源設備構成比は原子力25%、火力54%、水力19%、その他2%になると想定している。
(4)中部電力
国内の景気低迷によって電力需要の伸びが見込めないと判断し、2000、2001年度の設備投資を平均5000億円を下回る水準とし、それを自己資金の範囲内で賄う計画である。効率化努力と、発電所や流通設備の新設計画の繰り延べなどで、当年度の設備投資を昨年度に策定した計画に比べて652億円削減し4990億円に抑制する。
需要想定は、家庭用や業務用を中心とした非自由化部門では安定した需要の仲びが見込めるものの、自由化部門の特定規模需要は低い伸びを見込んでいることにより、2009年度までの気温補正後の年平均伸び率は1.9%と2008年度までの昨年度に比べて0.1ポイント下方修正した。
電源開発計画は、供給力の安定確保、電源多様化の方針のもと、2000年度から2009年度の10年間で、他社(上越共同火力、日本原子力発電など)開発による受電分を合わせて合計878万kWの電源開発を推進する。ただ、電源開発にあたっては、電力の安定供給に努めつつ、より一層の効率化を進めるため、今後の需要想定に合わせて一部電源計画の繰り延べや発電プラントの運転休止を実施する。原子力は電源多様化の柱であり、地球環境保全のもっとも有効な手段として最優先に開発を進める。2009年度までの電源構成比を
表4 の様になると想定している。
(5)北陸電力
2009年度の販売電力量は301億kWhで、1998年度から2009年度までの年平均増加率は2.1%(気温補正後で2.1%)、また2009年度の最大電力は613万kWで、1998年度から2009年度までの年平均増加率は2.5%(気温補正後で1.8%)を見込んでいる。
電源開発では、長期にわたる電力の安定供給を図るため、地球環境問題を配慮し、原子力、高効率石炭火力などバランスのとれた供給力構成を目指し、地域から信頼される発電所づくりを推進する。原子力では、建設工事中の志賀原子力発電所2号機(改良型
BWR 135万5000kW)は、2006年3月の運転開始を目指す。珠洲原子力地点については、中地域3社による協調体制のもと、引き続き地元合意形成に努める(
表5 参照)。電力量構成比は、平成1999年度(推定実績)の水力25%、火力59%(石油13%、石炭46%)、原子力16%から、2009年度には志賀原子力発電所2号機の運転開始により、水力21%、火力36%(石油6%、石炭30%)、原子力43%になると見込まれ、水力、原子力の比率が60%を超えるクリーンな電源構成になる。
(6)関西電力
電力の本格自由化のなかで厳しい経営環境に突入し、2000年度の設備投資は1999年度実績の見込みより404億円(7%)少ない5678億円、昨年度に策定した計画に比べると1203憶円(17%)もの削減となった。
供給計画の前提となる需要見通しについては、民生用分野を中心に緩やかな増加基調で推移していくだろうとみている。こうしたことを踏まえ、販売電力量は1998年度から2009年度までの平均伸び率(気温影響補正後)1.7%と予測、2009年度での需要は1647億kWh(1999年度推定実績1396憶kWh)になるだろうとした。また、最大電力は蓄熱調整契約や深夜電力の加入拡大など負荷平準化対策の効果もあり、緩やかに上昇することが見込まれ、その結呆、1998〜2009年度の平均伸び率(同)は1.4%と販売電力量を下回るだろうと想定した。
電源開発では、原子力について「エネルギー資源の安定性ならびに経済性・環境特性などの面で優れていることから電源開発の基軸として最優先に取り組む」とし、新規開発地点の確保に向けて、地元との合意に努めるとしている(
表6 参照)。この結果、2009年度での発電電力量の主要構成比は原子力44%(1999年度51%)、石炭火力17%(同2%)、LNG火力19%(同24%)、一般水力10%(同9%)などとなる。
(7)中国電力
計画策定の前提となる電力需要想定は、まず生活関連で経済のサービス化の進展や、生活水準の向上などによって着実な増加が見込まれる一方、産業用では素材生産の低成長などを反映して低めの伸びにとどまると予測した。この結果、10年後の2009年度の販売電力量は628億kWh、1998年度から2009年度までの平均伸び率は1.8%(気温補正後1.9%)とした。最大需要電力は2009年度で1301万kW、1998年度から2009年度までの平均伸び率は1.7%(気温補正後1.7%)と想定した。
電源開発では、まず新規の原子力の早期開発を目指して最大限の努力を傾注している(
表7 参照)。開発が計画通りに進めば、供給予備率は2000年度から2009年度にかけて8.6〜12.8%となり、中長期的にも安定した供給力を確保できる。また他社融通を含む発電電力量構成は、1999年度の水力7%、石炭火力43%、ガス火力21%、石油火力12%、原子力17%から、2009年度には水力7%、石炭火力49%、ガス火力18%、石油火力12%、原子力14%となる。
(8)四国電力
需要想定は、1998年度の販売電力量が245億9500万kWh(実績)、1999年度が249億700万kWh(推定)で、2009年度断面では297億5300万kWhと想定している。1998年度から2009年度までの年平均伸び率は1.9%(気温補正後)とみている。最大電力は1998年度が551万5000kW(実績)、1999年度が498万3000kW(推定)で、2009年度は622万kWと予測、1998年度から2009年度までの年平均伸び率を1.6%(気温補正後)とみている。
電源開発計画では、電源設備構成は原子力が1999年度の28%から2009年度には24%に、水力が20%から17%に低下する一方、火力は52%から59%になる。発受電電力量構成比は原子力が44%から38%となり4割を切るとともに、水力は11%から10%になる。これに対し火力は45%から52%と、5割を超えることになる。
(9)九州電力
需要想定は、1998年度の販売電力量が720億kWh(実績)、1999年度が729億kWh(推定)で、2009年度断面で865億kWhと想定、1998年度から2009年度までの年平均伸び率を1.7%とみている。最大電力は1998年度が1570万kW(実績)、1999年度が1442万kWで、2009年度は1860万kWと予測。1998年度から2009年度までの年平均伸び率を1.6%とした。
電源開発計画では、供給の安定性、経済性、地球環境問題への対応などを総合的に勘案して、原子力を中核として石炭火力、LNG(
液化天然ガス)火力開発などバランスのとれた電源の多様化を推進する。具体的には原子力は、安定性、経済性、環境特性に優れた電源として、今後も引き続き推進していく。火力は燃料の多様化の観点から石炭火力、LNG火力の開発を進める。このほか、既設の燃料電池発電を含めた新エネルギー全体では2004年度までに3655kWの導入を図る計画である。この結果、供給予備率は1999年度の26.8%から2009年度には10.4%となるものの、予備率としては十分な供給力を確保することになる。電源設備構成比は原子力が1999年度の25%から2009年度には22%、LNG火力が22%から18%に。石油火力が25%から21%に低下する半面、石炭火力は14%から21%に、水力も13%から17%に増える。地熱は1%。発受電電力量は原子力が1999年度の46%から2009年度には37%となり4割を切る一方で、石炭火力は17%から29%と3割近くに達する見通し。このほか水力は8%から7%、LNG火力は19%から17%になる。地熱は2%、石油火力は8%のままで変わらない。
(10)沖縄電力
需要想定は、2000年度の電力需要は、民生用では家庭用電灯の伸びによる需要増、業務用電力では観光客数の増加、産業用では石油業と水道業の需要増が見込まれるため、前年度を若干上回ることが予想される。しかし高気温で需要が増加した1998年度実績を上回ることはできないと予想される。また、長期にわたる電力需要は、電灯や業務用電力などの民生用需要を中心に需要数の安定した伸びが予想されるが、省エネルギーのさらなる進展を見込み、伸び率は前回より若干鈍化すると想定した。
こうしたことから、2000年度の販売電力量は65億6000万kWhで前年比0.6%(気温うるう補正後2.3%)増、最大電力は138万5000kWで対前年比4.8%(気温うるう補正後4.4%)増を想定した。
2009年度の販売電力量は83億7100万kWh、最大電力は174万7000kWで、1998年度から2009年度に至る年平均伸び率は、販売電力量で2.2%(気温うるう補正後2.7%)、最大電力で2.5%(気温うるう補正後2.7%)と見込んでいる。
2009年度までの電源開発計画によって、必要供給予備力を確保しつつ、安定した電力供給が確保できる。2009年度の最大電力174万7000kWに対し供給力は202万2000kWで、供給予備率は15.7%と想定した。電源の年度末設備構成比は、1999年度から2009年度にかけ、石炭火力が36%から47%に増加する一方、石油火力が64%から53%に砥下する。発電電力量構成比についても、石炭火力が60%から72%に増加する一方、石油火力は40%から28%に低下し、脱石油化が著しく進展する。
<図/表>
<関連タイトル>
平成12年度電力供給計画 (01-09-05-16)
<参考文献>
(1) 資源エネルギー庁:平成12年度電力供給計画の概要(2000年3月)
(2) 日刊電気通信社:電力開発計画新鑑 平成12年度版、日刊電気通信社(2000年10月)、p.49-78
(3) (株)日工フォーラム:電力10社の平成12年度供給計画、エネルギー、33(6),p.119-141(2000年6月)