<本文>
1. はじめに
イスラエルは中東パレスチナに位置し、2.2万km
2、日本の四国程度の国土面積を有する。1947年国連総会はパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分裂する決議を採択し、1948年にユダヤ民族の悲願であったイスラエル建国を果たした。以来、イスラエル経済は、自国の安全確保のため、過重な軍事支出を負担している。また、米国からの軍事・民事双方の援助は(1999年以降、米の経済援助は毎年1.2億ドルずつ減額され、10年後以降は増額された軍事援助のみの予定)、イスラエルの存続とともにその経済発展に重要な役割を果たした。イスラエルはエネルギー・鉱物資源には恵まれていないが、高度な技術力を背景にハイテク・情報通信分野およびダイヤモンド産業を中心に、経済は輸出重視の産業構造を有する。
欧米諸国と良好な関係を維持する一方、イスラエルは建国の経緯、宗教、エネルギー資源の争奪に関わる領有問題等、周辺アラブ諸国と4度にわたる中東戦争(1948年〜1973年)を経験したほか、常時不安定な政治情勢を抱える。
2. エネルギー状況
2.1 エネルギー資源
地理的に莫大な石油資源国に取り囲まれているが、イスラエルでは化石燃料資源がほとんど産出されず、ほぼ全量を輸入に頼ってきた(
表1参照)。民族・政治問題から近隣諸国との交易は少なく、石油は長い間メキシコ、ノルウェー、英国から輸入してきたが、1990年代にイスラエル−アラブ紛争の解決に進展が見られ、これに伴いエネルギー供給構造にも大きな変化が現れ始めた。現在、石油需要の20%をアゼルバイジャンから賄っているほか、ロシア、メキシコ、ノルウェー(北海油田)、英国、エジプト、カザフスタン、トルクメニスタン(カスピ海油田)など多国におよぶ。
天然ガスに関しては、2000年に発見されたMari−Bガス田がイスラエル市場へ国内産天然ガスを大量供給して内需の40%をカバーしたが、2012年になると同ガス田は終末期を迎え生産量が急激に減少した。しかし、2009年にはTamarガス田が、2010年にはイスラエル沖のLeviathanガス田が発見された。2013年初頭にTamarガス田が生産を開始、Leviathanガス田も2016年に最大2,120万m
3/日で生産を開始している。イスラエルの天然ガス生産量は2002年には0.1億m
3しかなかったが、2012年には42億m
3に達している。
エネルギーの消費構造も輸入石油依存の体質から天然ガス利用へ転換し、天然ガス消費量は2000年の0.1億m
3から2010年には37億m
3まで拡大した。また、地中海の同国沿岸沖に浮体式LNGプラント(FLNG)を設置し、天然ガスをLNGとして輸出するTamar FLNGプロジェクトが進展しており、2017年までに稼動開始する予定であるほか、トルコやヨルダン向けにパイプラインでの供給や、液化設備を配備してアジア向け等に輸出する計画も検討中である。アラブ諸国の中では、エジプトが重要な資源輸入国で、両国は2005年に天然ガス貿易に関する協定に合意している。
図1に石油・天然ガスに関するエネルギーインフラストラクチャーを示す。なお、石炭に関しては石炭公社(NSCS)を通じて、南アフリカやオーストラリア、コロンビア、インドネシア、米国などから輸入している。石炭は発電用として利用される。
2.2 エネルギー需給
2014年の一次エネルギー総供給量は、石油換算約2,270万トンで、エネルギー源別構成は石炭が28.3%、石油が39.3%、天然ガスが27.2%、太陽光が5.1%であった(
表1参照)。一次エネルギー自給率は33%。大半を輸入に頼っており、2014年の石油の純輸入量は1,423万トン、石炭の純輸入量は石油換算658万トン、天然ガスの純輸入量は供給量の1.6%、石油換算約10万トンであった。
2.3 電力需給
イスラエルは1990年代初頭に電力供給不足に陥ったが、新規発電プラントの建設と送電系統の整備によって、2000年以降に解消されている。2014年の供給電力量は608.1億kWhで、燃料別内訳は石炭49.6%、石油4.9%、天然ガス48.4%となっている。石炭は石油に比べて割安であり、近年、混焼火力において石油を抑制し、石炭の利用を増大させているほか、天然ガス火力の利用が拡大している。
表2に電力生産量と消費量の推移を示す。2.4 エネルギー政策
イスラエルのエネルギー政策を担当するエネルギー・水資源省(Ministry of National Infrastructures,Energy and Water Resources)は、今後20年で電力消費量は倍増すると予測し、「人口増加」「生活水準の向上」「気候変動への対応」の3つの視点から、確実なエネルギー確保のための対策を図っていくとしている。そのため、エネルギー政策として、石油へのエネルギー依存度を下げ、国内資源である再生可能エネルギーを開発し、エネルギー手段の多様化を実施していくことを目標として挙げている。
3. 原子力事情
3.1 原子力発電の位置づけ
イスラエルは2050年までに20%の電力不足に直面すると予想していることから、原子力を「2030年から追加的に利用可能となるエネルギー源」とみなしている。エネルギー・水資源省は2012年〜2013年にかけてプレ・フィージビリティスタディを実施しており、2030年までの原子力発電所の稼動を目指している。
かつてイスラエルはエネルギーの安定供給のため、1984年〜1985年にかけて、フランスとの間で原子力発電所導入の話し合いを行ったが、主に資金的な問題により進展をみなかった。また、フランス側も、アラブ諸国との取引に支障がでるとの懸念から、対イスラエル商談に消極的でもあった。しかし、国内にエネルギー資源が乏しく、アラブ諸国と政治的な不安定さがあることから、原子力発電の導入には積極的である。
3.2 原子力研究開発
イスラエル
原子力委員会は、ソレク原子力研究所とネゲブ原子力研究所をもっており、これらの研究所は次の研究炉で原子力の基礎研究を実施している(
表3参照)。
a)ソレク原子力研究センター(所在地:ヤフネ)
アメリカ製のIRR−1(熱出力5MW、スイミングプール型、1960年6月臨界)
b)ネゲブ原子力研究センター(所在地:ディモナ)
フランス製のIRR−2(熱出力25MW、
天然ウラン・重水減速炉、1963年12月臨界)
また、フランスからの技術導入による再処理施設(ディモナ)、重水工場(レホポット)、燃料加工工場(ディモナ)などを持つ。
図2にイスラエルの原子力施設地図を示す。
なお、イスラエルは
核不拡散条約(
NPT)に加盟しておらず、
IAEAの
保障措置は米国製のIRR−1にしか適用されていない。イスラエルは、公式には核兵器および他の大量破壊兵器の保有を否定も肯定もしない立場を取っているが、中東地域で唯一NPT非加盟国であり、また事実上の核兵器保有国とされている(
図3参照)。
<図/表>
<関連タイトル>
石油産業の生産・利用技術開発 (01-04-02-02)
世界の原子力発電の動向・中東(2005年) (01-07-05-03)
<参考文献>
(1)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第2編2010年版、(2010年3月)
イスラエル
(2)カーネギー財団:TRACKING NUCLEAR PROLIFERATION 1998、p.212
(3)原子力安全研究協会:平成27年度文部科学省委託事業 原子力平和利用
確保調査成果報告書(2016年3月)、イスラエル、32−1〜32−4
(4)国際エネルギー機関(IEA):Israel:Balances for 1990〜2014、
https://www.iea.org/statistics/statisticssearch/report/?country=ISRAEL&product=balances&year=1990〜2014、Total primary energy supply
(5)国際エネルギー機関(IEA):Israel Electricity and Heat for 1990−2014、
、…=2014およびIsrael Electricity
generation by fuel、
http://www.iea.org/stats/WebGraphs/ISRAEL2.pdf
(6)国際エネルギー機関(IEA):Research Reactor Database(RRDB)、Israel、
https://nucleus.iaea.org/RRDB/RR/ReactorSearch.aspx
(7)米国エネルギー情報局(EIA):Eastern Mediterranean Region、2013年8月、
https://www.eia.gov/beta/international/analysis_includes/regions_of_interest/Eastern_Mediterranean/eastern-mediterranean.pdf
(8)Arms Control Association:Nuclear Weapons:Who Has What at a Glance、
2016年10月、
https://www.armscontrol.org/factsheets/Nuclearweaponswhohaswhat