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<概要>
 「あかつき丸」によるフランスからの返還プルトニウム輸送に端を発して、主として核拡散のリスクという観点から、日本のプルトニウム利用政策に対し米国では様々な批判的意見が出てきている。その1つとして、米国議会会計検査院(GAO)の1993年7月発表の報告書がある。同報告書では、(1) 民生用再処理が核拡散への懸念を現実化したこと、(2) 返還プルトニウム輸送に対し多くの国が核物質防護等の面で懸念していること、および(3) 新日米原子力協定では包括的承認が与えられているため、米国議会が日本のプルトニウム利用に対し十分に監視できない状態にあることなどが指摘されている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「あかつき丸」によるフランスからの返還プルトニウム輸送は、グリーンピースなどの反原子力団体の過激な活動の影響もあり、日本のプルトニウム利用政策に対する世界的な関心を呼ぶこととなった。このことの背景には高速増殖炉FBR)計画がフランスと日本を除いて世界的に中断した状況にあること、そして核兵器解体プルトニウムによる余剰プルトニウムの問題がある。また、日本でも「もんじゅ」によるFBR計画は進展しているものの、当初の計画よりは遅れており、現時点で再処理によるプルトニウムを早急に必要とする状況にないこともその一因となっている。しかも、ウラン価格の低迷により、使用済燃料を再処理してリサイクルするよりも、直接処分するワンス・スルーの方が経済的であるとの批判的意見も出てきている。以下に、そのような批判的意見の1つとして、米国議会会計検査院(GAO)による日本のプルトニウム輸送に関する報告書を紹介する。
 日本の原子力政策に批判的な立場をとっていることで知られている米国議会のグレン上院議員は1992年7月、GAOに対し日本へのプルトニウム輸送問題についての調査を依頼し、その報告書が1993年7月7日に発表された。この報告書のタイトルは「核不拡散:日本のプルトニウム輸送は再処理についての懸念を高める」というもので、政府担当官(現政権にはいないが、元 DOE 官僚だった反プルトニウム熱中派のヘンリー・ソコルスキー氏)へのインタビューのみならず、ポール・レーベンソール氏の核管理協会(NCI)、グリーンピース・インターナショナル、エコ・エンジニアリング社から提供された情報をも駆使している。また、ワシシトン駐在の日本大使館一等書記官、動力炉・核燃料開発事業団(PNC(現日本原子力研究開発機構))ワシントン事務所、フランス原子力委員会、英国政府、BNFLの各担当者、また国際海事機関(IMO)や国際原子力機関(IAEA)の担当者へのインタビューも行われている。
 GAO報告書の前半部分では、「あかつき丸」による輸送体制自体は適切なものであったことが述べられており、フランス製輸送容器の安全性、武装した護衛艦など、特に問題点は指摘されておらず、今回の輸送による米国側の出費も問題とするようなものではなかったとされている。GAO報告書で問題とされた批判点は以下のとおりである。
(1) 余剰プルトニウム問題
 GAO報告書の第1の批判点は、日本のプルトニウム輸送が、民生用再処理によって回収されているプルトニウムの量やその利用に関して、多くの懸念を呼び起こしたという点である。エネルギー省(DOE)の評価では、2000年までに民生用原子炉で24万トンの使用済燃料が発生し、その中にはプルトニウム1100トンが含まれているとされ、この評価に基づいてDOEは、民生用再処理が核拡散に及ぼす懸念が現実化したと指摘している。また、国防総省(DOD)の関係者は、国際的保障措置に基づく再処理と分離されたプルトニウムによってもたらされる核拡散のリスクは容認できない程度のものであると指摘している。

(2) プルトニウム輸送に対する他の国々の懸念の高まり
 GAO報告書の第2の批判点は、いくつかの国々の関係省庁が、日本政府に書簡を送りプルトニウム輸送に対して懸念を表明し、その領海内を輸送船が通過しないようにと要請したにもかかわらず、日本政府が輸送を強行したという点である。このため、環境保護団体や市民団体のグループが世界的な規模でキャンペーンを行い、輸送がもたらす環境問題およびプルトニウムを運ぶコンテナの安全性や堅牢性についての懸念を表明した。輸送船が出航する前にグリーンピースは、考えられる輸送ルート沿いにある国々に警告を行い、出航後は輸送船の進路について監視し、その近くの国々に対して警告を行った。GAOは、今回の報告書作成に当たって日本大使館一等書記およびPNCの代表と、各方面から表明されたこれらの懸念についてインタビューを行い、その結果、事故が発生した場合には、日本政府の財政的支援に基づいて、PNCが全ての被害や損害に責任を持つことになるという応答を得ている。

(3) 米国議会によるプルトニウム問題の監視機会の減少
新日米原子力協定の実施取極めでは、30年間にわたって再処理および第三国からの回収プルトニウムの日本への返還に対し包括的な承認を与えている。そのため、他の国々との取極めと異なり、ケース・バイ・ケースで日本へのプルトニウム返還計画に対して修正あるいは拒否する機会が議会に与えられておらず、したがって、議会による監視の機会もほとんどないというのが、第3の批判点である。
<関連タイトル>
国際海事機関(IMO)の活動 (13-01-01-16)
日米原子力協定 (13-04-02-01)
米国の余剰プルトニウム処分計画 (14-04-01-26)

<参考文献>
(1) 米国会計検査院(GAO):核不拡散−日本のプルトニウム輸送は再処理についての懸念を高める−(1993年7月)
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