<本文>
1.原子力発電所の運転認可更新に係わる動向
米国では「1992年国家エネルギー政策法」の成立により電気事業の再編がスタート、1996年には米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)が「オーダー888」(送電線開放命令、Order888,889)を発令し、電力市場の自由化が加速した。電力市場自由化が本格化して以来、当初の40年間という運転認可(ライセンス:License)の失効を待たずに早期に閉鎖される原子力発電所が相次いだ。これは競争力を確保できないとの判断によるもので、1996年から1998年にかけて6基の原子力発電所が早期に閉鎖された。しかしながら、早期に閉鎖された原子力発電所はいずれも運転成績が低く、経済性が悪いものであり、1999年に閉鎖されたもの、もしくは早期閉鎖が決定した原子力発電所は1基もなくなった。
このような状況下、2004年における全米103基の原子力発電所の平均設備利用率が91.8%(ちなみに2000年104基で設備利用率88.5%、2002年104基で設備利用率90.9%)を記録するなど、着実に運転性能が向上してきていることに加え、電力会社にとって現在運転されている原子力発電所が価値ある資産となってきている。例えば、原子力プラントの認可更新申請費用は新規プラントの建設費用を下回ると予想されている。
一方、規制当局である
米国原子力規制委員会(NRC)は電力会社のこうした積極的な動きを受け、「特に問題のない発電所」の運転認可更新に関する決定権を事務局に委譲することを検討している。これが具体化すれば、審査期間が30〜36か月、最終的には21か月まで短縮され、認可が早く下りることとなる。
なお、2007年2月現在、運転中の発電所の5割を超える55基の設置者が運転認可更新申請済み(うち認可取得済み48基、審査中7基)で、さらに30基の設置者が2013年までに運転認可更新を申請する計画であることを正式にNRCに通知している。
2.原子力発電所の認可更新プロセス
認可更新プロセスでは、認可更新規則(10CFR Part54)に基づく技術上の審査と、環境保護規則(10CFR Part51)に基づく環境影響審査が並行して行われる(
図1参照)。認可更新申請者は、プラントの経年劣化の影響評価とその管理方法について説明した技術文書をNRCに提出するとともに、プラントの運転期間を20年延長した場合の環境影響評価報告書を提出する。
認可更新を申請できる期間は運転認可の有効期限が切れる20年前から5年前までで、認可更新申請者は認可更新規則に基づいて抽出した構造物や機器について総合プラント評価(IPA)と時間限定経年劣化解析(TLAA)を実施し、公衆およびプラント作業員の安全と健康を確保することが義務づけられる。
2.1 安全審査
認可更新申請者は認可更新規則に定める長期使用(特定の期間内に部品交換などが発生しない)かつ静的な(passive)な構造物・機器を抽出した上で、これらの機器・構造物が運転延長期間においても初期の性能を満たしていることを証明するよう求められる。10CFR 54.21では、プラントの経年劣化の影響評価とその管理手法について説明した技術文書の提出が求められており、提出すべき情報として、1)総合プラント評価(IPA;経年劣化評価の対象SC(Structure and Component)の抽出)、2)現行の許認可ベース(CLB)の変更、3)時間限定経年劣化解析(TLAA)、4)最終安全解析報告書(FSAR)への補足(経年劣化の管理とTLAAについて)、5)技術仕様書の変更または追記(経年劣化対策について)があげられる。
3.原子力発電所の運転認可更新の状況
米国では、近年、電力市場の自由化や規制緩和の余波を受け、経済性の劣る原子力発電所の早期閉鎖が相次ぎ、1996年から1998年にかけて、コネチカットヤンキー原子力発電所(PWR、60万kW)、メインヤンキー原子力発電所(PWR、90万kW)、ビックロックポイント原子力発電所(BWR、7万5000kW)、ザイオン1、2号機(PWR、各108万5000kW)、ミルストン1号機(BWR、68万9000kW)などの計6基の原子力発電所が早期に閉鎖された(
表1参照)。
一方、電力会社は運転実績が良好な原子力発電所には追加投資(主としてSG交換)しての運転認可更新をはじめ、(1)優れた運転管理能力とスケール・メリットを有する原子力発電所の買収、(2)運転管理委託、(3)複数の原子力発電会社による運転管理グループや運転管理会社の設置——によって運転管理の合理化(コスト削減と競争力アップ)を図っている。
このような状況の中、米原子力規制委員会(NRC)は2000年3月、国内初となるカルバートクリフス1、2号機(PWR、各88万kW)の運転認可の20年間延長を正式に承認した。NRC事務局による運転認可更新の勧告を受け、NRC委員による票決の結果決定したもので、これによって両機は60年間にわたって運転ができるようになった。所有者であるボルチモア・ガス&エレクトリック(BG&E)社は1998年4月、国内の電力会社の先頭を切ってNRCに対し運転認可更新を申請していた。
これに続きNRCは2000年5月、デューク・エナジー社が申請していたオコニー1、2、3号機(PWR、1・2号機:88万7000kW、3号機:89万3000kW)の運転認可の20年延長を正式に承認した。これ以外にも、エンタジー社のアーカンソー・ニュークリア・ワン(ANO)1号機(PWR、88万3000kW)が2001年6月に、またサザン・ニュークリア(SNC)社のエドウィン・I・ハッチ1、2号機(BWR、1号機78万9000kW、2号機79万9000kW)が2002年1月に、フロリダ・パワー&ライト社のターキーポイント3、4号機発電所(BWR、各72万6000kW)が2002年7月に承認されている。
その後2003年には、カトーバ1、2号機、ウィリアム・B・マクガイア1、2号機、ノースアナ1、2号機、サリー1、2号機、ピーチボトム2、3号機、セントルーシー1、2号機、フォートカルホーン1号機;2004年には、V・C・サマー、H・B・ロビンソン2号機、ロバート・E・ギネイ1号機、ドレスデン2、3号機、クァドシティ−ズ1、2号機;2005年では、J・M・ファーリー1、2号機、アーカンソー・ニュークリア・ワン(ANO)2号機、DCクック1、2号機、ポイントビーチ1、2号機;2006年にはナインマイル1、2号機、モンティセロ;2007年にはパリセードが運転認可更新の認可を受けており、オイスタークリーク、ピルグリム1号機、バーモントヤンキー、ジェームスAフィッツパトリック、サスケハナ1号機、ウオルフクリークが認可申請中である(
表2−1および
表2−2参照)。また、
表3の原子力発電所では運転認可の更新申請が予定されている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向・北米(2005年) (01-07-05-04)
海外における原子力発電所の運転認可更新の現状 (02-06-02-02)
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
原子力発電所の寿命延長(NRCの運転認可更新規則) (14-04-01-17)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:原産マンスリー(2000年1年間に刊行されたものより抜粋)
(2)日本原子力産業会議:原子力資料(No.292、293)
(3)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向(1999年次報告)
(4)米国原子力規制委員会(NRC)HP:Reactor License Renewal,Plant Application for License Renewal,
http://www.nrc.gov/reactors/operating/licensing/renewal.html,,Status of Plant Applications for License Renewal,
(5)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2003年版(2002年11月)、p.346−366
(6)(独)原子力安全基盤機構:原子力施設運転管理年報(平成18年版)II−6 世界の原子力発電の状況
(7)Nucleonics Week(November 16,2000/June 18,1998/June 16,1996)