<本文>
1.国情
インドネシアは、赤道を挟んで東西約5,110km、南北約1,888kmの広大な領域(日本の約5倍)に18,100以上もの島からなる世界最大の群島国家である(
図1参照)。高温多湿の熱帯性の気候に属し、モンスーンの影響により雨季と乾季に分けられる。インドネシアとその周辺は、ユーラシア、オーストラリア、太平洋、フィリピン海プレートの境界域にあり、環太平洋火山帯(環太平洋造山帯)の一部を構成しているため、火山活動が活発で、地震も多い。2004年のスマトラ島沖地震、2006年のジャワ島中部地震では甚大な被害が発生した。
インドネシアの経済は、1990年以降、実質経済成長率が年平均7〜8%の高水準で推移していたが、1997年のアジア通貨危機により深刻なダメージを受け、1998年には−13.2%まで落ち込んだ。その後、国際通貨基金(IMF)の支援を得て、マクロ経済安定化や金融システム改革に取組み、マクロ経済の状況は大きく改善されている。2008年のリーマン・ショックに端を発した国際金融危機、さらに2009年以降の欧州経済危機によって影響を受けたものの、その後も6%台という堅調な経済成長を達成している(
表1参照)。
インドネシア政府は「経済開発加速・拡大マスタープラン(MP3EI)」を2011年に発表し、各島をインフラ網で結び、経済回廊を形成する構想や世界10大経済大国となる目標を掲げている。
2.インドネシアのエネルギー事情
2.1 国内のエネルギー資源
インドネシアのエネルギー資源は、石油をはじめ、天然ガス、石炭、水力、地熱などがあり、天然ガス、石炭を輸出している。石油に関しても輸出国であったが、生産量が低下してきたことで2008年9月に
石油輸出国機構(OPEC)を脱退した。インドネシアにおける一次エネルギー生産の動向を
図2に示す。なお、インドネシアではエネルギー鉱物資源省(MEMR)大臣規制2009年34号により、石炭の国内供給優先と販売価格の国家管理が規定された。また、2010年1月にはMEMR大臣令2010年第3号により、石油・天然ガスの生産の拡大を最優先するとともに、国内供給を重視する方針を打ち出している。石油、石炭、天然ガスなど各エネルギー資源の現状を
表2に示す。
なお、ウラン資源に関しては、1971年にフランスの協力で西カリマンタン地区の探鉱を、1976〜1978年には西ドイツの協力で西スマトラ地区の探鉱を実施した。その結果、西カリマンタンのカリン(Kalin)地区に24,112トンのウランがあり、300万kW級
原子力発電所を11年間稼動できるとしている。IAEA/OECD・NEA「ウラニウム2011」によるとウランの発見資源量は10,600トンUであり、未発見資源量のうち予測資源量は23,500トンU(世界第10位)、期待資源量は22,000トンUとなっている。
2.2 エネルギー需給
インドネシアのエネルギー資源は比較的豊富であるが、一次エネルギーの消費量は2000年の9,910万トンから年率3.7%で増加し、2011年には1億4,820万トンと、約1.5倍に成長した(
図3参照)。燃料別上位内訳は、2000年には石油55.7%、天然ガス27.0%、石炭13.9%であったが、2011年には石油43.5%、石炭29.7%、天然ガス23.0%へと変化し、石油から石炭への転換が徐々に進んできている。また、最終エネルギー消費量は、業務用、産業用が増加する傾向にある。電化率が上昇したことと、家庭用にLPGの普及が進んだことで、
バイオマスの消費量が減少している。
なお、インドネシアのエネルギー政策を進める上でエネルギー部門全般を総括的に管理する必要性があることから、2007年8月に「エネルギー法(法律2007年30号)」が制定され、エネルギー政策の審議・監督機関として、大統領を議長とする国家エネルギー審議会(DEN)が設置された。上記法律にはエネルギー促進の基本方針として(1)エネルギー資源の探査・開発の強化、(2)国内エネルギー供給源の多様化、(3)エネルギー利用効率の向上、(4)省エネルギー政策が示されるとともに、エネルギー資源の国家統制管理が記されている。
3.インドネシアの電力事情
3.1 電気事業体制
インドネシアでは、インドネシア国営電力公社(Perusahaan Listrik Negara Persoro:PLN)がエネルギー鉱物資源省の監督の下で発・送・配電事業を一貫して運営していたが、1992年に発電分野への民間参入を促すため民間電力事業者(IPP)制度が導入された。これは、財源不足により電力インフラに充分な投資をする余力のなかったインドネシア政府が、電力分野に民間の投資を呼び込もうとしたものであった。現在、インドネシアの電力事業は、PLNが設備容量の8割強を占め、残りを独立電力事業者(IPP)や自家発電事業者(PPU)が補完している。
また、1995年以降、PLNでは分社化や事業部制が推進され、発電部門から、インドネシア電力会社(IP)とジャワ・バリ電力会社(JBP)が独立した。なお、発送電網としては、ジャワ・マドゥラ・バリ(JAMALI)発送電網が設備容量の7割と発電量の8割を占めている。
3.2 電力需給
インドネシアでは、急成長する経済を背景にした電力需要の増加に設備投資が追いつかず、電力需要は経済成長率よりも1〜2%高く、深刻な電力危機が危惧される状態である。特に政治・経済の中心として人口の6割が集中するジャワ、バリ島では発電電力量の8割を消費し、近年の電力不足は深刻化している。
2010年のインドネシアの総発電電力量は前年に比べて8%増の170GWhであり、発電者構成はPLN78%、IPPとその他22%となった(
図4参照)。ピークロードは前年より6.3%増加して25GWである。なお、2010年の1kWhあたりの電源別燃料費は水力98 Rp、石炭559 Rp、ディーゼル4,315 Rp、ガスタービン1,595 Rp、地熱701 Rp、
コンバインドサイクル788 Rpであった。インドネシアでは、近年の発電用燃料費の高騰に伴い、石油系燃料や天然ガスを使用する発電所(石油火力・コンバインドサイクル、ガスタービン及びディーゼル)から石炭火力発電所へ、電源構成がシフトしている(
図5参照)。また、電化率も確実に向上しており、1990年には28%であったが、2000年には53%、2011年末には73%まで上昇している(
図6参照)。送電ロスに関しては、2003年まで増加傾向であったが、2004年に16.9%から11.3%へ大きく改善し、さらに2010年には9.9%まで低下した。
3.3 電力開発計画
インドネシアの「国家開発計画」は2004年10月の共和国法2004年第25号「国家開発システム法」に従い、長期計画(20年対象)、中期計画(5年対象)、短期計画(1年毎)で構成されている。長期計画は国家審議を経て法律により定められ、中期と短期は大統領令で定められる。現在は2025年までの総合的開発計画である2007年法律No.17号「国家長期開発計画(RPJPN)」を基本に、2010年大統領令No.5号「国家中期開発計画(RPJMN)」が進行中であり、さらにこれらを考慮した2011年大統領令No.32号「2011〜2025年におけるインドネシア経済開発加速化及び拡大マスタープラン(MP3EI)」により電力開発戦略が示されている。これらの計画に基づき、PLNは具体的に「長期電力開発計画2011〜2020(RUPTL)」を策定している。
なお、インドネシアでは2020年までに温室効果ガス排出量(以下、GHG)をBAU(Business as Usual;何も対策を行わない場合)比で26%削減し、2025年までに一次エネルギー消費に占める新・再生可能エネルギーの比率を25%まで高めることとしている。
経済成長のスピードを維持し、安定的な電力供給体制を構築するため、インドネシア政府は2006年7月、4,500kcal/kgの低品位炭を利用した石炭火力増強プログラム、開発容量1,000万kWの第1次クラッシュプログラム(開発計画年:2006〜2009年)を発表した。2010年1月には、再生可能エネルギーの利用を強化した、開発容量約950万kWの第2次クラッシュ・プログラム(開発計画年:2010〜2014年)を発表しているが、2011年時点の第1次クラッシュ・プログラムの進捗率は64%であり、計画は2014年にずれ込む見通しである。また、今後10年間の電力開発は国営電力PLNの資金だけでは難しく、約半分は民間企業によるIPP(独立系発電事業者)事業に期待する面が大きいのが現状である。
また、政府はエネルギー源の多様化(エネルギーミックス)を政策目標の1つに掲げ、2009年10月に電力総局から再生可能エネルギー関連部門を独立、新・再生可能エネルギー・省エネルギー総局を新設した。2025年時点の再生可能エネルギー導入の目標値は、国家エネルギー政策(2006年)では17%であるが、エネルギー鉱物資源省(MEMR)の「ヴィジョン25/25」計画では、25%まで引き上げている(
図7参照)。
なお、エネルギー鉱物資源省(MEMR)が作成した「電源開発計画(RUKN2005)」では、
原子力発電を電力供給の1つのオプションと位置づけ、2025年までに開発する新規電源5,456万kWのうち1,200万kWを原子力発電によるものとしたが、2011年3月の福島第一発電所事故を受け、現ユドヨノ大統領は、原子力発電の将来性は認めるものの、任期中(2009〜2014年)の原子力発電導入は無いと表明している。
(前回更新:2006年11月)
<図/表>
<関連タイトル>
インドネシアの原子力開発と原子力施設 (14-02-06-01)
<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2013年版、(2012年11月)p.192-199
(2)海外電力調査会:海外諸国の電気事業・第1編、(2008年10月)p.421-455
(3)日本貿易振興機構(JETRO):インドネシアの電力エネルギー事情、
(4)BP統計ホームページ:Statistical Review of World Energy 2012(インドネシアデータ)
(5)エネルギー・鉱物資源省・新・再生可能エネルギー及び省エネルギー総局主催・EBTKE 2012:Azahari氏発表、新・再生可能エネルギー政策(2012年7月)、
(
http://energy-indonesia.com/03dge/03.pdf)
(6)外務省ウェブサイト:インドネシア、
(
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/)
(7)エネルギー鉱物資源省(MEMR):2011 Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia
(8)米国エネルギー情報局(EIA):インドネシア、
(
http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=ID)
(9)IMF - World Economic Outlook Databases、
(10)PT PLN (Persero) :PLN Statistics 2010、