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<概要>
 原子力発電所では、その運転に伴って各種の放射性液体廃棄物(通常、低レベル放射性液体)が産み出される。原子炉には付属施設として「放射性液体廃棄物処理施設」が設けられ、廃液に対して適切な濾過、貯留、減衰(放射能)、固化、管理などが施されることによって、周辺環境へ放出される放射性物質の濃度および量が“合理的に達成できる限り(ALARA:as low as reasonably achievable)”低減されていなければならない。
 従って、「処理施設」および「これに関連する施設」の設計は、上記の目的に十分叶うものでなければならず、特に、「指針」では、これらの施設からの漏洩防止、および敷地外への放射性廃液の放出防止が強く求められる。
(昭和56年9月28日 原子力安全委員会決定)

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「考慮すべき事項ないしは基本的な考え方」については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
I.安全審査段階における「液体廃棄物処理施設」に対する基本的考え方
 放射性液体廃棄物処理施設(原子炉付属)の安全審査に当って考慮すべき事項ないしは基本的考え方が、昭和56年(1981年)9月28日の原子力安全委員会決定の指針に示されている。すなわち同施設およびそれに関連する施設の「設計」に当っては、それら施設からの液体状放射性物質の漏洩防止、および敷地外への放射性廃液の放出防止が考慮されていることが求められている。
 本指針が示す「定義」と「設計」への要求は次のようである。
1.定義づけ
 「放射性液体廃棄物の処理施設」とは原子力発電所の運転に伴い発生する放射性液体廃棄物のほか、スラッジ等の固体が混った液体状の放射性廃棄物を分離・収集し、廃液の性状により、適切な濾過、蒸発、イオン交換、貯留、減衰等を行う施設とする。
 「関連する施設」とは処理施設を収納する建屋または区域を言う。
2.設計への要求
 液体状放射性物質の処理施設からの漏洩防止および放射性廃液の敷地外への放出防止を考慮した「設計」には、次のような事項ないしは考え方がとり入れられていなければならない。
・漏洩の発生防止
 処理施設には、適切な材料、適切な計測制御設備がとり入れられていること。
・漏洩の早期検出と拡大の防止
 タンク等からの漏洩の早期検出、警報装置を設備すること。処理施設(設備)は独立した区画内に設けられるか、あるいはその周辺に堰などを造り、漏洩拡大を防止しうる設計であること。
・建屋外への漏洩防止
 建屋外に通じる出入口などには、漏出防止のための堰などを設けること。
・非管理排水路への廃液放出防止
 「管理されていない排水路」に放射性廃液が混入し、それが「敷地外」に放出されることのない設計であること。
II.参考
 図1は、「原子力発電所」で産み出される「放射性液体廃棄物」の「処理」のプロセスを図示したものである。放射性廃液は通常、洗濯水とそれ以外のものに分別されて処理される。従事員作業衣などの洗濯廃水は一般に放射能レベルが低いので、フィルターで濾過されたのち、放射能のモニタリングを経て海洋などに放出される。若干放射能レベルの高い洗濯廃水以外の廃液(床洗浄廃液など)は、蒸発缶で濃縮され、残った濃縮成分が貯留タンクに移され、放射能の減衰をまって、セメントやアスファルト等と混ぜられ、ドラム缶中で固化され、原子力発電所構内の「廃棄物貯蔵施設」内に一時貯蔵される。
 なお、わが国においては、原子炉施設から発生する低レベル放射性固体廃棄物のうち、核種濃度の低いものについては既に法規制が整備されたことから、民間企業の日本原燃(株)が、青森県六ヶ所村の「低レベル放射性廃棄物埋設センター」において第1期〜第2期(1号施設〜2号施設、いずれも浅地中処分施設)の事業許可を各々1990年および1998年に取得し、1992年および2000年より操業している。
 この第1期分は、原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、濃縮廃液等をセメント等で均質・均一に固型化した廃棄体(ドラム缶)を対象としており、第2期分は、原子炉から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、金属等雑固体をセメントで充填固型化した固体状廃棄物(ドラム缶)を対象としている。
 事業許可された施設は、いずれも200リットルドラム缶換算で20万本相当の低レベル放射性廃棄物を受け入れることが可能な規模である。今後、当面100万本相当、最終的には300万本相当規模の施設が必要とされ、2001年に次期埋設のための予備調査が開始された。当該埋設施設の設計(構造)は、浅地中処分施設としては世界的にみても第1級の安全性を有している。
(前回更新:1996年3月)
<図/表>
図1 「原子力発電所」で産み出された放射性液体廃棄物(通常、低レベル放射性廃液)の「処理」のプロセスと固体廃棄物処理プロセスとの結びつき
図1  「原子力発電所」で産み出された放射性液体廃棄物(通常、低レベル放射性廃液)の「処理」のプロセスと固体廃棄物処理プロセスとの結びつき

<関連タイトル>
放射性液体廃棄物 (09-01-02-03)
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)

<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂11版 原子力安全委員会指針集、
大成出版社(2003)
(2)下川純一:原子燃料サイクルの展望と課題、(5)、(6)、放射性廃棄物の処理・処分対策、日本原子力事業 NAIG特報、9月号、11月号(1987)
(3)日本原燃(株):六カ所低レベル放射性廃棄物埋設センター廃棄物埋設事業許可申請書(1988年4月)(一部補正:1989年10月、1990年2月、同年10月)
(4)日本原燃(株):六カ所低レベル放射性廃棄物埋設センター廃棄物埋設事業変更許可申請書(1997年1月)
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