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<概要>
 発電用原子炉施設の安全評価にあたって、当該原子炉施設の平常運転時および想定事故(重大事故および仮想事故)時における被ばく線量評価に際し、大気中における放射性物質の拡散状態を推定するために必要な気象観測方法、観測値の統計処理方法および大気拡散の解析方法を定めたものである。
(昭和57年1月28日原子力安全委員会決定、平成元年3月27日一部改訂、平成6年4月21日一部改訂、平成13年3月29日一部改訂)

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている気象観測方法と解析方法の指針については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
 原子炉施設の安全解析においては、原子炉施設から放出される放射性物質による原子炉施設周辺の線量がその対象となるので、原子炉施設周辺の放射性物質の大気中における拡散状態を推定することが重要である。
 原子炉施設の安全解析は、平常運転時と想定事故(重大事故および仮想事故)時について行われ、その際に使用する気象条件は、それらの現象の特性を考慮して定める。
 平常運転時における安全解析は、通常、当該原子炉施設周辺における1年間等の長期間の線量を評価するものであり、この場合には、年間の気象データを基に建屋および地形等が拡散に及ぼす影響、放出モード等を考慮して現実的な解析を行うこととしている。
 想定事故時における安全解析は、想定事故期間中の線量を評価するものである。この場合には、平均的な気象条件よりも出現頻度からみてめったに遭遇しないと思われる厳しい気象条件を用いて解析を行うこととしている。以下に本指針の概略を示す。
1.目的
 本指針は、発電用原子炉施設の平常運転時および想定事故(重大事故および仮想事故)時における線量評価に際し、大気中における放射性物質の拡散状態を推定するために必要な気象観測方法、観測値の統計処理方法および大気拡散の解析方法を定めたものである。
2.気象観測方法
(1)気象観測の目的および区分
 気象観測は、原子炉施設設置前および運転開始後における線量の評価に直接関係する気象資料を得る事を目的として、原子炉施設の設置前から廃止までの間継続して実施する「通常観測」と、原子炉施設設置前の安全解析に際し、敷地およびその周辺の気象特性に関する気象資料を得るために特定の期間実施する「特別観測」に区分する。
(2)観測項目
 通常観測の観測項目は、風向、風速、日射量および放射収支量であり、特別観測の観測項目は、風向、風速、上層風および気温差である。
(3)観測方法
 気象測器(表1参照)は、原子炉施設の敷地内の適切な場所に設けられた露場又は敷地若しくはその周辺の適切な場所に設けられた観測塔、観測柱等に設置する。気象測器の種類、測定値の最小位数および気象測器を設置する高さは、表2および表3による。気象庁検定の対象となっている気象測器は、検定に合格したものを使用する。測定値(大気安定度を含む)の欠測率は、連続した12か月において、原則として10%以下とする。
(4)観測期間
 通常観測は、原子炉施設の設置許可申請前の少なくとも1年前から開始し、原子炉施設が廃止されるまで連続して行う。特別観測の風向および風速は、原子炉施設の設置許可申請前において、少なくとも1年間連続して観測し、上層風および気温差は、この期間の適切な時期に観測する。
3.観測値の統計処理方法
(1)毎時の気象資料
 ・風向、風速、日射量および放射収支量は、それぞれの観測値の正時前10分間の平気値をもって当該時刻の値とする。
 ・大気安定度は、「敷地を代表する地上風」の当該時刻の風速並びに日射量および放射収支量を基にA(安定)〜F(不安定)に6区分し、これを当該時刻の大気安定度とする。
 ・風向、風速および大気安定度のいずれかの気象要素が欠測の場合には、当該時刻の気象資料は欠測扱いとする。
 欠測を除いた観測資料から得られた統計は、1年間を代表するものとする。
(2)気象資料の統計整理
 ・平常運転時の場合
  以下の項目について統計整理する。
  (a)風向別大気安定度別風速逆数の総和
  (b)風向別大気安定度別風速逆数の平均
  (c)風向別風速逆数の平均
  (d)風向出現頻度
  (e)風速0.5〜2.0m/sの風向出現頻度
 ・想定事故時の場合
  毎時の気象資料は、風向、風速および大気安定度について毎時刻ごとに整理する。
4.基本拡散式
 平常運転時および想定事故時における放射性物質の空気中濃度は、風向、風速、その他の気象条件が全て一様に定常であって、放射性物質が放出源から定常的に放出され、かつ、地形が平坦であるとした場合に、放射性物質の空間濃度分布が水平方向、鉛直方向ともに正規分布になると仮定した基本拡散式を基礎として求める。
5.平常運転時・想定事故時の大気拡散の解析方法
 ・平常運転時の線量計算に用いる地表空気中濃度は、上記基本拡散式に基づき算出し、これを基に年間平均濃度を求める。この場合、風が放出点から見て着目地点を含む方位(着目方位)に向かう場合およびその隣接方位に向かう場合の寄与を合算する。
 ・想定事故時の線量計算に用いる地表空気中濃度は、単位放出率当りの風下濃度(相対濃度という)に事故時間中の放射性物質の放出率を乗じて算出する。また、想定事故時のガンマ線量については、相対濃度の代わりに、空間濃度分布とガンマ線量計算モデルを組み合わせた相対線量を使用して求める。
 ・建屋等の影響がある場合には、この影響を補正する。また、風洞実験により地表空気中濃度の補正が必要な場合には、適切にこれを行う。
6.放出源の有効高さ
 放出源の有効高さは、排気筒の地上高さ、排気筒の吹上げ高さ、建屋および地形による影響等を総合的に検討して定める。
7.風洞実験
 敷地の地形が複雑な場合又は放出源に対する建屋等の影響が著しいと予想される場合には、放出源の有効高さ等の妥当性を検討するため、それぞれの幾何学的条件を取り入れた模型を用いて風洞実験を実施する。
(前回更新:1996年3月)
<図/表>
表1 発電用原子炉施設の安全解析に係る気象測器例
表1  発電用原子炉施設の安全解析に係る気象測器例
表2 発電用原子炉施設の安全解析に係る通常観測
表2  発電用原子炉施設の安全解析に係る通常観測
表3 発電用原子炉施設の安全解析に係る特別観測
表3  発電用原子炉施設の安全解析に係る特別観測

<関連タイトル>
気象観測 (09-04-08-05)
気象観測 (09-04-08-05)
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針 (11-03-01-09)

<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂11版 原子力安全委員会指針集、
大成出版社(2003)
(2)日本アイソトープ協会:2002年度版 アイソトープ法令集、ICRP Publ.60
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