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<概要>
 ロシアにおける原子力防災対策は幾多の変遷を経て現在に至っている。連邦原子力庁は、原子力発電所での緊急時の防止と対応のために産業レベルの体制を有している。緊急時管理活動における重要な役割は、連邦原子力庁の危機センターとロスエネルゴアトム緊急時対応センターが担う。緊急時ドリルと地域及びプラントレベルの演習が、緊急時における措置のために要員を訓練するために体系的に実施されている。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
1.原子力緊急時の体制と計画
 ロシア連邦民間防衛・非常事態・自然災害対応省(MChS)によって組織的に管理されている緊急時の防止と対応に対する統合国家システム(RSChS)が確立している。また、「自然及び人工の緊急に対する公衆及び国土の防護」に関する連邦法に従って、1996年9月13日付ロシア連邦政府命令NO.1094は、天然及び人工緊急時の分類を承認した(表1)。
 MChSは発災プラント排除ゾーン外のNPP事故への対応中の省庁及び機関の連携と調整を行う。MChSは緊急時の早期同定及び影響への対応に対する緊急対応及び救助チームの準備と運用を行う。他方、緊急時の防止と対応に対する産業レベルのシステム(OSChS)が、原子力発電所その他の原子力施設での緊急時の防止と対応に対して連邦原子力庁内で確立しており、機能している。ロシア内の緊急時の防止と対応に対するシステムの概観を図1に示す。
 OSChSマニュアルに従って、全ての原子力プラントは緊急時防止/緩和に対して組織的にプラントレベルの体制を有している。放射線危険時の手段と資源の定常的準備を確保するため、全ての原子力プラントは、OPB−88/97一般ガイドライン及び「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画の典型的内容」(NP−015−2000)に従って、「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画」を作成している。これらの計画は、緊急時についての通報系統を確立し、MChSの国土部門及び他の外部機関や地方当局との原子力発電所(NPP)の連携とともに、緊急時において行う決定と人員措置の原則、人員防護対策を定める。
 NPP周辺に居住する住民へ支援を与えるための組織的技術及びその他の対策は「原子力プラントでの一般放射線事故時の公衆防護計画」中に定められている。そのような計画はロシア連邦政府の適正な国土執行当局によって作成されている。これらの計画はロシアMChSのNPPレベル及び国土部門のそれら及び、事故結果に対して公衆を防護するための措置の実行に係わる他の省庁との間の調整と連携のスキームを定める。
 連邦原子力庁と他のいレベルの機関、連邦安全当局及びMChSの緊急時と民間防衛に対する国土管理局並びに地方当局との主要及びバックアップの通信手段が、事業者及び各原子力プラントにある。
 原子力プラントでの放射線及び非放射線緊急時の防止と対応に対する努力は事業者によって組織化され支援される。NPPの緊急支援構造の枢要なエレメントはロシア原子力発電コンツエルンRosenergoatom(ロスエネルゴアトム)の緊急対応センター(ERC)と連邦原子力庁の危機管理センター(SCC)である。ERCは1993年3月25日付ロシア連邦政府布告NO.246「ロシア連邦原子力施設における緊急時対応のための緊急技術センターの設置」により組織されたものである。
 NPP緊急準備強化における上記センターの役割は「放射線危険時の緊急事態宣言、情報の早期伝達及び原子力プラントへの迅速援助組織に関する規則」(NP−005−98)及び「原子力施設の現状及び異状発生についてのSCC情報連絡手順」に次のように定められている。
  ・緊急時防止及び緩和システムの利用可能性の確実化
  ・NPPユニットの状況についての目的情報の収集
  ・NPPでの活動状況の連続モニタリング
  ・恒久的情報インターフェイスに対するNPPと情報チャンネル準備のチェック
  ・得られたデータに基づく状況の分析
  ・NPP及び監視ゾーンの状況の即時予測
  ・緊急時のタイムリーな通報
  ・発災NPPへのエンジニアリング支援の提供、General Designer、科学的調整組織及び原子力産業の主要機関の技術支援センターとの連携の維持
  ・on−duty通信チャンネルを通じたNPPでの活動状況についての関連機関及び当局への助言
  ・NPP緊急援助チーム(OPAS)の通報
  ・発災NPP、関係省庁並びにマスメディア及び公衆との連携の組織化
  ・措置実施の進行状況のモニタリング
 SCCとERCの活動は調整されており、これらのセンターは24時間体制で機能している。プラントレベルでは、NPP管理者はNPP排除ゾーン内での緊急防止及び対応活動の実施と、「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画」の実施に対する責任を有する。
 ロシアのNPP緊急時準備を確実化するための測定を実施し、「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画」を開始する秩序は既存の「放射線危険時における緊急事態宣告、情報の早期伝達及び原子力プラントへの迅速援助の組織の秩序についての規制」(NP−005−98)中によって定められている。この規制は、原子力プラントでの「緊急時準備」及び「緊急事態」宣言に対する基準とともに、NPP運転イベントの分類と事象を規定している。
2.緊急時における通報連絡
 「緊急準備」もしくは「緊急事態」状況の宣言と「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画」開始後、NPPの当直長はプラント状況について連邦原子力庁のSCCの当直エンジニア、ロスエネルゴアトムの当直派遣員、ロシア規制当局のNPP滞在検査員チームの長、地方行政府の長等へ直ちに情報提供するとともに、NPP管理者は事業者のトップ管理者、連邦原子力庁の会長へ、「緊急準備」もしくは「緊急事態」宣言と「原子力プラント事故時の人員防護に対する行動計画」開始の理由について情報提供する。
 事業所の管理者は、発生し措置を講じた事故について、連邦原子力庁の緊急管理委員会の長、規制当局の長へ情報提供する。連邦原子力庁の緊急管理委員会の長は、発生した事故と、事故を緩和し局所化するために講じた対策について国際機関と、マスメディアに情報提供する。連邦原子力庁の長は、発生した事故及び講じられた措置と、事故に対応し結果を緩和するために、連邦原子力庁を援助する必要性があるのかどうかについて、中央執行当局へ情報提供する。
3.訓練・演習
 事業所要員、NPP人員及び支援機関要員の訓練は、1995年7月24日のロシア連邦政府命令「自然及び人工緊急時に対する防護における公衆訓練の命令」NO.738の要件に従って行われる。緊急時に活動する事業所要員、NPP人員及び彼らの家族、支援機関要員訓練命令は「原子力プラントでの民間防衛、緊急時準備及び対応を組織化し、施行するためのガイド」(RDEO 0074−97)中に定められる。
 政府当局の専門家の訓練、緊急時防止及び対応体制の方法と資源の準備、NPP要員と支援機関要員の訓練は、MChSの民間防護アカデミー、連邦原子力庁の特別部門間センターにおいて、地域及び市レベルの民間防護コースとともに、彼らのために作成された特別プログラムに従って行われる。
 NPPの特別な部門ユニット形式の訓練は「NPP特別部門ユニット形成の構造、機器及び訓練に関するマニュアル」に従って行われる。緊急時防止及び対応体制を改善し、緊急時の措置に対する政府体、方策及び資源の準備をチェックするために、原子力プラントで事業者、支援機関及び会社が毎年の演習やドリルを計画し、実施する。
 事業者において
  ・OPASの教育的方法論セッション・・少なくとも年1回
  ・OPASチーム、NPP、緊急技術センター、関連省庁の方策と能力の緊急時演習・・事業者のNPPSの1つで毎年
 原子力プラントで
  ・民間防衛の管理及び司令要員の教育的方法論セッション・・少なくとも年1回
  ・NPPの緊急時措置準備ドリル・・年2回
  ・警報「アテンション」及び事故の口頭伝言受信について行動するための要員、作業員及び被雇用者のためのドリル・・年2回
  ・通信ドリル・・年2回
  ・プラント管理委員の参加を得た「原子力プラント事故時の人員防護行動計画」に記される全ての対策を取扱う総合演習・・毎年
4.原子力防災に関する法令
 原子力発電所のオンサイト/オフサイト緊急時準備を規制する法令には以下のものがある。
  ・「原子力の使用」に関する連邦法
  ・「自然及び人工の緊急時に対する公衆及び国土の防護」に関する連邦法
  ・「公衆の放射線安全」に関する連邦法
  ・緊急時防止/対応のための統合国家システムについてのロシア連邦政府命令(2003年12月30日付ロシア連邦政府命令NO.794で承認)
  ・「原子力プラント安全確保のための一般ガイドライン(OPB−88/97)」
  ・「放射線危険時の緊急事態宣言、早期情報伝達と原子力プラントへの迅速支援組織の秩序に関する規則」(NP−005−98)
  ・「原子力プラント事故時の人員防護に対す行動計画の典型例」(2002年8月30付改正)(NP−015−2000)
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 ロシアにおける緊急時の分類
表1  ロシアにおける緊急時の分類
図1 ロシアの緊急時防止・対応体制
図1  ロシアの緊急時防止・対応体制

<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)

<参考文献>
(1)RUSSIAN FEDERATION NATIONAL REPORT ON THE FULFILLMENT OF COMMITMENTS RESULTING FROM THE CONVENTION ON NUCLEAR SAFETY (MOSCOW 2004)
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