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<概要>
 本訴訟は、東北電力(株)女川発電所1号炉(昭和45年(1970年)12月20日原子炉設置許可、昭和54年(1979年)12月着工、昭和59年(1984年)6月運転開始)の建設差止を求めた民事訴訟(昭和56年(1981年)12月提訴、昭和58年(1983年)11月運転差止に変更)である。
 平成6年(1994年)1月の仙台地方裁判所における第1審判決では、請求棄却となった。原告ら(控訴人)の控訴により、仙台高等裁判所における控訴審で審理が行われ、平成11年(1999年)3月に、仙台高裁は運転差止控訴を棄却した。控訴人は控訴審判決を不服として、平成11年(1999年)3月に最高裁判所に上告した。
 平成12年(2000年)12月19日、最高裁判所は「原告の請求を棄却する」と判決、原告住民側の敗訴が確定した。
<更新年月>
2002年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.本訴訟の概要
 本訴訟は、人格権・環境権に基づく妨害予防請求として東北電力(株)の女川発電所1号炉(BWR 型52.4万kW、昭和45年(1970年)12月10日に原子炉設置許可、昭和54年(1979年)12月に着工、昭和59年(1984年)6月1日に運転開始)の建設工事差止を求めて、周辺住民14名が東北電力(株)を被告として、昭和56年(1981年)12月26日に仙台地方裁判所(仙台地裁)に提訴したものである。原子力発電の建設差止に関して電力会社を相手取った民事訴訟としては、わが国で最初のケースである。
 なお、原告側は昭和58年(1983年)11月2日、請求の趣旨を建設工事差止から運転差止までに変更、また、平成元年(1989年)6月30日に請求を拡張し、2号炉(BWR型82.5万kW、平成元年(1989年)2月28日に原子炉設置許可、平成元年(1989年)8月に着工、平成7年(1995年)7月28日に営業運転開始)の建設差止を追加している。東北電力女川発電所1号炉、2号炉訴訟の主な経緯を 表1 に示す。
2.仙台地裁、仙台高裁の判決
 本訴訟では、事故防止対策、地震・耐震設計、平常運転時の被ばく低減対策、低線量放射線被ばくによる周辺公衆への影響等の本件原子力発電所の安全性が主な争点となった。平成6年(1994年)1月31日の仙台地裁における第一審判決では、請求棄却が言い渡され、原告側は平成6年(1994年)2月14日に仙台高等裁判所(仙台高裁)に控訴した。
 原告側は、仙台地裁の一審判決後の平成7年(1995年)1月17日に発生した阪神大震災を例に挙げ、「耐震設計審査指針となっているマグニチュード(M)6.5を超える直下型地震に対する考慮が不十分」と主張したが、それに対して、判決では「女川原子力発電所の基準値振動の設定の合理性、相当性を覆すに足りる事情はない」とした。これに関連し、仙台地裁の一審の口頭弁論終了後に発生した同発電所の地震による原子炉自動停止トラブルなど6件が発生したことについて、「トラブル対応について安全への視点に問題点を残しており、原子力発電所の事故が極めて深刻な事態を招くことを知り、安全に徹底した運転を心がけるべきである」との指摘がなされた。
 平成11年(1999年)3月31日の仙台高裁での判決では、女川原子力発電所1号機、同2号機の運転の必要性が認められ、具体的な危険性は認めがたいと判断し、原告側の運転差止控訴を棄却した。原告側は仙台高裁の控訴棄却を不服として、平成11年4月14日に最高裁判所に上告した。
3.最高裁の判決
 平成12年(2000年)12月19日、最高裁判所第三小法廷(元原利文裁判長)は、「原告の主張は事実誤認や単なる法令違反を主張するもので、適法な上告理由に当たらないとして、原告の請求を棄却する」と判決、上告を棄却する決定を下し、原告住民側の敗訴が確定した。電力会社に原子力発電所の建設・運転の差し止めを求めた訴訟(民事訴訟)での最高裁判所の判断はこれが初めてである。
<図/表>
表1 東北電力女川発電所1号・2号炉訴訟の主な経緯
表1  東北電力女川発電所1号・2号炉訴訟の主な経緯

<関連タイトル>
日本の原子力発電所の分布地図(2001年) (02-05-01-05)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1) 原産新聞編集グループ(編):伊方に続き志賀、女川:「合法」との判断相次ぐ、原告の請求退ける、原子力産業新聞(2000年12月21日付け)第2068号、(社)日本原子力産業会議(2000年12月21日)2面
(2) 日本原子力産業会議:原子力施設に係る主な訴訟の状況、原子力ポッケットブック2001年版、p.176-177
(3) 産経新聞朝刊(2000年12月20日)24面「女川・志賀原発訴訟:最高裁が住民側上告を棄却、民事では初の判断」
(4) 朝日新聞夕刊(2000年12月20日)37面「志賀・女川原発:最高裁が運転差し止めを棄却、住民側の敗訴確定」
(5) Mainichi Interactive科学環境ニュースのホームページ(物理・化学・原子力)「女川・志賀原発訴訟−−最高裁(2002年2月)
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