<本文>
(1)作業線量とは
作業線量は、一般的には放射線
被ばくを伴う作業に従事する者が受ける線量のことをいい、放射線被ばくを大別した際、「職業被ばく」のカテゴリーに入るものである。しかしながら、ここでいう「作業線量」は、狭義の意味で使い、期間や対象が限定された単位作業、例えば、
原子炉の定期検査期間中の保守・検査作業や核燃料交換作業といった「個別の作業」から作業者集団が受ける線量のことを指している。
(2)作業線量の予測がなぜ必要か
図1は放射線作業の計画から実施までの経路を示したものであるが、実行すべき作業及び放射線防護対策等の設定を明確にし、それに伴う作業線量の予測に基づき更に最適な放射線の防護方法やモニタリング法の検討を行う。このように、作業線量の予測は、放射線作業の計画を立てるに際して、a)放射線防護対策の最適化をはかり、b)適切な放射線モニタリング計画を立案する上で、重要かつ不可欠なことの一つになるといえる。
(3)作業線量はどのように示されるか
作業線量は、集団線量と個人線量分布という形で示される。
集団線量は、着目している一連の放射線作業において、それらに関係する作業者集団が受ける線量の総計で、次のように表される。
S=Σ Di (i=1〜N)
=N・ADi
ここで、S:作業に係る集団線量
N:作業者人数
Di:作業者iに対する線量
ADi:N人の作業集団に対する平均線量
(4)作業線量を予測する方法
次のような方法によって作業線量が予測されている。
a)過去の類似作業や同種作業における線量の実績を参考にする方法
b)作業手順などの解析による方法
c)モックアップテストの結果を用いる方法
a)の過去の作業時の被ばく実績に基づく方法では、作業時の総線量(集団線量)、個人線量の分布、最大線量、平均線量などが得られる。これら過去の実績データが「代表」性を持つためには、あらゆる作業に対応した十分な実績データの蓄積が必要で、放射線作業時の被ばくに関する「データ・ベース」の構築が求められる。
b)の作業の手順を追って解析する方法は、あらゆる作業に適用でき、特に、新規の作業など過去の関連データの蓄積がなく、a)の方法が適用できない作業について線量予測をする場合に有用である。しかし、作業や被ばくの経路など作業実態によく合致する「評価モデル」作りが適切に行われることが重要で、解析における各種パラメータに関連する諸データの充実が必要である。
c)のモックアップ法は、作業を模擬して、放射線を伴わない作業を実行し、それにかかった時間などを評価し、作業場における線量当量率の情報と併せて、作業線量を算出・予測するものである。また、本法は、この模擬作業を実行することによって作業者がその作業に習熟することができ、結果的に被ばく時間を短縮できるなど実質的な被ばく低減につながる効能をも有している。そのようなことから、本法は、特に、線量当量率の高い作業に適用され、被ばく低減と線量予測に有効な効果をあげている。
(5)大きな作業集団に対する線量分布の予測
作業者個人毎の線量、すなわち、個人線量分布も重要な情報である。そして、この作業者の線量分布がどのような分布モデルによく適合するかについては、国連科学委員会や
国際放射線防護委員会の報告書では、「作業者の線量の対数値が
正規分布する」、いわゆる、「
対数正規分布」があげられている。しかし、現実には、線量に関して基準を設けこれを超えさせないようにするなどの
放射線管理が実施される中で、フィードバック機能が作用するため、線量が高くなるにつれて、対数正規分布から外れることがみうけられる。これに対応して、「低線量域で対数正規性を示し、高線量域で正規性を示す
確率分布(「
混成対数正規分布」と呼ばれている)」が開発され、線量管理の場に適用された。この分布モデルは、「被ばくの大きさに比例して対策を強める」被ばく管理の状態をよく反映しており、作業者の線量分布の予測にも有用なものとなっている。
<図/表>
<関連タイトル>
集団線量 (09-04-02-10)
職業被ばくの評価 (09-04-04-08)
個人モニタリング (09-04-07-01)
<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会:国際放射線防護委員会勧告:ICRP Publ.26、日本アイソト−プ協会
(2)熊沢蕃:作業者の線量分布モデル、日本原子力学会誌、Vol.29,No.11,970,1987