<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設による健康影響
<小項目> 放射線事故
<タイトル>
金属スクラップに混入した放射能 (09-03-02-18)

<概要>
 金属スクラップに混入した放射能の問題とは、放射性物質が、その使用場所から、放射線障害の防止に関する法律等により規制の対象になっている区域から規制対象ではない外部に、何らかの理由で移行したために発生する問題である。ここに記したのは、資源再利用が一般化している金属スクラップに放射能が混入した例である。
 一般人の放射線被ばくに繋がる恐れの高い、このような問題は、徹底した対策を通じて可能な限り予防しなくてはならない。もし、万一資源再利用の流れに紛れて、大量の放射性物質が金属溶解炉に投入されれば、経済的に計りしれない損害を及ぼすばかりでなく、社会的にも大きな影響を招きかねない。物資の流通が複雑化し、広域化する現状では、国内ばかりでなく、海外諸国とも協力した対応が欠かせない課題である。
<更新年月>
2003年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 人類活動に必要な資源には限りがある。持続可能な発展をめざす経済活動を支える企業体等、組織の取り組みのなかで、資源再利用は今後ますます重要性を増し普及するであろう。金属スクラップ(以下単にスクラップと記す)について見れば、わが国における鉄くずの流通ルートは大部分が国内からのものであるが、一部は米国その他の国からの輸入鉄くずであり、流通範囲は年々広域化している。また、わが国の鉄くずを含むスクラップの再利用率は、第一次石油危機が発生した昭和48年(1973)当時において、すでに97.4%に達していた。諸外国においてもスクラップの再利用は近年増加している。
 平成12年(2000年)4月、フィリピンから輸入されたスクラップが貨物自動車で和歌山県下の製鉄所に搬入されたさい、スクラップ入りのコンテナに放射性物質(セシウム137および中性子線源)が混入していたことがわかった。同年5月には、兵庫県下の製鉄所においても、スクラップから放射線を放出している鉛容器(放射線源ラジウムを封入した白金針)が発見された。これらの事業所には、スクラップを積載した車両の搬入時に 図1 に示されているような放射線測定ゲート(このゲート機構には、放射能探知システム <09-03-03-07>が組み込まれている)が設置されており、放射性物質の混入したスクラップ(Radioactive Metal Scrap)の搬入が未然に防止され、放射能で汚染した鉄鋼が再利用される危険は回避された。
 また、これらのトラブルに端を発して行われた、政府、地方自治体の対応に呼応して、その後、岡山県下の製鉄所とか東京都の建設現場などから、放射能の混入したスクラップ、あるいは放射性汚染物が発見された。幸い、これらの放射能については、その後の管理と追跡で、いずれも重大な放射線被ばくにならないことが判明したが、それらの出所は、明らかでない(これらは身元不明線源、あるいはオーファンソース“Orphan Sources”と呼ばれる)。
 上記の事件は、いずれも放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、あるいは核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律で定められた許可あるいは届出を必要とする、いわゆる特定の事業所とは全くかかわりのない、一般の地域で発生したものである。
 放射性物質の事業所外への輸送に対しては、たとえ国内で十分な違法輸送抑止策が講じられたとしても、これを零にはできないし、海外から汚染物が搬入されることもある。しかも、物資の流通は年々複雑化し、広域化している。また、海外諸国における放射能の管理は、わが国とは異なることがあり、国情も必ずしも一様ではない。
 以下には、これまでに発生した米国とカナダにおける放射能が混入したスクラップの溶解例ならびにその他の海外諸国における事例を記す。さらに、オーファンソースの発生と国際間移動のような潜在的な問題も付記する。
 2001年までに明らかになった、放射能が混入したスクラップの米国における溶解例を 表1 に示す。製鋼所(鉄)における例(19件)が最も多く、以下アルミニウム(5件)、金(2件)とつづく。混入した放射性物質にはセシウム137が最も多かった(17件)が、コバルト60(2件)、トリウム(3件)の例もあった。
 ついで、米国を除いた海外諸国でのスクラップ溶解例を 表2 に示す。事例として29件が知られている。しかし、スクラップへの放射能混入防止対策は国によりまちまちで、スクラップ溶解炉の放射能探知システム設置率が不明であるため、実際はこれを上回る可能性があるとしかいえない。製鋼所での鉄の溶解例が多く、アルミニウムも3件あった。
 一方、 表3 には、米国とカナダにおいて、1983年から1997年6月までに発生した放射能汚染スクラップの年次別発生件数を示す。その総計は2357件の多数に昇り、そのうちスクラップが溶解された例も29件あった。このような状況下にあるため、米国においてスクラップを溶解している製鋼所のすべてに放射能探知システムが設置されている。しかし、放射能が混入した事例の発見確率は100%ではなかった。
 これまでに、スクラップの溶解後に得られた再生金属材料の放射能検出例の500件以上が、米国の原子力規制委員会(NRC)から報告されている。1995年以降の件数が、1983年から1995年までの件数を若干上回っている。ただし、そのうちの62%は自然放射能に基づくものであり、米国原子力法で定義された放射性物質(人工放射性物質、核分裂物質など)の割合は全体の約7%に過ぎなかった。
1994年までに測定された再生金属材料の場合、自然放射能に基づくものが37%、後者の割合が22%であったことを考えると、業界が経済的な損失を回避するための予防措置として、放射能の探知を徹底したとも解釈できる。
 スクラップ溶解後に得られた再生金属材料中の放射能の全量は、必ずしも正確には求まっていない。ただし、NRCの報告によれば、最大値はメキシコの製鋼所における60Co線源の約15TBqであった。イタリアの製鋼所における137Cs線源の1TBqがこれに次ぐ。
 必ずしもスクラップに限定したものではないが、 表4 に示されたような密貿易による放射性物質の国際間移行を示す世界税関機構の報告がある。これによると、1993〜1998年の6年間において、各国税関当局により放射性物質が押収された件数は、総計223件であった。米国では、紛失や盗難により1日に1個の割合で、オーファンソースが発生しているという。また、 表5 に示されているように、米国は放射能で汚染した金属製品等を複数回輸入したことがある。
 以下は主なスクラップ溶解事故の例である。
 1983年に、メキシコから米国に輸出された鉄製品による放射能汚染と報じられた事件がある。 調査結果によると、米国の中古品販売業者が、メキシコに遠隔放射線治療器を販売、約6年後、14.8TBq(1983年)の60Co線源を装着した使用済みの治療器が、スクラップ処分場を経てメキシコ国内の製鉄所に渡り、これが他のスクラップとともに溶解され、放射性コバルト(60Co)による汚染鉄筋および同椅子の脚に加工され、ふたたび米国に輸出されたものであった。汚染鉄筋の輸送中に、偶然、原子力施設近郊の道路で放射能が検出されて事態が発覚した。汚染鉄筋の量は7300トン、汚染製品が見出された場所は、米国内だけで1400か所に及んだという。治療器を輸送した貨物自動車、道路などでも顆粒状の60Co線源が見いだされた。
 1992年8月に、台湾で発覚した事件もスクラップの溶解時期が1983年とされている。しかし、60Co線源(740GBq)のスクラップへの混入経路は必ずしも明らかではない。この事件もメキシコの例と同様に放射能の存在が偶然発見された。たまたま電力会社の社員の一人が自宅に持ち帰った放射線測定器によって、彼の居住する住宅の建材に放射性物質が混入していることを見いだしたからである。その後の台湾原子力委員会の調査により、2000年までに約200棟にのぼる汚染鉄筋の使用住宅の存在が明らかとなり、現在、それら住宅の多くが閉鎖されているという。
 オーファンソースが係った事件で、蒸発温度が比較的に低い放射性同位元素が溶解されたため、広域の空気汚染につながった例がある。
 1998年6月のはじめ頃、フランス、イタリア、スイスとドイツの各当局により、空気中の放射能レベルが上昇し、最大で通常の約2000倍の値である2mBq・m−3に達したと報告された。この原因は、ジブラルタル海峡の西部にあるスペイン南部のアンダルシア地方の製鋼所で、1998年5月30日に137Cs線源入りのスクラップが溶解(最初の溶解時の評価値は、0.3〜3TBq)されたからである。プリュームは西風にのって地中海方面を東に進み、スペインを迂回して北に向かった。スクラップは輸入品であったが、溶解現場では放射線の検出システムが作動していなかったため、溶解炉廃材の処理までこの事実に気づかなかった。
 放射線は放射能探知システムのような測定器によって、はじめてその存在が認識される。スクラップが溶解に至る以前の放射能測定が重要なのは当然であるが、何よりもまず放射性物質使用(保管・貯蔵を含む)場所での管理・警備の強化、教育や経験の充実、一般人を対象とした啓蒙活動とともに、速やかな情報伝達と、対策を徹底するための政府、自治体、企業間の密接な連携が事件拡大の防止と予防のための必須要件である。国際貿易がかかわる場合には貿易当時国だけでなく、IAEA、国際税関機構ならびに国際刑事警察機構などとの情報交流が望まれている。
<図/表>
表1 スクラップに紛れて溶解された放射性物質(米国)
表2 スクラップに紛れて溶解された放射性物質(米国以外の海外諸国)
表3 金属スクラップの放射能汚染事例と溶解例(米国とカナダ)
表4 1993〜1998年の間に、各国税関により放射性物質(線源)が押収された件数
表5 米国に輸入された放射能汚染品
図1 スクラップ用放射能探知システム

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<関連タイトル>
メキシコ/米国におけるコバルト60で汚染された製品による市民の被ばく (09-03-02-10)

<参考文献>
(1) Gonzalez A.J.:IAEA BULLETIN,Radiation Safety & Security,Vol.41,No.3, 1999
(2) 輸入スクラップからの放射線検出について:第31回原子力安全委員会資料第1号、平成12年5月8日
(3) Lubenau J.O.,Yusko J.G.:Radioactive materials in recycled metals,Health Physics,68,440-451,1995
(4) Lubenau J.O.,Yusko J.G.: Radioactive materials in recycled metals-an update,Health Physics,74,293-299,1998
(5) Lubenau J.O.: Spanish mill melts large Cs source,Health Physics Society Newsletter 26,31,1998
(6) 佐藤幸男監修、佐藤ニナ、松浦千秋:総被曝者の時代、危ない金属リサイクル、(株)海鳴社、1996
(7) 松原昌平:高感度放射能検知システム、Isotope News、p12、2000年11月
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