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原子力発電所から放出された気体状放射性物質の大気中での拡散移動の模様を評価するためには、当該発電所敷地における気象調査を行わなければならない。これらの気象観測および解析の一般的方法については、「発電用原子炉施設の安全解析に関する
気象指針」(原子力安全委員会指針集;平成13年3月29日 一部改訂)に示されている。
1.気象観測
原子力発電所敷地における気象観測項目は、固定観測施設で連続的に行う「通常観測」と随時行う「特別観測」に分類されている。それぞれ
表1および
表2に示されている。通常観測の気象測器は、敷地内の適切な場所に設けられた露場に設置するものと、気象観測塔に設置するものとがある。露場の測器は地表付近を代表する気象状態を知るためのものであり、観測塔のものは排気筒からの放出源を代表するものである。
特別観測は通常観測を補うものであり、地形が複雑な場合などに、地域的な差異を確認するため、また観測塔より上層での大気の状態を知るためなどに行われる。
2.観測値の統計処理
典型的条件の一年間を選び、毎時の気象観測値をもとに、以下に示す項目の統計処理を行う。
(1)毎時の観測値に対する大気安定度の決定
(2)風向別大気安定度別風速逆数の総和
(3)風向別大気安定度別風速逆数の平均
(4)風向別風速逆数の平均
(5)風向出現頻度
(6)風速0.5〜2m/sの風向出現頻度
これらの諸量を使って以下に述べる解析をする。
3.平常運転時の大気拡散の解析
原子力発電所の排気筒から連続的あるいは間欠的に放出される放射性物質による、敷地周辺における年間の濃度、
線量の評価は、
線量目標値との関連で重要事項の一つである。この計算に、1年間の毎時の気象データに基づく前節の統計項目が適宜使用される。連続放出の場合は主として風向別大気安定度別風速逆数の総和が使用されるが、間欠放出の場合には、年間の間欠放出の回数と風向出現頻度をもとに二項確率分布による信頼度を使って、着目評価地点が風下となるとして濃度を求める。
平常運転時には、排気筒から吹上げられる空気の速度は非常に大きいので、排気筒の実効的な高さは物理的な高さより高くなる。この吹上げ高さは、排気筒の形状、吹上げ速度および気象データから計算によって求めることができる。地形が複雑な場合には、排気筒の実効高さが周辺地形に依存するので、風洞実験によって実効高さを決めることが多い。
4.想定事故時の気象解析
想定事故時の線量の評価は、これより悪い条件が滅多に現れないような気象条件を用いて行われる。単位放出率当りの風下濃度χ/Q(χ:濃度、Q:放射能放出率)は、1年間の毎時刻の気象観測データに対応して8760通り計算できる。原子力発電所の重大事故および仮想事故時の線量評価には、各風下方位で全気象データの累積出現頻度97%をカバーするχ/Q(悪い方から3%)を用いることが決められている。気象調査の中で、当該敷地におけるこのχ/Qを決定することは極めて重要な項目である。
5.風洞実験
敷地の地形が複雑な場合、または放出源に対する建屋等の影響が著しいと予想される場合には、放出源の有効高さ等の妥当性を検討するため、それぞれの幾何学的条件を取り入れた模型を用いて風洞実験を行うことになっている。
風洞実験のためには、通常、縮尺1/500〜1/2000程度の敷地およびその周辺の地形模型を用いる。この地形模型の中に原子炉施設の建屋および排気筒の模型を組み込み、排気筒からはトレーサー物質が放出できるように作られる。風洞内にこの模型を入れ、模型の排気筒を中心に模型を廻転させ、各方位の風下で排気筒から放出されたトレーサー物質を捕集し、濃度を決定する。この濃度と平坦地形(模型では平板)における濃度とを比較することによって、排気筒の各方位毎の実効放出高が算出される。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所立地に関する環境調査 (02-02-01-02)
<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版 原子力安全委員会指針集、大成出版社(2008)