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天然ガスは、原子力、石炭に並ぶ主要な石油代替エネルギーであり、かつ、LNG(Liquefied Natural Gas:
液化天然ガス)は硫黄分をほとんど含まず、化石燃料の中では燃焼時における二酸化炭素および窒素酸化物の発生量も少ないクリーンなエネルギーで、環境特性に優れている。またLNGは、その産出地が石油に比べ世界的に広く分布し、埋蔵量も豊富であるため、長期安定供給が図れるなど、供給安定性の観点からも基幹エネルギーとして高く評価されている。2005年3月策定の「2030年のエネルギー需給展望」(総合資源エネルギー調査会)では、2010年度に構成比14%(追加対策ケース)にまで高めることが目標とされている(
表1)。
都市ガス業界におけるLNGの導入は、東京ガスが東京電力と共同で1969年にわが国のLNG時代の幕開けとなるアラスカのLNGを受け入れたことに始まるが、その後大阪ガス、東邦ガスが導入したことにより、大手3事業者を中心とした都市ガス原料のLNG化は急速に進んでいる。
2005年3月現在、一般ガス事業者は220事業者、そのうち、天然ガス導入事業者は152事業者、原料に占める天然ガスの割合は全国合計で93%に達している。現在、中堅の地方都市ガス事業者は、天然ガス化のためのLNG基地等供給基盤を整備中であり、さらに、他の地方中小都市ガス事業者についてもIGF計画(
ガス種統一計画)に沿って、可能な限り2010年を目標に天然ガス化を推進していくこととしている。
1.LNGをめぐる情勢
(1)天然ガス埋蔵・生産・消費状況
2003年における世界の天然ガス埋蔵量は約176TCM(1兆立方メートル)で、その7割強を旧ソ連と中東が占めている。一方、アジア・太平洋地域は13.47TCMと、世界全体の1割にも満たない。世界の生産量は約2.62TCMで北米29%、欧州・旧ソ連が39%を占め、アジア・太平洋地域は12%である。世界の消費量は約2.6TCMであった。高生産量を誇る北米29%、旧ソ連23%や、パイプライン網が整備され域内、アフリカ、旧ソ連からの天然ガス貿易が盛んに行われている欧州での消費が19.5%と多く、次いでアジア・太平洋地域が12.5%となっている(
表2参照)。
アジア・太平洋地域内に着目すると、埋蔵量ではマレーシア、オーストリア、インドネシアが大きく、これらの国で地域全体の約65%を占め、中国が10.5%で続いている。生産量ではインドネシアが全体の23.8%を占め、次いでマレーシア(18.5%)、オーストラリア(11.7%)の順となっている。これらはLNGを含む天然ガス輸出を行っている国々である。消費量では日本が域内消費量の23.9%と大きく域内トップ、次いでインドネシア、中国の順となっている(
表3参照)。
(2)LNG利用の特徴
売方、買主双方ともに巨額の投資を必要とする。LNGは、天然ガスを−162℃に冷却し、体積を1/600まで小さくすることにより長距離輸送を可能とするものである。危険物として取り扱われるので、コストがかかる。したがって買い手も限定される。(例えば、タンクの場合、9万キロリットルレベルで、石油は約20億円、LNGは約120億円必要。また、船の場合、135千トンの建造に、石油は約50億円、LNGは約200億円必要)。
また、ある一定の供給数量に見合う需要が確保できないとプロジェクトは成立しない。需給をマッチさせることが経済性を確保する上で重要である。巨額の投下資金を確実に回収するには、長期の安定した契約が必要である。
さらに、買入側としては、LNGの代替燃料はないから、長期にわたり安全と安定供給を確保していくため、売主・買主双方の信頼関係の維持・強化が重要と成ってくる。このような理由から、LNGは、石油・石炭のように買主が希望する時期に自由にスポット購入することはできない。
(3)LNG貿易
2004年における世界の天然ガス貿易量は680.0BCM(10億立方メートル)であったが、うち約74%に相当する502BCMがパイプラインによる取引である。その一方でLNG貿易も年々増加を続けており、2004年における世界全体の取引量は178.0BCM(LNG換算約12,100万トン)となっている。アジア地域(日本、韓国、台湾の3か国)のLNG輸入量が世界全体に占めるシェアは65%近くである。近年、欧米市場に対するLNG輸出が増加傾向にあり、アジア以外でも市場拡大がみられる。わが国のLNG輸入量は77.0BCMと、世界全体の43.2%を占めているが、LNG輸入国の増加に伴いシェアは漸減傾向にある。一方、韓国、台湾市場の成長はめざましく、両国を併せたLNG輸入量のシェアは1995年の13.9%から、2001年には19.7%へと拡大している(
表4参照)。
域内における2002年の長期契約数量は、7,780万トンである。2003年からオマーン、カタール、UAEからインドへの960万トン(当初273万トンで開始)、2005年にはオーストラリアから中国ヘの330万トン、2007年にはインドネシアから中国への260万トンが加わる。2008年においては日本、韓国、台湾の3か国で7,251万トンが既に確保済みの状況となっている(
表5参照)。
LNG契約の殆どは長期契約であるが、1989年日本がアルジェリアからスポット購入を行って以降、LNG市場に於ける取引の形態として定着化が進んできた。しかし、シェアは小さい。(
表6参照)
(4)LNG基地
1969年、わが国へのアラスカ・ケナイLNG基地からの輸出がアジア・太平洋地域における初のLNG貿易であった。それ以来、1972年にブルネイ・ルムト基地でアジア地域初のLNGプラント操業が開始し、インドネシアのアルン、ボンタン、マレーシアのI(サツ)、II(デュア)、オーストラリアの北西大陸棚(NWS、カラサ)においてLNGプラントが建設されている。また、域外においてもアブダビ、カタール、オマーンで、アジア・太平洋地域を対象としたLNGプラントの建設および拡張工事が行われており、2002年末時点で液化能力は8,784万トンに達している(
表7参照)。
さらに2010年にかけては、アジア地域のLNG市場を対象とした多数のプロジェクトが計画されている。
一方、需要国側の受入基地であるが、現在日本では25の基地が稼働中で、2基地が建設中、さらに2基地が計画中である。韓国では平澤、仁川、統営の3基地が稼働中であり、光陽基地の2005年完成が予定されている。台湾では永安の1基地が稼働中であり、台湾北部の桃園地域に第2のLNG基地建設の計画がある。新規市場であるインド、中国、フィリピンでもLNG受け入れ基地建設プロジェクトが進行中である。(
表8参照)。
(5)LNG需給バランス
1)LNG需要見通し
1999年1月時点における国際石油・ガス会社のLNG需要見通しを
表9に示した。2010年におけるLNG需要は、1.05〜1.35億トンの見通しと各社とも大差ない。2001年の需要実績が7,450万トンであったから、向こう9年間で約2,050〜6,050万トンの需要増である。このうち、インド、中国他による需要増分が1,000〜3,100万トンを占めている。2001年から2010年までのLNG需要伸び率は、地域全体で3.4〜6.8%/年、既存輸入国で2.2〜4.1%/年となっており、新規輸入国による需要増大の影響が大きい。
アジアにおけるLNG需要は、各国の景気回復の速度やCO
2排出問題への各国の取り組み、日本および台湾の
原子力発電所の立地が大きな要素となると思われる。
2)LNG供給見通し
2002年末において8,784万トンのアジア向けLNG液化基地が稼動している。現在、建設中または、契約が締結され建設準備中にあるプロジェクトは3,200万トンである。また契約に向けて進展しているプロジェクトを考慮すると、2010年までに1億1,984万トンのLNG生産能力に達することが見込まれる。
2.LNG導入の促進
2000年8月の石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)開発部会において、天然ガスに関する政策の検討が行われ、エネルギー政策における天然ガスの位置付け、天然ガス利用拡大に向けた取り組みが報告されている。これを受けて、2000年9月には石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)開発部会に天然ガス小委員会を設置して、天然ガスのエネルギー政策上の位置付け、天然ガス需要の今後の可能性、天然ガス開発・利用に係る課題および政策的対応の在り方等について検討を行い、2001年6月報告された。一部データを更新し、概要を以下にのべる。
近年の環境制約への対応の要請、技術革新の進展等を背景に、大口需要を中心とする工業用の都市ガス需要の増大がめざましい。都市ガスの需要構成の変化を見ると、1980年度から2004年度までの24年間で、都市ガス販売量が約3.2倍に増加、なかでも工業用販売量の伸びは、約9倍と著しく、工業用販売量の全体に占める割合も、15.8%から44.1%へ大きく増加している。今後とも、環境対策の必要性の高まり、エネルギー高効率利用技術等の開発に伴う新規用途の出現、各種の規制緩和等を背景に、他燃料からの転換、ガスコージェネレーション、ガス冷房の一層の普及等により、産業用・業務用需要がより一層増加するとともに、家庭用需要も供給区域の拡張により都市ガス世帯が増加すること、暖房用等における都市ガスの占めるシェアが増大すること、天然ガス自動車の導入が進むこと、高効率の小型ガス冷房の開発により、家庭にも長期的にはガス冷房が普及していくことが見込まれること等から、都市ガス需要は全体的に着実に増大するものと推測される。2000年度の都市ガス
最終エネルギー消費量は、1980年度の約2.7倍に増加し、最終エネルギー消費に占める都市ガスの割合も1980年度の3.5%から6.6%へと増加している。
2005年3月の総合資源エネルギー調査会(現現総合資源エネルギー調査会)需給部会の「2030年エネルギー需給展望」による天然ガス需要の見通し(対策ケース)では、2010年度における需要量は8,100万キロリットル(原油換算)(LNG換算5,700万トン)、2030年度は、天然ガスの供給量は2000年度比で37%増加する見通しである。
ガス事業制度は、1999年の制度改正によるガスの小売自由化範囲の段階的な拡大などによって、競争を通じて効率化が図られてきた。2003年6月には、
エネルギー政策基本法の基本方針や総合資源エネルギー調査会都市熱エネルギー部会の報告書等を踏まえ、1)ガス導管事業の創設、2)託送供給制度の充実・強化、3)小売自由化範囲の拡大等のガス事業法の改正が行われ、2004年4月に施工された。
<図/表>
<関連タイトル>
LNG(液化天然ガス)広域供給体制の整備 (01-09-04-01)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):エネルギー2001(株)電力新報社(2001年2月)、p.129-131
(2)通商産業省(編):エネルギー2000(株)電力新報社(1999年10月)、p.122
(3)経済産業省のホームページ:総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会報告「今後のエネルギー政策について」(2001年7月)、p.28(2001年8月)
(4)資源エネルギー庁(編):みつめよう!我が国のエネルギー、エネルギー環境制約を超えて−(財)経済産業調査会(2001年9月28日)、p.31
(5)(財)日本エネルギー経済研究所のホームページ:鈴木健雄、アジア・太平洋地域の天然ガス事情とLNG需給動向(2002年度)(2003年8月)
(6)石油審議会開発部会天然ガス小委員会(第3回)議事要旨
(7)総合資源エネルギー調査会需給部会:2030年のエネルギー需給展望(平成17年3月)
(8)(財)天然ガス導入促進センターのホームページ:天然ガスについて