<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 国際エネルギー機関IEA)のR・プリドル事務局長は、2002年9月21日大阪で開かれていた国際エネルギーフォーラムで「世界のエネルギー展望2002年版」(World Energy Outlook 2002:WEO 2002)を公表し、2030年までに世界のエネルギー総需要量などの見通しを明らかにした。WEO 2002では、予測の範囲を2020年から2030年まで拡大し、中国のエネルギー政策の徹底的研究を含め、代替政策シナリオを用意し解析するなどで内容を刷新している。
<更新年月>
2004年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 国際エネルギー機関(IEA)のR・プリドル事務局長(Executive Director:Mr. Robert J. Priddle)は、2002年9月21日から大阪での開催された第8回国際エネルギーフォーラムで「世界のエネルギー展望2002年版」(World Energy Outlook 2002:WEO 2002)を公表した。ここで、2030年までに世界のエネルギー総需要量は現在の3分の2増加するなどの見通しを明らかにした。
 同事務局長はまず、「今後30年間は豊富なエネルギー資源に恵まれるが、それでもなお、これらの資源が利用でき、信頼できる供給源へと転換されなくてはならない。供給の安全保障に対する新たな懸念の根拠が表れている。」と指摘した。
 「我々の豊富なエネルギー資源にもかかわらず、そこには恐るべき挑戦がある。特に消費国は、一部政治的に不安定な地域にある少数の石油生産者への依存を益々強めるであろう。生産地から市場にエネルギーを届けるには、数兆ドルの投資を必要とする。世界の大多数の人々は最新のエネルギーを利用できないでいる。エネルギーの貧困は、まだ終わっていない。」と同事務局長は訴えた。
 「多くの国による真剣な努力にもかかわらず、エネルギーに関連した二酸化炭素の排出が増加し続けている。それは決定的に地球の気候を変える脅威である。IEAは日本政府の要請と日本のIEA会員の熱意に応え、大阪会議(第8回フォーラムの開催地日本の大阪)で今年の「世界のエネルギー展望2002年版」を発表することを決定した。このフォーラムでエネルギー生産国とエネルギー消費者間の対話を交わし、ユニークな方式を見つけることにした。」と続けた。
 「この2002年版の中には、生産者と消費者の両者に関連するメッセージがあり、それに取り組むことに協力するならば、その努力は報いられるであろう。「世界のエネルギー展望」は、もっとも広く読まれているIEAの出版物であり、今から2030年までのエネルギー需給、価格、通商と炭素排出に関する動向を予測している。その予測は権威あるものと認められている。」
2.WEOの内容刷新と「はしがき」抜粋
 WEO 2002年版は次のとおりいくつかの点で内容が刷新されている。
・2020年から2030年へ予測の範囲を拡大する。
・「エネルギーと貧困」という章(13章)を設け、世界のエネルギーの乏しい様子を検証する。完全に新しい調査に基づいて、発展途上国の電化の過去と将来を記述する。すなわち、伝統的バイオマスの使用を調査し、非常に貧しい家族のコース(彼らがエネルギーのない世界から最新のエネルギー世界に移動する)をたどる。
・中国(新しい「エネルギー巨人」)の特別な徹底的な研究の章(7章)では、この巨大な国のエネルギー供給保障を確立するまでの努力を記述し、他のすべての消費国のエネルギー保障と密接に関係していることを指摘している。
・代替政策シナリオ(12章)を提案している。基本的な参考シナリオと違って、OECD諸国は現在議論中のエネルギー効率および気候にやさしい政策と手段を採用すると想定している。
 また、プリドル事務局長は、WEO 2002の「はしがき」で次のように述べている(以下は抜粋)。
 WEOはIEAの最大の力作であり、最も広範に読まれている出版物である。(読者は)本書(WEO 2002)が提供する以下のような数多くの側面を捉えることができよう。
・世界のエネルギー事情は今後30年間で3分の2増加すること。
・化石燃料がエネルギー構成の中で支配的な位置を維持すること。
・エネルギー需要増加のほぼ3分の2が開発途上国から発生すること。
・必要とされる新しいエネルギーのインフラに資金を供給することは大きな課題であり、それは各国政府が創り出す枠組み条件次第であること。
・国際的なエネルギー取引が飛躍的に拡大すること。
・天然ガスの需要はその他全ての化石燃料の需要を凌ぐ速さで増加するが、再生可能エネルギーの需要はそれを更に上回る速さで増加すること。
・運輸部門が石油消費の中心的な位置を占めること。
・電力部門のエネルギー消費がその他の全ての部門によるエネルギーの最終消費を凌ぐ速さで増加すること。
・世界人口のうち電気にアクセスできない人々の比率は3分の1減少するが、逆に言えば2030年時点で14億人がまだ電気にアクセスできないでいること。
・各国の現行の政策から判断すると、エネルギー消費から発生する二酸化炭素の排出は今後も急速に増加し続けること。
・今後30年のうちにエネルギーの係わる新しい技術が出現するが、それが支配的になるのは、それよりずっと先の将来になること。
3.参考シナリオによる予測
 参考シナリオでは、今から2030年までエネルギー需要は1.7%の年率で速い成長を続け、2030年には年間石油換算150億トン消費すると予測している。2030年までに、世界は今日より3分の2以上のエネルギーを消費する。
 発展途上国は、エネルギー消費者の最も大きな集まりとして、工業化された世界にとって代わる。化石燃料は主要なエネルギー源の地位を維持しており、来るべき需要増加の90%以上を満たすであろう。石油需要は、過去30年間よりも速く増加する。
 天然ガスは、最も急速に増加する燃料であり30年の予測期間に容積が2倍になるであろう。石炭は、よりゆっくり増加し、そして世界エネルギー供給中のシェアは減少するであろう。現在の政策の下で、旧式の原子力プラントが引退し新設がほとんどないため、原子力は衰退するであろう。再生可能エネルギーは、更に発電に貢献するであろう。
 次の30年にわたって最も大きく成長するエネルギーの2つの部門は、電力と輸送であり、特に発展途上の世界では収入の増加が、電力サービスと輸送の需要を膨らませるであろう。石油とガスを消費する国では輸入が増加するので、エネルギー市場は急速に拡大するであろう。石油とガスの生産は、2、3の国−OPECメンバー、特に中東およびロシアにますます集中するであろう。
 莫大な投資は世界需要に応じて生産を増やし、その製品を市場に移動することを要求されるであろう。必要な投資を集めることは、潜在的な投資家に、彼らのお金にかなりの見返りを得ることができると納得させる投資の雰囲気次第であろう。
 参考シナリオの下で、京都合意に関係するOECD諸国は、合意を成し遂げるために排出クレジットの購入に頼る必要がある。別の代替政策シナリオでは、OECD諸国は、特に発電での再生可能エネルギーの使用によって、炭素排出の削減を達成できるであろう。それでも、京都目標を満たすことは、まだ容易ではないであろう。
 一方、エネルギー貧困は依然として残るだろう。約16億人は今でも電力に欠乏している。このような状況を変える抜本的で新たな措置が講じられなければ、30年間、14億人が依然として電力を利用できないだろう。
 WEO 2002年版は、世界地域のエネルギー開発と予測に関連した詳細な研究と統計を含んでいる。プリドル氏は「エネルギーに対する読者の特別の関心がたとえ何であれ、この冊子の中には豊かな情報がある。」と結んだ。
4.二酸化炭素排出予測とOECDの代替シナリオ
 「世界のエネルギー展望2002年版」(WEO 2002)では、2030年までエネルギー使用と二酸化炭素排出が増加しつづけると予測している。この予測は、現在の政策に基づき、エネルギーミックスの中で化石燃料が主として使われ、二酸化炭素排出は2030年に二酸化炭素換算380億トンに達することを示している(図1)。
 新たな二酸化炭素の排出地域は工業国から発展途上世界へと劇的に変わる。発展途上国の世界における排出シェアは現在の34%から2030年の47%に増加し、OECD諸国のシェアは55%から43%に減少する。中国だけは2030年に二酸化炭素排出増加量の4分の1、36億トンを占め、全体として年間67億トンを排出するであろう。それでも、中国の排出量は米国の排出よりは少ないであろう。
 一人当たりの二酸化炭素排出量の地域差は依然として大きい。一人当たりの排出量は発展途上国ではかなり上昇する。中国では、現在の2.4トンから2030年の4.5トンに増加し、インドでは0.9トンから1.6トンに増加するであろう。この増加にもかかわらず、OECD諸国と転移経済諸国(Transition Economy,旧ソ連圏)はさらに多く、一人当たり、OECD諸国では13トン、転移経済諸国では11トンを排出する。
 発電部門は、2000〜2030年間で地球全体の排出量増加の殆ど半分を占める。輸送部門は4分の1以上を占める。残りは、住居、商業、産業部門が占めるであろう。
 地球のエネルギー関連の二酸化炭素排出は、2030年まで年率1.8%で、一次エネルギー需要より幾分速く上昇するであろう。非水力の再生可能エネルギーは使用が増加し、技術の進歩がエネルギーシステムの効率を改善するだろうが、これらの技術の発展も化石燃料の優勢を相殺するには十分でない。
 OECD諸国で考慮中の代替政策シナリオでは、2030年の二酸化炭素排出を、参考シナリオと比較して16%低い21億5千万トンを削減できるであろう(図2)。この削減量は、現在のドイツ、イギリス、フランスおよびイタリアの排出の和に相当する。新しい政策と対策応、そしてより効率的な技術をより速く開発することなどで達成されるエネルギーの節約は、参考シナリオが予測する2030年の需要の9%になるであろう。二酸化炭素の節減は、炭素原単位の少ない燃料に転換することで更に大きくなるであろう。
 代替政策シナリオによる二酸化炭素の最大の減少は「発電」であり、再生可能エネルギーの急速な成長と電力の節約によるものである。
 この代替政策シナリオの下でも、3つのOECD地域(北米、欧州、太平洋)では個々には京都議定書の目標に到達しない。
<図/表>
図1 IEAによる地域毎のエネルギー関連二酸化炭素排出予測
図1  IEAによる地域毎のエネルギー関連二酸化炭素排出予測
図2 IEAによる参考シナリオと代替政策シナリオによるOECD全体の二酸化炭素排出予測
図2  IEAによる参考シナリオと代替政策シナリオによるOECD全体の二酸化炭素排出予測

<関連タイトル>
水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術 (01-05-02-05)
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)

<参考文献>
(1)IEA:World Energy Outlook 2002 Energy and Poverty Chapter(2002年9月),
(2)IEA:World Energy Outlook 2002 Sees Abundant Energy till 2030, But Projects Challenges on Security,Investment,Environment and Poverty,IEA/PRESS(02)22,Osaka,Japan(2002年9月),
(3)IEA:In 2030,Global CO2 Emissions will be 70% More Than Today,
(4)OECD/IEA(編者)、経済産業省資源エネルギー庁長官官房国際課(監訳):世界のエネルギー展望2002、株式会社エネルギーフォーラム(2003年8月26日)p.2-3(はしがき)[全526ページ]
(5)日本原子力産業会議:原子力産業新聞、第2156号、(2002年10月10日)p.3
(6)(財)日本エネルギー経済研究所:藤目和哉、世界の2030年までのエネルギー展望:World Energy Outlook 2002の概要
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ