<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界のエネルギー需給
<タイトル>
北米電力システム大停電 (01-07-02-15)

<概要>
 北米の電力システムは100年間の優れた工学的成果の一つで、その資産価値は1兆円といわれ、送電線は23万Vで稼動し、延長32万km、95万MWの発電容量を持ち、3500電力関連会社を従え、1億の顧客と2億8千3百万人に電力を供給している。2003年8月14日、東部夏時間12:15、不正確な入力データによって、モニターのソフトが働かなくなり、これから数時間の間に、米国北部とカナダまでの広範囲にわたる停電にまで発展した。2004年4月に、その最終的な調査報告書が発表されている。以下では、この報告書に従って、停電の経過、最後の7分間に起こった停電のカスケードの推移、送電線や発電所がどのようにしてまきこまれたか、また、そのときの原子力発電所の応答について述べる。
<更新年月>
2004年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.北米電力システムの概要
 北米の電力システムは100年間の優れた工学的成果の一つで、その資産価値は一兆円といわれ、送電線は23万Vで稼動し、延長32万km、95万MWの発電容量を持ち、3500電力関連会社を従え、1億の顧客と2億8千3百万人にサービスをしている。
 電力システムの基本的構造を図1に示す。電気は発電所で石油、石炭、天然ガス、原子力、水力等の種々の燃料を使って造られる、電圧は低く、10000V〜25000Vである。発電所からの電気は送電線で長距離輸送する際の損失を小さくするために、230000V〜765000Vに昇圧されて送電線に送られる。送電線は変電所(substation)と連結しており、これによって、送電線全体は、電力グリッド(Power Grid)と呼ばれる電力網(network)を構成している。電気は電力網の中を負荷(最終使用者)まで、抵抗の最小の経路をとおるという物理法則に従って、流れて行く。多くの顧客に配電するセンターでは、電気は降圧されて、顧客まで送られる。一般家庭などの顧客には120V〜240Vの電力、工場などへは12000V〜115000Vの電力として送られる。
 電気事業としては、発電、送電、配電の三つがあり、1998年米国には約5000の電気事業者がある。これらは経営形態により、民間公益事業者(239)、公営公益事業者(2009)、連邦公益事業者(9)、協同組合系事業者(912)に分類されるが、この三つの事業全てを行うもの、どれか二つを行うもの、一つだけ行うものがある(表1)。民間公益事業者のうち、約60%は発電から販売までのすべての事業に携わる伝統的な発電−送電−配電事業者であり、また約30%は送電施設を持たない事業者である。州及び自治体による公営電気事業者の3分の2は配電施設だけ所有し、5分の1は発電と配電の両施設を所有している。また、協同組合系の電気事業者の4分の3以上は配電施設だけを所有している。他に発電のみを行う独立系生産者(1930)がある。
 北米の電力システムは、3つの電力網からできている(図2)。東部電力網は、米国の東部、カナダのサスカチュワン州から東部沿岸州を含むネットワーク。西部電力網は、米国西部(アラスカ含まず)、カナダのアルバータ州、ブリティッシュコロンビア州、メキシコの一部を含むネットワーク。3番目は、テキサス州とその近辺を含むネットワークである。この3つは、相互を連結する直流部分を除いては独立で、電力はそれぞれのネットワーク内で造られネットワーク全体の中を流れている。
2.大停電の経過
 2003年8月14日の停電は、First Energy(FE)及びAmerican Electric Power(AEP)の管制地域(control areas)で始まった。FEは、7つの電力会社から構成され、オハイオ州北部の管制地域で操業している。このうちの4社のOhio Edison, Toledo Edison, The Illuminating Company及びPenn Powerは、NERC、ECAR(*)の管区で、MISO(*)の信頼度調整サービスを受けて操業している。現在、4社は管制地域を統合して、FEが経営している。MISOは、カナダ、米国の260万平方kmの地域で調整サービスを行っている。FEのサービス地域を図3に示す。一方、AEPはFEのサービス地域のすぐ南の管制地域で操業し、PJM(ペンシルベニア、ニュージャージー、メリーランド州における送電系統の運用を行う独立システム会社)の信頼度調整サービスを受けて送電と管制を行っている。
(*注)
 NERC:North American Electricity Reliability Council(北米電気信頼度協議会)
 ECAR:East Central Area Reliability Coordination Agreement(東部中央信頼度調整協定)、FE社の属する信頼度協議会
 MISO:Midwest Independent System Operator(中西部独立システム運転会社 )
(1)オハイオ州の停電の始まり
・2003年8月14日東部夏時間(Eastern Daylight Time:EDT)12:15、不正確な入力データによって、MISOの状態評価ソフトが働かなくなった。EDT13:31、FEのEastlake発電所のユニット5がトリップし、自動停止。直後EDT14:14に、警報が鳴り、記録システムが働かなくなり、停電が終わるまで回復しなかった。
・EDT15:05、FEの345kV送電線が施設用地内で生い茂った樹木と接触したためトリップし始めた(表2)。この時刻のECAR内電力潮流を図4に示す。FEの全負荷は電力潮流のシミュレーションによると12635MW。実際のシステムデータは、EDT15:05〜16:00の間、この管制域への流れが2695MWであった(図5)。
・EDT15:46、FE、MISO及び近隣の事業者がシステムの危険状態を理解し始めた頃、停電回避の唯一の方法は、Cleveland and Akron地域周辺の少なくとも1500MWの負荷を落すことであった。しかし、そのような努力はなされなかった、そして、EDT15:46には、大きい負荷を落して変化させるには、もう遅すぎたかもしれない。図6にFE社の345kV送電線トリップの影響を示す。図7にHnna-Juniper線喪失の原因となった樹木と送電線の関係を示す。EDT15:46、オハイオ州北部のFEの主345kV送電線の一部の喪失が、その下部の138kVの送電線網が壊れ始める原因となり、EDT16:06のFE社Sammis-Star 345kV送電線の喪失に至った。この線の喪失は、停電シーケンスの制御不可能な345kV送電線のカスケードを誘発した事象と結論される。この線の喪失は、オハイオ州東部からオハイオ州北部への345kVの入り口を閉鎖し、この線の負荷が隣接した地域の送電線に、直ちに耐えられないほど大きな負荷をつくることを意味する。そして、送電線と発電ユニットが物理的な損害を避けるための保護リレーの作動によってトリップし、カスケードが急速に広がった。
(2)停電のカスケードの進行
 EDT16:13までに、265発電所の508基の発電機が機能を失い、米国とカナダの何千万もの人々は電力なしでいた。カスケードは比較的ゆっくり始まった。図8は、喪失した送電線と発電機の数がオハイオの停電の頃までは比較的低い数に留まっていたが、EDT16:08:59以後は急速に増したことを示している。
 送電線の保護には種々のリレーが使用されているが、距離継電方式では距離継電器が使われる。その一種にインピーダンス形継電器がある。一般的には三段階距離継電器が使用される。端子の第一段(Zone1)は保護区間の80〜90%の距離まで動作するように制定され、高速度で(即座に)遮断機を引き外す。第二段(Zone2)は相手端付近の内部事故で確実に作動するよう、120〜150%の距離に制定され、若干(1〜2sec)の時間遅れで遮断する。第三段(Zone3)は遠方後備保護用で、次の区間の事故で動作するよう、なるべく長距離に、長い時間遅れで遮断する。北米システムでは、このインピーダンス型リレーが用いられていた。
 Sammis-Star線は、その時刻に故障が起こっていなかったけれども、有効電力(Active Power)と無効電力(Reactive Power)の増加によって見かけのインピーダンスがZone3リレーのインピーダンス領域に入ってきたので、Zone3リレーによって、EDT16:05:57にトリップした。これ以降のカスケードの進行には、このZone3リレーが大きい役割を演じている。図9にZone3リレーが動作した状況を示す。
 送電系統保護は、システムの電圧低下、周波数変動、電力変動などから事故の検出を行い、電源制限、負荷制限等の保護制御を行う。北米システムでは、最後の回復手段として低電圧負荷制限(UVLS:Under Voltage Load Shedding)と低周波数負荷制限(UFLS:Under Frequency Load Shedding)の2種類が設置されている。Cleveland-Akron内にはUVLSがなく、1500MWの負荷を制限できなかった。一方、UFLSの設置は、NERCの要件として各信頼度調整者の領域で少なくとも負荷の20〜30%を制限するよう設定されていた。UFLSの開始条件は、地域の信頼度協議会ごとに異なる。Ohio 1883MVA以上、Michigan 2835MW、New York 10648MW、PJM(Pennsylvania-New Jersey-Maryland) 1324MVA、Ontario 7800MW、New England 1098MW。
(3)発電機のトリップ
 265の発電所で508発電ユニットが停止したが、これらは以下のように分類される。
 a)信頼度調整地域では:Hydro Quebec 5発電所、Ontario 92発電所、ISO-New England 31発電所、MISO 32発電所、New York ISO 70発電所、PJM 35発電所
 b)タイプでは:在来型蒸気ユニット 66発電所(37石炭)、在来型燃焼タービン 70発電所(37複合サイクル)、原子力 10発電所(7米国、3カナダ、全部で19ユニット、原子力発電所は後述参照)、水力 101ユニット、その他 18ユニット。
・カスケードの第1期、29基(6%)の発電機がカスケードの開始(16:05:57のSammis-Starトリップ)と16:10:38.6のオハイオ州とペンシルベニア州の分離の間にトリップした。
・第2期、グリッドの一部が同期しなくなり、Michigan-New York-Ontario-New England線が東部電力網から分離された時、EDT16:10:38.6〜16:10:45.2、50基(10%)が、低周波数、低電圧と関係した、配置の変化、動機の喪失、励磁系の故障によってトリップした。
・第3期は、16:10:50以後、孤島ができた後、低周波数でUFLSが起き、431基(84%)の発電機が同時にトリップした。図10に発電機トリップの推移を示す。
 停電のカスケードは7分の間にCleveland-Akron地域からアメリカ合衆国北東部とカナダまで広がった。EDT16:13に終息した。カスケードの推移を図11に示す。
(4)原子力発電所のトリップ
 調査委員会は、原子力ワーキンググループ(Nuclear Working Group:NWG)を組織し、停電中の原子力発電施設による全ての関連の動作を同定するよう、要請した。米国原子炉規制委員会委員長及びカナダ原子力安全委員長が共同議長となった。
 a)米国のNWGの調査によると、9発電所がグリッド擾乱に応答して、60秒以内にトリップした。また、多くの発電所がグリッド擾乱による過渡現象を経験した。
 Fermi 2、Oyster Creek原子力発電所では、初期のグリッド擾乱によって、発電所の出力開閉所の電圧が揺らぎ、無効電力の流れが揺らいだ。
 Indian Point 2、Indian Point 3及びPerry発電所では、グリッドの発電と負荷のバランスが乱れ、周波数が揺らぎ、また、ある場合は低くなりすぎて保護系を動作させた。
 Fitz Patrick、Nine Mile 1、Nine Mile 2及びGinnaでは、周波数が揺らぎ、タービン制御システムが応答できなくなった。
 9発電所が、停電を誘発したり、停電の拡大に寄与したという証拠は見当たらなかった。厳しいグリッド過渡現象への応答が、発電所の発電機、タービンまたは原子炉システムの保護要件に達し、設計通りに自動的に発電所を停止させた。また、停電時の安全機能確保に備えて、ディーゼル発電機を作動させていた。
 残る95発電所については、4発電所が停止中、70発電所がグリッド擾乱を経験したがうまく適応して送電を続けた。21発電所は擾乱を全く経験しなかった。表3に9発電所の停止状況を示す。
 b)カナダでは、Bruce B及びPickering Bにおいてグリッドの周波数、及び/または、電圧の揺らぎがあり、発電機を自動的に分離。Darlingtonではグリッドの負荷変動により、4原子炉の出力を下げ、発電機は自動的に分離。Bruce Bの3原子炉とDarlingtonの1原子炉は送電システムオペレーターの指示により60%出力に戻り、グリッドに電力を供給。
3.大停電の原因
 調査の結果、以下の4つの主要な原因が同定された。
(1)FE、ECARが共に、FEシステムを評価及び理解していなかった。また、FEシステムを適切な電圧基準で運転しなかった。FEは厳密な長期のシステム応答の研究をせず、多重の緊急時評価を無視していた。FEはオハイオコントロール社地域の電圧解析をせず、電圧安定基準を満たさない運転をした。ECARは、独立の評価をせず、ECARの要件と基準は誤解を与えた。
(2)FEは、システムの悪化条件を認識していなかったため適切な対応をせず、予見しない緊急事態後のシステムの安全確保ができなかった。FEの管理センターのコンピュータ要員及び運転員は、訓練不足で効率的な連絡手段を持たず、モニター機器修理後の機能を確認せず、さらに、予備またはバックアップのモニター機器を持っていなかった。
(3)FEは、送電施設権地域の樹木の成長を適切に管理していなかった。
(4)FEは、効率的なリアルタイムの対話型支援を持たず、MISOのサポートモニターはリアルタイムのデータを使っていなかった。また、送電線の遮断機の位置と重要度を同定する効率的なソフトウェアを持っていなかった。
<図/表>
表1 米国の電力産業の構造
表2 樹木と送電線との接触事象について
表3 停止した原子力発電所の応答状態
図1 電力システムの基本的構造
図2 北米の電力網
図3 FE社のサービス地域
図4 FE社の345-kV送電線の電流
図5 8月14日EDT15:05の発電、需要及び管区間の電力潮流
図6 FE社の345-kV送電線の電圧:送電線トリップの影響
図7 Hnna-Juniper線喪失の原因となった樹木
図8 カスケード中の送電線と発電機のトリップの推移
図9 カスケード中のZone3リレーの動作状況
図10 カスケード中の発電機トリップの推移
図11 カスケードの推移

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<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)

<参考文献>
(1)Final Report on the August 14,2003 Blackout in the United States and Canada:Causes and Recommendations
(2)電気工学ハンドブック 新版、電気学会(1995年5月)、p.767-782
(3)電力中央研究所:大停電、日本は大丈夫か−北米大停電最終報告書を踏まえて−(2004年6月4日),
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