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<概要>
 ハンガリーの総消費電力量は、1950年代以降急速に増大したが、1979年の第二次石油危機の影響を受けて伸びは鈍化し、1989年までの年平均伸び率は約2.5%にまで低下した。また、1989年の社会主義体制転換を受け、1990年からは消費電力量も減少を続けたが、政府による市場経済への移行、国内の緊縮財政政策によるマクロ経済の安定化、及び国営企業の民営化による外国投資家の参入が功を奏し、2000年以降は順調な伸びを示している。
 電源別の発電電力量をみると、1960年代までは石炭火力が7割以上を占めていたが、1970年代に石油火力及び天然ガス火力が約5割を占め、1984年〜1987年にかけて、国内唯一のパクシュ原子力発電所1〜4号機が営業運転を開始すると、1990年代以降は原子力発電が約4割を占めるに至っている。
 2004年5月にEU加盟を果たしたハンガリーのエネルギー及び電力開発計画は、EUの政策に準拠したエネルギー供給の安定、競争力強化、及び持続可能性の確保を目指しており、設備の老朽化による不経済・非効率的のため電力需要動向に応じた電力供給を確保できずにいる石炭火力設備が、環境に悪影響を与える要因となっていることを問題とし、原子力及び再生可能エネルギーの政策の推進を強化している。
<更新年月>
2013年12月   

<本文>
1.概要
 ハンガリーの総消費電力量は1950年代の25億kWhから1990年の330億kWhまで、急速に増大した(表1参照)。1979年以前の年平均伸び率は7%〜8%で推移していたが、第二次石油危機(1979年)の影響を受けて伸びは約2.5%まで鈍化した。1990年代前半は社会主義崩壊の影響を受け、電力需要は一時低迷したものの、2000年代以降は2〜3%代で推移している。
 電源別の発電電力量をみると、1960年代までは石炭火力が7割以上を占めていたが、1970年代に石油火力及び天然ガス火力が約5割を占め、1984年〜1987年にかけて、国内唯一のパクシュ原子力発電所1〜4号機が営業運転を開始すると、1990年代以降は原子力発電が約4割を占めるに至っている(表2及び図1参照)。2012年の原子力発電による発電電力量は157億9,300万kWhで、総発電電力量に占める原子力発電の割合は45.9%であった。
2.電気事業体制
 ハンガリーは1989年の社会主義体制転換以来、政府による市場経済への移行を進め、国内の緊縮財政政策によるマクロ経済の安定化、及び国営企業の民営化による外国投資家の参入を積極的に展開してきた。従来、国営電気事業者であるハンガリー電力トラスト(MVMT:Manager Villamos Muvek Trustは、1962年の電力法に基づき、1963年設立)が独占的に電力供給を行っていたが、1992年1月の電気事業再編成とともに、ハンガリー政府持株99.8%と地方政府持株0.2%が所有する、ハンガリー電力会社(MVM Rt.)が設立された。MVM Rt. は原子力発電会社1社を含む発電会社8社と、配電会社6社、グリッド会社(系統運用会社)1社をハンガリー電力トラスト(MVMT)から引継いだ。ただし、MVMTが所有していた保修メンテナンス会社と発電所投資会社は廃止され、その資産は1990年に新設された国家持株会社(AV Rt.)に移管され、国家資産管理庁(AVU)が管理することとなった。なお、AVUは1995年に国営企業の民営化を定めた民営化法が制定されると廃止され、AV Rt.はAPV Rt.へ改組し、1996年の民営化法施行に伴い、MVM Rt.を含む国営企業は徐々に民営化されることになった。
 MVM Rt.は当初、発送配電各社へ50%出資し、残りの48%をAVUが、2%を地方政府が出資した。MVM Rt.は発電会社8社と自家発からの電力及び輸入電力を購入し、配電会社6社に販売している。配電会社6社はそれぞれの供給地域に電力供給を行うことで、MVM Rt.は送電・卸電気事業者としての役割を果たしている。民営化法の制定に伴い、発電会社及び配電会社の持株を段階的に放出するとともに、東欧初の独立発電事業者(IPP)の参入を認めることになった。原子力発電会社を除く発電会社7社及び配電会社の民営化は、1998年12月までにほぼ完了した。新たな株主となったのは、主に欧州の外国企業である。発電会社には RWE(ドイツ)、Tractabel-Powerfin(ベルギー)、AES(米国)、IVO-Tomen(フィンランド・日本)が、配電会社には RWE-EVS(ドイツ)、Electricite de France(フランス)、Bayernwerk(ドイツ)などがハンガリーの電気事業に進出している。表3にハンガリーにおける電気事業者とその株式比率を示す。
 2004年5月、EU加盟を果たしたハンガリーは、EU指令に則り、段階的に自由化範囲を拡大した。2007年7月から、国内の電力市場は完全に自由化され、消費者は自由に電気事業者を選択することが可能となっている。現在、電気事業は2002年に施行された「新電気法’法令第110号)」により運営されており、電力の自由化や系統運用者MAVIR ZRt.の権限、経済運輸省による送配電及び系統運用料金の設定、送電、配電、電力供給事業の分離が規定されている。なお、電気事業の監督は独立行政法人「MEH」が行っている。
3.電力需給
3.1 発電設備
 2011年のハンガリーにおける発電電力量は、発電所内ロスを含め、359億8,400万kWhであった。電源別に見ると原子力43.6%、天然ガス火力30%、石炭火力18.1%、石油火力0.4%、水力0.6%で、残り7.3%は風力やバイオマス等の再生可能エネルギーである。50MW以上の発電設備を持つ大規模電気事業者(パワージェン社及びEMAパワー社を含む)の設備容量は8,636.6MW(運転中:91.4%)で、再生可能エネルギーを中心とした自家発小規模電気事業者の設備容量は1,472.2MW(運転中:27.6%)である。これらの総発電設備容量は10,108.8MWとなっている。
 なお、ハンガリー唯一のパクシュ原子力発電所は、旧ソ連製の軽水炉VVER第2世代炉(VVER440/V213)4基で構成される。各原子炉の出力は、2010年以降、運転当初の44万KWから50万kWへ増強され、総出力は200万kWとなっている(ATOMICA「ハンガリーの原子力発電開発 <14-06-09-04>」参照)。また、北部及び北東部の石炭生産地域に立地するMATRA、TISZAPALKONYA、OROSZLANY石炭火力発電所等は、設備の老朽化により不経済・非効率的であるため、電力需要動向に応じた電力供給を確保できない上、環境に悪影響を与える要因として問題視されている。なお、TISZAPALKONYAに関しては、2011年5月をもって発電所を閉鎖している。図2にハンガリーの主要発電所立地図を示す。
3.2 送配電設備
 ハンガリーの主幹送電系統は400kV及び220kVからなる。また、周辺諸国のオーストリア、スロバキア、ウクライナ、ルーマニア、セルビア(ユーゴスラビア)及びクロアチアとは400kV送電線で連系されているほか、オーストリア及びウクライナとは220kVでも連系している。さらにウクライナとは、1980年以降、750kV連系線を運用している。図3にハンガリーの送電系統図を示す。なお、120kV以下の送配電線は配電会社に移管されているが、220kV以上の送配電線と国際連系線は、2006年にハンガリー電力会社(MVM Rt.)の送電部門が独立してできた系統運用者MAVIR ZRt.が所有・運営している。
 ハンガリーは、チェコ、ポーランド及びスロバキアと共に、4ヵ国間を連系する協調機関であるCENTRELのメンバーである。西欧州を中心とする国際連系のための協調機関である発送電協調連盟(UCPTE)は、1995年からCENTRELと連係している。CENTRELメンバーは、1999年1月からUCPTEの準メンバーに、2001年5月から正式メンバーとなったが、CENTRELは設立当初の目標を達成して2006年12月31日に解散した。また、MAVIR ZRt.は2004年1月に欧州送電系統運用者協会(ETSO)の国際取引制度(CBT)に参加し、2004年4月から正式メンバーになっている。
3.3 輸入電力と消費電力量
 1960年代以降、急速な工業化に伴う電力需要増加に対処するため、発電設備を増強する一方、外国からの輸出入差引電力量(輸入電力量)を徐々に拡大し、1980年代後半には国内供給電力量の約30%を輸入電力に依存するようになった。一時、市場経済への移行に伴う混乱と景気後退により、電力需要は減少し、電力の輸出入も減少したものの、その後は西欧諸国との国際電力取引が活発になり、隣国のオーストリアへの輸出電力量も急増した。2000年以降、国内供給電力量の約30%を輸入電力に依存している。なお、ハンガリーは主にウクライナとスロバキアから電力を輸入し、クロアチアへ電力を輸出する構造になっている(図4参照)。
 1990年以降、消費電力量の増減と平行して、電力の消費構成も大きく変化した(図5参照)。2011年の鉱工業用消費電力量は1995年の約1割に減少する一方、家庭用の消費電力量は年々増加傾向にある。この理由は、第一に国民の生活レベルが分化し、富裕なグループが電気器具を新たに購入していること、第二には地方電化が進み、家庭用の需要を促進させたことが挙げられる。
4.電源開発計画
 2012年2月、ハンガリー国家開発省(Ministry of National Development)は、2030年を見通したエネルギー政策の基礎となる「エネルギー戦略 2030(National Energy Strategy)」を発表した。このエネルギー戦略は、EUレベルで設定された必要条件を踏まえ、エネルギー供給の安定性、エネルギー供給競争力強化、及び持続可能性の確保を目指し、エネルギー供給は環境的な側面を考慮しつつ長期的に安定確保されるべきとしている。戦略に定められた目標を達成するため、(1)消費エネルギーの節約とエネルギー効率の向上、(2)再生可能エネルギーの開発、(3)中欧州送電ネットワークの構築と統合、(4)原子力発電の維持と運転実績の向上、(5)環境に優しい国内炭及び褐炭資源の活用、の5つを重点項目とした。この戦略を踏まえ、2050年までの6つの発電構成シナリオが示されている(図6参照)。具体的構成シナリオは今後の電力需要動向に応じて変更されるものの、いずれのシナリオも、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの電源開発に加え、2030年までのベース電源を原子力とするパターンである。なお、ハンガリーの再生可能エネルギーのエネルギー比率は、EUとの取決めで2020年までに13%にする義務を負っている。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
表1 ハンガリーの電力需給バランス
表1  ハンガリーの電力需給バランス
表2 ハンガリーにおける電源別発電電力量と設備容量の推移
表2  ハンガリーにおける電源別発電電力量と設備容量の推移
表3 ハンガリーにおける電気事業者と株式比率
表3  ハンガリーにおける電気事業者と株式比率
図1 ハンガリーにおける電源別発電電力量の推移
図1  ハンガリーにおける電源別発電電力量の推移
図2 ハンガリーの主要発電所立地図
図2  ハンガリーの主要発電所立地図
図3 ハンガリーの送電系統図
図3  ハンガリーの送電系統図
図4 ハンガリーにおける周辺諸国との電力輸出入バランス
図4  ハンガリーにおける周辺諸国との電力輸出入バランス
図5 ハンガリーの電力消費構造の推移
図5  ハンガリーの電力消費構造の推移
図6 ハンガリーの発電構成シナリオ
図6  ハンガリーの発電構成シナリオ

<関連タイトル>
ハンガリーの国情およびエネルギー事情 (14-06-09-01)
ハンガリーの核燃料サイクル (14-06-09-03)
ハンガリーの原子力発電開発 (14-06-09-04)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編、(2010年3月)、ハンガリー共和国
(2)(一社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2013、(2012年10月)、ハンガリー
(3)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2013年版、(2013年5月)
(4)ハンガリー国家開発省:NATIONAL ENERGY STRATEGY 2030、(2012年)、

(5)ハンガリー原子力庁(HAEA):National Report Fourth Report prepared within the framework of the Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management, 2011、

(6)国際エネルギー機関(IEA):2009 Energy Balance for Hungary、
http://www.iea.org/stats/WebGraphs/HUNGARY2.pdfおよびEnergy Policies of IEA
Countries Hungary 2011 Review、http://www.iea.org/publications/freepublications/publication/hungary2011_web.pdf
(7)米国エネルギー情報局:International Energy Statistics、

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