<本文>
1.カナダの放射性廃棄物の現状
カナダでは
天然ウランを効率よく燃焼させることを目的に開発されたカナダ型重水炉(CANDU炉)が採用され、2010年1月現在、運転中18基、休止中4基、閉鎖3基の原子炉が7カ所に所在する。なお、25基の原子炉のうち、ニュー・ブランズウィック・パワー州のPoint Lepreauとケベック州のGentilly-2発電所以外の22基はオンタリオ州に立地しており、オンタリオ・パワー・ジェネレーション社(OPG:Ontario Power Generation Inc.)により運転されている(
図1参照)。設備容量は1,329万kWで、発電電力量は886億kWh、総発電電力量の約14.8%を占めている。また、カナダはウラン資源が豊富で、2008年の年間生産量は約9,000tUに達し、世界の20.5%を供給した。これら原子力産業に伴うカナダの放射性廃棄物は、高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)、低レベル廃棄物(歴史的廃棄物および燃料製造、原子力発電、放射性同位体製造・使用、原子力研究に伴って発生した放射性廃棄物)、ウラン尾鉱(選鉱後に生まれる低品位の鉱物)・製錬残渣の3種類に分類される。
使用済燃料に関しては、10〜20年間使用済燃料プールで冷却後、乾式貯蔵コンテナ(Dry Storage Containers:DSC、約50年間貯蔵)にパッケージされ、各原子力発電所のサイト内の貯蔵施設で貯蔵されている。1995年からピッカリング乾式貯蔵施設(PWMF:Pickering Waste Management Facility)が、2002年からブルース乾式貯蔵施設(BWMF:Bruce Waste Management Facility)が、2007年からダーリントン乾式貯蔵施設(DWMF:Darlington Waste Management Facility)が貯蔵を開始した。因みにOPG社の場合、2007年には119個のDSCが施設に搬入され、合計貯蔵量は640個となった。2012年にはDSC所蔵量が累計1,712個に達する見通しである。OPG社は増加分を貯蔵施設の拡張で対応していく予定である。PWMF の場合、1995年操業時のDSC収容能力は700個であったが、2008年のフェーズIIでは900個まで拡張されている。なお、CANDU炉の燃料集合体は燃料バンドルが数個直列に並んだものが軽水炉の1燃料集合体に相当し、DSC1個には384の燃料バンドルが収納される。燃料交換はバンドル単位で行われ、1年間に54,000燃料バンドルが消費されている(
図2参照)。
一方、燃料製造や放射性同位体の製造および使用、原子力研究に伴って発生した低・中レベル放射性廃棄物はカナダ原子力会社(AECL:Atomic Energy of Canada Ltd.)のチョークリバー研究所の施設で貯蔵している。また、OPG社の原子炉から発生した低・中レベル放射性廃棄物は、ブルース原子力発電所内のウェスタン廃棄物管理施設(WWMF)で貯蔵している。OPG社は、低・中レベル放射性廃棄物の地中処分施設(DGR:Deep Geologic Repository Project for Low & Intermediate Level Waste)をブルース発電所サイトに建設することを検討しており、低・中レベル放射性廃棄物の長期管理のための立地協定を2004年10月にオンタリオ州キンカーディン自治体と締結した。住民の賛同が得られた場合、DGRは2012年から地下680mの岩盤内に建設され、2017年以降に操業を開始する(
図3参照)。この施設は、同発電所の原子炉が寿命を迎える2035年までに発生する低・中レベル放射性廃棄物と、原子炉解体に伴う解体廃棄物の合計約16万m
3を受け入れる。現在は、カナダ
原子力安全委員会(
CNSC)から環境影響評価声明書(EIS)のガイドラインが公表された段階で、環境アセスメントの実施、EISの提出、公開協議、評価審査などが続く。なお、廃棄物は減容処理により容積を減量しているが、2012年には5,000m
3の低・中レベル放射性廃棄物がWWMFへ搬入され、貯蔵量は10万m
3に達する見通しである。
2.カナダの
放射性廃棄物管理の実施体制
天然資源省(NRCan)は、実施主体の設立、地層処分を含めた研究開発の推進、資金確保制度の確立など、核燃料廃棄物の長期管理を実施することを目的に、核燃料廃棄物法を2002年11月に施行した。これに伴い、核燃料廃棄物の管理事業の全般的な監督を行う核燃料廃棄物局(NFWB)がNRCan内に創設され、主な廃棄物発生者であるOPG社、ハイドロ・ケベック(HYDRO QUEBEC)社、ニュー・ブランズウィック・パワー(New Brunswick Electric Power Commission)社により、廃棄物管理の実施主体となる核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立された(
図4参照)。さらにNWMOに対して助言や報告書の評価等を行う諮問機関として諮問評議会が設立された。安全規制機関としてはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が原子力安全管理法によって設立され、ICRPの勧告を参考に「放射性廃棄物管理の長期的な安全性に関する評価」を策定、安全基準に係る法整備を行っている。核燃料廃棄物の長期管理に必要な資金の確保は、核燃料廃棄物法により、各原子力発電会社とAECLにより信託基金が創設された。核燃料廃棄物管理費用の見積額は、使用済燃料集合体360万体に対して70〜80億カナダドル(2009年時点で日本円換算6,720〜7,680億円)になるとされている。同費用には、廃棄物発生者が支払う使用済燃料のサイト貯蔵費用、核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が支払う処分場の開発・建設・2035年からの操業、および処分場への使用済燃料輸送に要する費用等が含まれる。
3.高レベル放射性廃棄物に関する政策の経緯と概要
カナダでは、1970年代に入って豊富なウラン資源を背景に経済性が優先され、使用済燃料を再処理せずに直接地層処分することが決まったため、使用済燃料の長期貯蔵技術の確立と深地層への処分対策が新たな課題となった(
表1参照)。廃棄物の処分研究は当初、オンタリオ・ハイドロ社(OH:Ontario Hydro、OPG社はOH社の発電部門を引継いだ)を管轄するオンタリオ州政府と連邦政府により進められた。連邦およびオンタリオ州政府により1978年に「核燃料廃棄物管理プログラム」が発表され、これに基づいてAECLがカナダ楯状地深成岩中への深地層処分の研究を、OH社が中間貯蔵および輸送についての研究開発を進めることになった。AECLはマニトバ州にホワイトシェル研究所(WNRE)を設立し、地下研究施設(URL)を併設して原位置試験を実施した。研究成果は1994年にAECLによって「カナダの核燃料廃棄物の処分概念に関する環境影響評価書」として纏められ、公表されている。この評価書をレビューする機関として、核燃料廃棄物管理・処分概念の評価パネル(環境評価パネル)が1989年に設置された。環境評価パネルは公聴会を経て、1998年3月に連邦政府に「放射性廃棄物管理処分方針環境評価報告書」を提出した。これを受けて、政府は「深地層処分は科学的には受け入れられるが、カナダ国民はこの考えには賛同していない」と結論し、廃棄物処分計画は振り出しに戻った。
その後、処分計画は見直され、天然資源省(NRCan)は、実施主体の設立、地層処分を含めた研究開発の推進、資金確保制度の確立など、核燃料廃棄物管理の実施を目的とした核燃料廃棄物法を2002年11月に施行した。核燃料廃棄物管理の実施主体として設立された核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、核燃料廃棄物の地層処分、サイト貯蔵、集中貯蔵の各々の長期管理アプローチについて、技術的、倫理的、社会的および経済的側面などから総合的に検討し、最終報告書「進むべき道の選択(Choosing a Way Forward The Future Management of Canada's Used Nuclear Fuel)」を2005年11月に公表した(
表2参照)。使用済燃料は再処理せずに高レベル廃棄物として当面(約60年間)、サイト貯蔵、集中貯蔵を実施し、最終的には地層処分を行う適応性のある段階的管理アプローチが提案された。2007年6月には天然資源大臣の勧告を受けて総督決定が行われ、正式に採用されている。現在、NWMOは処分場サイト選定手続きの策定を開始している。適応性のある段階的管理アプローチの実施に関する「2009年〜2013年の5年間における実施計画書」によると、2011年までにフィージビリティ調査を開始し、2012年末までに候補サイトにおける技術的および社会経済的評価の開始準備を行う予定である。
4.カナダにおける使用済燃料に関するPA対策
放射性廃棄物処分方針に関するPA対策は、当初はAECLを中心に実施されていたが、現在はNWMOがそれを引き継いでいる。また、放射性廃棄物に関する政策決定を担当しているNRCanと規制を行っているCNSCも決定事項に関する情報開示を行っている。特に、カナダでは放射性廃棄物処分の基本方針や処分場の選定・建設の決定など、国の重要な政策決定の過程には、国民から広く意見を聴取する機会として、公聴会(パブリック・レビュー)の開催が義務付けられている。また、使用済燃料の発生者や所有者等の関係者も、パブリック・レビューに対応した分かりやすく、詳細な内容が把握できるように配慮された資料冊子を作成し、国民に提供している。カナダでは、放射性廃棄物のサイト選定、地層処分場の建設、閉鎖等への市民、地方自治体、州等による継続的な関与が保証されている。
<図/表>
<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
カナダの原子力政策・計画 (14-04-02-01)
カナダの原子力発電開発 (14-04-02-02)
カナダの原子力開発体制 (14-04-02-03)
カナダの核燃料サイクル (14-04-02-05)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:原子力年鑑1999/2000年版(1999年10月)、p.331-338
(2)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック1994年版(1994年7月)、p.135-138
(3)核燃料廃棄物管理機関(NWMO):DGR Summary and Key Features、
http://www.nwmo.ca/dgrsummary
(4)オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG:Ontario Power Generation Inc)社:
(5)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編(2008年10月)、p.20-23
(6)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2009年版(2009年4月)
(7)(独)日本原子力研究開発機構主要国の処分計画の現状‐処分場の概念に関する最新動向−(2009年1月)、
http://www.jaea.go.jp/03/senryaku/seminar/07-1.pdf
(8)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2009年2月)、p.20-21およびp.184-187
(9)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の高レベル放射性廃棄物等の状況、諸外国の動き(ニュース)