<大項目> 海外情勢
<中項目> アジア各国
<小項目> バングラデシュ
<タイトル>
バングラデシュの国情と原子力開発 (14-02-10-01)

<概要>
 バングラデシュの国内資源(確認埋蔵量)は石油、石炭ともに乏しい。天然ガスについては若干の国内資源があるが、最近の急速なエネルギー需要に対応するため、エネルギー効率の改善、省エネの推進に加えて、再生可能エネルギーの利用や原子力発電の開発に積極的である。
 バングラデシュの原子力発電開発は旧東パキスタン時代から培われ、1961年には立地サイトとしてガンジス川中流に位置するルプールが検討された。ルプールサイトのフィージビリティ・スタディ(立地可能性調査)は何度となく行われたが、1965年に納入されるはずのカナダCANDU炉が西パキスタンのカラチに変更され、ベルギー企業との6万kW原子炉1基の建設契約が1970年の独立戦争で中断されるなど、発電所建設には至らなかった。
 1990年代に入って原子力発電所建設計画が再開されると、2009年3月にロシアから100万kW級原子炉2基の建設が正式に提案された。2011年11月、ルプール原子力発電所の建設に関する政府間協定をバングラデシュ原子力委員会とロシアのロスアトム社が締結、アトムストロイエクスポルト社が主契約社として選定された。建設資金の90%はロシアからのローンで賄われ、1号機の着工は2017年の予定である。
<更新年月>
2016年11月   

<本文>
1. はじめに
 バングラデシュ人民共和国は、インドの東側に位置し、ガンジス川、ブラフマプトラ川、メグナ川の堆積作用で形成されたデルタ地帯に立地する、ベンガル語圏に属するイスラム教徒主体国家である。熱帯モンスーン気候の影響を強く受け、肥沃な土壌と漁場に恵まれる一方、サイクロンや洪水等の自然災害に対する脆弱性を抱えている。面積は日本の約4割に相当する14万7,000km2、人口は1億5,940万人(2015年10月、世界188カ国中第8位)、デルタ地帯の人口密度が極めて高い開発途上国である。
 バングラデシュは1947年8月、イスラム教徒を中心にパキスタンの一部としてイギリス領インドから独立したが、民族自治権要求運動に発展した「第3次印パ戦争」を経て1971年12月にパキスタンから独立した。その後、軍事政権による支配が続いたが、1990年12月のエルシャド大統領退陣後、民主的総選挙に基づいた議院内閣制へ移行した。経済の自由化政策が推進され、直近5年間の実質経済成長率は平均で6%超を維持している。2015年度(2014年7月−2015年6月)のバングラデシュ経済成長率は6.55%、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に次ぐ「ネクスト11」の新興経済国の一つに位置づけられている(図1参照)。一方、国内2大政党バングラデシュ民族主義党(BNP)とアワミ連盟の対立は深刻で、政治情勢の安定化と財政基盤の強化が課題である。
2. エネルギー政策
 バングラデシュは石油、石炭ともに国内資源(確認埋蔵量)に乏しいが、天然ガスについては若干の国内資源を持つ。BP統計によると、2015年の一次エネルギー消費量は前年度8.7%増の石油換算3,071万トン、消費量の約8割を天然ガスに依存している(図2参照)。2015年末時点の天然ガス確認埋蔵量は約2322億m3で、可採年数(R/P)は8.7年である。2014年の生産量は268億m3、生産量も消費量と同量である。天然ガス消費量の消費速度が大きく、枯渇する恐れがあるとされている。なお、石油はほとんど輸入に依存している。低所得者層の多い農村部では薪や動物のフン等のバイオマス燃料が主流である。このまま森林の伐採を継続した場合、2020年にはバングラデシュの森林が消滅するのではないか危惧されている。
 バングラデシュのエネルギー政策としては、以下の目標が掲げられている。
1)最少費用でエネルギー資源を開発する。
2)天然ガス、石炭など国内資源の有効利用を図り、石油の輸入依存度を低下させる。
3)エネルギー部門、特に天然ガス・石油探査への民間部門の参加を促進させる。またBOT(Build Operation Transfer)方式による電力部門への民間参入を促進させる。BOT方式とは外国資本で設備の建設・操業を行い投資回収後、相手国へ設備を譲渡することをいう。
4)需要面において省エネルギーを促進させるとともに、供給面では電力供給の効率化を図る。なお、実施に当たっては海外協力(技術援助や研修)を最大限活用する。
5)森林資源の枯渇を考慮し、バイオマス燃料の開発・普及を促進する。開発・普及に当たってはNGOの参加を呼びかける。
3. 電力事情
3.1 電気事業体制(図3参照)
 バングラデシュにおける電気事業は電力エネルギー鉱物資源省(MPEMR)の直轄下でバングラデシュ電力開発庁(BPDB)と独立系発電事業者(IPP)が発電を行い、発生した電力をBPDBが自社の送電系統を利用して地方都市へ電力を供給するとともに、首都圏で送配電事業を行うダッカ電力供給公社(DESA)と農村部で電化事業を行う農村電化庁(REB)に卸売りを行っていた。DESAは送電ロスや低料金回収問題を改善するため、1996年9月にDESAの供給地域の一部をダッカ電力供給会社(DESCO)に移管した。さらに1996年11月には電力系統会社(PGCB)が創設され、独立採算を目指す企業体としてBPDBの電力系統部門を引き継いだ。REBは首都圏以外の地域において、既存の送電系統から電力供給するために変電設備や配電設備を建設すると共に、送電系統の整備されていない地域でディーゼルや太陽光などの小規模な発電設備と配電設備を設置して地方電化を促進している。完成した設備は農村電化組合(PBS)に引き渡され、PBSが設備の管理や配電事業の運営を行っている。
3.2 電力需給バランス
 バングラデシュでは2000年以降総発電電力量が急増している。2000年度の総発電量は162億5,500万kWhであったが、2015年にはその3倍以上458億3,600万kWhになっている。電源別では、天然ガスが約7割を占める(図4参照)。また、インド間の送電網が完成し、2013年10月からインドから電力輸入を開始した。2015年会計年度の発電設備容量は前年度比11.4%増の10,939MWで、ピーク発電量も6.3%増の781万7,000kWであった。2014年度の用途別販売電力量の内訳は、一般家庭用が35%、工業用が55%、商業用が6%、農業用が3%となっている。
 バングラデシュでは電力の供給力不足が続いている。送配電網整備の遅れから地方部には未電化地域も多数ある。潜在的な電力需要は極めて大きいものの、資金面など多くの問題を抱えている。
3.3 電源開発計画
 バングラデシュ電力開発庁(BPDB)は2010年、実質経済成長率を年7%として、電力セクターマスタープラン(PSMP:Power System Master Plan)を作成した。PSMPによると、発電設備容量の目標は2016年の14,943MWから2021年には23,809MW、2030年には38,685MWと設定している。国内炭および輸入炭を用いた石炭火力発電所の建設、再生可能エネルギーの導入、原子力発電の導入を検討し、2030年時点の燃料別発電設備構成は石炭火力50%(国内炭30%、輸入炭20%)、天然ガス火力(LNGを含む)25%、石油火力5%、原子力・再生可能エネルギー・輸入電力20%としている。
 2012年には持続・再生可能エネルギー開発庁(SREDA)が設立され、2030年までの省エネルギーマスタープランを発表した。省エネ目標は2013〜2014年ベースで2021年には15%、2030年には20%とGDP当たりのエネルギーインテンシティー比(toe/GDP)を定めている。
4. 原子力事情
4.1 原子力発電開発の経緯
 バングラデシュの原子力発電開発構想は旧東パキスタン時代から始まり、フィージビリティ・スタディ(立地可能性調査)の結果、1963年には首都ダッカから北西約160kmのガンジス川中流域のパブナ(Pabna)県パドゥマ川中流に位置するルプール(Rooppur)が建設候補として選定された(図5参照)。しかし、ルプールサイトは、1965年に納入されるはずであったカナダのCANDU炉が西パキスタンのカラチに変更され、1971年にはベルギー企業と6万kWの発電所1基の建設契約を結んだが、独立戦争のため建設計画は中断している。1980年にはフランスからの原子炉導入が検討されたが、資金繰りに行き詰まり中断した経緯がある。
 ルプール発電所建設計画は1990年代に入ると政府レベルで具体的に検討されるようになり、1995年には建設委員会(現、ルプール原子力発電プロジェクト国家委員会)が設置された。1996年の「国家エネルギー計画」には原子力発電がオプションとして盛り込まれ、国際原子力機関(IAEA)による導入に関する予備的検討も行われた。2000年1月、バングラデシュ国家原子力行動計画(BANPAP:Bangladesh Nuclear Power Action Plan)が定められ、2003年に改めてロシアやその他の国々と協議を行うことになった。
 なお、バングラデシュは1972年9月にIAEAに加盟し、IAEA保障措置協定(INFCIRC301)を1982年6月に、IAEA追加議定書を2001年3月に発効している。また、核不拡散条約(NPT)には1979年8月に、包括的核実験禁止条約(CTBT)には2000年3月に批准した。そのほか、2005年6月に核物質防護条約を発効したほか、2007年6月、核テロリズム防止条約に加盟している(表1参照)。
4.2 原子力開発体制
 バングラデシュの原子力開発はルプール原子力発電所建設計画の浮上に伴い、1964年にダッカに原子力開発センター(AECD:Atomic Energy Centre,Dhaka)が設立され、本格的な調査・研究が開始された。1971年の独立後も原子力研究開発を継続する目的で、1973年2月に大統領府令によりバングラデシュ原子力委員会(BAEC:Bangladesh Atomic Energy Commission)が設立された。なお、BAECは原子力分野以外の科学技術全般に関しても重要な役割を果たしている。
 1975年にサバール原子力研究所(AERE)が設立され、研究炉トリガ・マークII(3MW)が設置された。マークIIは1986年9月に臨界となり、中性子物理、原子炉物理、原子化学、アイソトープ生産(99mTc、131Iなど)、運転員の訓練、放射線管理等に利用されている。また、研究所は5万キュリー(1.85ペタベクレル)の60Co照射装置を所有し、食品照射、バイオ・テクノロジーによる品質改良等の研究に利用されている。BAECには、AEREの他、次の5つの研究機関がある(図6参照)。
(1)ダッカ原子力センター(AECD:Atomic Energy Centre,Dhaka)
 活動内容:加速器、イオンビーム工学・解析、非破壊検査等。
(2)サバール原子力研究所(AERE:Atomic Energy Research Establishment)
 活動内容:放射線管理、廃棄物管理、中性子放射化分析、原子炉物理、プラズマ工学等。
 他、原子力科学技術研究所(INST)、食品放射線生物研究所(IFRB)、電子工学・材料科学研究所(IEMS)、核医学研究所(INM)、コンピュータ科学研究所(ICS)を持つ。
(3)ビーチサンド鉱物調査センター(BSMEC:Beach Sand Minerals Exploitation Centre)
 活動内容:沿岸地帯の砂丘沈殿物からの重鉱物・放射性鉱物の産出・分布・鉱物組成・特性に関する比較研究等
(4)放射線試験・モニタリングラボラトリ(RTML:Radiation Testing&Monitoring Laboratory)
(5)核医学超音波研究所(INMU:The Institute of Nuclear Medicine and Ultrasound)
 なお、原子力規制組織として、2013年2月の大統領令により、バングラデシュ原子力庁の規制部門(旧:原子力安全・放射線管理部(NSRCD))が独立し、バングラデシュ原子力規制庁(BAERA:Bangladesh Atomic Energy Regulatory Authority)が設立されている。
4.3 ロシアによるルプール原子力発電所建設計画
 積極的な原子力発電プラントの輸出戦略を掲げるロシア、中国および韓国はルプール発電所建設への経済的・技術的援助を申し出ていたが、2009年3月、ロシアは正式に100万kW級原子炉建設計画をバングラデシュ政府に提案。同年5月にはバングラデシュ原子力委員会(BAEC)とロシアのロスアトム社が原子力平和利用に関する協力覚書(MOU)に署名した。2010年5月、バングラデシュ政府・ロシア間でルプール原子力発電所プロジェクトに関する枠組み協力協定が締結された。協力分野は発電炉、研究炉、海水脱塩プラントおよび粒子加速器の立地・設計・建設・運転に関するもので、燃料供給、放射性廃棄物の取り扱い、廃止措置に及ぶ。使用済燃料と廃炉はロシア側が担当することになった。
 2011年11月2日、BAECはロスアトム社と原子力発電所の建設に関する政府間協定を締結し、アトムストロイエクスポルト(ASE)社を主契約社として選定した。また、2013年10月には科学技術省による広報活動を円滑に進めるため、ロシアの協力を得て、首都ダッカに原子力情報センターを設置した。2013年10月、BAECとロスアトム社傘下の設計・調達・建設総合会社NIAEP−ASE社の間で原子炉建設に関する技術契約が調印された。炉型は、ロシア型PWRであるVVER−1200(AES−2006)の改良型(第3世代+)が挙げられた。2015年10月にはVVER−1200が正式採用され、2015年12月、バングラデシュ政府は2基・各120万kWの原子力建設プロジェクトを承認した。総費用126億5,000万ドルのうち90%はロシア政府からの信用取引で賄われる。最初の1年間はロスアトム社が運転し、その後はバングラデシュ原子力発電機構(NPAB)が運転を行う。2017年に着工、1号機、2号機は各々、2024年、2025年までの営業運転開始を目指している。
<図/表>
表1 原子力研究、開発、利用の歴史
図1 バングラデシュの経済成長率と1人当たりGDP(USドル)の年次推移
図2 バングラデシュにおける一次エネルギー消費量の推移
図3 バングラデシュの電気事業体制
図4 バングラデシュにおける総発電電力量の推移
図5 バングラデシュの原子力発電所所在地
図6 バングラデシュ原子力行政・規制体制組織図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
バングラデシュにおけるRI、放射線利用 (14-02-10-02)
パキスタンの原子力開発と原子力施設 (14-02-12-01)

<参考文献>
(1)「原子力年鑑」編集委員会編纂、日刊工業新聞社発行:原子力年鑑 2017年版
(2016年10月)、バングラデシュ
(2)(社)海外電力調査会(編):海外諸国の電気事業、第2編、2010年(2010年3
月)、バングラデシュ
(3)((社)原子力産業協会:[JAIF]躍進するアジアの原子力、バングラデシュ人民
共和国(2009年10月22日)、http://www.jaif.or.jp/ja/asia/bangladesh_data.html
(4)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power in Bangladesh(2016年7月)、
http://www.world-nuclear.org/information-library/country-profiles/countries-a-f/bangladesh.aspx
(5)BP p.l.c.:Statistical Review of World Energy 2016
(6)バングラデシュ電力開発庁(BPDB:Bangladesh Power Development Board):
Annual Report 2014−2015
(7)公益財団法人原子力安全研究協会:平成27年度文部科学省委託事業 原子力
平和利用確保調査成果報告書(2016年3月)、バングラディッシュ
(8)国際通貨基金(IMF):World Economic Outlook Databases(2016年10月版)、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/02/weodata/weorept.aspx?sy=2000&ey=2021&scsm=1&ssd=1&sort=country&ds=.&br=1&c=513&s=NGDP_RPCH%2CNGDPDPC&grp=0&a=&pr1.x=72&pr1.y=11
(9)IAEA技術会合情報:
(10)バングラデシュ原子力委員会(BAEC):http://www.baec.gov.bd/
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