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<概要>
 アフリカ非核兵器地帯条約(African Nuclear Weapons Free Zone Treaty、通称ペリンダバ条約)は、アフリカの非核地帯化を実現するため、1996年4月11日、カイロにおいて、アフリカ諸国47か国により署名された条約は、アフリカ連合を構成する国とモロッコを含む54か国が対象で、発効に必要な批准は28か国。2009年7月15日ブルンジが批准したことで条約は即日発効した。
 条約は、アフリカ大陸、その周辺海域、諸島に適用され、締約国による核兵器の研究、開発、製造、貯蔵、取得、保有、管理および核実験が禁止される。また、締約国の領域内での核爆発装置の配置、設置、陸上又は内水における運搬、貯蔵、保管、取り付け、配備および核実験も禁止される。原子力の平和利用は禁止されていないが、平和利用目的であっても特定の核分裂性物質およびその製造等のための原料や資機材を提供しない等の規定が盛り込まれている。
<更新年月>
2010年08月   

<本文>
1.条約の経緯
 アフリカにおける非核化の動きは、1960年2月のフランスによるサハラ砂漠での核実験開始に前後して始まった。同年11月に国連はフランスの核実験に関する決議を行い、1961年11月の第16回国連総会ではアフリカ非核地帯化宣言が採択された。また、1964年にはアフリカ統一機構(OAU:Organization of African Unity)においてもアフリカ非核化宣言(カイロ宣言)が採択された。
 これらの理念を具体化するための本条約の構想は、1970年代から1980年代にかけて核兵器を製造した南アフリカ共和国の核保有疑惑により実現しなかったが、南アフリカ共和国が核兵器を破棄して1991年の核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に加盟してから急速に進展した。その後、モーリシャスおよび英国が領有権を主張しているディエゴ・ガルシアを非核地帯条約の適用範囲に含めるか否かで議論が続いていたが、その議論を一時棚上げする形で、1993年から3回の専門家会議を経て1995年6月の第31回OAU首脳会議(アジスアベバ)で最終案文が採択され、1996年4月11日に、カイロにおいてOAU加盟52か国のうち47か国により署名された。2009年12月末現在、署名国は50か国となっており、このうち、アルジェリア、ボツワナ、ブルキナファソ、コートジボアール、ガンビア、ギニア、マリ、モーリタニア、モーリシャス、南アフリカ、スワジランド、トーゴ、タンザニア、ジンバブエ、ベナン、赤道ギニア、エチオピア、ガボン、ケニア、レソト、リビア、マダガスカル、モザンビーク、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、マラウィ、ブルンジの28か国の批准書の寄託により2009年7月15日に発効した。
 なお、この条約の通称であるペリンダバとは、南アフリカ原子力研究所がある同国プレトリア近郊の町の名前で、ここで本条約が実質的に合意されたことにちなんでいる。また、ここには、本条約の実施機関となるアフリカ原子力委員会が設置されることが条約で規定されている。
 表1に本条約の対象国と批准状況を、図1に本条約に関連するアフリカ諸国のエリアマップを示す。なお、アフリカ統一機構(OAU)は1963年5月25日に発足、2002年7月9日に発展改組してアフリカ連合(AU:African Union)として発足。エチオピアのアジスアベバに本部を置き、53か国が参加している。
2.条約の概要
 本条約の特徴は、禁止の対象を核兵器ではなく「核爆発装置」としたこと、および放射性廃棄物の地帯内における投棄を禁止したことであり、これは南太平用非核地帯条約をモデルとして作成されている。また、かつて製造した核爆発装置や製造施設の廃棄といったユニークな規定がおかれているほか、核爆発装置の研究禁止、核物質の防護、原子力施設の攻撃禁止など、他の非核兵器地帯条約にみられない義務が定められている。
 条約は、本文22条、アフリカ非核兵器地帯の適用範囲地図に関する付属書、アフリカ原子力委員会に関する付属書、苦情申立て手続きと紛争の解決に関する付属書並びに核兵器国および域内属領領有国に対する3つの議定書からなる。議定書Iは核兵器国による消極的安全保証を、議定書IIは核兵器国による核実験の禁止を、議定書IIIには域外国(フランス、スペイン)による地域内領域非核化の義務を定めている。概要は次のとおりである。
・条約は、アフリカ大陸およびOAU加盟国およびOAU決議によりアフリカに属すると定められている島嶼の領域(領土、内水、領海、群島水域、それらの上空とその海底および地下)に適用され、こ嶼れらを「アフリカ非核兵器地帯」という。東南アジア非核兵器地帯のように排他的経済水域や大陸棚は含まれていない。
・締約国による核爆発装置の研究、開発、製造、貯蔵、取得、保有、管理、配置は禁止される。また、締約国はこれらのための援助を求めず、受けず、与えず、奨励しない。
・締約国は、自国の領域内での核爆発装置の配置、設置、陸上又は内水における輸送、貯蔵、保管、取り付けおよび配備を禁止する。
・外国船舶、航空機による寄港、外国航空機による領空通過、無害通航・群島航路帯通航、海峡の通過通航の権利に含まれない方法での外国船舶の領海・群島水域の航行を認めるか否かの決定権は締約国が有する。
・締約国は、核爆発装置の実験を行わず、自国の領域内で同実験が行われることを禁止する。また、いかなる国がいかなる場所において同実験を行うことも援助、奨励しない。
・締約国は、核爆発装置の製造能力につき申告し、本条約発効前に製造された核爆発装置を解体、破壊し、核爆発装置製造施設を破壊又は平和利用に転用し、同過程に対するIAEAおよびアフリカ原子力委員会の査察を受け入れる。
・締約国は、アフリカへの有害廃棄物の輸入を禁止し、同物質の国境を越える輸送、処理を管理するバマコ協定の放射性廃棄物に関する規定を実施し、ガイドラインとして使用する義務を負う。また、アフリカ非核兵器地帯における放射性廃棄物その他の放射性物質の投棄に関する援助、奨励を行わない。
・本条約は、原子力科学技術の平和利用を妨げるものと解釈してはならない。経済、社会開発に原子力科学技術を使用することを促進し、そのために、二国間、地域レベルの協力機構を設置、強化する。締約国は、IAEAの援助計画の利用および原子力科学技術の研究、研修、開発に関するアフリカ地域協力協定(AFRA)の下での協力を強化することを奨励される。
・原子力平和利用は厳格な核不拡散措置の下に行い、締約国は、IAEAとフルスコープ保障措置協定を締結する。同協定未締結国に対しては、平和利用目的であっても、特定の核分裂性物質およびその製造等のための原料や資機材を提供しない。特定の核分裂性物質については、核物質防護条約およびIAEAの勧告・ガイドラインに規定される措置と同等の防護措置を講ずる。
・締約国は、アフリカ非核兵器地帯条約内の原子力施設に対する武力攻撃を行わず、これを援助、奨励しない。
(核兵器国に対する議定書)
・議定書締約国は、本条約を尊重し、本条約および議定書の違反行為に寄与しない。
・議定書締約国は、いずれの締約国に対しても核兵器を使用し又は核兵器使用の脅威を与えないことを約する。また、アフリカ非核兵器地帯において同様の行為を行わないことを約する。
・議定書は、核兵器国(米、英、仏、ロ、中)に開放される。
 議定書は、本条約が署名された1996年4月11日に米、英、仏および中国により署名された(表2参照)。また、英、仏、中の3国は関連議定書に関して既に批准を終えている。なお、本条約は英国およびモーリシャスの間で領有権が争われているディエゴ・ガルシア島を条約の適用範囲に含めているが、この条約は本件領有権問題に対して影響を及ぼさないと規定している。英および米は、議定書に署名するにあたり、同島はインド洋にある英国領で、本条約又は議定書により同島における英、米およびその他本条約の締約国でない国の活動が制限されることはない旨の解釈宣言を行った。これにより米、英は、ディエゴ・ガルシア島の米軍基地の活動について、この条約の制限を受けないとしているが、ロシアはこの点について懸念を示し、議定書に署名していない。
(域内属領領有国に対する議定書)
・議定書締約国は、域内属領において本協定締約国と同様の義務を負う。
 議定書の対象国は仏およびスペインである(仏は署名、批准ずみ)。
 ペリンダバ条約をはじめとする世界の非核兵器地帯と核拡散の現状を図2に示す。
(前回更新:2002年3月)
<図/表>
表1 ペリンダバ条約の対象国と署名、批准国
表1  ペリンダバ条約の対象国と署名、批准国
表2 ペリンダバ条約議定書の批准状況
表2  ペリンダバ条約議定書の批准状況
図1 ペリンダバ条約関連国エリアマップ
図1  ペリンダバ条約関連国エリアマップ
図2 世界の非核兵器地帯
図2  世界の非核兵器地帯

<関連タイトル>
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)

<参考文献>
(1)外務省のホームページ「これまでに署名された非核兵器地帯条約」、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/n2zone/sakusei.html
(2)(財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターのホームページ「非核兵器地帯の包括的検討」
(3)United Nations Publication:The United Nations Disarmament Yearbook vol.25:2000, p.247-255, 2001.
(4)米・国務省(U.S.Department of State)のホームページ、http://www.state.gov/
(5)櫻川 明巧:南半球を包む非核地帯条約、軍縮問題資料 No.187、宇都宮軍縮研究室(1996年6月)、 p.7-8
(6)小室 千帆:非核兵器地帯条約−概要と対比、核物質管理センターニュース Vol.25 No.10、(財)核物質管理センター(1996年10月)、p.1-4
(7)(株)集英社:情報・知識imidas 2002(2002年1月1日)p.539、p.369−377
(8)外務省のホームページ「世界の国一覧・アフリカ州」、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/africa.html
(9)Arms Control Association:AFRICAN NUCLEAR-WEAPON-FREE ZONE TREATY, および
(10)NTI:AFRICAN NUCLEAR-WEAPON-FREE ZONE (PELINDABA TREATY),
(11)米・国務省:THE AFRICAN NUCLEAR-WEAPON-FREE ZONE TREATY(THE TREATY OF PELINDABA)
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