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<概要>
 1986年のチェルノブイル原発の事故、それに続く事故の評価・収拾に関する国際協力、1991年のソ連の崩壊等から、東欧の社会、経済および原子力技術の問題点が明らかになった。
 旧欧州共同体EC(現欧州連合EU)はこれに対応し、原子力施設の安全性の向上、管理と事故対策の強化、さらに危険性の高い施設の運転停止・廃棄、代替エネルギーの確保、エネルギー効率の向上等に取組むよう勧めている。このため、旧ソ連の衛星国についてはPHARE計画、新独立国NISについてはTACIS計画がある。予算では、TACIS計画が大きな割合を占めている。これまでに、旧ソ連型の不適な原子炉の停止・廃棄に成果があるが、未だ多くの課題がある。また西バルカン半島の安定・平和については別にCARDS計画がある。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.背景
 1986年のチェルノブイル原発の事故、それに続く事故の評価・収拾に関する国際協力、1991年のソ連の崩壊等から、東欧の社会、経済および原子力技術の問題点が明るみに出た。
 旧欧州共同体EC(現欧州連合EU)はこれに対処するため、短期的な目標を原子力施設の安全性の向上、管理と事故対策の強化等に置き、また、長期的には危険性の高い施設の運転停止・廃棄、代替エネルギーの確保、エネルギー効率の向上等を考慮し、旧ソ連の衛星国に対してPHARE計画、新独立国NISに対してはTACIS計画を進めている。東欧諸国の当計画への係りは、安全なエネルギーの確保、経済の発展、民主化と合わせ、EUへの加盟とそれに伴う国の発展にある。
 また西バルカン半島の国々の安定・平和についてはCARDS計画がある。
2.PHARE計画
 1989年から1990年にかけて東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコスロバキアなどの旧ソ連の衛星国が相次いで民主化に踏み出した。旧欧州共同体EC(現欧州連合EU)は、同年これらの国々の民主化と市場経済の確立を支援するPHARE計画を開始した。
 この計画は、当初はポーランドとハンガリーが対象であったことから「ポーランド・ハンガリー経済復興援助計画(PHARE:Poland and Hungary Assistance or Restructuring of the Economy)」と称されたが、今も変っていない。
 表1はPHARE計画対象国の変遷を示す。1992年に対象国だったアルバニアは、2000年に発足した西バルカン半島の国々が対象のCARD計画に入った。表2はPHARE計画の主な分野を示す。ここに、環境安全と原子力安全が含まれている。表3は2006年までの主な成果と今後の課題を示す。旧式の原子力発電炉の廃棄が最大の課題である。
3.TACIS計画
(1)1991−2006年
 ソ連崩壊の後に開始された。TACISは新独立国NISへの原子力安全技術の援助(Technical Assistance of the Community of Independent States)の意味である。
 当計画の2000−2006年の主な目標は、1)原子力利用の安全文化の推進、2)不適な施設の停止・廃棄、放射性廃棄物の処理、3)チェルノブイル原発の廃棄への協力であった。表3に2006年までの主な成果を示す。
(2)2007—2013年の計画
 この計画では、独立国家共同体(CIS)への援助は行政や企業化の現実に即したものになり、被援助国側にはプロジェクトを率先して計画、管理、遂行することが求められている。また今期のTACIS計画は、CISに限ることなく南米の国々も視野に入れている。
 計画は次の6項目のようになり、その推進にIAEA等との国際協力も考慮する。また、EUの共同研究センター(JRC)は技術協力を担っている。
1)原子力安全文化の増進
・原子力施設のオペレータ、支援機構、規制当局との密接な協力で達成する
2)原子力施設・設備の技術力向上
・現場中心の考え方をもとにする
3)放射性廃棄物管理解体とサイトの回復
・企業がカバーできない解体に関連する課題を明らかにする
・北西ロシア、極東の原子力施設、ウラン鉱山等から出る放射性廃棄物の課題を明らかにする
・ラテンアメリカを含めた第三国で出た放射性廃棄物に関する状況、支援等を明らかにする。関係国や機関の適切な協力で問題の解決を図る
4)原子炉燃料等の安全と責任
・高レベル放射性廃棄物等に対する放射線防護、処分に関する規制化を進める
保障措置の方法論と規制を確立する
5)緊急時対応体制
・緊急時への準備体制、対応体制、国民の防護、生活再建計画等の立案
6)EUが進める国際的な活動への貢献
・チェルノブイル原発の運転停止に関連する活動に協力する
・NDEP(Northern Dimension Environmental Partnership)に参加する
 表4は2007—2009年の資金配分計画を示す。
4.CARDS計画
 ヨーロッパ社会の繁栄には、西バルカン半島の平和・安定は不可欠であり、2000年からCARDS計画(Community Assistance for Reconstruction,Development and Stabilisation)が開始された。
 対象になる国は、アルバニア、ボスニア、ヘルセゴビナ、クロアチア、セルビア、モンテネグロ(コソボを含む)および元ユーゴスラビア連邦マケドニアである。
 以下の項目は本計画の目標である。
(1)安定、和解と民主化を図り、避難民の帰国を進める
(2)ヨーロッパの基準に合うように、情報の自由、自由市場、民主化と法制の整備を図る
(3)社会体制を整え、社会と経済の持続的発展を図る
(4)バルカン半島および中欧との協力を図る
 欧州連合EU(旧欧州共同体EC)は、本計画以前の1991—2000年までに同地域の安定化に6.8拾億ユーロの資金を投入した。2000—2006年には4.6拾億ユーロを投入し、同地域の安定化を進めている。
<図/表>
表1 PHARE計画の対象国の変遷
表1  PHARE計画の対象国の変遷
表2 PHARE計画の主な分野
表2  PHARE計画の主な分野
表3 原子力に関するPHAREとTACISの主な成果と課題
表3  原子力に関するPHAREとTACISの主な成果と課題
表4 2007−2013年のTACISプログラム
表4  2007−2013年のTACISプログラム

<関連タイトル>
旧ソ連・東欧諸国へのIAEAによる協力・支援 (13-03-01-01)
欧州委員会 (13-01-01-08)

<参考文献>
(1)http://translation.oushu.net/nsnus01.phpから06.php
(2)EU、PHARE計画の概要:欧州経済新聞、「NIS諸国および中東欧諸国における核安全」
(3)EU、TACIS長期計画2007-13、「Nuclear Safety Strategy for Community Cooperation Programmes 2007-2013」
(4)EU、CARDS計画:
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