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<概要>
 財団法人医用原子力技術研究振興財団(Association for Nuclear Technology in Medicine:ANTM)は、原子炉加速器等から発生する粒子線等により、先端的がん治療をはじめとした各種放射線による疾病の治療、ならびに診断など、医用原子力技術の研究を推進し、かつ、その普及により科学技術の振興を図り、もって人類の福祉向上に寄与することを目的として、平成8年3月26日(1996年)に設立された。
 医用原子力技術研究振興財団は、医用原子力技術研究の推進に関する事業活動として、(a)医用原子力技術研究への助成、(b)医用原子力技術研究活動推進のための支援・普及、(c)わが国における医用原子力技術研究のための諸施設の連携・整備の促進、(d)医用原子力技術研究に関する各種調査・研究、(e)医用原子力技術研究に関する情報連絡会等の会議開催、(f)その他本財団の目的を達成するために必要な事業などを行っている。
<更新年月>
2005年09月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 近年、日本など先進国において死亡原因の首位となっている各種のがんの治療は、早期発見法の進歩により、かなりの治療成果を見るに至っている。現在も多くの研究者が各国政府や各支援組織に支えられてがんの研究を続けている。
 がんの治療法には、外科療法、放射線療法、化学療法などがある。原子炉や加速器から発生する粒子線等の各種放射線を、高精度に患部に照射・吸収させることにより正常組織への影響を抑えつつ、がん組織を破壊する放射線療法は、粒子線発生装置あるいは臨床現場など、それぞれ専門分野・所属組織も多岐にわたるため、治療研究の実施や技術の普及にあたっては、多くの障害や困難を抱えている。また、短寿命核種からの放射線を用いた各種疾病の診断にも一層の改善と進展が期待されている。
 このような状況を鑑み、原子力の技術を用いて行われる粒子線等によるがんをはじめとした各種疾病の診断・治療に関し、その利用研究の推進と国民への啓蒙普及、関係組織間の連絡調整、また、治療実施のための調査・研究等を行うため、放射線を用いた疾病の治療に携わる研究者と医師等関係者により法人組織の設立が検討され、平成7年11月29日(1995年)発起人会が開催された。
 設立発起人代表には向坊隆氏(前(社)日本原子力産業会議会長)が、また、森亘氏(日本医学会会長)を理事長とする理事15名、監事2名の役員候補者が選出された。平成8年2月29日(1996年)に設立許可申請書が科学技術庁(現文部科学省)ならびに厚生省(現厚生労働省)に提出され、平成8年3月26日(1996年)財団法人医用原子力技術研究振興財団(Association for Nuclear Technology in Medicine:ANTM)が設立された。所轄省庁は文部科学省・厚生労働省である。
2.組織と運営
 医用原子力技術研究振興財団は、理事会、評議員会、企画委員会、選考委員会、専門委員会(研究評価委員会)で構成され、現在、理事17名(理事長:森亘氏)と幹事2名、評議員21名で組織されている(図1参照)。
 事業運営に関する審議等は、理事会ならびに評議員会で行われ、財団運営に関する事務は、事務局において処理される。
3.主な事業活動
 医用原子力技術研究振興財団は、医用原子力技術研究の推進に関する事業活動を行っている。
(a) 医用原子力技術研究への助成。
(b) 医用原子力技術研究活動推進のための支援・普及。
(c) わが国における医用原子力技術研究のための諸施設の連携・整備の促進。
(d) 医用原子力技術研究に関する各種調査・研究。
(e) 医用原子力技術研究に関する情報連絡会等の会議開催。
(f) その他本財団の目的を達成するために必要な事業。
 以下、その事業概要を示す。
3.1 医用原子力技術研究への助成
 医用原子力技術研究に関する研究助成を行う。
 研究の助成に当たっては、以下のことが考慮される。
(1)助成対象研究:診断技術に関する研究開発、治療技術に関する研究開発、薬剤等の研究開発を対象とし、将来の研究開発に繋がる研究内容とする。平成17年度募集における研究助成対象テーマは、(イ)「医用原子力技術における画像診断自動化の新しい展開に関する研究」、(ロ)「医用原子力技術における肺がんの高精度放射線治療に関する研究」、 (ハ)「医用原子力技術における中性子捕捉療法の適応拡大に関する研究」である。
(2)助成交付対象:医用原子力技術研究に関する理論的、実践的研究を行う大学、病院、研究機関等を対象とし、若手研究者を助成するものとする。
3.2 医用原子力技術研究活動のための支援、および啓蒙普及、および活動ならびに諸施設の連携・整備の促進、各種委員会・会議等の開催
(1)医用原子力技術に関する国内外との情報・連絡、問合せ窓口業務等の相互支援活動および啓蒙普及活動。
 第1回講演会報告として、平成16年(2004年)12月2日東京国際フォーラムにおいて、「原子力(放射線)利用技術の医療への貢献−期待される次世代がん治療・診断法−」が開催された。
(2)医用原子力技術研究に使用される粒子線がん治療・中性子捕捉療法等を行う諸施設との連携・協力についての検討。
(3)調査研究活動および医用原子力技術研究に関する研究助成総合成果報告会の開催。
 毎年度、医用原子力技術に関する研究助成総合報告会として開催している。
(4)最新技術および関連調査研究情報の処理・管理を総合的観点から検討する情報専門委員会の具体的活動の推進。
(5)粒子線がん治療等特別専門委員会の活動により、地方公共団体に対するコンサルタント業務、各諸施設の導入に関するノウハウ等の提供、およびモデル例を検討し、地方公共団体への積極的協力を行うとともに、粒子線治療等特別専門委員会の活動により具体的運営を図る。平成15年10月に厚生労働省より炭素イオン線によるがん治療法が高度先進医療として承認されたのを受け、具体的な施設の建設に向け研究会を行っている。
(6)中性子捕捉療法検討特別専門委員会の活動により、中性子捕捉療法に関する実施状況の把握および各種問題点等を検討把握し、研究開発の推進を図り、国内ネットワークの確立、データベースの構築、研究計画の促進、研究体制の在り方などについて総合的評価を行い、より具体的対策の検討を行う。
3.3 国際交流、啓蒙普及活動等
 国際交流活動として、粒子線がん治療、中性子捕捉療法を通じてアジア諸国に対する協力、および国際会議等への関係者の派遣を通じて関連情報の収集を図る。
 一方、講演会、広報誌「医用原子力だより」(平成16年11月に第1号、年2回、ホームページから入手可能)などの出版物刊行による啓蒙普及活動を実施し、医用原子力技術研究の促進に向けて各関連機関との協力等各種事業を行う。
3.4 技術者の養成
 医用原子力技術研究に関する医師、医学物理士、診療放射線技師等関係者ならびに医療用小型加速器の開発に伴う人材養成の確立を図る。
3.5 調査研究活動
 医用原子力技術研究に関する放射線を利用した診断・治療技術ならびに産業界関係者による医用原子炉・医療用小型加速器の開発、諸関連付帯設備の各種調査、研究活動を積極的に推進し、普及型小型加速器開発に向けて活動を図る。
3.6 医用原子力技術研究に関する受託事業としての調査研究の実施
(1)文部科学省等関係省庁からの委託業務
(2)放射線医学総合研究所からの委託業務
(3)日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)からの委託業務
(4)地方自治体からの委託業務
(5)その他委託業務
3.7 医用原子力技術研究に関する請負契約に基づく事業の実施
 (独)放射線医学総合研究所重粒子治療センターへの技術者ならびに診療放射線技師の派遣、および各地方公共団体関係者養成訓練の協力や国立がんセンター粒子線がん治療装置の管理保守業務などを行う。
3.8 平成16年度より治療用線量計の校正に関する業務が新たに加わり、計量法校正事業者認定制度(JCSS)を認定取得することも含めて実施されている。
<図/表>
図1 財団法人医用原子力技術研究振興財団組織図
図1  財団法人医用原子力技術研究振興財団組織図

<関連タイトル>
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
放射線医学総合研究所 (10-04-05-02)

<参考文献>
(1) 財団法人 医用原子力技術研究振興財団:http://www.antm.or.jp/
(2) 独立行政法人 放射線医学総合研究所:
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