<本文>
1.国土安全保障省の設立
2002年11月19日、米国上院本会議は、同時多発テロ型の大規模なテロ攻撃の防止や対策を盛り込んだ包括的な「国土安全保障法案」を賛成90、反対9の圧倒的多数で可決した。下院はすでに同法案を可決していたため、11月25日ブッシュ大統領の署名を経て、正式に法案は成立し、翌年初めに設置された。これまで、政府の100以上にのぼる関連機関が国土安全保障の役割を分担しているが、最終的な責任を負う単一の機関が無いため、国の安全保障に関する機関を国土安全保障省の下に統一するのが狙いである。
これは、第二次世界大戦後の1947年、米国軍隊を国防総省傘下に統一し、国家安全保障会議を創設したトルーマン政権の改革以来の大規模な省庁再編である。
国土安全保障省は、テロ対策に関係する8省庁の22の政府機関を統合し、後述の4庁1官房、職員約17万人の巨大官庁組織となる。9月11日同時多発テロ前の連係不備が指摘された連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)は、国土安全保障省への統合を免れたが、今後テロ情報の分析面などで同省に協力することになる。加えて、米国市民の権利の保護、および天然災害の援助、移民帰化のような公共サービスの強化に専念する。初代の長官にトム・リッジ国土安全保障局長(元ペンシルベニア州知事)が指名された。統合の諸経費は約380億ドルに上る見通し。
図1 に国土安全保障省の組織図を示す。
A.国境・運輸安全保障局
国土安全保障省は、国境、領海、運輸に関連する主要な連邦の安全保障業務を網羅する統一された機関となる。米国入国管理への唯一の政府組織となり、沿岸警備、税関、移民帰化局(INS)、国境警備、農務省動植物検査局、運輸安全局を引き継ぐ。査証の発行を含む全ての国境管理については、情報センターおよび互換性のあるデータベースによって、情報が確実に提供されることとなる。なお、シークレット・サービス(USCC)および沿岸警備(USCG)は、長官の直轄とする。
移転された部局:
・合衆国関税局(財務省)
・連邦法執行研修センター(FLETEC)(財務省)
・移民帰化局(一部)(司法省)
・国内準備課(司法省)
・連邦保護サービス(連邦調達庁)
・運輸安全保障局(TSA)(運輸省)
・動物・植物保健検査サービス(一部)(農務省)
所管事項
(1)テロリストまたはその武器や手段の侵入の阻止
(2)国境・領海・港湾・駅・水路・航空・土地・海上交通機関の警備
(3)合衆国市民や合法的な永住権保持者でない個人への入国に必要なビザやその他の許可書を交付する法律の制定を含む、合衆国入国帰化法の管理
(4)合衆国関税法の管理、運用
(5)国土安全保障省に新たに移る政府機関の指揮
(6)これらの責務を迅速に効率的に果すための基盤の構築・確保
正規職員156,169名、予算(2003会計年度)23,841百万ドル
B.緊急事態準備・対応局
国土安全保障省は、国内災害準備に際し連邦政府の援助を監督し、連邦政府の災害対応を統括する。連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、この省の中核となる。また、FEMA、司法省および保健福祉省に配属している消防士、警察官および緊急対応要員に下賜金制度を執行する。つぎに、核物質緊急探索チーム(エネルギー省)と緊急時用薬剤の国家備蓄(保健福祉省)を管轄する。さらに、連邦の諸機関間の緊急対応計画を単一の包括的な全政府的計画へ統一すること、および緊急対応要員全員が必要なとき互いに連絡をとるための通信機器をもつようにする。
移転された部局:
・連邦緊急事態管理庁(FEMA)
・戦略的全国備蓄および全国災害医療システム(保健福祉省)
・核兵器緊急対応チーム(エネルギー省)
・国内緊急支援チーム(司法省)
・連邦国内準備課(FBI)
所管事項
(1)テロリストの攻撃、大災害、その他の緊急事態への準備・対応を確実にすること
(2)基準の制定、訓練の実施、業績の評価、核兵器緊急対応チームに対する資金提供
(3)テロリストの攻撃や大災害に対する州政府の対応を行うこと(以下の4つを含む)
(A)包括的な対応・調整
(B)国内緊急援助チームを指揮・監督
(C)首都圏医療対応課の監督
(D)その他の連邦対応資源の調整
(4)テロリストの攻撃や大災害からの復旧援助
(5)包括的な国内緊急管理システム確立のために他の連邦・非連邦政府機関との協力
(6)既存の連邦政府緊急対応計画の統一、組織的な国家対応計画の確立
(7)相互に作用する通信技術発達のための総括的計画の構築、緊急対応の際に必要な技術の確保
正規職員5,300名、予算(2003会計年度)8,371百万ドル
C.科学・技術局(化学、生物、
放射線 、核兵器への対策関連)
国土安全保障省は、大量破壊兵器を含むテロリストからの脅威すべてについて、準備と対策を行う連邦政府の取り組みを先導する。このため、国家政策を策定し、州政府のためのガイドラインを作成する。また、直接、連邦、州政府の化学、生物、放射線、核攻撃対策チームを訓練する。これによって、複数の省に分散している多様な努力は統一され調整され、突発のテロリズムから米国を守る重要な役割を第一の使命とする一つの機関が作られることとなる。
移転された部局:
・化学、生物、
放射能 、核兵器対策プログラム(エネルギー省)
・環境測定研究所(エネルギー省・ローレンスリバーモア国立研究所)
・国立生物兵器防衛分析センター(国防省)
・プラム島動物疾病センター(農務省)
所管事項
(1)テロ行為に関連する化学、生物、放射能、核兵器またはその他の緊急事態の脅威からの合衆国内の市民・社会基盤・所有地・資源・システムの保護
(2)国家科学研究、国土安全保障省を支援するためのプログラムの開発、テロリストの恐怖に対抗するための国家政策や連邦政府(非軍事的)の試みの統合、関連する研究、開発を指揮すること
(3)優先事項の確立および化学、生物、放射能、核兵器またはその他の用具を使用したテロ攻撃の発見、防止、保護、そしてそのような兵器の合衆国内への侵入の防止のための技術やシステムの研究、開発の監督と援助
(4)州・地方におけるテロ対抗手段の開発またはテロ対策のガイドラインの作成
正規職員598名、予算(2003会計年度)3,626百万ドル
D.情報分析・社会基盤保護局
国土安全保障省は、米国の重要な社会基盤(食料・給水システム、農業、保健システム、緊急サービス、情報通信、銀行・金融、エネルギー、運輸、化学・防衛産業、郵便・出版、記念物等)の攻撃されやすさについて包括的な評価責任を負う。
移転された部局:
・重要社会基盤保証課(商務省)
・連邦コンピュータ緊急応答センター(連邦調達庁)
・全国通信システム(国防総省)
・国立社会基盤保護センター(FBI)
・エネルギー安全保障・保証プログラム(エネルギー)
所管事項
(1)合衆国本土におけるテロリストの脅威の本質と作用域を見極め、国内の潜在的テロの脅威を感知または特定するための法執行情報・諜報活動・その他の情報の収集と分析
(2)重要な資源・インフラの脆弱性の包括的な査定
(3)保護の優先順位と手段を特定するための関連情報・情報分析・脆弱性査定の統一
(4)連邦政府と地方政府の、テロに関する情報の共有のための法律の見直し、改善
(5)重要な資源・インフラ保護のための包括的な国家政策の改善
(6)重要な資源・インフラ保護のための必要な手段の策定
(7)国土安全諮問制度の設立、公的脅威助言における主要な責任の負担、州・地方政府や民間部門に対する具体的な警戒情報の発令、同様に適切な保護活動、手段についての助言
(8)連邦政府および連邦政府と州・地方政府間における国土安全に関する情報の共有やその方法についての再検討・改善
正規職員976名、予算(2003会計年度)364百万ドル
なお、国土安全保障省は現在、人員約18万人、予算約442億ドル(2003年度、補正の追加を含む)で、米国内のテロ攻撃の防止、テロに対する脆弱性の削減、テロ攻撃や災害による損害の最小化を使命としている(
図2 参照)。2005年7月現在の組織図を
図3 に、組織別予算を
図4 に示す。また、長官はトム・リッジ氏が2004年末に辞意を表明し,後任はマイケル・チェルトフ連邦高裁判事である。
<図/表>
図1 国土安全保障省の組織図
図2 国土安全保障省の主な取り組み事項
図3 国土安全保障省の組織図(2005年7月現在)
図4 国土安全保障省の組織別予算(FY2007)
<関連タイトル>
米国エネルギー省(DOE) (13-01-02-08)
米国NRCの原子力施設防衛強化(2001年9月11日以降) (14-04-01-33)
原子力施設の航空機攻撃に対する米国の対応(2001年9月11日以降) (14-04-01-34)
<参考文献>
(1)President George W. Bush:The Department of Homeland Security June 2002
(2)The Department of Homeland Security:DHS Organization,
(3)(財)建設経済研究所:米国建設経済レポート、2002年12月分、RICE monthly No.166
(4)農林水産省:米国、020612、国土安全保障省の創設案を発表
(5)時事スクールネット:週間ニュース、国土安保省設置法が成立
(6)imidas 2003 別冊付録、世界情報アトラス、集英社(2003年1月)、p.90−91
(7)総合科学技術会議:米国国土安全保障省における科学技術の動向の概要、安全PT第2回会合資料(平成17年1月19日)、
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/anzen/haihu02/siryo2-6.pdf
(8)USDHS:Organization Chart,;Budget−in−Brief,