<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 オークリッジ国立研究所(ORNL)は、1943年に原子爆弾開発のためのマンハッタンプロジェクトで創設された。第二次大戦後は、原子力平和利用研究の中心的な役割を果たした。1970年のエネルギー省(DOE)の創設から、エネルギー技術とエネルギー戦略に業務を拡大し、今日ではDOEの下で国の科学と技術を支える大研究所である。核破砕中性子源及び増力した高フラックスアイソトープ炉(HFIR)による中性子研究センターを有し、遺伝子科学(ゲノミクス)の研究施設、スーパーコンピュータ等を含む13の新施設がある。ほかに、ITERプロジェクトによるエネルギー研究も担当する。所長枠研究費と探索研究費があるLDRDプログラムは、研究の活性化に役立っている。2000年以降テネシー大学とバッテル(Battelle)が共同で運営している。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.オークリッジ国立研究所(ORNL)の歴史
 ORNLは、1943年にマンハッタンプロジェクトのうちプルトニウム製造研究のため創設された。その後、原子力研究に中心的な役割を果たした。1970年のエネルギー省(DOE)の創設からは、エネルギー技術とエネルギー戦略に業務を拡大し、今日ではDOEの下で国の科学と技術を支える大研究所である。2000年以降テネシー大学とバッテル(Battelle)が共同で運営している。
2.施設、組織及び予算
2.1 施設
 核破砕中性子源及び高フラックスアイソトープ炉(HFIR)による中性子研究センターを有し、遺伝子科学(ゲノミクス)、ナノフェーズ物質科学、生物科学、計算科学等の関連施設や最新電子顕微鏡施設、スーパーコンピュータ等を含む13の新施設がある。
 ほかに、ITERプロジェクトによる将来のエネルギー研究も担当する。
2.2 組織と予算
 職員数は4,300人以上、年間3,000人以上の客員研究員が来訪する。図1は組織の概要を示す。年間予算は約14億ドルである。
3.主な研究開発
 主な研究テーマと、ORNLが採用している研究促進の方式についてのべる。
3.1 主な6テーマの概要
(1)中性子科学:核破砕中性子源(SNS)、高中性子束アイソトープ製造炉(HFIR)および電子加速器パルス中性子源を持ち、テネシー大学との中性子科学共同研究所の設立を予定している。全米の研究者や企業の要求に適うだけでなく、中性子科学の世界のリーダーを目指している。
(2)生物科学:機能ゲノム、比較ゲノム、構造生物学、計算生物学、生物情報科学等に力点を置き、生物科学の研究を進めている。
(3)エネルギー:これまでも、エネルギー研究の世界の中心的存在の一つであった。クリーンで、効率的で、安全なエネルギー源の開発は究極の目的であり、多くの関連施設が研究と技術開発を支えている。
(4)新物質:基礎から利用を含め、あらゆる物質の研究を進めている。物質の合成、処理、特性研究にすぐれた施設と装置を備えている。
(5)国の保安:国の保安のため、技術と情報を提供している。これらは、米国企業の競争力増強にも役立っている。
(6)高度計算科学:最新の研究開発や計算科学を進めている。実験に基づき科学的発見や技術開発に望ましい最新の計算方法と情報処理技術の開発を担う。
3.2 その他の研究テーマ
 新物質や新現象の発見につながるナノ物質技術、基礎的な化学研究や核物理研究を着実に進めている。そのほか、1)計算科学の大きな課題である気象変化、2)原子力利用のほか分離変換技術の開発、3)核融合、4)ゼロエネルギーホームの開発等がある。ゼロエネルギーホームは、2012年を目途に大幅なエネルギー消費の低減を目指す計画であり、すでに、TVAと協力しエネルギー費40セント/日の家屋を開発している。
3.3 研究促進の方式
 研究促進の方式は、ORNL Laboratory Directed R&D(ORNL LDRD)と称している研究費配分方式がある。LDRDには、担当部署の計画を促進するアイデアに付ける「所長枠研究費(Director’s R&D Fund)」と、担当部署の科学技術の進歩の新しいアイデアに付ける「探索研究予算(Seed Money Fund)」がある。表1は、この方式の特徴を示す。
(1)ORNL LDRDの目的
 ・研究所の科学的なバイタリティと技術的バイタリティの維持、
 ・将来の業務のために研究所の能力向上、
 ・創造性を養い最先端の科学と技術開発力の涵養、
 ・新しい研究の実験場、そして
 ・高リスク、高価値の研究開発の支援等である。
(2)所長枠研究費(Director’s R&D Fund)
 研究推進に、職員の知恵とアイデアを動員する戦略的な方法である。研究所の研究開発は、DOEと契約したもので期間中の達成に全力を尽さなくてはいけない。このためORNLは、業務の能率向上のため研究・技術員に研究開発のアイデアを毎年募集する。そのアイデアは内外研究者に審査され、枠は小さいがDOEの合意を得て研究費が給付される。募集する課題は、研究計画により年度毎に変る。
(3)探索研究費(Seed Money Fund)
 研究所の中心的な課題の研究力と技術力の推進のため、革新的なアイデアに研究費を集中的に給付する方式である。研究計画の申請時期は問わない。研究が成功すれば、新しい予算枠をDOEに要求できる。提案された研究は所内で審査する。予算枠は所長枠研究費(Director’s R&D Fund)より小さいが、DOEの同意を経て運営される。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 ORNL−LDRDプログラム
表1  ORNL−LDRDプログラム
図1 ORNLの組織図
図1  ORNLの組織図

<関連タイトル>
米国エネルギー省(DOE) (13-01-02-08)
米国エネルギー省の国立研究所の運営と技術移転 (13-01-02-13)

<参考文献>
(1)ORNLホームページ、About ORNL、http://www.ornl.gov/
(2)ORNL LDRDプログラム年報(2004、2007) pp.1−5 pp.1−4
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ