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<概要>
 環境 ISO14001は、「持続的に発展できる経済社会」を築いてゆくことを目標に「国際的に共通の仕組み」を通して自然と社会が「共生」しうる「循環型社会への誘導」を目指す国際規格である。原子力産業界におけるISO認証取得への取り組みでは、ISO14001の基本的考え方や環境マネージメントシステムの仕組と運用を先ず概観し、次ぎに環境マネージメントプログラムに記述すべき「目標設定」や「自己宣言」の主旨を説明し、さらに審査認証プロセスを経ての「環境評価」の視点を省察したうえで、審査登録制度の枠組み等、制度対応上の諸問題を解説し、併せて原子力発電における実施状況を紹介した。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1996年9月に環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001が発効になってから「環境ISO」という言葉が普及し、自治体や企業で競ってISO14001の認証取得が行われるようになった。原子力発電においても日本原子力発電の東海第二発電所や敦賀発電所でISO14001の認証を取得している。
 ISO(International Organization for Standardizationの略称)は、日本語で国際標準化機構といい、1947年に設立された民間組織である。スイスに本部を置き、現在この機構に約110か国が加盟している。1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する関連会議(別名「地球サミット」)での「リオ宣言」および「アジェンダ21」受けて、ISOでは「環境に関する国際標準規格」を作ることになったが、それがISO14001である。
 ISO14001の最大の目標は、大量生産、大量流通、大量消費のライフスタイルが世界中で進行しつつある中で、環境汚染物質や廃棄物の排出量を如何に低減させうるかを「国際的に共通の仕組み」を通して実行することであり、その底流には次ぎの価値意識:「持続的に発展できる経済社会」を築いてゆくための自然と社会とが「共生」しうる「循環型社会への誘導」が挙げられる。
 ISO14001の環境マネジメントシステムは、QC(品質管理)におけるPDCAサイクルの考え方をもとに運用する仕組みになっている( 図1 )。ここでPとは計画(Plan)を指し、Dは実施(Do)を、Cは評価(Check)を、Aは対策(Action)をそれぞれ表している(注:図にはPを計画、Dを実施および運用、Cは点検、Aは是正処置として描かれている)。
 実施計画には達成すべき目標を設定し、環境マネジメントプログラムを明らかにする。実施では実施計画に基づいた作業を実施する。そのためには実施体制を示し、その中で実施者の役割、責任、権限を定める。必要に応じて実務者の教育訓練を行い資格者を配置する。実施結果の記録等も残さねばならない。また、緊急事態への対処方針を予め定めておく必要がある。評価では先ず監視および測定結果に基づいて内部監査をし、次ぎに設備機器の点検が行われて是正予防の処置を講じる。それらの記録を保存する。対策では、実施結果が計画目標に対して未達成の場合、経営的判断をも酌みして必要な改善を行う。
 環境ISOは、既述のように、自らの意思で業務上のメリットや社会的責任を果たすことを求めており、「自己宣言」というやり方で「わが社はISO14001に準拠してシステムの構築、運用をおこなっています。」と外部に事業活動を発表できるばかりではなく、顧客や市民からISO14001の認証を要請される場合も生じてくる。何故なら消費者ニーズに応えて「グリーン調達」が求められたり、「同業他者との競争」を公平に進めねばならない事態が生じるからである。例えばA社はB社よりも安い商品を生産し販売したとし、A社の製品製造が環境対策欠如のものであったとした場合、A社の商品はいずれ社会的制裁を受けることになろう。
 なお、環境ISOを更に詳しく知るには審査登録制度や認証取得の手続き等についても理解しなければならないが、その内容を知りたい読者は引用の文献を参照することとし、ここでは審査登録制度の枠組みについてのみ触れておく。
 審査登録制度の枠組み( 図2 )は、各国に一つ設けられている認定機関の下に審査登録機関、審査員評価登録機関、審査員研修機関でもって構成する。審査登録機関の役割は、ISO14001の認証取得を希望する組織体に対してその組織が構築した環境マネジメントシステムが認証の基準に適合いるか否かを審査し、登録することである。審査員評価登録機関の役割は、環境審査員として希望している者を審査員の資格基準(原則として認定機関から認定された環境審査員研修コースを終了し合格することと、環境に関連する実務経験が求められている)に照らして評価し登録する。
 審査認証のプロセス( 図3 )は、書類審査、初回現地調査、本審査(現地調査)の三段階に分かれていて、書類審査では主に「事前調査表」と「環境管理マニュアル」が審査の対象になり、初回現地調査では環境側面(後述)の把握と内部環境監査の有効性の確認および適用法規制の確認に重点がある。本審査は計画から運用までの実行において目標や方針が管理プログラムや環境側面に合致しているかどうか、さらに環境影響評価の結果と環境方針の整合性が保たれているかどうか、それら全てのパフォーマンスのチェックを記録に基づいて環境管理マニュアルに従って確認する行為である。
 ここで「環境側面(Environment Aspect)」と「環境影響(Environmental Impact)」について説明しておこう。環境側面とは「製品またはサービスが環境と作用しあう可能性のある要素」のことであり、例えば生産活動における財サービスの投入、産出において、大気汚染物質や廃棄物の排出、騒音、振動、臭気等を指す。他方、環境影響とはそのような環境排出物が環境に対して如何なる影響と効果をもたらすものであるか、つまり正の影響をもたらすものであるか、負の影響をもたらすものであるか、いわゆる環境影響を評価する事柄を言う。
 原子力発電所を例にとって説明すれば、立地時での環境側面には大気水質土壌地盤など地形地勢に関連する事項、気象海洋、市民活動、産業活動、運輸交通、自然景観、文化財等に関連する事項へのアセスメントが先ず挙げられ、通常運転時においては放射線等の環境放出の監視管理、放射性廃棄物等の処理処分上の監視管理、温排水、水質汚濁、震動、騒音等の監視と管理等が対象になり、廃止措置時では特に放射性廃棄物の管理が重要項目となる。それら全ての活動記録は文書化されて保存され、必要に応じて監査や評価に委ねられる。
 もともと原子力発電では立地申請時に環境アセスメントを行い、建設時や運転開始時には種々の認可申請を行ってきており、環境ISOの普及以前に環境側面と環境評価を行ってきていた。例えば、発電所構内の緑化、放射性廃棄物の発生低減、発電所従業員の放射線被曝線量の低減、さらには一般廃棄物のリサイクルの促進等を挙げることができる。
 日本原子力発電の東海第二発電所や敦賀発電所での環境ISO14001の認証の取得によって、社内における節水、節電、リサイクル活動を通して社内の環境保全への意識向上、環境への取り組み体制および責任体制の明確化、発電所業務展開の効率化、さらには品質・安全管理活動面でプラスの効果があった、と報告されている。また、環境ISO14001の認証取得は原子力発電における環境に対する取り組みについて透明性を高め地域社会との間での信頼感を高める一助にもなっている。
<図/表>
図1 ISO14001の環境マネージメントシステム
図1  ISO14001の環境マネージメントシステム
図2 審査登録制度の枠組み
図2  審査登録制度の枠組み
図3 審査認証のプロセス
図3  審査認証のプロセス

<参考文献>
(1)市川 芳明、高橋 正典、鈴木 敏央:“ISO14001の概要と認証取得への取り組み”、火力原子力発電第48巻、第10号、p1192-1212(1997).
(2)渡辺 裕:“発電所の環境保全に関する最近の動向、1.地球環境問題”、火力原子力発電第48巻、第10号、p.1172-1178
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