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<概要>
 フード・グローブボックスは、非密封の放射性物質を使用する化学実験などを行う場合に、作業者および環境への放射性汚染、並びに作業者の内部被ばくを防止するために、放射性物質を閉じ込める設備として用いられている。
 フードは、比較的少量の非密封放射性物質の取扱いに使用され、その形状によりオークリッジ型フード(前面開口部から作業する)、カルフォルニア型フード(前後両面あるいは左右両側面も引違戸になっていて両面あるいは四面から作業できる)等に分類されている。また、グローブボックスは、主にプルトニウムのような危険度の高い放射性物質の取扱いに使用され、グローブが装着されたボックスであり、排気型グローブボックス、クリーングローブボックスなどがある。これらの排気は、排気浄化設備を通して施設外に排出される。
<更新年月>
2007年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.フード
(1)フードはドラフトチャンバーまたはフェームフードとも呼ばれ、表1に示す少量の低レベルの非密封放射性物質を取扱うために実験室に設置され、トレーサー実験や簡単な分析作業などに使用されている。図1に、よく用いられているオークリッジ型フードを示す。
(2)また、表1に示す低レベル実験室で取扱われる放射性物質の放射能レベルは、一般的な化学実験の操作を対象としており、フード内での操作に応じて表2に示す修正係数を乗じた放射能レベルが、フードでの取り扱い可能な放射能レベルの上限である。
(3)フードから室内への放射性物質の逆流を防止するためフード開口部の流入速度は、半開きの状態において一般に0.5〜1.5m/sとされている。この値は実験的に求められたもので、下限値は汚染がフード外へ拡大しないために必要な値であり、一方、風速が大きくなると開口部で乱流が生じて、逆に汚染を拡大させることになるため上限値についても定められている。
(4)室内の空気は一般に排気ダクトを通して換気され、フードの扉を閉めた時に室内の換気が低減あるいは停止しないようにバイパスやダンパーを設けたり、また、フード内で発生した軽い蒸気も重い蒸気も排気されるようにするために、図1に示すようなバッフル板がフード奥に設けられている。
(5)フードの排気は排気浄化装置を通して、排気中に含まれる放射性物質を除去してから施設外に排出されている。
(6)フードは耐腐食性と除染性を考慮してステンレス鋼、硬質塩化ビニルなどで作られており、汚染されやすい部分にはストリッパブルペイントなどを塗布し、除染し易いような工夫がされている。
(7)フード内でガンマ線放出核種を取り扱うときは放射線被ばく防護のため、フード内に多量の遮へい用鉛ブロックを積むので、これに耐えうる強度(1トン程度)を有している。
(8)また、フードに供給する水、ガス、電気などの制御装置は、フードの外で操作が出来るように配置されている。
2.グローブボックス
(1)プルトニウムなどの危険度の高い放射性物質を取扱う場合や、定常的に高汚染が発生しやすい実験を行う場合は、これらの非密封の放射性物質を閉じ込めるための設備としてグローブが装着されたボックス、すなわちグローブボックスが用いられている。
(2)また、グローブボックスは、中レベル実験室あるいは高レベル実験室専用の放射性物質取扱い設備として常備されることが多く、取扱い可能な放射能レベルは、表1に示すように放射性核種の危険度に応じて決められており、グローブボックス内での操作に応じて表2の修正係数を乗じた放射能レベルが上限となる。
(3)グローブボックスは、構造上から排気型グローブボックス(排気ファンを作動させ室内空気を吸い込み、フィルタを通して施設の廃棄設備に排気する型)、ガス置換型グローブボックス(ボックス内の空気を作業目的に適したガスで置換させる型)、バキュームグローブボックス(ボックス内を1Torr程度に減圧できる型で不活性ガス雰囲気下の乾燥状態で作業を行う)、クリーングローブボックス(空気中の微細なダストを嫌う作業では、高性能フィルタを通した清浄空気をグローブボックス内に送入する)などに分類される。
 図2に、通常よく用いられている排気型グローブボックスを示す。
(4)グローブボックスは、プルトニウムなど危険度の高いアルファ線放出核種の取扱いに特に多く用いられているので、その漏洩率は0.1〜0.5vol%/h程度が要求されている。
(5)一方、化学的活性の高いアルファ線放出核種などを取扱うグローブボックスは、その内部をヘリウムなどの高純度の不活性雰囲気にして使用するので、特に高い気密性を必要とされている。その漏洩率は、0.02〜0.05vol%/hと、通常より厳しい基準が適用されている。
(6)このため、グローブボックスは、室内に対して20〜30mmH2Oの負圧に保たれて使用されており、その排気は、グローブボックスの排気出口に設備された高性能エアフィルタと排気浄化設備により、放射性物質を除去してから施設外へ排出されている。
(7)グローブボックスの構成材としては、強度および耐蝕性を考慮し、ステンレスが多く用いられる。また、分析用の小型グローブボックスでは、安価でかつ耐蝕性に優れている硬質塩化ビニールが用いられることが多い。
(8)グローブボックスの窓ガラス板は、透明度や強度および耐蝕性などが要求されることから10mm厚のアクリル板などが用いられている。また、グローブには0.8mm厚のネオプレン製の合成ゴムが通常用いられている。この他、線量率の高い放射性物質を取扱う場合などは、遮蔽対策として鉛ガラスや鉛入りグローブなどが用いられている。
(9)グローブボックスに供給する水、ガス、電気などの制御装置は、フードと同様すべてグローブボックス外から操作できるように配置されている。
(前回更新:1996年3月)
<図/表>
表1 グローブボックスおよびフードの使用放射能量の基準値
表1  グローブボックスおよびフードの使用放射能量の基準値
表2 操作にかかわる修正係数
表2  操作にかかわる修正係数
図1 オークリッジ型フード
図1  オークリッジ型フード
図2 排気型グローブボックス
図2  排気型グローブボックス

<関連タイトル>
内部被ばく (09-01-05-02)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ便覧(改訂3版)、丸善(1984年)
(2)(社)日本原子力学会:高放射性物質取扱施設設計マニュアル(1985年1月)
(3)日刊工業新聞社発行:放射線防護の基礎(1990年6月)
(4)オーム:新版 原子力ハンドブック(1989年3月)
(5)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律
(6)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
(7)JIS Z4808-2002「放射性物質取扱作業用グローブボックス」
(8)IAEA Safety Series No.1(1962)
(9)IAEA Safety Series No.30(1969)
(10)IAEA Safety Series No.39(1974)
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