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<概要>
 高レベル事業推進準備会の平成7年度中間報告では、「基礎的検討の中間的なとりまとめ」として、処分事業化計画、事業主体、事業資金、地域との共生、国民的理解の促進等についての検討結果について報告している。同報告では、特に、国民的理解促進を重視し、総合的な検討を行っている。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 高レベル事業推進準備会(SHP:Steering Committee on High-Level-Radioactive-Waste Project)は、高レべル放射性廃棄物処分事業(以下「処分事業」という)の準備の円滑な推進を図ることを目的に、高レベル放射性廃棄物対策推進協議会(国、動燃(現日本原子力研究開発機構)および電気事業者により構成される)の下に平成5年(1993年)5月に設立され、2000年に実施主体を設立するための検討を行っている。平成7年(1995年)度の“中間とりまとめ”は、SHPにおける「基礎的検討」としての位置付けで、これまでの成果を集約している。以下にその主要な内容について述べる。
1.事業化計画
 a)処分事業化では、原子力長期計画に基づき、実施主体の2000年頃の設立と2030年代(遅くとも2040年代半ばまで)に処分開始する基本スケジュールを前提に、社会的問題と技術的問題の調整に重点を置き、以下に述べる主要手順に従った準備を推進する。
 処分事業想定所要期間の検討では、実施主体の2000年頃の設立を前提に、主要な手順として、(イ)処分実施主体設立準備と設立、(ロ)処分予定地選定、(ハ)サイト特性調査と処分技術実証、処分場設計・処分事業申請、(ニ)処分場建設、(ホ)処分場操業開始、(ヘ)施設閉鎖について、各々考えられる所要期間を示した( 表1 参照、但し施設閉鎖時期は明示していない)。
 b)特に重要な立地調査では、(イ)処分予定地として、地元が誘致表明するか、あるいは実施主体が申し入れ(以下「誘致または申し入れ」という)をした地点の中から、処分候補地(予備的調査を行う複数地点)を選定する。この段階では、本格的には立入らない予備的調査を実施し、調査結果と地元了承のもとに、候補地の中から処分予定地を選定し(国は、その選定結果を確認)、処分予定地を決定する。(ロ)実施主体は、処分予定地のサイト特性調査及ぴ処分技術の実証を行い、(ハ)処分地に適当との判断に基づき、実施主体は処分場の設計と処分事業の申請を行う(国は処分に係る事業を許可するに当たり、必要な法制度等の整備と安全審査を行い、地元了承手続きとして、例えば、国による公開ヒアリングを行う)。
 c)課題として、実施主体は設立に先立って、以下の事項について概略検討する。(イ)処分対象廃棄物の仕様と量、処分場建設・操業・管理・閉鎖の期間設定、地域との共生、立地手順、各種許認可手順、(ロ)処分事業終了後問題発生の場合の責任の所在、(ハ)サイト選定から建設、操業、閉鎖までの地元への情報提供方法と地元の意思決定方法、環境影響評価内容と位置づけ、(ニ)処分事業化推進と事業推進法のような法律の制定も一手段として検討することが挙げられる。併せて(ホ)全国レベルの広報実施もまた重要な課題である。
2.実施主体
 a)実施主体の業務内容では、(イ)処分場立地・調査業務、(ロ)処分場建設業務、(ハ)処分場操業業務、(ニ)関係費用に係る業務、(ホ)社会的受容性促進、周辺地域対応実施・協力等の業務がある。
 b)処分事業実施主体設立とその形態では、2000年を目安にその設立を図り、実施主体の形態として、永続性担保、処分責任の明確化、研究開発成果の活用、実効性、国民の信頼の確保の各要因を念頭に置き、ケーススタディを行った( 表2 参照)。その結果、「処分事業者としての位置づけ(信頼性)」、「事業の確実な実施責任」、「組織の効率性」、の3要件が重要であると考え検討を進め、想定される組織形態として、(イ)国の直営、(ロ)特殊法人、(ハ)認可法人、(ニ)指定法人、(ホ)民間株式会社等について比較したところ、全ての要件に完全な適応性を持つ形態はないが、組織構成や補完制度等によって、全ての形態が、実施主体としての適性を獲得する可能性があることが分かった。
 c)実施主体の形態を検討するにあたっての課題は、以下の通りである。(イ)第三者賠償責任(実施主体解散の場合)の検討、(ロ)資金確保策における電気事業者から実施主体への資金提供時期と対象範囲に関する検討、(ハ)低レベル放射性廃棄物埋設事業との関連の各事項の検討が必要なことを指摘している。
3.資金確保
 a)処分事業に係る費用では、廃棄物の発生の原因者として電気事業者等が負担することになっているので、世代間の負担公平原則から早期に資金確保とその制度構築を図る必要がある。ここでは、処分費用算定及ぴ資金確保制度に重点を置き、(イ)天然バリア人工バリアを組合わせたモデル施設を設定し、(ロ)処分事業範囲を設定し、(ハ)処分事業スケジュールを設定し、(ニ)資金確保制度の検討を行った。処分事業の範囲としては、建設費、操業費、予備調査費、サイト特性調査費、技術開発費等を含み、事業資金確保制度では、「引き当金」、「基金」、「租税」および「積立金」方式について、参考に既存例を挙げ、制度の確立の流れと必要期間(引当金の既存例で4〜5年、基金例では2〜5年、租税例では6ヶ月)について比較した( 図1表3 参照)。
 b)処分費用算定では、使用する変数として、廃棄体を縦に定置する例としたケース1(結晶質岩中)と、横に定置する例としたケース2(堆積岩中)を選定し、試算した( 表4 参照)。原子力発電1kWh当りの確保額は、数銭から10銭程度となった。この試算確保額は、モデルケースに対するもので、条件設定や今後の研究開発等によって変動する。 c)課題では、資金確保制度における積立額の算定の前提として、代表的な処分場を設定し、人工バリア仕様の研究開発、経済環境見通し等を適切に反映できるよう考慮する必要がある。
4.立地地域との共生
 立地地域の「処分場立地への理解と受入れの合意形成」対応では、処分事業と地域との共生を指向して(以下「地域振興」という)、以下の検討を行った。(イ)産業廃棄物処分場等の社会的状況を参考に、処分の事業化は、特定地域だけでなく国を挙げて推進するプロジェクトであることを明確にし、国、実施主体及び電気事業者等が一体となった立地促進のための地域理解と信頼確保に取組むこととし、(ロ)処分場立地を契機に、地域による「自立的発展」を目指した地域開発に対し、国等が支援するという地域振興施策を展開し、(ハ)処分事業のもつ事業内容、規模、工程・期間等を考慮し、処分場と地域の共生に向けた地域振興支援策を具体化させるため、現行制度や取組み改善等の検討を行うことが重要である( 表5表6表7 および 表8 参照)。
5.国民的理解の促進
 処分事業の円滑な推進にあたって、国民の理解と協力が不可欠であるので、理解促進活動のための広報活動と、広報に関する調査研究の一環として、国民意識調査を実施した。最近の阪神・淡路大震災による原子力発電所耐震性への懸念、返還高レベル放射性廃棄物輸送の話題などにより、原子力への意識や関心が高まったので、平成7年度に本格的国民意識調査を行い、国民の地層処分に対する安全意識や受容性を把握・解析し、広報活動に反映すべき点を検討した。
 a)今回の国民意識調査における調査方法の特徴は、(イ)過去約1年間の国民の原子力意識の変化に関する解析、(ロ)スウェーデンで毎年実施している意識調査と同一の質問文を設け調査結果を国際的に比較したこと、(ハ)ミニ広報資料を作成しこれを情報として提供したサンプルと、提供しなかったサンプルとで比較し、広報効果の測定を試みたこと、(ニ)10代の高校生、大学生の意識を知るため、同じ調査票を用いて約280名の意見を聴取し、一般との違いを比較したこと、の4点である。
 b)調査の結果、(イ)国民の理解促進のためには、まず「高レベル放射性廃棄物とは何か」、「地層処分の安全確保のしくみ」、また、「国内外の研究開発の状況」などを、分かりやすい表現で情報の提供を行うことが必要である。特に、女性層、主婦層の理解を得ること、さらに、次世代を担う青年層には、多少、専門的になっても時間をかけて安全性を説明していくことが大切である。(ロ)上記のような情報の提供によって、安全性や組織の信頼度が増加したことから、情報公開はもちろん、さらに、進んで情報を国民と共有し、「伝えることは伝え」、「聞くべきことは聞く」という国民との対話の姿勢が、広報を進めていくうえで重要である。
 c)課題として、国民の合意形成のための広報では、当準備会や実施主体だけでは限界があり、したがって、全国の複数自治体から立地について手を挙げてもらうには、広報関係者の意見調整の場で広報内容の確認、統一化を図り、電力各社や地域原子力懇談会等の協力を得て、全国レベルで広報活動を展開していく必要があることを、指摘している。
6.その他
 a)研究成果の活用では、(イ)動燃(現日本原子力研究開発機構)が研究成果の第二次とりまとめ(2000年前までを予定)を行うが、その中で、計画と成果評価の考え方を明らかにし、処分実現に向けて必要な調査技術および評価手法等について、具体的に示す配慮が必要である。(ロ)地層処分に係る今後の技術開発項目の検討と役割分担として、処分実現に向けて必要な主要技術は、(1)サイト特性調査技術(候補地選定、予定地選定の調査技術を含む)、(2)処分場の設計、(3)建設・操業・閉鎖技術・安全評価技術(環境評価技術も含む)の3分野があり、関係諸機関の役割分担を明確にして、引き続き技術開発を進めていくことが必要である。
 b)地層処分安全性の基本的考え方の確立及び指針基準類の整備では、処分候補地、処分予定地の選定を円滑に進めるため、国が地層処分安全性の基本的考え方を示す必要があり、また、処分事業の展開に応じた指針・基準類の整備が必要である。
<図/表>
表1 高レベル放射性廃棄物の処分事業スケジュール例(総括表)
表1  高レベル放射性廃棄物の処分事業スケジュール例(総括表)
表2 高レベル放射性廃棄物処分の実施主体の各組織形態の特徴
表2  高レベル放射性廃棄物処分の実施主体の各組織形態の特徴
表3 資金確保方法と実施主体との適合性
表3  資金確保方法と実施主体との適合性
表4 処分費用試算
表4  処分費用試算
表5 地域振興の段階的展開基本シナリオ
表5  地域振興の段階的展開基本シナリオ
表6 実施主体による地域振興支援の展開例
表6  実施主体による地域振興支援の展開例
表7 地域振興モデルプラン「魅力あるまちづくり」開発コンセプトの提案例
表7  地域振興モデルプラン「魅力あるまちづくり」開発コンセプトの提案例
表8 高レベル放射性廃棄物処分事業と地域の発展シナリオ(年次計画提案例)
表8  高レベル放射性廃棄物処分事業と地域の発展シナリオ(年次計画提案例)
図1 資金確保制度確立のための流れ
図1  資金確保制度確立のための流れ

<関連タイトル>
海外における放射性廃棄物処理処分の動向(IAEA報告) (05-01-03-12)
高レベル放射性廃棄物に関する国民の意識 (10-05-01-15)

<参考文献>
(1)「高レベル事業推進準会・中間とりまとめ」(平成7年度),原産マンスリー6(No.9)、p.22-54(1996年6月)
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