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低品位ウラン鉱床からのウラン回収を効率的、経済的に行うためには在来型の採鉱法や製錬法の改良による方法はもとより、実収率の向上による残存鉱量の低減化を図る必要がある。この低品位鉱の処理対策として開発が進められたものに、インプレースリーチング法とヒープリーチング法がある。いずれも酸性溶液中にウランを浸出させて、この浸出液を回収精製するものである。一般に浸出液には稀硫酸を用いる例が多いが、鉄酸化バクテリアおよび硫黄酸化バクテリア培養液を散布し、その繁殖による液の酸性化を利用したものをバクテリアリーチングと呼んでいる。
ヒープリーチング法は、坑内採掘あるいは露天採掘により搬出堆積した鉱石に、稀硫酸等浸出液を散布し、鉱石中を浸透して下に集まった浸出液をポンプで循環させる方法で、イギリス、フランス、スペイン、ユーゴスラビア、スウェーデン、カナダ、南アフリカ等で開発が進められている。ヒープリーチング法の概念図を
図1 に示す。
人形峠鉱山では昭和52年(1977)頃よりヒープリーチング技術の開発に
着手、浸出槽を用いるバットリーチング方式により開始した。原鉱石は人形峠鉱山夜次鉱床から露天掘りした、燐灰ウラン石を主要ウラン鉱物とする酸化鉱を使用し、浸透には硫酸による酸浸出法を採用した。
表1 にヒープリーチング主要設備一覧表を示す。
図2 にバットリーチング工程操業系統図を示す。
浸出試験工程は充填、浸出、水洗、中和、搬出の各工程よりなる。充填工程は鉱石を浸出槽に充填する工程で、露天採掘場からダンプトラックで鉱石を運び、これをバックホーで浸出槽内に充填する。鉱石の破砕は行わない。
浸出工程は浸出槽内に充填した鉱石に浸出液を散布し、ウランを浸出させる工程である。硫酸を添加する方法に濃硫酸法と稀硫酸法があり、濃硫酸法は、98%硫酸を直接散布し、よくなじませたのち、水を加え、下向き循環によって浸出する方法である。稀硫酸法は、稀硫酸を硫酸稀釈槽で所定の濃度に調整したのち、鉱石を満たした浸出槽に散布し、下向き循環により浸出する方法および鉱石槽内の空気残留をなくすために、浸出槽下部より鉱石槽内上部へ徐々に浸出液を満たす浸せき浸出法である。
水洗工程は鉱石中に残った浸出液を洗浄し回収する工程である。中和工程では、水洗終了時に鉱石中に残留した付着水の
pHが 2.5程度の酸性領域にあるので、苛性ソーダ溶液を添加して中和する。
搬出工程は、中和を終了した捨石を浸出槽から取り出す工程で、バックホーで取り出した捨石をダンプトラックで露天採掘場へ運び、採取跡へ埋めもどす。
イオン交換工程は、イオン交換樹脂にウランを吸着後、溶離されて浸出液のウラン濃度を高める工程で、硫酸溶液からのウラン回収には通常陰
イオン交換樹脂が用いられる。交換反応は、
図3 の式でおこなわれる。
人形峠事業所には、移動床型連続式交換装置とメリーゴーランド方式の固定床型イオン交換装置の二系統のイオン交換装置がある。前者は吸着塔、逆洗塔、溶離洗浄塔の3塔からなり、使用する樹脂は強塩基性陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンSA-11A)を使用し、樹脂量は約 3.8立方メートルである。溶離液には1モルの硫酸を用いる。固定床型イオン交換装置は3塔よりなり、メリーゴーランド方式で1つの塔で吸着から溶離まで行う。この装置は、1塔当り5立方メートルの樹脂を保有し、最大処理量は時間当り20立方メートル、吸着ウラン量は約 250kgである。イオン交換樹脂は強塩基性陰イオン交換樹脂(Dowex XFS-43116-2)を使用している。イオン交換装置で濃度を高められた溶離液は貴液貯槽に集められ、次の製錬溶媒抽出工程に送られる。
バットリーチングによる試験の結果、硫酸使用量とウラン回収率の関係は、多量の酸を用いれば高い回収率が得られるが、鉄、アルミニウム等の不純物元素の溶解度も高くなる傾向がある。したがってウラン回収率が90%以上得られ、しかも鉄等の浸出率の比較的低い硫酸濃度領域として10〜15kg/t(鉱石)が経済的に有利であることがわかった。また、イオン交換試験では強塩基性陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンSA-11A)を使った移動床式イオン交換装置および同様に強塩基性陰イオン交換樹脂 (Dowex XFS-43116-2)を使用する固定床式イオン交換設備によるウラン実収率は、どちらも98%以上を示している。
人形峠事業所におけるヒープリーチング試験は、処理鉱石量55,650トン、ウラン回収量39.5トンとなり、その回収率は約84%である。操業に最適な浸出法は稀硫酸による循環浸出法で、鉱石の処理に約25日が必要である。また鉱石処理に伴い浸出工程、イオン交換工程から発生する廃液の中和処理には10〜30kg/t(鉱石)の消石灰を使用する。
本試験は昭和62年度で終了したが、多くの技術成果が蓄積され、低品位ウラン鉱床からのウラン回収法としてヒープリーチング法の適用技術を確立した。
<図/表>
<参考文献>
(1) 動燃二十年史編集委員会:『動燃二十年史』動力炉・核燃料開発事業団(1988年10月 )
(2) 火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)