<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の立地・建設・運転・保守
<小項目> 安全設計思想
<タイトル>
原子力発電所のトルネード対策設計 (02-02-05-07)

<概要>
 たつまきには、陸上で発生する「たつまき」(トルネード)、空中で発生する「たつまき」、および水上で発生する「たつまき」がある。世界では毎年約1000個のトルネードが発生し、その8割は米国で発生している。トルネードによる影響は、風力によるものと飛行体(ミサイル)によるものとがある。一般の産業施設、商業施設、住宅施設では、設計上通常トルネード対策はとられていない。米国の原子力発電所で採用されているトルネード発生に対する設計基準事象の概要について述べる。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.たつまきとトルネード
(1)たつまきの種類
 世界的には、漏斗形雲をともなう大型の渦現象を三つに区別して呼んでいる。陸上で発生する渦現象を「陸上たつまき」トルネード(tornado)、上空で発生する渦現象を「空中たつまき」(funnel aloft)、および水上で発生する渦現象を「水上たつまき」(water−spout)と呼んでいる。日本ではこれらを区別しないで「たつまき(竜巻)」と呼んでいる。砂漠で発生する渦は、空気の加熱で地表面から発生し、たつまきとは発生原理が異なるので、単に旋風(dust−devil)と呼んでいる。
(2)トルネードの発生と被害
 たつまきの発生メカニズムは複雑で、まだ完全には解明されていないが、気象用レーダー等による観測から以下のように推定されている。
 最初に親雲(強い上昇気流をもっていて、中の気圧が低い)があり、この親雲に回転が与えられるとその親雲の下から上に強く吸い込む渦の流れができ、この吸い込む渦の流れの中に親雲が垂れ下ってきて(親雲から漏斗形の雲が発達したように見える)、たつまきとなる。陸上たつまき(トルネード)では、この親雲は積乱雲であることが多い。渦の回転方向は、地球の自転の影響をうけ、北半球で発生する「たつまき」の多くは反時計まわりの渦であり、南半球で発生する「たつまき」の多くは時計まわりの渦である。
  図1に世界で発生したトルネードの分布を示す。地球全体では温帯地方に多く発生し、年平均温度が摂氏10〜20度の地域で多く発生している。地球全体で年間約1000個発生しており、毎年増加傾向にある。発生数では米国が一番多く(世界の約8割)、またトルネードも大型である。ロッキー山脈の東側の平野、カンザス州、ミズーリ州、オクラホマ州付近がトルネード発生地帯として知られている。日本は国の面積の割には多く発生しているが、比較的小型が多い。
  表1に台風とたつまきの違いを示す。因に台風とは、北西太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が17.2m/秒以上のものをいう。 表2に世界におけるトルネードによる被害の例を示す。トルネードでは強い吸い込み渦流と強風があるため、台風よりも被害の程度が大きい。米国では最大風速140m/秒に達するトルネードも発生している。またトルネードでは、風力による直接の被害とともに、飛行体(ミサイル)による被害も大きい。
 図2に米国におけるトルネードの例(写真)を示す。
 トルネードに適用する実用的な階級表(表3参照;米国気象庁で採用)を藤田シカゴ大教授(用語解説参照)が提案しており、トルネードの規模を比較するのに都合がよい。図3にトルネードによる被害(写真)を示す。米国では藤田の階級F5程度のトルネードが発生しているが、日本ではたかだかF3程度のトルネードである。
2.米国の原子力発電所におけるトルネードガイドライン
 日本の原子力発電所では、自然現象に対する設計上の考慮が「安全設計指針」の中で求められている。自然現象としてはまず地震を、その他の自然現象として台風(風)、洪水、積雪、津波・高潮、凍結、および地滑りがあげられているが、規模の大きいトルネードが発生していないこともあってか、安全設計上は台風対策の中で対応している。また地震に対しては、日本は地震国であるので「耐震設計指針」が用意されている。
 米国では、大型のトルネードが発生していることもあって、原子力発電所に対しては原子力規制委員会(USNRC)がガイドラインを示している。これらのガイドラインでは、日本の「耐震設計指針」のように、設計上考慮すべきトルネードの設計基準事象が示されている。
 トルネードから生ずる影響としては、風力によるものと、トルネードによって発生した飛行体(トルネードミサイル)によるものと、および圧力降下によるもの(トルネードの中心は負圧)とがある。
(1)原子力発電所に対するトルネード風力設計基準事象
 原子力発電所に対するトルネード風力設計基準事象については、USNRC Regulatory Guide 1.76に示されており、 表4に示す(発生頻度確率:年千万分の1(E−7/y)と仮定)。この表では、トルネードの最大風速、移動速度、最大回転速度、最大回転速度時の半径、圧力降下および圧力降下率が示されている。 図4表4中の3つのトルネード発生地域(Region I,Region II,Region III)を示す。発生地域Region I(中央部)でのトルネードは、藤田のトルネード階級F4(表3参照)程度である。Region II(東海岸の大半、北部国境、西側大草原地帯)のトルネードがF3程度であり、Region III(西部地域)のトルネードがF3程度である。
(2)原子力発電所に対するトルネードミサイル設計基準事象
 トルネードによる構造物への影響として、トルネードによって飛ばされた飛行体(トルネードミサイル)によるものがあり、ミサイルの貫通による影響と衝撃による影響に対して設計上の配慮が必要である。原子力発電所に対する、USNRCによって提示されているトルネードミサイルの種類を 表5に示す。表5にはミサイルの重さ、形状、速度が示されている(発生地域Region I,Region II,Region IIIについては図4参照)。

[用語解説]
藤田哲也(Fujita Tetsuya)
 藤田哲也(Tetsuya Theodore Fujita;Ted Fujita)教授はシカゴ大学の気象学者であり、トルネードの世界的権威である。トルネード階級表(F−Scale:表3)を提唱した。このF−Scaleは米国気象庁(National Weather Service)に1973年から採用され、現在では国際的な基準として通用している。多くのトルネードを分析した結果、トルネードの発生にはまず親雲の存在が前提条件であり、親雲から発生した渦が、地形と気象との関連で、地上に達成したときトルネードが発生することを推論し、この発生メカニズムを実験室で再現して見せた。1975年ケネディ空港で起きたイースタンエアライン66便の墜落事故はトルネードに起因すると指摘した。その後空港にはドップラーレーダーが設備されるようになった。1920年10月23日北九州市に生まれ、1943年に明治専門学校(現・九州工業大学)工学部を卒業、1953年東京大学で博士号を取得し、その年からシカゴ大学に移り気象学の研究者となった。1998年11月19日78才で亡くなった。ミスタートルネード(Mr.Tornado)と呼ばれている。
(前回更新:2001年12月)
<図/表>
表1 台風とたつまきの違い
表2 世界におけるトルネードによる被害の例
表3 藤田のトルネード階級表
表4 原子力発電所に対するトルネード風力設計基準事象
表5 原子力発電所に対するトルネードミサイル設計基準事象
図1 世界で発生したトルネードの分布
図2 米国におけるトルネードの例(写真)
図3 トルネードによる被害(写真)
図4 原子力発電所に対するトルネード規模(発生地域別)(NRC Regulatory Guide 1.76による)

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<関連タイトル>
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)
System 80+ (02-08-03-02)

<参考文献>
(1)J.D.Stevenson,Y.Zhao: Modern Tornado Design of Nuclear and Other Potentially Hazardous Facilities,Nuclear Safety,37(1),49−72(1996)
(2)USDOE: Natural Phenomena Hazard Design and Evaluation Criteria for Department of Energy Facilities,DOE−STD−1020−94(1994)
(3)USNRC: Design Basis Tornado for Nuclear Power Plants,Regulatory Guide 1.76(1974)
(4)America Nuclear Society: Guidelines for Estimating Tornado and Extreme Wind Characteristics at Nuclear Power Plant Sites,ANSI/ANS−2.3(1983)
(5)USNRC: Finally Safety Evaluation Report Related to the Certification of the Advanced Boiling Water Reactors Design,NUREG−1503−Vol.1(1994)
(6)USNRC: Finally Safety Evaluation Report Related to the Certification of the System 80+ Design(Docket No.52−002),NUREG−1462−Vol.1(1994)
(7)USNRC: Standard Review Plan,Tornado Loading Section 3.3.2 Rev.2(1981)
(8)A.Nechaev: A New Style of VVER,Nucl.Eng.Int.,45(551),39−40(2000)
(9)R.E.Battele : Collection Evaluation of Complete and Partial Losses of Off−Site Power at Nuclear Power Plants,NUREG−CR−3992(1985)
(10)藤田哲也:たつまき−上 渦の驚異、共立出版(1973)
(11)かこさとし:台風のついせき竜巻のついきゅう、小峰書店(2001)
(12)USA TODAY Tornado Information(0/1/06/99):Mr.Tornado,Ted Fujita,dies at 78,Tornado and Storm Research Organization(TORRO)
(13)USNRC:Design−Basis Tornado and Tornado Missiles for Nuclear Power Plants,Regulatory Guide 1.76(March 2007,Rev.1),
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