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<概要>
 米国機械学会(American Society for Mechanical Engineers:ASME)は、原子力発電設備の維持規格制定に先駆的に取組み、1971年に供用期間中検査を規定したASME Code Section XIを制定している。その後、ASME Code Section XIの1974年版では、検査で発見された欠陥の成長評価と機器の健全性に基づく欠陥評価基準が新たに導入された。この基準は、供用期間中に発見された欠陥については、製造時の許容基準を超えた場合についても健全性を損なわない範囲で許容し、欠陥が存在したまま継続運転可能とするものであり、1960年代に進展した破壊力学の知見を取込む先進的な規格であった。ASME Code Section XIで示された欠陥評価基準の考え方は、その後、欧州やアジア各国の維持基準にも拡がり、1980年代から1990年代にかけて、英国、フランス、ドイツ等欧州各国で米国と同様の維持基準が採用された。
<更新年月>
2011年11月   

<本文>
1.米国における維持基準策定の経緯
 原子力発電設備における構造機器の健全性を確保するには、設計・施工時における対策だけでなく、供用時においても経年変化を踏まえた維持管理に基づく対策が必要である。そのため、設計、施工に関する技術基準だけでなく、運転開始以降に対しては維持・補修に係る技術基準が各国で定められている。
 米国では、原子力発電設備の構造健全性に係る技術基準として、米国機械学会(American Society for Mechanical Engineers:ASME)が制定するボイラ・圧力容器規格(Boiler and Pressure Vessel Code)が、米国連邦法(10CFR10.55a)等により引用され国の規制基準に適合するものとして適用されている(参考文献1)。このうち原子力機器の構造健全性に係るASME規格の代表的なものとして、ASMEボイラ・圧力容器規格 Section IIIとSection XIが挙げられる(以後、ASME Code Sec.III、Sec.XIと略す)。ASME Code Sec.IIIは構造設計規格である。一方、Sec.XIは供用期間中検査に適用する規格であり、いわゆる「維持基準」に該当する。ここで、ASME Code Sec.IIIとXIの基本的相違を表1に示す。
 米国機械学会は、世界に先駆けて原子力発電設備の構造規格の制定に取組み、ASME Code Sec.IIIは1963年に初版が発行された。一方、原子力設備構造機器の維持にあたっては、構造設計規格とは別に維持規格の策定が必要であるとの観点から、1971年には原子力機器の供用期間中検査を規定したASME Code Sec.XIが制定された(参考文献2)。
 ASME Code Sec.XIの1971年版では原子炉冷却系機器の欠陥検査法が規定されており、発見された欠陥の許容基準には構造設計規格であるSec.IIIの規定を適用することとしていた。
 その後改訂されたASME Code Sec.XIの1974年版では、新たに欠陥評価基準が追加された(参考文献3)。
 設計規格と異なり、維持規格では実際に検査により発見された欠陥を対象とすることから、ASME Code Sec.XIの1974年版で導入された欠陥評価基準では設計時と異なる考え方に基づく許容欠陥の設定方法が採用されている。すなわち、1974年版の欠陥評価基準では、発見された欠陥の成長評価と成長後の欠陥を有する機器の健全性評価を行い、安全余裕が要求水準を満足する限り欠陥が存在しても運転継続を認めるとの欠陥評価基準を導入している。この基準により、供用期間中に発見された欠陥については、製造時の許容基準を超えた場合についても健全性を損なわない範囲で許容し、小さな欠陥が存在したまま継続運転可能となった(図1及び表2参照)。この規定は、1960年代に進展した破壊力学(欠陥を有する構造機器における欠陥の成長や健全性評価を行う手法)の最新知見を規格に取込んだ先進的なものであった。
 ASME Code Sec.XIで明示された欠陥評価基準の考え方は、その後、欧州やアジア各国の維持基準にも拡がった。また、維持規格をより高度化するための破壊力学研究や経年変化研究の進展にも影響を及ぼした。原子力における維持基準で導入された評価手法は石油化学プラント等の他産業分野にも波及している。
 ASME規格は、最新の技術知見を取込むため常時見直しが行われており3年毎に改訂版が発行される。1974年版以降も対象機器の拡大、評価方法・線図の見直し等の改訂が重ねられ今日に至っており、1970年代は24ページに過ぎなかったが、現在は700ページとなっている。表3に米国機械学会ボイラ・圧力容器規格(ASME Code)の構成、表4にASME Code Sec.XIの構成・内容及び表5にASME Code Sec.XIの見直し状況を示す。
2.欧州各国における維持基準の現状
 欧州各国でも、概ね米国流の破壊力学評価手法を取入れた維持基準が1980年代から1990年代にかけて導入されている。以下に欧州主要国における維持基準の状況を述べる(参考文献4)。
(1)英国
 国の規制には要求性能のみが規定されており、供用期間中検査や欠陥評価法等の具体的手法は定められていない。電力会社は、個別に供用期間中検査プログラムを規制当局に提出し承認を受けて実施している。規制当局が認めているASME Code Sec.XI、BS規格や英国独自に開発した構造健全性評価に関する手法(R6法)による欠陥評価法が維持基準に適用されている。
 なお、電力会社が規制当局に提出した安全性に関する文書の技術的妥当性の評価は、規制当局の検査官(審査官)が原子力施設の安全評価原則(Safety Assessment Principles:SAP)を参照して行っている。規制当局は、検査官(審査官)に安全系及び安全関連構造物/機器の保守、検査及び試験、定期安全レビュー等に関する技術的な分野のガイダンスを与える多数の技術評価手引き(Technical Assessment Guide:TAG)を作成している。
(2)フランス
 フランス電力社(Electricite de France:EDF)、フラマトム社(現AREVA NP社)及びNOVATOME社が設立した「原子力発電所の設計・建設基準に関するフランス協会(Association Francaise pour les Regles de Conception et de Construction des Chaudieres Electro - Nucleaires:AFCEN)」の作成によるPWR原子力設備の供用期間中検査に関する規定(Regles de Surveillance en Exploitation des Materials:RSE-M)を維持基準として適用している。内容は、ASME Code Sec.XIと類似しており、欠陥検査法、欠陥評価法、補修方法が規定されている。RSE-Mはその後、規制当局(原子力安全機関(Autorite de Surete Nucleaire:ASN))の意向を受けてEDFが見直しを行っている。
 なお、規制に関する審査基準には、一般技術規制の設計関連要件(省令/通達、ASN決定など)、基本安全規則(Regles Fondamentales de Surete:RFS)、ASNの承認を受けた原子力産業界の民間規格(PWRの設計・建設に関する規格(Regles de Conception et de Construction:RCC)、RSE-M)が含まれる。
(3)ドイツ
 原子力技術基準委員会(Kerntechnisher Ausschuss:KTA)により国の指針として位置づけられているKTA-3201.4において欠陥評価基準を規定し、原子炉冷却材圧力バウンダリ機器の維持基準の一部として適用されている。この基準では、供用期間中に検出された欠陥に対する評価の要求、運転継続、補修、交換等の基準を規定している。KTAによる技術基準は、ドイツの既存の技術基準、規制要件によるほか、米国の安全規格基準(ASMEボイラ・圧力容器規格など)を適用している。
 なお、KTAは安全技術基準の策定及びその適用促進を責務としており、これまでの技術基準には品質保証が重要な部分を閉め、この中に経年劣化の分野も含んでいたが、経年劣化管理に特化した技術基準として「原子力発電所の経年劣化管理(KTA-2301)」が作成されている。
(4)フィンランド
 原子力施設の安全規制に関わる規制指針(YVL)があり、IAEAの安全基準、米国の安全規格基準(ASMEボイラ・圧力容器規格など)、ドイツのKTA基準、フランスのRCC規格など、他の規格基準も考慮されている。
 なお、YVLは設置者のために推奨する事項を定めたものであり、YVLにより確保される安全水準が達成できる他の容認可能な方法を設置者が示す場合には、このYVLの要求事項によらなくてもよいとされている。
<図/表>
表1 ASME Code Sec.IIIとSec.XIの基本的相違
表1  ASME Code Sec.IIIとSec.XIの基本的相違
表2 ASME Code Sec.XIの欠陥評価基準
表2  ASME Code Sec.XIの欠陥評価基準
表3 米国機械学会ボイラ・圧力容器規格(ASME Code)の構成
表3  米国機械学会ボイラ・圧力容器規格(ASME Code)の構成
表4 ASME Code Sec.XIの構成・内容
表4  ASME Code Sec.XIの構成・内容
表5 ASME Code Sec.XIの見直し状況
表5  ASME Code Sec.XIの見直し状況
図1 設備の健全性評価の方法
図1  設備の健全性評価の方法

<関連タイトル>
日本における原子力発電設備の維持基準 (02-02-03-15)

<参考文献>
(1)原子力発電施設の技術基準の性能規定化と民間規格の活用に向けて、原子力安全・保安部会 原子力安全小委員会報告書(2002年7月)
(2)ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section XI;Rules for Inservice Inspection of Nuclear Reactor Coolant Systems,1971
(3)ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section XI;Rules for Inservice Inspection of Nuclear Power Plant Components,1974
(4)日刊工業新聞社:原子力設備及び他産業における欠陥評価基準の導入状況、原子力eye、Vol.49,No.3(2003年3月号)
(5)Owen Hedden:CHAPTER 26, Overview of Section XI Stipulations,

(6)東京電力:TEPCO REPORT VOL.103(2003年11月)
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/company/annai/shiryou/report/bknumber/0311/index-j.html
(7)日本エヌ・ユー・エス(株):欧米主要国の原子力法規制の調査((社)日本原子力産業協会殿宛て報告書)平成21年3月
(8)The Engineering ToolBox:ASME - International Boiler and Pressure Vessel Code, http://www.engineeringtoolbox.com/asme-boiler-vessel-code-d_8.html
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