<本文>
1.LPG需要の動向
わが国のLPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)需要は、家庭用、自動車用等、他のエネルギーヘの早急な代替が困難な民生用需要の割合が高いことが特徴である。民生用需要については、都市ガスの天然ガス化にともなう消費量の減少が見込まれるものの、2003年度末、約2,800万世帯におよぶ消費者世帯の増加が見込まれる。また、ガスヒートポンプ等の空調分野における新規需要、業務用途における堅実な消費量の増加が見込まれる。運輸部門については、従来タクシー用が中心であったが、NOx対策から軽油トラックの代替としてのLPGトラックが開発されたことから、今後はディーゼル代替LPGトラックの普及が見込まれる。一方、産業分野については、他燃料との競合激化が予測され、ほぼ横ばいに推移することが見込まれる。2005年3月の総合資源エネルギー調査会需給部会の「2030年のエネルギー需給展望」によると、現行の省エネルギー施策を前提とした場合(レファレンスケース)、2010年度におけるLPG需要は1,980万tと見込まれる。さらに省エネ対策を考慮しても、2030年度の需要量は2,100〜2,500万tと見込まれる(
表1、
図1)。
2.二次エネルギー供給における今後の課題
わが国は世界のLPG需要約2.1億tの約8.5%を占める。地域別に見ると、北米地域が90年代は最大の需要地域であったが(1993年の33.8%から2003年26.9%に減少)、アジア地域が北米地域を追い抜き最大需要地域(1993年の23.9%から2003年で30.5%)となっている。LPGは、わが国の最終エネルギー消費量の約5%を占め、家庭用、自動車用等の民生分野や広範な産業分野において利用されているが、供給量の約8割を中東地域に依存している状況にある。なお、世界のLPG生産量約2億tのうち、天然ガス田および油田の随伴ガスから61%、製油所から39%生産されており、今後とも安定供給が期待できるエネルギーである(
図2、
図3)。
3.LPGの備蓄
わが国のLPG利用は1950年代半ばに始まり、1965年度における需要量は270万t、1975年度では1,040万t、1985年度では1,580万t、1997年度では1,932万tと急激な需要の伸びをみせており、今後とも着実な需要が見込まれている。2004年度は、都市ガス用で減少が見込まれ、1,822万tの見通しである。なお、LPGは全国総世帯の過半数の約2,800万世帯で使用されているほか、都市ガス用、自動車用、工業用等に使用されており、国民生活および国民経済上重要なエネルギーの1つである。また、LPGは、プロパンガスとブタンガスの2種類があり、プロパンガスは主として家庭用・業務用、ブタンガスは主として産業用・自動車用に使用されている。一方、供給については、当初は国内の石油精製工場等で生産されるLPGで需要が賄われてきたが、LPGの利便性、クリーン性など典型的な分散型エネルギーとして次第に認識され、需要は急激に増加した。これに伴い、輸入量は年々増加し、供給の77%を輸入に依存し、残り23%は製油所などからの国内生産である。輸入の約80%(2004年度85.3%、サウジアラビア37.7%)が中東地域に偏在している。今後の世界におけるLPG増産計画や消費国からの輸送距離等を考えると、わが国における中東依存の輸入構造は早急には変わらないものと考えられる。
LPGの輸入がある期間途絶または減少した場合、国民生活および国民経済に与える影響が極めて大きい。したがって、LPGの安定供給を図っていくためには、わが国へのLPGの供給が不足する事態が生ずる場合に備えて備蓄を行うことが必要である。このため、1981年に石油備蓄法の一部を改正し、石油と並んでLPGについても備蓄を行うこととした。
A.民間備蓄
上述の石油備蓄法の一部改正により、LPGが備蓄対象として新たに加えられ、現在、輸入量の50日分(1988年度末達成)の備蓄義務を課している。なお、1995年に石油備蓄法の一部改正を行い、LPG輸入業者が常時保有すべき基準備蓄量を、可能な限り事業活動の実態に即したものとするため、毎月、その月の直前の12か月の輸入量を基礎に算定する方法に改めた。今後、当分の間、この50日備蓄の円滑な維持を図っていくこととしている。
B.国家備蓄
1990年8月のイラクのクウェートヘの侵攻に端を発した中東湾岸危機は、LPG輸入に相当量の減少が生じた場合における対応の難しさと、平時におけるLPG安定供給基盤強化への取り組みの重要性とを改めて認識させるものとなった。1991年1月の戦闘開始後には、中東主要輸入地域からのLPG輸入のほとんどが約半月の間、中断した。輸入減少の程度はLPG月間平均需要量の50%を上回る規模であったため、総合的な需給安定対策が必要となった。年間輸入量の50日分に相当する民間法定備蓄は、このように事態が長期化する場合においては不充分であり、供給の安定を図るためには、相当程度の需要抑制、国内製油所におけるLPG増産等の困難な対策を実施する必要があった。この中東湾岸危機への対応の経験にかんがみ、消費者・中小需要家、都市ガス業界、タクシー業界、LPG供給関連産業等の要請を踏まえ、1992年6月石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)石油部会液化石油ガス分科会において、石油ガスの安定供給基盤強化のあり方について検討が行われ、2010年度に150万tを目標とする国家備蓄制度創設が提言された。この提言を受け、1993年度以来、石油ガス国家備蓄制度の実施に向けて、石油公団によるLPG国家備蓄基地の立地候補地としての各種調査(概要調査、詳細調査、基本計画調査)を実施してきており、1997年度においては、3地点(石川県七尾市、長崎県福島町、愛媛県波方町)の所要の調査が終了した。さらに、2地点(岡山県倉敷市、茨城県神栖市)の各種調査を実施し、現在、全国5地点において、国家備蓄基地が建設されている(
図4)。
4.流通の問題
LPGは、家庭業務用、自動車用、都市ガス用、電力等の燃料用、石油化学の原材料用にと、幅広い分野で使用され、国民生活に必要不可欠な石油系ガスであり、その流通機構は、石油製品(燃料油)の場合と同様、直売方式、特約店販売方式によっている。現在のLPGの流通経路は、複雑・多段階の流通経路を経由して配達され、おおむね次のパターンになっている(
図5)。
(1)元売業者(生産・輸入業者)→卸売業者→小売事業者→一般家庭等
(2)元売業者(生産・輸入業者)→卸売業者→簡ガス事業者→一般家庭等
(3)元売業者(生産・輸入業者)→都市ガス→一般家庭等
(4)元売業者(生産・輸入業者)→LPGスタンド→タクシー等
(5)元売業者(生産・輸入業者)→電力、産業用
通常最も多いのは、(1)の場合であるが、LPガス販売事業者の大多数が中小零細事業者で経営基盤は脆弱な構造になっている(約2万6千者のうち、3人以下の事業所が約6割を占める)。今後、エネルギー間競争がますます激化することが予想され、早急に構造改善を促進して強固な経営基盤を確立し、競争力を強化することが課題である。充てん所の統廃合、バルク供給システムの普及やITを活用した効率的な流通・販売体制の構築などの取り組みが進展している。
5.LPガスの取引の適正化
一部の家庭用LPガスの取引において、料金情報の提供や契約時の書面交付が不適切であったり、切り替え時のトラブルが生じているところであり、料金の透明化、書面の記載内容の適正化、取引ルールの遵守の徹底が課題となっている。LPガス販売業界としても、自主取り決めにより店頭に料金表を備え置くなどの対応を行い、取引の一層の適正化、料金情報のより積極的な提供を図っている。なお、家庭用LPガス価格は、販売事業者自らの判断で価格を提示する自由料金で、その構成を見ると、小売段階での配送費、人件費、保安費などが約6割を占めているため、小売価格低減には小売段階での合理化・効率化努力が求められる。
6.新たな利用形態の促進等
LPガスは、クリーンでかつ簡易に供給が可能な分散型供給システムであり、全国津々浦々まで供給されているため、コジェネレーション、燃料電池等の新たな利用形態の原燃料の一選択肢として有望視され、助成措置等によりこれら機器の一層の開発・普及を促進することが重要である。また、LPG自動車は、近年、黒煙・SPM(
浮遊粒子状物質)の排出がなく、NO
x(窒素酸化物)の排出が少ないなどの低環境負荷性能が評価され、ディーゼル自動車からLPG自動車への転換が進展し、こうした動きを支援・助成する措置が講じられている。
<図/表>
<関連タイトル>
日本の石油備蓄の現状と課題 (01-03-02-04)
LNG(液化天然ガス)広域供給体制の整備 (01-09-04-01)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):1999/2000 資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p.301-311
(2)通商産業省資源エネルギー庁(編):21世紀、地球環境時代のエネルギー戦略、通商産業調査会出版部(1998年7月)
(3)通商産業省(編):エネルギー’98、(株)電力新報社(1998年10月)、p.188-189
(4)日本LPガス協会:LPガスの概要(2005年2月)
(5)資源エネルギー庁:平成16年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)