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<概要>
 地球の内部にある地熱エネルギーを利用して発電する地熱発電(geothermal geneation)には、地中の高温水蒸気や熱水を利用する熱水利用発電と地中の高温状態にある岩の熱伝導を利用する高温岩体発電の二つがある。現在運転を行っている地熱発電所は、得られた蒸気を用いた発電で、同時に噴出する多量の熱水はほとんど利用されていない。また、自噴力が弱いため未利用となっている中高温熱水資源の賦存量は膨大である。これらを発電に利用するため、熱水利用発電(バイナリーサイクル発電)の研究開発が進められている。さらに、スケールアップのための要素研究、熱水貯留槽の挙動の把握、デモストレーションプラントの研究開発が進められている。熱水利用発電の課題としては、機器の耐熱、耐食性および熱媒体などがあるが、地熱エネルギー探査技術、地熱エネルギーの採取技術、発電技術も重要な研究課題である。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.地熱エネルギー利用
 わが国(日本)は世界有数の火山国のひとつであり、膨大な地熱エネルギーが賦存している。地熱エネルギーは純国産のエネルギー資源であり、その開発はエネルギー資源の大部分を海外に依存するわが国のエネルギー事情の改善に大きく寄与すると期待される。
 地熱エネルギーは次のような特徴を有している。
(a)純国産かつ豊富なエネルギー
 地熱は、資源の少ないわが国において、唯一の大きなポテンシャルを有するエネルギー資源である。地熱エネルギーの可採資源量は、旧工業技術院地質調査所の物理探査や既存資料等による地表データをもとにNEODOが推定したところによると、浅部地熱系(2000m以下)で2207万kW、深部地熱系(2000m以降)で4723万kW、計6830万kWとされている。また、これに深部地熱資源などの未利用の地熱エネルギーを加えると膨大な資源量となる。
(b)低廉なエネルギー
 地熱発電を行うには地熱エネルギーを採取する生産井を掘削することが不可欠であるため、プラント建設のイニシャルコストはかかるが、燃料代が不要であり、長期的にみると将来の燃料価格の変動に左右されない低廉なエネルギーである。
(c)低公害のエネルギー
 地熱エネルギーは、燃焼を伴わないため、二酸化炭素の発生が極めて少なく、煤煙、煤塵の発生もなく、また熱水は地下還元が行われるため、地球環境に優しいエネルギーである。これが地熱エネルギーがクリーンエネルギーと呼ばれる理由である。
(d)多目的利用を含め地域社会に多くのメリットをもたらすエネルギー
 発電所周辺地域に対して熱水を供給することにより、施設園芸、給湯、地域暖房などを行い、地元の福祉と産業の発展に大きな貢献ができる。
 以上のような特徴をもつ地熱エネルギーは、すでに各地で実用化されており、わが国では、松川、大岳、大沼、鬼首、八丁原、葛根田、森等の18発電所が稼働している(図1参照)。また、世界的にはアメリカ、フィリピン、メキシコ、イタリア、インドネシア、ニュージーランドなど地熱資源の豊富な地帯で開発が進められている(表1参照)。
 わが国の地熱発電所は、雨水等が地熱により加熱されて熱水として地下に蓄えられたものを取り出し、この地熱水和蒸気と熱水に分け、蒸気だけをタービンの動力に利用する蒸気発電方式となっている。また、地熱発電の方式には、熱水を有効利用するバイナリへ発電サイクルもある。わが国では、将来の地熱開発の促進のために、探査、掘削、生産、熱水利用発電、高温岩体発電、材料開発などの技術開発によって、対象となる地熱資源を拡大し、それらを効率的に利用することを企画し、研究開発を進めている(図2)。
 地熱発電は、利用する地球内部のエネルギー媒体によって大きく次の2つに分類される。すなわち、
・熱水利用発電(蒸気だけが噴出する蒸気卓越型、あるいは熱水まじりの熱水型地熱資源を利用するもの)
・高温岩体発電(熱水の上昇がないので、高温の岩の熱伝導によって熱が運ばれる高温岩体型地熱資源を利用するもの)
 地熱資源の種類を図3に示す。
2.要素技術開発
(1)地熱エネルギー探査技術
 地熱資源を開発するためには、わが国における地熱資源の賦存状況を把握することが必要である。ニューサンシャイン計画(1992年度まではサンシャイン計画)では、1980年以降、地熱開発の促進を目的として「地熱探査技術など検証調査」のもとで探査技術開発を進めてきた。1980年から1988年度には、日本の代表的な地熱地域である仙岩地域(秋田県、岩手県)および栗駒地域(宮城県)の2地域において、「地熱探査技術等検証調査(仙岩・栗駒地域)」が実施された。この調査では、地熱資源探査技術の確立を目指し、熱映像法・屈折法・地磁気地電流法などの各種地表調査が行われ、これらの結果を坑井調査によって検証することにより、各種探査技術の有効性が評価され、その結果に基づき地熱探査技術の体系化が行われた。この調査の中で地熱貯留層が断裂(フラクチャー)部分に形成されていることが明らかにされ、地熱貯留層の構造の解明が進んだ。1984年度から1988年度には、地熱流体の把握に有効とみられる地磁気地電流法(MT法)の探査精度向上を目的として、「高精度地磁気地電流法(高精度MT法)」の装置と解析法の開発が行われている。貯留層を形成する断裂を精度よく把握する探査技術開発が、1988年度から「断裂型貯留層探査法開発」として実施され、現在に至っている。
(2)地熱エネルギー採取技術
 地熱開発を促進するためには、高温、高圧の環境下で、探査によって確認された貯留層へ向けて確実に坑井を掘削する技術や、貯留層の能力を十分に引き出す地熱流体の採取技術が重要となってくる。ボーリングの際の刃先として多結晶人造ダイヤモンドビット(PDCビット)などが開発されている。また、1991年度より、地熱井掘削時坑底情報検地システムの開発、1992年度より深部地熱資源採取技術の開発を実施している。深部地熱資源採取技術の開発では、耐熱温度350℃を目標としたビット、泥水材料、セメントスラリ等を開発しており、実証試験を行っている。
(3)地熱用材料の開発
 地熱エネルギー開発に使用される材料の用途は、掘削、坑井、坑口および発電設備などである。いずれにおいても、高温、高圧、腐食性環境といった苛酷な環境で使用されるため、これらの条件に耐えられるものが必要となる。そのために、1974年度から地熱用材料の開発を進めてきた。1994年度からは、深部地熱用金属材料の解析・評価を行っている。また、掘削機のシールド材やビット用の高分子材料の耐熱性能の向上と最適材料の評価をめざした深部地熱用高分子材料の解析・評価を行っている。
3.熱水利用発電技術
(1)開発の現状
 わが国の地熱地帯では、蒸気に伴って多量の熱水が噴出するものの、この熱水はほとんど利用されることなく地下に還元されている。また、自噴力が弱いために未利用となっている中高温熱水資源(150〜200℃)は、膨大な賦存量であると見込まれている。これらを発電に利用できれば、地熱発電の効率が著しく向上することが期待される。このため、ニューサンシャイン計画では、熱水利用発電(バイナリーサイクル発電)を重点項目として、この開発のための研究を行っている。
 バイナリーサイクル発電は、沸点の低い2次媒体を熱水との熱交換によって沸騰させ、気化した高圧の2次媒体によってタービンを回転させて発電するものである。1974年度から1979年度までに、熱水専用型と蒸気併用型の2つのタイプについて、1000kW級パイロットプラントの建設・運転からなる試験研究を終了し、その後、1986年度までに実証プラントにスケールアップするための要素研究を行った。
 1985年度からは、これらの成果を踏まえ、バイナリーサイクル発電プラントの実用化を図るための技術開発として、生産還元テストによる熱水貯留層挙動の把握、プラントの最適設計、周辺環境へ及ぼす影響の評価などからなる10MW級デモンストレーションプラントの開発研究を進めている(図4)。また、自噴力が弱い熱水を汲み上げるため、水中モーター駆動方式のダウンホールポンプ(DHP)の開発を1983年度から開始し、1号テスト機、2号テスト機による試験を終了した。1992年度には、これまでの成果を踏まえ、実機レベルの3号テスト機の製作および1000時間の現地試験に成功した。さらに、1994年度にはダウンホールポンプの始動時の各種試験を行い、耐久性試験を終了した。1995年度からは第1ステップである熱水系統試験の設備の設置工事を開始している。
(2)開発の課題
 従来タイプの地熱発電に比して、バイナリーサイクル発電が対象としている貯留層は温度が低く、還元する熱水の温度も低い。このため、プラントの寿命などにかかわる熱水貯留層の評価、熱水中に溶存している化学成分の析出によって管内や機器内に生ずるスケールの生成・付着状況の把握などの課題が挙げられる。また、熱水を汲み上げるためのダウンホールポンプの耐久性の確認、最適な二次媒体の選定なども重要な課題である。段階的に開発研究を実施しこれらの課題を解決していく必要がある。当面は、第1ステップで5MW級プラント規模で熱水の汲み上げと還元を行う熱水系統試験を実施し、貯留層予測結果確認およびスケール生成状況確認を行うとともに、ダウンホールポンプのさらに長時間での耐久性、安定性を確認する。また、熱水系統試験の評価を踏まえて、第2ステップ以降の技術開発の進め方を検討することとしている。
 わが国の開発可能地熱資源は既存開発量の5倍以上と推定されている。しかし、発電規模が小さく、掘削費用も高いため、発電コストが高い、開発リスクが大きい、開発可能地域が自然公園法の制約を受ける地域に多いこと、さらに温泉への影響を懸念する地元関係者かあるなどの理由により、開発は停滞傾向にある。
<図/表>
表1 各国の地熱発電設備容量と総電力設備に対する地熱発電設備の割合
表1  各国の地熱発電設備容量と総電力設備に対する地熱発電設備の割合
図1 日本の地熱発電所マップ
図1  日本の地熱発電所マップ
図2 地熱エネルギー利用体系概念図
図2  地熱エネルギー利用体系概念図
図3 地熱資源の種類
図3  地熱資源の種類
図4 ダウンホールポンプ適用バイナリーサイクル発電プラント概念図
図4  ダウンホールポンプ適用バイナリーサイクル発電プラント概念図

<関連タイトル>
高温岩体研究開発プロジェクト (01-03-06-02)
省エネルギ−技術の開発推進 (01-06-03-01)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):1999/2000資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)
(2)山中 唯義(編):CO2・リサイクル対策総覧「技術編」、通産資料調査会(1998年6月13日), p.882-891
(3)科学技術庁政策技術局(監修):日本のエネルギー開発 新世紀のエネルギー利用社会を目指して、日本科学技術振興協会出版部(1997年10月)、p.92-93
(4)通商産業省資源エネルギー庁省エネルギー対策課:省エネルギー総覧、通産資料調査会(2000年2月)、p.589-594
(5)東京電力:パンフレット、八丈島地熱発電所(1999年2月)
(6)地熱エンジニアリング(株):地熱発電の基礎(1)および(4) および
(7)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月)、p.193-201
(8)新エネルギー・産業技術総合開発機構:データベース、新エネデータ、fy14、地熱
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