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<概要>
 ラロトンガ条約は、南太平洋地域の非核地帯化構想を具体化するため、1985年に調印された条約で、正式には「南太平洋非核地帯条約」(South Pacific Nuclear Free Zone Treaty)という。平和目的を含むあらゆる核爆発の禁止、核兵器の通過、持込みの禁止、放射性廃棄物海洋投棄の禁止などを特徴としている。また、「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)下のフルスコープ保障措置を受け入れない核兵器国への核物質の輸出を禁止している。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.ラロトンガ条約成立の経緯
 ラロトンガ条約(Treaty of Rarotonga)は、正式名称を「南太平洋非核地帯条約」(South Pacific Nuclear Free Zone Treaty)といい、条約が採択、署名された南太平洋のニュージーランド領クック諸島ラロトンガ島の名前に因んでいる。
 1969年から始まったフランスによる南太平洋地域における核実験を背景に、たび重なる大国の核実験で大きな影響を被ってきた南太平洋諸国では、同地域に非核地帯を設けるべきであるとする機運が高まり、この構想は1975年4月にフィジーで開催された太平洋非核化会議および同年9月の第30回国連総会で原則的に合意された。その後、1983年にオーストラリアに労働党政権が成立すると非核地帯設置の動きは急速に進展し、1984年の第15回南太平洋フォーラム(SPF:South Pacific Forum)総会において、できるだけ早期に同地域に非核地帯を設置すべきであると決議されたことを受けて、1985年8月6日、ラロトンガ島アパルアで開かれた第16回SPF総会で南太平洋非核地帯条約が採択、署名されたものである。表1に本条約の対象国を、また図1に本条約に関連する南太平洋諸国のエリアマップを示す。
 本条約は、8番目の批准国であるオーストラリアの批准書の寄託によって、1986年12月11日に発効した。この条約は、太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Island Forum、2000年10月SPFの名称を変更)に加盟の16の国と地域(自治領)が対象である。2009年3月現在の締約国・地域数はオーストラリア、クック諸島、フィジー、キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル、バヌアツ、西サモア、トンガの13か国で、ミクロネシア、マーシャル諸島、パラオは未署名である。核兵器国は、当初、ロシア、中国以外が未加入であったが、1996年1月のフランスの核実験終結宣言を機に、残りの3か国(米国、イギリス及びフランス)が加入した(1996年5月署名)。ただし、米国は署名のみでいまだ批准していない。
2.ラロトンガ条約の概要と特徴
 ラロトンガ条約の構成は、1967年に成立した最初の非核地帯条約であるトラテロルコ条約(Treaty of TlatelolcoまたはTreaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America:ラテンアメリカにおける核兵器の禁止に関する条約)と基本的に同じで、締約国の権利及び義務を定める条約本文に加え、核兵器国及び域内属領領有国をそれぞれ対象とする議定書からなっている。
2.1 条約の適用範囲
 ラロトンガ条約では、その名称及び条文の中で、「非核兵器地帯」ではなく「非核地帯」という言葉が用いられている。これは、条約で定められた義務が核兵器に関連する活動だけでなく、その他の核関連活動にも及ぶためである。本条約の適用範囲は、締約国及び域内属領の領域に限られているが、この条約に基づく非核地帯は、公海を含む南太平洋の広大な範囲にも及んでおり、この範囲では、公海を含めて放射性廃棄物等の投棄が禁止されている。
2.2 条約による規制
 ラロトンガ条約の締約国は、南太平洋非核地帯内外における核爆発装置の製造、取得、所有及び管理を放棄し(第3条)、また、自国の領域内における核爆発装置の配置及び実験を防止しなければならない(第6条)。禁止の対象はすべての核爆発装置であり、平和目的のものも含まれる点がトラテロルコ条約と異なる。
 締約国からの核原料物質、特殊核分裂性物質及び関連資機材の供給に際しては、非核兵器国にはNPT(Non-Proliferation Treaty of Nuclear WeaponsまたはTreaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:核不拡散条約または核兵器の不拡散に関する条約)に規定されたIAEA(International Atomic Energy Agency:国際原子力機関)保障措置を、核兵器国には適用可能な範囲でのIAEA保障措置を求めることとしており(第4条)、域内産ウランの軍事利用を拒否するウラン資源国オーストラリアの輸出政策の主張が反映されている。
 締約国は、その領域内におけるいかなる核兵器の停留(輸送状態にあるものを含む)を禁止し、また、外国の船舶、航空機の寄港、通過を許可するか否かは、締約国が主権の行使により自ら決定する(第5条)としている。
 さらに、締約国は、非核地帯内での放射性廃棄物その他の放射性物質の海洋投棄を行わないとともに、自国の領海内におけるこれらの物の投棄を防止する義務を負うものとしている(第7条)。
2.3 核兵器国の義務
 ラロトンガ条約は、本文のほかに核兵器国(米国、ロシア、イギリス、フランス、中国)を対象とした議定書を定めており、核兵器国が条約締約国及び域内属領に対する核兵器の使用及び核兵器による威嚇を行うことを禁止し(第二議定書)、さらに、核兵器国は公海を含む南太平洋非核地帯において核実験を行わないことを求めている(第三議定書)。
2.4 域内属領領有国の義務
 本条約の域内に属領を領有している国は、当該属領において、本条約の主要な条項(核爆発装置の製造、配置、実験の禁止等)を適用することを定めている(第一議定書)。
 ラロトンガ条約をはじめとする世界の非核兵器地帯条約等の関係地域と核拡散の現状を図2に示す。
(前回更新:2002年3月)
<図/表>
表1 ラロトンガ条約の対象国と批准国
表1  ラロトンガ条約の対象国と批准国
図1 ラロトンガ条約関連国エリアマップ
図1  ラロトンガ条約関連国エリアマップ
図2 世界の非核兵器地帯と核拡散の現状(2001年)
図2  世界の非核兵器地帯と核拡散の現状(2001年)

<関連タイトル>
トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約) (13-04-01-06)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)

<参考文献>
(1)外務省のホームページ「非核地帯の概要」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/n2zone/gaiyo.html(2009年3月)
(2)(財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターのホームページ「非核兵器地帯の包括的検討−とくにアジア・太平洋地域との関連において」
http://www.cpdnp.jp/pdf/kenkyu/hikaku.PDF(1997年3月)
(3)United Nations Publication:The United Nations Disarmament Yearbook vol.25:2000, p.247-255, 2001.
(4)米・国務省(U.S.Department of State)のホームページ、http://www.state.gov/
(5)坪井 裕、神田啓治:原子力平和利用における保障措置の観点からみた核軍縮に関連する核物質の検証措置のあり方、日本原子力学会・和文論文誌、第1巻、第1号(2002年3月)p.1-14
(6)外務省子力課(監):原子力国際条約集、(社)日本原子力産業会議(1993年6月)、p.46、p.711-742
(7)小室 千帆:非核地帯条約−概要と対比、核物質管理センターニュース、25(10)、p.1-4(1993年10月)
(8)垣花 秀武、川上 幸一(編):原子力と国際政治−核不拡散政策論−、白桃書房(1986年4月)、p.270-272
(9)(株)綜合社(編集):情報・知識imidas 2002(2002年1月1日)、p.369-377
(10) 集英社(編集発行):imidas1998 (1998年1月)、p.385-386
(11) 集英社(編集発行):imidas1999 (1999年1月)、p.383-384
(12) 国際地学協会(編集発行):世界地図 (1998年1月)、p.48
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