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<概要>
1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原子力発電所4号炉の事故のあと、当時のソ連邦はチェルノブイリ原子炉及びその周辺汚染環境について実施する広範囲の研究を国際協力によって行うことをIAEAに提案し、チェルノブイリ国際研究センター(CHECIR)が設立される。その後のソ連体制の崩壊、ウクライナ政府による改組などを経て、現在は、1)工学・技術研究所、2)国際放射生態学研究所、3)原子力施設・潜在危険技術の安全評価研究所、4)計画管理センターの4つの組織で構成されるチェルノブイリ・センターとして、Slavutychに設置されている。当センターは、国際チェルノブイリセンターのウクライナを代表する機関でもある。
<更新年月>
2008年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.チェルノブイリ・センターの現在に至る経緯
 1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原子力発電所4号炉の事故後、当時のソ連邦はチェルノブイリ原子炉及びその周辺汚染環境で実施する広範な研究を国際協力によって行うことをIAEAに提案した。1990年にIAEAと旧ソ連原子力産業省との間で、チェルノブイリ国際研究センターの設立について合意され、翌1991年に両者の協力協定によって設立された。
 1996年4月26日、ウクライナ大統領は、国の研究機関として、チェルノブイリ・センター(Chornobyl Center、以下、センター)の設立法を施行した。センターは、チェルノブイリ原発事故の影響、原子力・放射線安全、原子力施設解体に関する分野の研究活動を開始した。
 1997年には、センター、チェルノブイリ原子力発電所管理当局(ChNPP)、米国DOE、米国PNNL(Pacific Northwest National Laboratory)の共同合意により、Slavutych所在の当センターの一部門として、Slavutych国際技術研究所(SLIRT:Slavutych Laboratory of International Research and Technology)が設立された。Slavutych国際研究所の諸活動は、PNNLとUSDOEによって多くが支援された。
 1998年7月、ウクライナと米国は、国際放射生態学研究所(IRL:International Radioecology Laboratory)の設立に関する協定に著名した。IRLの活動開始によりセンターは、その活動分野が拡大した。チェルノブイリ立入禁止区域内における放射生態学と放射線生物学に関し、ウクライナと外国の共同研究のための役務提供を開始した。
 2000年8月には、ウクライナ政府の内閣決議に基づき、センターの一部門として、計画管理センター(PMC:Projects Monitoring Center)が設置された。PMCの創設は、センターの新しい分野に対する活動の展望を開いた。以後、安全解析研究所がセンターのもとで活動している。主な活動は、WWER炉に関する安全解析計算である。
 2002年の2月は、チェルノブイリ原子力発電所が閉鎖されて2年になるが、センターの本部がKyiv(キエフ)からSlavutychに移転した。ChNPPの原子炉解体、放射性廃棄物管理、防護壁の変更(Shelter object Transformation)に関するプロジェクト・チームなど国際プロジェクトを管理している殆どのチームはSlavutychで活動している。
 センターが直面している最も重要な課題は、ChNPPの閉鎖により解雇される高度な経験を有する技術者に新しい仕事を創生することである。センターの活動では、ChNPP閉鎖後、関係する人々が直面する問題を無視することは許されない。
 センターは、国際チェルノブイリ・センター(ICC)におけるウクライナ国を代表する機関であり、チェルノブイリ事故影響研究に関する国際科学技術協力における契約上の機関ということができる。
 2007年10月付けのウクライナ政府の内閣決議No.291に基づき、センターは、チェルノブイリ事故影響管理当局からウクライナ緊急・国民防護省(緊急省)の監督下に置かれ、また、ICCにおけるウクライナ政府代表は、チェルノブイリ事故影響管理当局から緊急省に委譲された。
 2008年8月に緊急省大臣により発布された規則No.624により、センターは「国家科学研究所“原子力安全、放射性廃棄物および放射生態学に関するチェルノブイリ・センター”」(State Scientific and Research Institution“Chornobyl Center for Nuclear Safety, Radioactive Waste and Radioecology”)と改称された
 センターの現在組織を図1に示す。また、センターの所在地およびICCの構成国を図2に示す。
2.チェルノブイリ・センターの活動
2.1 工学・技術研究所(LET:Laboratory of Engineering and Technology)
 専門分野は、原子力・放射線安全および原子力発電所の物理的安全防護に関連するプロジェクトの推進、すなわち、原子力発電所の解体、防護壁安全性と防護壁を生態学的安全システムへの変更、放射性廃棄物の管理、緊急時対応の専門家訓練などである。
 LETは、原子力・放射線事故の影響の緩和および除去するための技術、手法、解決策の開発・整備の分野に関して、国内および国外の研究センターや研究所と密接な協力のもとに活動している。
2.2 国際放射生態学研究所(IRL:International Radioecology Laboratory)
 米国とウクライナの協定締結に基づいて1998年7月に設立された。IRLでは、放射生態学、放射線生物学、線量評価・環境防護に関して、チェルノブイリ立入禁止区域内で研究を進めている。
 具体的な研究目的は、1)線量評価、放射性核種濃度計測、環境の放射能汚染による生物学的影響に関する高度な科学的・技術的達成を目指した研究の国際協力場の提供、2)チェルノブイリ立入禁止区域内で研究目的を共有した国際研究コミュニティの形成、3)原子力・放射線事故の影響緩和および除去、放射能汚染の安定化および環境汚染の生態学的復旧に関する技術、手法、解決策の開発・整備、4)これまでに蓄積された科学的・実用的な知見の普及と活用である。
 IRLには、最新の計測機器、実験用の動物が飼われている生態動物園、チェルノブイリ市内の野外研究室、移動研究室などのユニークな手段が準備されている。
2.3 原子力施設・潜在危険技術の安全評価研究所(Safety Assessment Laboratory for Nuclear Facilities and Potentially Hazardous Technologies)
 専門分野は、ウクライナではユニークな経験であるが、燃料溶融やエアロゾル輸送などを含む設計基準を超えるシビアアクシデント解析の計算モデルの開発である。この経験は、シビアアクシデント・マネジメントに対する対応の開発・具体化に役立つものである。
 プラント兆候に対する安全対応の具体化には、従事者の緊急時対応を考慮した包括的な安全解析が不可欠である。これには確率論的安全解析(PSA)の結果の参照やリスクを導入した安全解析が重要である。
2.4 計画管理センター(PMC:Project Monitoring Center)
 原子力安全、放射性廃棄物、放射生態学に関する国内および国際プロジェクトの管理を行う。
(前回更新:2002年2月)
<図/表>
図1 チェルノブイリ・センターの組織
図1  チェルノブイリ・センターの組織
図2 チェルノブイリ・センターの所在地およびICCの構成国
図2  チェルノブイリ・センターの所在地およびICCの構成国

<参考文献>
(1)Chornobyl Center for Nuclear Safety, Radioactive Waste and Radioecology:http://www.chornobyl.net/en/
(2)Chornobyl Initiatives:http://insp.pnl.gov/-chorninit.htm
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