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<概要>
 放射線を利用して作製した炭化ケイ素繊維は、酸素の含有量が低いため、高温において安定で高い力学的強度を保持することができる。炭化ケイ素繊維の作製に用いた化学プロセスの一部を変更することにより、耐熱性とともに電気絶縁性にも優れた窒化ケイ素繊維を作製する方法が、旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)で開発され、民間の機関へと技術移転された。この方法はポリカルボシラン(PCS)からPCS繊維を作り、これに電子線を照射したのち、アンモニアガス中で熱処理して窒化ケイ素繊維を作るものである。製品の物理的特性はアンモニアガスによる窒化反応とその後の安定化処理法により変化するが、引張強度と絶縁抵抗がともに高い製品が得られている。
<更新年月>
2010年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 耐熱性材料は、宇宙船の外壁あるいは核融合装置の第一壁などの先端的研究開発に必要であるほかに、在来の耐熱性材料の改善が求められている利用領域にも応用の可能性がある。旧日本原子力研究所高崎研究所(現日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所)では、さらに優れた耐熱性を有する材料を開発する目的で、電子線照射により酸素含有量の少ない炭化ケイ素繊維の作製を行い、複合材料として利用可能で1700℃の温度にも耐える炭化ケイ素繊維の作製に成功し、この作製原理を応用して、電気絶縁性に優れ、しかも、耐熱性を有する窒化ケイ素繊維を作製した。この物質の体積抵抗率は、1013Ω・cmのレベルであり、機械的強度の一つである引張強度の例でも、アルミナ繊維とか石英繊維のそれを大幅に上回る値を示した。
2.窒化ケイ素繊維の作製方法
 窒化ケイ素(Si3N4)の合成法としては、既にケイ素系高分子物質であるポリシラザンを原料とする方法が実用化されているが、ここで開発された方法は、図1に示されているとおり、ポリカルボシラン(PCS)を原料として用い、高純度のヘリウムガス中で電子線照射するものである。この方法では、まず、PCSを溶融紡糸して、直径20μmの繊維に加工し、これをヘリウムガス中におき、2MeVの電子線を10MGyまで照射する。電子線照射ではPCSの分子間に架橋が生じ、溶融紡糸温度以上に加熱しても、繊維形状を保持したままでセラミック化反応が進む。これを不融化処理という。不融化処理した繊維をアンモニアガス気流中で700℃まで加熱し、さらに、窒素ガス気流中で1300℃前後まで加熱してセラミック化を止め、安定化させる。
3.窒化ケイ素繊維の物理的性質ほか
 電子線照射により不融化処理したPCS繊維から得られる窒化ケイ素繊維の性質は、窒化反応とその後の窒素気流中での加熱・安定化処理方法により異なっている。1300℃まで加熱・安定化処理した繊維試料の室温における引張強度は、最大で2.5GPaであった。この試料の電気絶縁特性を表す体積抵抗率は、1013Ω・cmのレベルであり、絶縁材料として使用可能である。しかし、熱処理温度が低いと引張強度が低下し、1200℃では2GPa、1000℃では0.6GPaとなった。つぎに1300℃で安定化処理した試料について、さらになお空気中で1300℃までの温度に1時間晒して性質の変化を測定した。図2には温度を変えて、おのおの1時間空気中に晒した窒化ケイ素繊維、アルミナ繊維および石英ガラス繊維の引張強度と体積抵抗率を示した。この図から明らかなように、窒化ケイ素繊維の引張強度は800℃以上での空気中加熱により低下するが、なお他の繊維の強度を大幅に上回っており、1300℃までの加熱処理でも電気絶縁性が全く変化していない。また、窒化ケイ素繊維の絶縁特性は、1000℃程度での長期間の熱履歴に耐えるものであることがわかった。
 付記:さらに窒化反応の基礎的な研究を進展させ、量産技術の開発を進めた結果、個々のフィラメント500本を束ねたPCS繊維を、一回の実験で、長さ1000m(約200g)の連続繊維(ヤーン)として製造する技術が開発された。 図3には約1000mの連続繊維を直径10cmの紙ボビンに巻き取ったものと、この繊維の織布を示す。上記の研究成果は民間の一機関に技術移転された。
<図/表>
図1 放射線を利用した窒化ケイ素繊維の化学プロセス概要
図1  放射線を利用した窒化ケイ素繊維の化学プロセス概要
図2 空気中において1時間加熱したさいの窒化ケイ素繊維、アルミナ繊維および石英ガラス繊維の引張強度と体積抵抗率
図2  空気中において1時間加熱したさいの窒化ケイ素繊維、アルミナ繊維および石英ガラス繊維の引張強度と体積抵抗率
図3 電子線照射法により製造した窒化ケイ素繊維(左)とその織布(右)
図3  電子線照射法により製造した窒化ケイ素繊維(左)とその織布(右)

<関連タイトル>
宇宙用材料と放射線 (08-04-01-10)
耐放射線材料(有機材料) (08-04-02-04)

<参考文献>
(1) K.Okamura, M.Sato and Y.Hasegawa:Silicon Nitride Fibers and Silicon Oxynitride Fibers obtained by the Nitridation of Policarbosilane, Ceramics International Vol.13, p55-61, 1987
(2)瀬口 忠男:電子線照射による耐熱電気絶縁性窒化ケイ素繊維の開発、放射線と産業、放射線照射振興協会、No.69,p59-61(1996)
(3)瀬口 忠男ほか:放射線を利用した超耐熱炭化ケイ素繊維の開発、原子力工業、日刊工業新聞社、Vol.38,p64-69(1992)
(4) 瀬口 忠男:耐熱絶縁性窒化ケイ素繊の製造と応用、日本アイソトープ・放射線総合会議論文集、Vol.22,p215-224(1996)
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