<大項目> 原子力安全研究
<中項目> 環境放射能の安全研究
<小項目> 安全評価研究
<タイトル>
畑および水田における放射性核種の挙動 (06-03-05-07)

<概要>
 環境中に放出された放射性核種による被ばく線量評価における移行経路や対象農作物は、食品摂取パターンの違いなどから、欧米のそれとは異なる。食品中のフォールアウト核種分析の結果から、わが国では、90Srの場合、最も重要な食品は葉菜類であり、次に豆類、穀類である。一方、137Csの場合は、穀類が最も高く、そして、豆類、ミルク、葉菜類であった。
 環境中に放出された放射性核種が植物へ移行する経路は2つに大別できる。すなわち、大気から茎葉や籾殻への直接吸収(沈着)と農耕土壌に沈着した放射性核種が経根吸収により移行する間接吸収の2つである。両汚染経路の割合は、大気中に放出された核種の降下量に依存し、降下量の多いときほど直接吸収経路の割合が多くなり、逆に、降下量が少ないときほど間接吸収経路の割合が増加する。すなわち、事故などにより環境中に放射性核種が放出された場合、直後は大気から農作物への移行が主になるが、その後、土壌に沈着した放射性核種が非常に長い期間にわたり農作物へ移行することになる。
 本項目では、農作物(白米および玄麦)へのフォールアウト核種(90Srおよび137Cs)の移行について述べた。降下量を反映した直接汚染の割合は、137Cs>90Srであった。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
1.食品摂取による放射性核種の人体への移行
 環境中に放出された放射性核種は、様々な経路により人体へ移行してゆく。どのような経路が重要であるかは、核種の放出形態や核種の種類等により異なる。対象を放射性核種の摂取による内部被ばくとした場合、農作物摂取による移行経路が最も重要となる。その場合、対象とする国や地域に住んでいる人々がどのような食品を主に摂取しているかという情報を収集する必要がある。西欧型の国は、肉やミルクなど畜産物の摂取量が多く、一方アジア型の国は、穀類などの農作物の摂取量が多い。また、日本は韓国と同様魚介類の摂取量も多いことが認められる。このように、国により主要な食品が異なるため、前述した放射性核種の主要な移行経路も、当然異なる。それぞれの国や地域において、どの移行経路が重要であるかを検討する必要がある。
 図1は、わが国の食品の中でどのようなものがフォールアウト90Srおよび137Csの摂取に寄与しているかを調べたものである(文献1)。種々の食品を9つの食品群に分け、それぞれ90Srおよび137Csの全食品に対する割合を求めたものである。90Srの場合、最も重要な食品は葉菜類であり、次に豆類、穀類である。一方、137Csの場合は、穀類が最も高く、そして、豆類、ミルク、葉菜類の順となっている。わが国では摂取される食品の種類が多いので、このような調査により、評価対象の食品を選定することが大切である。さらに、その食品への移行がどのような経路によるものかも重要な点である。
 以下の項目では,農作物、特に水稲(白米)および小麦(玄麦)への放射性核種の移行という観点から、わが国で実施されてきたフォールアウト核種分析データおよびその解析結果について述べる。
2.水田土壌における放射性核種の挙動
2.1 水田土壌中における挙動
 図2は、水田表層土壌に沈着した放射性核種がどのように減衰するかを調べた結果である。土壌中の濃度は、観測を開始した1959年から次第に上昇し、1963年から1965年にピークに達する。その後、137Csは減少するがその速度は非常に緩やかである。一方、239Pu,240Puや237Npは、ほとんど減少せず、ほぼ一定の濃度である。このように、環境中に放出された放射性核種が表層土壌に沈着しても、ほとんど移動せず、長期間そこに滞留することが分かる。すなわち、事故などにより環境中に放出された放射性核種は、事故直後は大気から農作物への移行が主になるが、その後、土壌に沈着した放射性核種が非常に長い期間にわたり農作物へ移行することになる。
2.2 白米への移行
 農業環境技術研究所は、1959年から現在まで、全国17地点の国公立水田試験圃場から水田土壌および米を採取し、放射能の測定を行ってきた。白米中の90Srおよび137Cs濃度を図3に示す(図は全国の測定値の平均値を示している)。測定開始時(1959年)において、すでに核実験が行われていたため、90Srで70mBq/kg、137Csは2700mBq/kgであったが、その後さらに上昇を続け、1963年に、90Srで270mBq/kg、137Csでは4200mBq/kgの最高値を示した。両核種の濃度は、その後、急減し、1990年代は、90Srで数mBq/kg、137Csは数十mBq/kgでほぼ一定値を示している。
 環境中に放出された放射性核種が植物へ移行する経路は2つに大別できる。すなわち、大気から茎葉や籾殻への直接吸収(沈着)と農耕土壌に沈着した放射性核種が経根吸収により移行する間接吸収の2つである。両汚染経路の割合は、大気中に放出された核種の降下量に依存し、降下量の多いときほど直接吸収経路の割合が多くなり、逆に、降下量が少ないときほど間接吸収経路の割合が増加する。
 駒村らは観測結果を解析し、以下の結果を得ている。90Srの白米への直接吸収の割合は、1963年を中心とした期間、すなわち最も降下量が多かった期間では、70−80%であった。さらに、1970−1971年および1977年頃に中国の核実験に起因する第2、3ピーク時では約50%であった。1990年以降では降下量がほとんど無かったため、直接吸収の割合はきわめて小さく、ほぼ全量が経根吸収によるものである。一方、137Csについては、その直接吸収の割合は90Srと同様に降下量の多少を強く反映しているが、90Srよりもその割合が大きい。1959−1964年における直接吸収の割合は、95%に達している。このように、137Csが90Srより白米汚染に対する直接吸収の影響が大きい理由は、茎葉や籾殻に沈着・付着した137Csが白米に取り込まれる割合(移行割合)が90Srより大きいためである。この事実は、白米中の137Cs/90Sr比からも確認できる。フォールアウト核種中の137Cs/90Sr比は約1.8(1.1−2.6)であるが、白米中の137Cs/90Sr比は、7.9(3.9−15.5)でフォールアウト核種中の比よりも大きくなっている。糠および玄米の同比は2.4および3.1であり、大気中の値とそれほど異ならない。前述したように、137Csが90Srに比べてより白米に移行し易いため、白米中の137Cs/90Sr比がフォールアウト核種中の同比に比べて大きくなっているのである。
2.3 畑における放射性核種の挙動
 図4は、1959年から現在まで、全国16地点で採取した小麦(玄麦)中の90Srおよび137Csの濃度(全国平均値)である。玄麦の90Srおよび137Csの汚染は、前述した白米と同様、大気圏内での核実験の規模を反映している。1963年には全国平均値で、90Srで12300mBq/kg、137Csで43600mBq/kgの最高値が得られている。その後、数年で激減した後、中国の核実験の影響を受け小さいピークを示しながら、次第に減少している。1986年には、チェルノブイリ事故の影響を受け、137Csの大きい極大ピーク(約6000mBq/kg)が観察されたが、その翌年には事故前の平常時レベルにまで低下した。それ以降では、両核種とも緩やかな低下傾向を続けながら1990年代にはほぼ一定の値となっている。
 直接吸収による玄麦への90Srの移行は、1963年前後で約70%から80%である。1990年代では、数%以下であり、この期間に収穫された玄麦中の90Srはほとんど畑土壌からの間接吸収によるものである。137Csについては、90Srよりも直接吸収の影響が大きく、1960年前半では、ほぼ100%がこの経路によるものである。
 玄麦中の90Srおよび137Csの濃度の経時変化は、白米のそれと大きくは異ならないが、幾つかの相違点は認められる。その最も大きな違いは、チェルノブイリ事故による137Cs濃度の上昇である。チェルノブイリ事故による放射性核種が降下したのは5月初め頃であり、この頃は小麦の出穂期にあたり、地上部(特に穂)に付着した137Csは最も効率よく取り込まれて玄麦に移行する時期であった。1986年のデータについて、玄麦中の137Cs濃度と出穂期とを詳細に検討した結果、玄麦の137Cs濃度が特に高い地域はチェルノブイリ事故の放射能が日本に降下した時期と出穂期が重なっていたことが分かった。
3.おわりに
 生態圏における放射性核種の移行はその地域の気候、土壌、そして農業形態などの影響をうけるため、西欧の国で得られたデータがそのままわが国で使えるとは限らない。欧米で得られている移行挙動に関する情報について、わが国で適用できるかどうかを検討し、適用できないものについては、わが国において、現実的な移行挙動のデータを求めてゆく必要がある。特に農作物への放射性核種の移行は、土壌や農作物の種類、降水量、気温や湿度などに影響されるため、わが国独自のデータを求める必要がある。幾つかの核種や農作物についてはデータが得られているが、まだ十分ではない。今後、わが国においても、種々の移行データを独自に求めることが重要である。
<図/表>
図1 フォールアウト90Srおよび137Csの各食品に占める割合(%)(1966年−1971年)
図2 水田土壌中のフォールアウト放射性核種の濃度変化(秋田県)
図3 白米中の90Srおよび137Cs濃度の経年変化
図4 玄麦中の90Srおよび137Cs濃度の経年変化

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
フォールアウト (09-01-01-05)
放射性物質の人体までの移行経路 (09-01-03-01)
食品中の放射能 (09-01-04-03)

<参考文献>
(1)Ueda,T.,Suzuki,Y. and Nakamura,R.: Transfer of 137Cs and 90Sr from the environment to the Japanese population via marine organisms. In: Proceedings of the seminar on radiological safety evaluation of population doses and application of radiological safety standards to man and the environment,IAEA-SM-184/7,p.501-511,IAEA,Vienna(1974).
(2)Yamamoto,M.,H. Kofuji,A. Tsumura,S. Yamasaki,K. Yuita,M. Komamura,K. Komura and K. Ueno. Temporal Feature of Global Fallout 237Np Deposition in Paddy Field through the Measurement of Low-level 237Np by High Resolution ICP-MS. Radiochim. Acta,64,p.217-224,1994.
(3)駒村美佐子、津村昭人、小平 潔:日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、Radioisotopes,48,635-644 (1999).
(4)駒村美佐子、津村昭人、小平 潔:我が国での90Srと137Csによる白米汚染、1959年以来37年間の長期観測とその解析、Radioisotopes,50,80-93(2001).
(5)駒村美佐子、津村昭人、木方展治、小平 潔:国産小麦の90Srと137Cs汚染に関する長期観測と解析、1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間、Radioisotopes,51,345-363(2002).
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ